恋とは時に、利己的で、非常識で、
如何なる犠牲も厭わない…。

それは、彼女と彼の場合も、例外ではない。


「そこのレディ、こんな所で何をしてるのです」

薄暗い路地。雪がチラつく空の下。
1人の少女が蹲っている。
少女は裸足で、ボロ切れのような服を着ていた。

少女の目の前には、1人の紳士。
黒いスーツに、黒いマントを羽織り、全身に闇を纏ったような服装。

その顔は、異形以外に例える言葉が無かった。

ウロコの生えた肌、金色に輝く鋭い眼、口元からチロチロと覗く赤い舌。
それは、正しく…。

「…蛇？」

少女が呟くと、紳士はせせら笑った。

「おや…私の素顔を見て、恐ろしくなりましたか？」

しかし、少女は怯える様子も無く、小さく呟いた。

「…綺麗な瞳…」
「…ほう…」

紳士は顎に手を当て、少し考えた後に、ニコッと微笑み、少女に手を差し伸べた。

「はじめまして、小さなレディ。私の名はダニエル…ダニエル・グラディウスです。君の名前は？」

蛇の紳士…ダニエルの問いかけに、少女は困ったように俯いた。
それを見たダニエルは「ははぁ」と呟いた。

「それならこうしよう。今日から君の名は、ミッシェル…ミッシェル・トワイライトと名付けよう」
「…ミッシェル…」

少女は、ダニエルの手に触れた。
白い手袋をはめたダニエルの手は、ひんやりと冷たかった。

「おめでとう、ミッシェル…君はとても幸運な人間だ。これから君には、素晴らしい世界を見せてあげよう。今後ともよろしく…私の子猫（キティ）」


白く降り積もる雪の中。
1人の紳士が、少女を抱きかかえて歩いていく…。
通りすがる人々は、紳士の顔を見ては、ヒソヒソと訝しげに囁いた。
それでも紳士は、優雅に少女をエスコートしていく。


これは、1人の紳士と、1人の少女の、
とても幸せで、
とても不幸せな、

恋の物語…。