工藤さん家の娘さんは目が見えない
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スニーカーを履き終わり手すりに捕まりながら立ち上がる。玄関で静かにしていた相棒であり私の『目』であるジャーマン・シェパードのムクが足元まで歩いてきたのが分かり頭を一度撫でた。そして後ろで心配そうにしている母に顔を向け声を掛ける。
「ならちょっと行ってくるね。」
「気をつけてね。何かあれば直ぐ電話してよ。」
「うん。行ってきます。」
母からのチークキスに少し擽ったさを感じながら、ムクのハーネスと白杖をしっかり握り玄関を開けた。
◇
11歳のあの日、車に轢かれた私は視力を失った。
光や影は感じるが今まで見えていたものが見えなくなり私の世界は一変した。その変化に戸惑い、恐怖し、絶望し一時は生きることを諦めようとした程だった。けれど、そんな私を見捨てず無償の愛と思いやりを注いでくれた家族や友人のおかげで後遺症を乗り越え、今ではこうして一人で散歩が出来るほどに回復した。まぁムクがいないとあまり長時間は歩けないし、誰かの手を借りる現状に気分が塞ぐこともあるけれど、それでも前を向いて歩けるようになった。
ムクに指示を出し、ムクの指示を聞きながら道の端を歩いていると数メートル後ろからエンジン音が聞こえた。音からして車だろうとムクと立ち止まる。この道は少し狭く危ないのでいつも車が横を通る時は立ち止まって通過するのを待つのだが、それは速度を落とし私の隣に並んだ。軽い機械音。窓の下がった音だ。
「ハァイかなえ。お出かけかしら。」
「シャロンさん?」
よく知る声に緊張から一気に気分が高揚した。私に声をかけてくれたのは大女優のシャロン・ヴィンヤードさんだった。彼女と私の母が友人で、昔はよくお互いの家に遊びに行っていた。ただ私の事故以降お互い多忙で電話やsns以外であまり会えていなかったのだが、久しぶりに聞いた声は元気そうだった。
「日本に来られてたんですね!」
「ええ、野暮用よ。」
シャロンさんの手が私の顔に添えられた。そのままムニムニと頬を揉む彼女の声音はいたずらっ子のように楽しそうだった。昔も良くされてたなぁ、これ。痛くない優しい力加減にクスクス笑っているとシャロンさんは目的地まで乗せてくれると言い、その言葉に甘えムクと共に後ろの席へと座る。膝に顎を乗せリラックスするムクを撫でているとそれにしてもと声がかかった。
「最近はどう?何も変わりない?」
「なんと聞いてください!実はムクと一緒なら走ることが出来るようになったんです。」
「すごいじゃない!頑張ったのね。」
運転席からの褒め言葉にえへへ、と笑ってしまう。今年で17歳になるが、それでも努力が認められるのは嬉しい。
「このままもっと一人で出来ることを増やしていって、それでいつか前みたいに皆で旅行に行きたくって。」
「…そう。」
私の家は年に数回旅行に行っていた。父の小説のための取材でもあるが、それでも楽しい家族行事だった。けれど私が失明してからはグンとその機会は減っていった。弟の部活とか父の仕事の都合とか諸々事情はあるのだが、どうしても私のせいではないかと思ってしまう。家族はそんなこと言わないし思ってもないだろうが、それでもやはり気には病んでいた。
だからはやく一人で何でも出来るようになって家族を安心させたいのだ。
「でも無理は禁物よ。貴女はすぐ無茶するんだから。何かあれば頼りなさいね。すぐ駆けつけるわ。」
「ふふっ。あのシャロン・ヴィンヤードが来てくれるなんて心強い。」
「私は貴女のフェアリーゴッドマザーだもの。翼はないけどジェット機で来てあげる。…さ、着いたわよ。」
「ありがとうございます。」
シャロンさんの言葉に懐かしさを感じながらムクに合図を送り仕事モードに入ってもらう。ドアを開け車を降りてからもう一度お礼を運転席の窓に告げる。
「久しぶりにお会いできて嬉しかったです!車もありがとうございました。」
「私も会えて嬉しかったわ。帰りも送りましょうか?」
「流石にそこまで迷惑はかけれませんよ。それに今日はお兄さんが送ってくれますし!」
「お兄さん?」
恋人が出来たの?と、怪訝そうに言うシャロンさんの気配が何となくピリつくのが分かる。母がお兄さんの事を知った時とは正反対の様子に苦笑が漏れた。
「違いますよ。前に助けて貰って、そこから交流が続いてるんです。」
「ふぅん…。そのお兄さんは社会人?何してる人なの?」
「何してる人?う〜ん、仕事聞いても答えてくれないんですよね。あ、でもギター上手なんです!だから音楽関係の仕事かなーって。」
「…ねぇ、そのお兄さんの名前、教えてくれる?」
「え?名前ですか?えっと…、確か緑川光さんって名前です。」
「………へぇ?」
地獄の底から這い出たような声だった。
思わずビクッと肩を跳ねさせた私にシャロンさんはまるで気にするなとでも言うように頬にキスをする。そのまま何かあれば連絡するように、と告げられ車はエンジンを吹かして遠ざかって行った。…何が琴線に触れたのだろうか。考えても答えは出ず、仕方ないかと諦めて目的地へと歩きだした。
「ならちょっと行ってくるね。」
「気をつけてね。何かあれば直ぐ電話してよ。」
「うん。行ってきます。」
母からのチークキスに少し擽ったさを感じながら、ムクのハーネスと白杖をしっかり握り玄関を開けた。
◇
11歳のあの日、車に轢かれた私は視力を失った。
光や影は感じるが今まで見えていたものが見えなくなり私の世界は一変した。その変化に戸惑い、恐怖し、絶望し一時は生きることを諦めようとした程だった。けれど、そんな私を見捨てず無償の愛と思いやりを注いでくれた家族や友人のおかげで後遺症を乗り越え、今ではこうして一人で散歩が出来るほどに回復した。まぁムクがいないとあまり長時間は歩けないし、誰かの手を借りる現状に気分が塞ぐこともあるけれど、それでも前を向いて歩けるようになった。
ムクに指示を出し、ムクの指示を聞きながら道の端を歩いていると数メートル後ろからエンジン音が聞こえた。音からして車だろうとムクと立ち止まる。この道は少し狭く危ないのでいつも車が横を通る時は立ち止まって通過するのを待つのだが、それは速度を落とし私の隣に並んだ。軽い機械音。窓の下がった音だ。
「ハァイかなえ。お出かけかしら。」
「シャロンさん?」
よく知る声に緊張から一気に気分が高揚した。私に声をかけてくれたのは大女優のシャロン・ヴィンヤードさんだった。彼女と私の母が友人で、昔はよくお互いの家に遊びに行っていた。ただ私の事故以降お互い多忙で電話やsns以外であまり会えていなかったのだが、久しぶりに聞いた声は元気そうだった。
「日本に来られてたんですね!」
「ええ、野暮用よ。」
シャロンさんの手が私の顔に添えられた。そのままムニムニと頬を揉む彼女の声音はいたずらっ子のように楽しそうだった。昔も良くされてたなぁ、これ。痛くない優しい力加減にクスクス笑っているとシャロンさんは目的地まで乗せてくれると言い、その言葉に甘えムクと共に後ろの席へと座る。膝に顎を乗せリラックスするムクを撫でているとそれにしてもと声がかかった。
「最近はどう?何も変わりない?」
「なんと聞いてください!実はムクと一緒なら走ることが出来るようになったんです。」
「すごいじゃない!頑張ったのね。」
運転席からの褒め言葉にえへへ、と笑ってしまう。今年で17歳になるが、それでも努力が認められるのは嬉しい。
「このままもっと一人で出来ることを増やしていって、それでいつか前みたいに皆で旅行に行きたくって。」
「…そう。」
私の家は年に数回旅行に行っていた。父の小説のための取材でもあるが、それでも楽しい家族行事だった。けれど私が失明してからはグンとその機会は減っていった。弟の部活とか父の仕事の都合とか諸々事情はあるのだが、どうしても私のせいではないかと思ってしまう。家族はそんなこと言わないし思ってもないだろうが、それでもやはり気には病んでいた。
だからはやく一人で何でも出来るようになって家族を安心させたいのだ。
「でも無理は禁物よ。貴女はすぐ無茶するんだから。何かあれば頼りなさいね。すぐ駆けつけるわ。」
「ふふっ。あのシャロン・ヴィンヤードが来てくれるなんて心強い。」
「私は貴女のフェアリーゴッドマザーだもの。翼はないけどジェット機で来てあげる。…さ、着いたわよ。」
「ありがとうございます。」
シャロンさんの言葉に懐かしさを感じながらムクに合図を送り仕事モードに入ってもらう。ドアを開け車を降りてからもう一度お礼を運転席の窓に告げる。
「久しぶりにお会いできて嬉しかったです!車もありがとうございました。」
「私も会えて嬉しかったわ。帰りも送りましょうか?」
「流石にそこまで迷惑はかけれませんよ。それに今日はお兄さんが送ってくれますし!」
「お兄さん?」
恋人が出来たの?と、怪訝そうに言うシャロンさんの気配が何となくピリつくのが分かる。母がお兄さんの事を知った時とは正反対の様子に苦笑が漏れた。
「違いますよ。前に助けて貰って、そこから交流が続いてるんです。」
「ふぅん…。そのお兄さんは社会人?何してる人なの?」
「何してる人?う〜ん、仕事聞いても答えてくれないんですよね。あ、でもギター上手なんです!だから音楽関係の仕事かなーって。」
「…ねぇ、そのお兄さんの名前、教えてくれる?」
「え?名前ですか?えっと…、確か緑川光さんって名前です。」
「………へぇ?」
地獄の底から這い出たような声だった。
思わずビクッと肩を跳ねさせた私にシャロンさんはまるで気にするなとでも言うように頬にキスをする。そのまま何かあれば連絡するように、と告げられ車はエンジンを吹かして遠ざかって行った。…何が琴線に触れたのだろうか。考えても答えは出ず、仕方ないかと諦めて目的地へと歩きだした。
