工藤さん家の娘さんは目が見えない
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「やばい!やばい!」
バシャバシャと水が跳ねてズボンの裾を濡らす。隣を歩くムクもきっとびしょ濡れのはずだ。
仕事で出版社から帰宅している最中雨が降ってきた。天気予報は見事に外れ、ポツポツと降っていた雨は次第に強くなり家の近くまで来る頃には靴も足もぐっしょりと濡れてしまっていた。
「帰ったら直ぐお風呂にしようね!」
雨音に負けないようやや声が張ったがやはり自分の声も聞こえにくい。事故や怪我をする前に早く帰らなければとハーネスの先のムクに声をかけながら足を早めていると、ピタリとムクの足が止まった。慌ててたたらを踏みながら私も止まる。
「ムク?どうかした?」
微かに鼻を鳴らす音が聞こえなくもないが、ムクが伝えたい事が分からない。恐る恐る白杖を前に出しながら左右に振った。
「何?…布?」
白杖の先に当たる感触が手に伝わりその柔らかさと重さが布を連想させる。どこからか飛ばされた洗濯物だろうか。もう一度、今度は少し大きく左右に振るとガッと硬い物に当たる。先で突いてみるとそこそこ弾力のある物なのだと分かった。何だろ…。集中して耳を済ましていると、小さな呻き声が聞こえてきた。
「え、嘘?人?!」
白杖を退かし直ぐに地面に膝を着く。ズボンがどんどん水を吸い込み冷たくなっていくが気にしていられない。杖を置き触るとそれは子供だった。大きな布の中に埋もれるようにしているその子を揺さぶる。返事はないが呻き声と微かな呼吸音を手に感じた。しかしあまりにも冷たい息にゾッとする。
「救急車、っあぁ!」
やってしまった。焦ったせいで鞄から出したスマホが滑り落ちる。雨音で落ちた位置が把握できない。仕方ない、今はスマホよりこの子が優先だ。
うつ伏せのその子を仰向けに変え手探りで首と膝裏に手を入れる。そのまま立ち上がると待機しているムクに指示を出した。博士の家まで数m、白杖もない状態は酷く恐ろしいが出来るだけ速く進もう。なるべく濡れないようにと私の上着の中にその子を入れ1歩踏み出した。
◇
「うぅ…。」
小さな呻き声にハッとソファの近くに寄る。衣擦れの音がして身を起こす気配がした。
「…ここは…。」
「目が覚めた?」
呟く女の子の声に私は成る可く優しく声をかける。まだ状況が把握出来ていないだろう、困惑したような雰囲気に膝を折り顔を合わせた。
あの後何とか博士の家に着いた私達は、そのまま博士の家で休ませてもらった。ずぶ濡れで子供を抱えた私に相当驚いていたが、直ぐにお風呂や私の家から私と私の子供の頃の服を取ってきてくれ、有難いことに今はムクをお風呂に入れてくれている。
「体調は大丈夫?痛いところはない?」
「…大丈夫…。」
放心状態なのか弱々しい声音に心配が募る。大分体温が下がっていたし、やっぱり体調は良くないよね。私もまだ身体は冷えている。何か温かい飲み物でも持ってこようかな…。
「おー!目が覚めたかの。」
そんな事を考えていると、背後の扉が開き博士とムクの足音が室内に入ってきた。タッタッタと規則正しい足音が傍まで来ると湿ったマズルが私の手を押す。撫でて欲しい時の合図に可愛いなぁ、と思いながら洗いたてでふかふかの毛並みを背中から尾にかけて撫で付けた。
「君が外で倒れていたのをここにいるかなえくんが助けてくれたんじゃよ。」
「そう…。」
「お洋服は濡れてたから私が交換しちゃった。勝手にごめんね。」
「構わないわ。」
少しづつ受け答えがしっかりとしてきている。意識がはっきりしてきた証拠だろう。少女の服を変える際、軽く触れた感じ擦り傷はあるも大きな怪我はなかったように思うが、この分だと頭を打ったとかも無さそうで安心した。
本来なら直ぐにでも病院へ連れて行くべきだったのだが、少女が元から来ていた服が下着までもサイズ違いなことや手首についた怪我が手錠の痕のようだと分かり、何か訳ありだろうと博士は言った。だから心配だったが病院へは連絡せず博士が容態を診てくれたのだった。
何から何まで本当に申し訳ない。後日博士にちゃんとお礼しようと思いつつ、これまた博士が持って来てくれたココアを飲む。温かさが身に染みてほっと一息ついた。
少しづつ場の空気が落ち着き始めココアも飲み干した頃、私は何ともない風を装いつつ少女にところで、と声をかけた。
「どうしてあんな所で倒れてたの?お母さんやお父さんは?」
その問いに少女の纏う雰囲気が重いものに変わった。
やっぱり聞かれたくないことだったかな…。でもそのままにもしておけないので、少女からの回答を待つ。
「…その前にまず、貴女は工藤新一の姉の工藤かなえで間違えない?」
「え、えぇ。そうだけど…?」
なんの確認だろうか。不安になりながら答えると、少女の視線を強く感じた。
「私はシェリー…、黒の組織にいた、貴女の弟が小さくなった薬を作り出した科学者よ。」
「…えぇ?!」
「それは本当か!」
まさかの発言に私も博士も驚愕する。しかし少女、いや彼女は気にすることなく、淡々と説明を始めた。
組織の一員として新ちゃんに飲ませた毒薬の研究を行っていた彼女は、とある理由から組織に対して反抗したらしい。しかし当然タダでは済まず監禁されただ死を待つだけだったそうだ。どうせ殺されるなら、と隠し持っていた毒薬で自殺を図ろうとした瞬間新ちゃんと同じように身体が縮みそれを利用し何とか命からがら脱出したのだと、そう締め括った。
「そして行く宛てのない私は、同じように幼児化したであろう工藤新一を頼りに貴女の家の前で倒れていたってわけ。」
「…理由は、分かった。けど…。」
あまりにも衝撃的な内容に何をどう言えばいいのか、言葉は続かず口を閉ざした。
毒薬…。新ちゃんは本当に間一髪だったんだ。家もそうだ。まさか2度も誰かに入られていたなんて。私も新ちゃんも、一歩間違えたら殺されていたかもしれないと知り体内の温度が下がっていく。
…頼りとは言ったけどもしかして、新ちゃんに会いに来たのって生きている証拠を掴むため?それを手柄に組織に戻るなんて言われたら…。
「それで、君はこれからどうする気じゃね。」
博士の言葉に私も彼女の方に顔を向けた。
どんな言葉が返ってくるのだろうか。恐ろしさを感じ全神経が彼女に集中する
ややあって静かな、しかし随分と固い声音が聞こえてきた。
「私を、匿って。」
バシャバシャと水が跳ねてズボンの裾を濡らす。隣を歩くムクもきっとびしょ濡れのはずだ。
仕事で出版社から帰宅している最中雨が降ってきた。天気予報は見事に外れ、ポツポツと降っていた雨は次第に強くなり家の近くまで来る頃には靴も足もぐっしょりと濡れてしまっていた。
「帰ったら直ぐお風呂にしようね!」
雨音に負けないようやや声が張ったがやはり自分の声も聞こえにくい。事故や怪我をする前に早く帰らなければとハーネスの先のムクに声をかけながら足を早めていると、ピタリとムクの足が止まった。慌ててたたらを踏みながら私も止まる。
「ムク?どうかした?」
微かに鼻を鳴らす音が聞こえなくもないが、ムクが伝えたい事が分からない。恐る恐る白杖を前に出しながら左右に振った。
「何?…布?」
白杖の先に当たる感触が手に伝わりその柔らかさと重さが布を連想させる。どこからか飛ばされた洗濯物だろうか。もう一度、今度は少し大きく左右に振るとガッと硬い物に当たる。先で突いてみるとそこそこ弾力のある物なのだと分かった。何だろ…。集中して耳を済ましていると、小さな呻き声が聞こえてきた。
「え、嘘?人?!」
白杖を退かし直ぐに地面に膝を着く。ズボンがどんどん水を吸い込み冷たくなっていくが気にしていられない。杖を置き触るとそれは子供だった。大きな布の中に埋もれるようにしているその子を揺さぶる。返事はないが呻き声と微かな呼吸音を手に感じた。しかしあまりにも冷たい息にゾッとする。
「救急車、っあぁ!」
やってしまった。焦ったせいで鞄から出したスマホが滑り落ちる。雨音で落ちた位置が把握できない。仕方ない、今はスマホよりこの子が優先だ。
うつ伏せのその子を仰向けに変え手探りで首と膝裏に手を入れる。そのまま立ち上がると待機しているムクに指示を出した。博士の家まで数m、白杖もない状態は酷く恐ろしいが出来るだけ速く進もう。なるべく濡れないようにと私の上着の中にその子を入れ1歩踏み出した。
◇
「うぅ…。」
小さな呻き声にハッとソファの近くに寄る。衣擦れの音がして身を起こす気配がした。
「…ここは…。」
「目が覚めた?」
呟く女の子の声に私は成る可く優しく声をかける。まだ状況が把握出来ていないだろう、困惑したような雰囲気に膝を折り顔を合わせた。
あの後何とか博士の家に着いた私達は、そのまま博士の家で休ませてもらった。ずぶ濡れで子供を抱えた私に相当驚いていたが、直ぐにお風呂や私の家から私と私の子供の頃の服を取ってきてくれ、有難いことに今はムクをお風呂に入れてくれている。
「体調は大丈夫?痛いところはない?」
「…大丈夫…。」
放心状態なのか弱々しい声音に心配が募る。大分体温が下がっていたし、やっぱり体調は良くないよね。私もまだ身体は冷えている。何か温かい飲み物でも持ってこようかな…。
「おー!目が覚めたかの。」
そんな事を考えていると、背後の扉が開き博士とムクの足音が室内に入ってきた。タッタッタと規則正しい足音が傍まで来ると湿ったマズルが私の手を押す。撫でて欲しい時の合図に可愛いなぁ、と思いながら洗いたてでふかふかの毛並みを背中から尾にかけて撫で付けた。
「君が外で倒れていたのをここにいるかなえくんが助けてくれたんじゃよ。」
「そう…。」
「お洋服は濡れてたから私が交換しちゃった。勝手にごめんね。」
「構わないわ。」
少しづつ受け答えがしっかりとしてきている。意識がはっきりしてきた証拠だろう。少女の服を変える際、軽く触れた感じ擦り傷はあるも大きな怪我はなかったように思うが、この分だと頭を打ったとかも無さそうで安心した。
本来なら直ぐにでも病院へ連れて行くべきだったのだが、少女が元から来ていた服が下着までもサイズ違いなことや手首についた怪我が手錠の痕のようだと分かり、何か訳ありだろうと博士は言った。だから心配だったが病院へは連絡せず博士が容態を診てくれたのだった。
何から何まで本当に申し訳ない。後日博士にちゃんとお礼しようと思いつつ、これまた博士が持って来てくれたココアを飲む。温かさが身に染みてほっと一息ついた。
少しづつ場の空気が落ち着き始めココアも飲み干した頃、私は何ともない風を装いつつ少女にところで、と声をかけた。
「どうしてあんな所で倒れてたの?お母さんやお父さんは?」
その問いに少女の纏う雰囲気が重いものに変わった。
やっぱり聞かれたくないことだったかな…。でもそのままにもしておけないので、少女からの回答を待つ。
「…その前にまず、貴女は工藤新一の姉の工藤かなえで間違えない?」
「え、えぇ。そうだけど…?」
なんの確認だろうか。不安になりながら答えると、少女の視線を強く感じた。
「私はシェリー…、黒の組織にいた、貴女の弟が小さくなった薬を作り出した科学者よ。」
「…えぇ?!」
「それは本当か!」
まさかの発言に私も博士も驚愕する。しかし少女、いや彼女は気にすることなく、淡々と説明を始めた。
組織の一員として新ちゃんに飲ませた毒薬の研究を行っていた彼女は、とある理由から組織に対して反抗したらしい。しかし当然タダでは済まず監禁されただ死を待つだけだったそうだ。どうせ殺されるなら、と隠し持っていた毒薬で自殺を図ろうとした瞬間新ちゃんと同じように身体が縮みそれを利用し何とか命からがら脱出したのだと、そう締め括った。
「そして行く宛てのない私は、同じように幼児化したであろう工藤新一を頼りに貴女の家の前で倒れていたってわけ。」
「…理由は、分かった。けど…。」
あまりにも衝撃的な内容に何をどう言えばいいのか、言葉は続かず口を閉ざした。
毒薬…。新ちゃんは本当に間一髪だったんだ。家もそうだ。まさか2度も誰かに入られていたなんて。私も新ちゃんも、一歩間違えたら殺されていたかもしれないと知り体内の温度が下がっていく。
…頼りとは言ったけどもしかして、新ちゃんに会いに来たのって生きている証拠を掴むため?それを手柄に組織に戻るなんて言われたら…。
「それで、君はこれからどうする気じゃね。」
博士の言葉に私も彼女の方に顔を向けた。
どんな言葉が返ってくるのだろうか。恐ろしさを感じ全神経が彼女に集中する
ややあって静かな、しかし随分と固い声音が聞こえてきた。
「私を、匿って。」
