工藤さん家の娘さんは目が見えない
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スコッチは独り廃墟と化したビルの屋上でもう会うことは叶わない友人達を思う。その中に1人、少女の影がチラついて眉を下げた。
◇
あの日、偶然通った道で男が1人何かに棒を振り上げていた。最初は何をしているのか分からなかったが、それが犬に覆いかぶさっている少女を殴っているのだと分かるとスコッチは駆け出していた。
組織にいてもスコッチの魂は警察官だ。子供、ましてやハンデを背負っている人を助けるのは当たり前だった。しかし少女はスコッチに対していたく感謝し、渡したハンカチの匂いを辿って後日スコッチを見つけだしたのだ。
それに不味い、と思った。
物を渡したことも、スコッチに辿り着いたことも。
だからスコッチは少女と交流することにした。監視だ。年端もいかない少女一人、懐柔するなど造作もなかった。みるみる懐く少女に罪悪感を感じなかったと言えば嘘になる。けれど任務遂行のためには必要なことだった。
だったのだが…。
胸ポケットからスマホを取りだし手近にあった石で叩き割る。命より重いそれはいとも容易く破片を飛ばした。
本当はこんなに関わるつもりはなかったんだ。
ただどうやって自身に辿り着いたのか、それさえ分かり対処すれば良かったのに。
でもあの子、いつも危なっかしくて、放っとけなくて。好きなものを語る時の跳ねるような声や何かを触る時の静かで優しい手つき、春の陽気のような朗らかな少女の雰囲気に絆されていった。盲導犬もそうだ。優し過ぎて警察犬になれなかった優秀な少女の相棒。その1人と1匹の温かさは闇を行くスコッチにも惜しみなく注がれて、いつしかあの子たちに会う時だけが、悲惨な日常を忘れられる救いの時間になったのだ。
ほ、と息を吐く。廃墟の屋上に晒す身体は緊張で凍える程なのに、空気に溶ける吐息は熱い。
スマホを壊し終わりスコッチはズボンのポケットに手を入れアルミ製の小さなケースを取り出した。あの魔女からこれを渡された時は何事かと思ったが…。まさか本当に使う羽目になるとはなと掌に1錠出すとため息と共に天を仰いだ。死なねばならない。仲間のためにも、それこそ大切なあの子のためにもスコッチは死なねばならない。頭のキレるあの男に追われ銃も持っていない今、頼れるのはこれだけ。きっとすんなり死ねるだろう。なんて言ったって組織が作った劇薬なのだから。
けれど、あぁ…。
瞼の裏に浮かぶのは柔くあどけない陽だまりのあの子。今はもう高校を卒業して本格的に翻訳家の仕事を始めている頃だろう。あくせくしながら頑張ってる姿を想像して笑みが零れた。そしてそのまま赤と白のカプセルを握りしめスコッチは目を閉じる。
遠ざけようとしたのに、諦めないでくれると言ったあの子。ちゃんと拒絶しなければならないのに魔が差してしまった。あの子の顔が曇るのは辛いのに、それでもほの暗い喜びがスコッチを支配する。もし俺を忘れずに待ち続けてくれるのなら…。そこまで考えて自虐的な笑みが零れる。
ずるい大人でごめんな。
誰にも届かない謝罪を口で転がし、スコッチは無理やりAPTX4869を口元に運んだ。
◇
あの日、偶然通った道で男が1人何かに棒を振り上げていた。最初は何をしているのか分からなかったが、それが犬に覆いかぶさっている少女を殴っているのだと分かるとスコッチは駆け出していた。
組織にいてもスコッチの魂は警察官だ。子供、ましてやハンデを背負っている人を助けるのは当たり前だった。しかし少女はスコッチに対していたく感謝し、渡したハンカチの匂いを辿って後日スコッチを見つけだしたのだ。
それに不味い、と思った。
物を渡したことも、スコッチに辿り着いたことも。
だからスコッチは少女と交流することにした。監視だ。年端もいかない少女一人、懐柔するなど造作もなかった。みるみる懐く少女に罪悪感を感じなかったと言えば嘘になる。けれど任務遂行のためには必要なことだった。
だったのだが…。
胸ポケットからスマホを取りだし手近にあった石で叩き割る。命より重いそれはいとも容易く破片を飛ばした。
本当はこんなに関わるつもりはなかったんだ。
ただどうやって自身に辿り着いたのか、それさえ分かり対処すれば良かったのに。
でもあの子、いつも危なっかしくて、放っとけなくて。好きなものを語る時の跳ねるような声や何かを触る時の静かで優しい手つき、春の陽気のような朗らかな少女の雰囲気に絆されていった。盲導犬もそうだ。優し過ぎて警察犬になれなかった優秀な少女の相棒。その1人と1匹の温かさは闇を行くスコッチにも惜しみなく注がれて、いつしかあの子たちに会う時だけが、悲惨な日常を忘れられる救いの時間になったのだ。
ほ、と息を吐く。廃墟の屋上に晒す身体は緊張で凍える程なのに、空気に溶ける吐息は熱い。
スマホを壊し終わりスコッチはズボンのポケットに手を入れアルミ製の小さなケースを取り出した。あの魔女からこれを渡された時は何事かと思ったが…。まさか本当に使う羽目になるとはなと掌に1錠出すとため息と共に天を仰いだ。死なねばならない。仲間のためにも、それこそ大切なあの子のためにもスコッチは死なねばならない。頭のキレるあの男に追われ銃も持っていない今、頼れるのはこれだけ。きっとすんなり死ねるだろう。なんて言ったって組織が作った劇薬なのだから。
けれど、あぁ…。
瞼の裏に浮かぶのは柔くあどけない陽だまりのあの子。今はもう高校を卒業して本格的に翻訳家の仕事を始めている頃だろう。あくせくしながら頑張ってる姿を想像して笑みが零れた。そしてそのまま赤と白のカプセルを握りしめスコッチは目を閉じる。
遠ざけようとしたのに、諦めないでくれると言ったあの子。ちゃんと拒絶しなければならないのに魔が差してしまった。あの子の顔が曇るのは辛いのに、それでもほの暗い喜びがスコッチを支配する。もし俺を忘れずに待ち続けてくれるのなら…。そこまで考えて自虐的な笑みが零れる。
ずるい大人でごめんな。
誰にも届かない謝罪を口で転がし、スコッチは無理やりAPTX4869を口元に運んだ。
