工藤さん家の娘さんは目が見えない
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自分を匿って欲しいと言った彼女、シェリーちゃんはその後一気に体調を崩した。元から衰弱していたところに雨の中で倒れていたのだ。無理もない、と博士は痛ましそうに言っていた。
熱に浮かされ苦しそうに息をするのを放っておく訳にもいかず、新ちゃんへの話は一旦保留とし博士にシェリーちゃんを託し翌日から時々看病の手助けをする、と言うルーティンを私は暫く続けることとなった。
白杖を揺らしながら博士の家まで着くとインターホンを鳴らした。足音が近づく音と共に直ぐに扉が開く。
「すまんのかなえ君。」
「大丈夫だよ。あ、荷物お願いします。」
「おぉありがとう。そうじゃ、スマホ直ったぞ。後で渡そうかの。」
博士に私の幼少期の衣類が入った紙袋やランドセルを渡し、お礼を言いつつ室内へと入る。白杖を折り畳み靴を脱ぐと博士の案内に従い、シェリーちゃんがいるリビングへと向かった。
「おはよう。体調はどう?」
「問題ないわ。それよりこの犬、私の傍を離れないしぬいぐるみやらボールやら持ってくるんだけど。」
シェリーちゃんがいるであろうソファの方へ声をかけると軽く返事が返ってきた。その声が鼻声でないことにほっと胸を撫で下ろす。昨日まで体調悪そうだったけど、治ってよかった。
「シェリーちゃんのことが心配なんだよ。おもちゃも、多分自分のお気に入りを持ってきて元気出して貰おうとしたんだと思う。嫌だったなら注意しておこうか?」
「別に…。嫌、ではないから…。注意も、しなくていいわ。」
シェリーちゃんの元から私の足元に来たムクを撫でつつそう言うと、少し詰まりながらシェリーちゃんは答えてくれた。ムクは優しい子だから目に見えて弱っていたシェリーちゃんをとても気にしていた。だから暫く日中は博士の家、朝と夜は我が家でムクが過ごすようにしていたのだが、仲良くなったようでよかった。
足にじゃれつくムクに注意を払いながらシェリーちゃんの反対側のソファに腰掛ける。直ぐに離れていった体温にちょっとだけ寂しさを感じたのは内緒だ。
「かなえ君、お茶を持ってきたぞ。ここが取っ手じゃ。」
「ありがとう博士。」
飲み物を持ってきてくれたらしい博士からコップを受け取り口につける。私の隣側が沈み博士が座ったのが分かった。
「さて。回復してそうそう悪いんじゃが少し話をしよう。君の話を聞いて色々考えたんじゃが、取り敢えずワシとかなえ君は君の話を信用することにした。それで当分の間はワシの家で生活してもらおうかと思う。」
「私もちょくちょく顔を見せに来るから、何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね。」
「…私が言うのも何だけど、貴女も博士も随分とお人好しね。私は貴女の弟を殺そうとした。…もしかしたら全て嘘で罠かもしれないわよ。」
試すような、嘲笑を含んだシェリーちゃんの声音に苦笑が漏れる。確かに彼女の言うことは一理ある。直接でないにしろ弟を殺そうとしたし、名前すらも教えてもらえてない。
けどこの子の生きるのに無気力な感じ、無視できないんだよね。とても身に覚えがあるからこそ、私は心配してくれた博士を無理に説得してシェリーちゃんを信じることにしたのだ。
「嘘だったら悲しいけど、大丈夫。シェリーちゃんはそんなことしない子だってここ数日で分かったから。」
「…馬鹿ね。いつか足元をすくわれるわよ。」
「ふふっ。今じゃないならやっぱり大丈夫だよ。さ、この話は止めにして今後の話をしてこう!取り敢えず名前を考えようよ。シェリーちゃんって呼び続ける訳にはいかないし、何か希望はある?」
「ないわよ、そんなもの。なんでもいいわ。」
「やっぱり可愛い名前がいいよね。」
「だからなんでもいいわよ。」
見えなくてもわかる。呆れられてる。
でもそんな態度を知らん顔して博士に何か案はないのだろうかと声をかけると、よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりにハツラツとした声が上がった。
「新一が作家から名前を取ったじゃろ?だからワシもそこから考えてな。苗字はコーデリア・グレイのグレイを使って『灰原』、名前はV・I・ウォーショースキーの『アイ』で『灰原 アイ』なんてどうじゃ?」
「いい!アイちゃん、って呼びやすいし可愛いよ!漢字はどうする?1文字にする?2文字でもいいかも。」
「愛情の愛なんてどうじゃ?」
博士と2人であーでもない、こーでもないと言い合う。名前を付けるのってどうしてこう楽しいのだろう。やっぱり希望が込められるからかな?どんどんと盛り上がる私達は、けれど本人の意見も必要だと気づきずっと黙ったままでいたシェリーちゃんに声をかけた。
「シェリーちゃんはどんな漢字がいい?」
私は2文字派だから同じだったら嬉しいなー、なんて考えながら言うとポツリ、と小さな声が返ってきた。
「…哀悼の、哀。」
呟かれた漢字はあまりにも悲しい漢字で。私と博士は一瞬にして黙ってしまった。
哀悼の哀、か。物悲しく寂しい言葉だ。顔は見ることが出来ないのでじっと彼女の空気に意識を向ける。戸惑う博士にこれがいいと言う声音は、何だか切ない気がした。
…きっとこの子の中では『哀』と言う言葉は何か大切な意味があるんだろうな。
「…哀だと総画数が23になるから、…うん!縁起がいいしその漢字にしよっか。」
努めて明るく言う私に戸惑う眼差しがひしひしと伝わる。それをわざと無視してシェリーちゃん、改め哀ちゃんに笑いかける。
「今日からよろしくね。灰原哀ちゃん。」
「…えぇ。よろしく。」
生気の薄い投げやりすら感じるこの子の心が、いつか前を向いてくれればと思う。その為にもなるべく寄り添ってあげようと、複雑な思いを胸の奥にしまい込みまたこれからの話を再開する。
「名前も決まったことだし小学校に通う手続きを進めようか。」
「小学校?」
「そう。博士と話していてね。日中博士の家にいるより人目の多い学校の方が安心じゃないかなって。哀ちゃんには少し退屈かもしれないけど…どうかな?」
「そうね…。」
「何、新一もおるし案外楽しいかもしれんぞ。」
それに、と博士が続ける。
「『小3』になったら組織に勝つ『勝算』があるかもしれんからのー!」
声高々にダジャレを披露した博士に場の空気が白ける。心底呆れ返ったような哀ちゃんのため息に同意せざるを得ない。
博士、程々にしとかないと哀ちゃんに愛想つかされるよ…。
熱に浮かされ苦しそうに息をするのを放っておく訳にもいかず、新ちゃんへの話は一旦保留とし博士にシェリーちゃんを託し翌日から時々看病の手助けをする、と言うルーティンを私は暫く続けることとなった。
白杖を揺らしながら博士の家まで着くとインターホンを鳴らした。足音が近づく音と共に直ぐに扉が開く。
「すまんのかなえ君。」
「大丈夫だよ。あ、荷物お願いします。」
「おぉありがとう。そうじゃ、スマホ直ったぞ。後で渡そうかの。」
博士に私の幼少期の衣類が入った紙袋やランドセルを渡し、お礼を言いつつ室内へと入る。白杖を折り畳み靴を脱ぐと博士の案内に従い、シェリーちゃんがいるリビングへと向かった。
「おはよう。体調はどう?」
「問題ないわ。それよりこの犬、私の傍を離れないしぬいぐるみやらボールやら持ってくるんだけど。」
シェリーちゃんがいるであろうソファの方へ声をかけると軽く返事が返ってきた。その声が鼻声でないことにほっと胸を撫で下ろす。昨日まで体調悪そうだったけど、治ってよかった。
「シェリーちゃんのことが心配なんだよ。おもちゃも、多分自分のお気に入りを持ってきて元気出して貰おうとしたんだと思う。嫌だったなら注意しておこうか?」
「別に…。嫌、ではないから…。注意も、しなくていいわ。」
シェリーちゃんの元から私の足元に来たムクを撫でつつそう言うと、少し詰まりながらシェリーちゃんは答えてくれた。ムクは優しい子だから目に見えて弱っていたシェリーちゃんをとても気にしていた。だから暫く日中は博士の家、朝と夜は我が家でムクが過ごすようにしていたのだが、仲良くなったようでよかった。
足にじゃれつくムクに注意を払いながらシェリーちゃんの反対側のソファに腰掛ける。直ぐに離れていった体温にちょっとだけ寂しさを感じたのは内緒だ。
「かなえ君、お茶を持ってきたぞ。ここが取っ手じゃ。」
「ありがとう博士。」
飲み物を持ってきてくれたらしい博士からコップを受け取り口につける。私の隣側が沈み博士が座ったのが分かった。
「さて。回復してそうそう悪いんじゃが少し話をしよう。君の話を聞いて色々考えたんじゃが、取り敢えずワシとかなえ君は君の話を信用することにした。それで当分の間はワシの家で生活してもらおうかと思う。」
「私もちょくちょく顔を見せに来るから、何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね。」
「…私が言うのも何だけど、貴女も博士も随分とお人好しね。私は貴女の弟を殺そうとした。…もしかしたら全て嘘で罠かもしれないわよ。」
試すような、嘲笑を含んだシェリーちゃんの声音に苦笑が漏れる。確かに彼女の言うことは一理ある。直接でないにしろ弟を殺そうとしたし、名前すらも教えてもらえてない。
けどこの子の生きるのに無気力な感じ、無視できないんだよね。とても身に覚えがあるからこそ、私は心配してくれた博士を無理に説得してシェリーちゃんを信じることにしたのだ。
「嘘だったら悲しいけど、大丈夫。シェリーちゃんはそんなことしない子だってここ数日で分かったから。」
「…馬鹿ね。いつか足元をすくわれるわよ。」
「ふふっ。今じゃないならやっぱり大丈夫だよ。さ、この話は止めにして今後の話をしてこう!取り敢えず名前を考えようよ。シェリーちゃんって呼び続ける訳にはいかないし、何か希望はある?」
「ないわよ、そんなもの。なんでもいいわ。」
「やっぱり可愛い名前がいいよね。」
「だからなんでもいいわよ。」
見えなくてもわかる。呆れられてる。
でもそんな態度を知らん顔して博士に何か案はないのだろうかと声をかけると、よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりにハツラツとした声が上がった。
「新一が作家から名前を取ったじゃろ?だからワシもそこから考えてな。苗字はコーデリア・グレイのグレイを使って『灰原』、名前はV・I・ウォーショースキーの『アイ』で『灰原 アイ』なんてどうじゃ?」
「いい!アイちゃん、って呼びやすいし可愛いよ!漢字はどうする?1文字にする?2文字でもいいかも。」
「愛情の愛なんてどうじゃ?」
博士と2人であーでもない、こーでもないと言い合う。名前を付けるのってどうしてこう楽しいのだろう。やっぱり希望が込められるからかな?どんどんと盛り上がる私達は、けれど本人の意見も必要だと気づきずっと黙ったままでいたシェリーちゃんに声をかけた。
「シェリーちゃんはどんな漢字がいい?」
私は2文字派だから同じだったら嬉しいなー、なんて考えながら言うとポツリ、と小さな声が返ってきた。
「…哀悼の、哀。」
呟かれた漢字はあまりにも悲しい漢字で。私と博士は一瞬にして黙ってしまった。
哀悼の哀、か。物悲しく寂しい言葉だ。顔は見ることが出来ないのでじっと彼女の空気に意識を向ける。戸惑う博士にこれがいいと言う声音は、何だか切ない気がした。
…きっとこの子の中では『哀』と言う言葉は何か大切な意味があるんだろうな。
「…哀だと総画数が23になるから、…うん!縁起がいいしその漢字にしよっか。」
努めて明るく言う私に戸惑う眼差しがひしひしと伝わる。それをわざと無視してシェリーちゃん、改め哀ちゃんに笑いかける。
「今日からよろしくね。灰原哀ちゃん。」
「…えぇ。よろしく。」
生気の薄い投げやりすら感じるこの子の心が、いつか前を向いてくれればと思う。その為にもなるべく寄り添ってあげようと、複雑な思いを胸の奥にしまい込みまたこれからの話を再開する。
「名前も決まったことだし小学校に通う手続きを進めようか。」
「小学校?」
「そう。博士と話していてね。日中博士の家にいるより人目の多い学校の方が安心じゃないかなって。哀ちゃんには少し退屈かもしれないけど…どうかな?」
「そうね…。」
「何、新一もおるし案外楽しいかもしれんぞ。」
それに、と博士が続ける。
「『小3』になったら組織に勝つ『勝算』があるかもしれんからのー!」
声高々にダジャレを披露した博士に場の空気が白ける。心底呆れ返ったような哀ちゃんのため息に同意せざるを得ない。
博士、程々にしとかないと哀ちゃんに愛想つかされるよ…。
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