奔星ノ在リ処
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並盛中学校の学生服に身を包んだ1人の少年が、背中を丸めとぼとぼと足取り重く歩いている。帰路であるこの道には今は殆ど人がおらず、それをいいことに少年は大きなため息をついた。
「はぁぁ…。どうしよう…。」
こぼした言葉と共に下げられた目線が握り絞めた白い紙に注がれる。何度見ても変わらないその紙、返却されたテストの解答用紙にはドーナツの穴のように丸い『0点』の文字。ひとつも正解がないのは逆に凄いことなのではと少年は考えるも、そんな論はあの規格外の家庭教師に通じる訳が無いかと、また肩を落とした。
少年こと沢田綱吉は何をやってもダメダメだった。今回のようにテストを行えば0点をとり、運動をさせれば直ぐ転び怪我をし、しかしそれを改善しようとする根性もない。そんな自他共に『ダメツナ』なんて呼ばれる綱吉に家庭教師がついたのはここ最近のことだ。
家庭教師は見た目の可愛らしさとは真逆のスパルタで、このテストの結果を見せれば自分がどんな目に合わされるか。きっとまた修行だなんだと言われ酷い目に合うだろう。容易に想像がつく自分の末路に気持ちは恐ろしいくらいに暗く陰っていった。
「くっそ〜…、こんなものっ!」
解答用紙をぐしゃぐしゃに丸め勢いよく遠くに投げた。と言っても野球部の友人のように真っ直ぐ飛ぶことなく、へろへろと弱々しい放物線を描いてそれは風に乗る。まぁ結局あとから自分で取りに行かなければならないのだが、つかの間の現実逃避だと内心不貞腐れていると丁度十字路から出てきた人の頭にスコン、と当たった。
「すすすすみません!大丈夫で、」
慌てて駆け寄った綱吉は、けれど当たってしまった人物を見て言葉を繋げることが出来ず固まる。
つり上がった目元と根本の色が落ちしかけている金髪。もういっそはだけているだけではと思うほど着崩した制服を身に纏うその体躯のいい男は、綱吉がよく絡まれる不良そのままだった。
「ってぇなぁ。何しやがんだ!!」
「ひぃー!ごめんなさい!!」
つり上がった目元を更につり上げ不良は綱吉の胸ぐらを掴みあげる。足が浮いて無理やり上げられた首が痛み、必死に抵抗する。しかし相手は自分より大柄な不良。力では到底叶わず、逆に物凄い形相とドスの効いた声で凄まれてしまい恐怖で身体が固まった。
なんでオレばっかりこんな目に合うんだよ!
いつもそうだと日頃の不運を呪いながら、更に胸ぐらを捕まれ襟が詰まる。苦しぃ…!
「ゴミ投げやがって…。喧嘩うってんのか、あ"ぁ"?!」
「違います!決してわざとじゃっ!」
「言い訳してんじゃねぇよ!!」
振り上げられた拳がスローモーションのように振ってくる。あぁほんと、最悪だ…。己の不運を呪いながら次に来るであろう衝撃に綱吉は固く目を閉じた。
と、その時、
「ねぇ。」
鈴を転がしたような声だった。
唐突に聞こえた第三者の声に不良の動きが止まる。綱吉も恐る恐る目を開き、声の主であるその人を見て思わず息を飲んだ。
陶器のように白い肌に通った鼻筋とぽってりとした赤い唇。スラリと立つその姿はまるで精巧な人形の様だった。
しかし綱吉はその少女の容姿よりも、自分達を見つめる瞳に目を奪われた。例えるなら星空の様に、煌めき輝く不思議な眼は綱吉の心を掴んで離さない。
綺麗…、宝石みたい。
惚けて見つめ続ける綱吉達に少女は再度こちらに話しかけてきた。
「通りたいの。退いて頂戴。」
その言葉にハッと意識を取り戻した不良は綱吉の胸ぐらから手を離す。重力に従い地面へと落ちたため強かに打った自身の尻を撫でた。痛い…。呻く綱吉は座り込んだまま2人を見上げた。
「お前…。めちゃくちゃいい女じゃねぇか。なぁちょっと俺と遊ぼうぜ。」
「私に2回も言わせるの?」
少女は羽のようなまつ毛を瞬かせながらまるで不良の言葉など聞こえてないかのように答えた。己の言い分は通って当然。逆に何故まだ退いてないのか、そんな声すら聞こえてきそうな態度に不良も綱吉も先程とは別の意味でポカンとしてしまう。しかし徐々に意味を理解したのか、不良の額には青筋が浮かび上がった。
「女の分際でナマ言うなよ。」
「私は退いてと言ってるの。貴方と話したいなんて言ってないわよ。」
「ってめぇ!」
遂に不良の怒号が響いた。まずい、と綱吉は咄嗟に起き上がる。リボーンもいない、死ぬ気モードでもない。そんな自分が勝てるわけない。けれど身体は少女を守るために動いていた。
「やめろっ!」
目の前で誰かが傷つくのを止められないなんて、死んでも死にきれない。奥歯を噛み締めながら綱吉は勢いよく不良と少女の間に入ると目一杯両手を広げた。あぁ、痛いんだろうな。やっぱり今日厄日か何かだろうか。迫り来る拳の威力を想像しながら綱吉は固く目を閉じるしかなかった。
「だから、邪魔よ。」
ヒュンッ、と風を切る音が聞こえた。
「え?!」
次いで聞こえた鈍い音と呻き声に驚いて綱吉は目を開く。目の前に拳はない。と言うか不良もいない。いや、いないんじゃない。地面に倒れている。一体何が起きたんだ??頭の中が疑問符で埋め尽くされながら少し視線を横に向けると更に声を上げてしまった。
「んなー!足?!」
綱吉の顔の横スレスレに足が伸びていた。それは真後ろの少女のもので、制服であろうプリーツスカートものともせず上げられた足は何事もなかったかのように下がって行った。まさかこの人が不良を倒したの?!
喧嘩とは無縁そうな、それこそ絵に描いたような可憐な少女が、自分の倍程ある男を蹴り倒すなど思いもよらなかった。あまりの事に動けない綱吉を置いて少女は服を整え颯爽と歩き出す。踵の高い革靴がコツコツと鳴るのを唖然と見ていたが慌てて声をかけた。
「あの!」
「何?」
「あ、えっと…。ありがとうございます!!」
守るつもりが逆に不良を倒してもらった。不甲斐ないし恥ずかしさもあるが綱吉は頭を下げてしっかりと礼を述べた。
が、しかし、
「そう。」
少女はそう軽く返すとこちらを振り返ることなく歩いて行く。暗に興味がないと言われているのだろうことが分かり顔が引きつった。
すげぇ人だったな…。
小さくなる背中を見つめながら綱吉はそう思うも、あの瞳の眩さだけはいつまでも脳裏から消えはしなかった。
「はぁぁ…。どうしよう…。」
こぼした言葉と共に下げられた目線が握り絞めた白い紙に注がれる。何度見ても変わらないその紙、返却されたテストの解答用紙にはドーナツの穴のように丸い『0点』の文字。ひとつも正解がないのは逆に凄いことなのではと少年は考えるも、そんな論はあの規格外の家庭教師に通じる訳が無いかと、また肩を落とした。
少年こと沢田綱吉は何をやってもダメダメだった。今回のようにテストを行えば0点をとり、運動をさせれば直ぐ転び怪我をし、しかしそれを改善しようとする根性もない。そんな自他共に『ダメツナ』なんて呼ばれる綱吉に家庭教師がついたのはここ最近のことだ。
家庭教師は見た目の可愛らしさとは真逆のスパルタで、このテストの結果を見せれば自分がどんな目に合わされるか。きっとまた修行だなんだと言われ酷い目に合うだろう。容易に想像がつく自分の末路に気持ちは恐ろしいくらいに暗く陰っていった。
「くっそ〜…、こんなものっ!」
解答用紙をぐしゃぐしゃに丸め勢いよく遠くに投げた。と言っても野球部の友人のように真っ直ぐ飛ぶことなく、へろへろと弱々しい放物線を描いてそれは風に乗る。まぁ結局あとから自分で取りに行かなければならないのだが、つかの間の現実逃避だと内心不貞腐れていると丁度十字路から出てきた人の頭にスコン、と当たった。
「すすすすみません!大丈夫で、」
慌てて駆け寄った綱吉は、けれど当たってしまった人物を見て言葉を繋げることが出来ず固まる。
つり上がった目元と根本の色が落ちしかけている金髪。もういっそはだけているだけではと思うほど着崩した制服を身に纏うその体躯のいい男は、綱吉がよく絡まれる不良そのままだった。
「ってぇなぁ。何しやがんだ!!」
「ひぃー!ごめんなさい!!」
つり上がった目元を更につり上げ不良は綱吉の胸ぐらを掴みあげる。足が浮いて無理やり上げられた首が痛み、必死に抵抗する。しかし相手は自分より大柄な不良。力では到底叶わず、逆に物凄い形相とドスの効いた声で凄まれてしまい恐怖で身体が固まった。
なんでオレばっかりこんな目に合うんだよ!
いつもそうだと日頃の不運を呪いながら、更に胸ぐらを捕まれ襟が詰まる。苦しぃ…!
「ゴミ投げやがって…。喧嘩うってんのか、あ"ぁ"?!」
「違います!決してわざとじゃっ!」
「言い訳してんじゃねぇよ!!」
振り上げられた拳がスローモーションのように振ってくる。あぁほんと、最悪だ…。己の不運を呪いながら次に来るであろう衝撃に綱吉は固く目を閉じた。
と、その時、
「ねぇ。」
鈴を転がしたような声だった。
唐突に聞こえた第三者の声に不良の動きが止まる。綱吉も恐る恐る目を開き、声の主であるその人を見て思わず息を飲んだ。
陶器のように白い肌に通った鼻筋とぽってりとした赤い唇。スラリと立つその姿はまるで精巧な人形の様だった。
しかし綱吉はその少女の容姿よりも、自分達を見つめる瞳に目を奪われた。例えるなら星空の様に、煌めき輝く不思議な眼は綱吉の心を掴んで離さない。
綺麗…、宝石みたい。
惚けて見つめ続ける綱吉達に少女は再度こちらに話しかけてきた。
「通りたいの。退いて頂戴。」
その言葉にハッと意識を取り戻した不良は綱吉の胸ぐらから手を離す。重力に従い地面へと落ちたため強かに打った自身の尻を撫でた。痛い…。呻く綱吉は座り込んだまま2人を見上げた。
「お前…。めちゃくちゃいい女じゃねぇか。なぁちょっと俺と遊ぼうぜ。」
「私に2回も言わせるの?」
少女は羽のようなまつ毛を瞬かせながらまるで不良の言葉など聞こえてないかのように答えた。己の言い分は通って当然。逆に何故まだ退いてないのか、そんな声すら聞こえてきそうな態度に不良も綱吉も先程とは別の意味でポカンとしてしまう。しかし徐々に意味を理解したのか、不良の額には青筋が浮かび上がった。
「女の分際でナマ言うなよ。」
「私は退いてと言ってるの。貴方と話したいなんて言ってないわよ。」
「ってめぇ!」
遂に不良の怒号が響いた。まずい、と綱吉は咄嗟に起き上がる。リボーンもいない、死ぬ気モードでもない。そんな自分が勝てるわけない。けれど身体は少女を守るために動いていた。
「やめろっ!」
目の前で誰かが傷つくのを止められないなんて、死んでも死にきれない。奥歯を噛み締めながら綱吉は勢いよく不良と少女の間に入ると目一杯両手を広げた。あぁ、痛いんだろうな。やっぱり今日厄日か何かだろうか。迫り来る拳の威力を想像しながら綱吉は固く目を閉じるしかなかった。
「だから、邪魔よ。」
ヒュンッ、と風を切る音が聞こえた。
「え?!」
次いで聞こえた鈍い音と呻き声に驚いて綱吉は目を開く。目の前に拳はない。と言うか不良もいない。いや、いないんじゃない。地面に倒れている。一体何が起きたんだ??頭の中が疑問符で埋め尽くされながら少し視線を横に向けると更に声を上げてしまった。
「んなー!足?!」
綱吉の顔の横スレスレに足が伸びていた。それは真後ろの少女のもので、制服であろうプリーツスカートものともせず上げられた足は何事もなかったかのように下がって行った。まさかこの人が不良を倒したの?!
喧嘩とは無縁そうな、それこそ絵に描いたような可憐な少女が、自分の倍程ある男を蹴り倒すなど思いもよらなかった。あまりの事に動けない綱吉を置いて少女は服を整え颯爽と歩き出す。踵の高い革靴がコツコツと鳴るのを唖然と見ていたが慌てて声をかけた。
「あの!」
「何?」
「あ、えっと…。ありがとうございます!!」
守るつもりが逆に不良を倒してもらった。不甲斐ないし恥ずかしさもあるが綱吉は頭を下げてしっかりと礼を述べた。
が、しかし、
「そう。」
少女はそう軽く返すとこちらを振り返ることなく歩いて行く。暗に興味がないと言われているのだろうことが分かり顔が引きつった。
すげぇ人だったな…。
小さくなる背中を見つめながら綱吉はそう思うも、あの瞳の眩さだけはいつまでも脳裏から消えはしなかった。
