工藤さん家の娘さんは目が見えない
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朝からの用事を終え帰宅し鞄から鍵を取り出し鍵穴に入れた。カチャリ、といつもの音が響き扉を開けると室内の空気が顔に当たる。
「…?」
人の気配があるわけじゃない。でも、何だか妙だ。もしかして、と早くなる心臓に押されるようにムクを連れ玄関を離れ門を過ぎる。生憎阿笠博士は発表会か何かで昨日から留守だ。大事にはしたくないが、仕方ないとスマホを開きタ行の所定の位置をタップした。
「…あ、もしもし伊達さん。お忙しいところすみません。ちょっと家が変で…。そうです。家の中です。…いえ、なんと言うか違和感があると言うか…。」
私の分かりにくい説明を真摯に聞いてくれた伊達さんは、直ぐに人を向かわせると言ってくれた。その言葉にほっと息を着いて通話を切る。誰が来てくれるだろうか…。佐藤さんかな。でもお嬢ちゃんに会いたがってる奴って言ってたし、そんな人いたかな。思い当たる節はなくムクと2人門の前で待っていると車のエンジン音が近づいてきた。
「よー!久しぶりかなえちゃん。」
「萩原さん?!」
「俺もいるけどな。」
「松田さんも!」
会いたがってた人って萩原さんと松田さんの事だったのか。特有のタバコの匂いに先程の不安が薄れる。ムクもパタパタとしっぽが揺れているのが音で分かった。
「それで?どうかしたの。」
「えっと、実は家に他の人の気配?みたいなのがあって。」
「不法侵入ってことか?今も家の中に?」
「ごめんなさい、中にはまだ入ってなくて…。」
「ううん、怖いもんね。大丈夫。因みに知り合いの可能性は?」
「うちに来るの蘭ちゃんか私の友達くらいですけど、2人共必ず来る前に連絡くれるし、まず家の鍵持ってないです。」
「成程ね…。陣平ちゃん。」
「わーってるよ。」
様子を見てくると言う松田さんに鍵は開けてあることを伝え、萩原さんと待っているとものの数分で戻ってきた。
「どうだった。」
「ざっと見たが荒らされたり誰かがいることはなかったな。」
「そうですか…。」
やはり杞憂だったのだろうか。少し敏感になり過ぎていただけかもしれない。自分の早とちりに恥ずかしくなりながら、それでも来てくれたことに再度お礼を言おうとすると萩原さんがそう言えば、と口を開いた。
「新一君、大きい事件の調査してるんだってね。どこ行ってるの?」
「え?」
不意を突かれて言葉が出てこなかった。え、新ちゃんそう言う言い訳してるの?
「そーいや最近現場によく来る毛利探偵のとこのガキ、遠い親戚らしいな。」
「え、あ、その…。」
「ちょこちょこ現場を走り回って邪魔してんのかと思えば変に勘が良いし。子供らしくないこと言うと思えば、誰かにそっくりな生意気なことも言うし。」
「あの、えっと…。」
「似てるよね〜。新一君に。」
何も言えない。ダラダラと流れ始める汗が嫌に冷たく感じる。思わず口籠もった私に2人の空気が変わる。まずいまずいまずい。
「かなえちゃん、ちょーっとお兄さん達とお話しようか。」
「…はい…。」
デジャブ。こんな事になるならもっとちゃんと擦り合わせしとくんだった…。しかし後悔しても遅く、ガックリと肩を落とした私にムクが心配そうに鼻を鳴らした。
◇
リビングへと2人を通しソファへと腰かけると、緊張で固くなる私の隣と前の席からじわじわと強い圧を感じる。ムクが足元にいるのがせめてもの救いだ。
そもそもなんで広いソファにこんなに萎縮して座らなきゃいけないんだ、と目の前に座っているであろう松田さんと隣にいる萩原さんに胃が痛くなった。
「さて、説明してもらおうか。」
「それよりお茶持って来ましょうか…?」
「あ、お構いなく〜。」
浮いた腰をまたソファに沈める。速攻で却下されてしまった。
こんな事ならもっと父に食い下がっておくべきだった。まさかこんな早く、しかも近しい人からピンチに陥れられるとは思わなかった。
「あの子供、江戸川コナン君だっけ。俺らが学生時代に会った新一君の小さい頃に瓜二つなんだよね。」
「…。」
思わず無言になる。新ちゃん、あんた萩原さん達に会ってたの。意外な繋がりに世間って狭いな、と現実逃避しようと思うも前から聞こえる小刻みな衣擦れの音に意識が戻ってくる。
「それで?今度は何に首突っ込んだんだよ。」
「えっと…。」
「お前も噛んでんのか。」
「その…。」
「はっきり言え。」
「松田。」
ドスの効いた松田さんの声に思わずビクッと肩が跳ねた。鼻先を当ててくるムクと松田さんを諌める萩原さんに何とか心臓を落ち着かせる。まるで取り調べを受ける犯人のようだ。
「陣平ちゃんがごめんな?でもコイツも心配してるんだよ。それは俺も同じだし、何かあったなら頼って欲しい。」
ぐっと喉が詰まる。2人が言っていることは何も間違ってない。なのに…。
思い出すのは注意しながらも協力し合う3人の声。新ちゃんのことは心配してても最後には笑って許してたな、と気分が暗くなる。
なんか、私ってほんと何も出来ないんだなぁ…。
だからついポロッと口が滑ってしまった。
「目が見えないから?」
「お前…。」
「かなえちゃん…。」
しまった。咄嗟に口を手で押さえるも、言ったことがなかったことになる訳もなく血の気が引く。当てつけのような事を言ってしまった。これじゃ癇癪を起こした子供だ。
慌てて違うのだと声を上げようとした私を隣からの声が遮った。
「確かにかなえちゃんのハンデを俺達は気にかけてる。」
怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもない萩原さんの声に耳の神経が集中する。当たり前の事だが言葉にするとやっぱり壁を感じた。悲しくなって顔を下げた私に萩原さんはでも、と言葉を続ける。
「それ以前に俺達はかなえちゃんの友達なんだ。ダチが困ってるのに無視するなんてありえねぇよ。」
思わず顔を上げる。
勿論顔は見えなかったが、優しく微笑んでくれているのはよく分かった。
友達、か。
その言葉が嬉しくて泣きそうになるのをムクの頭を撫でて誤魔化す。思えば彼らはいつも言動で示してくれていたのに、少しでも疑った自分が恥ずかしい。
…でも、だからこそ言う訳にはいかない。
「ありがとうございます。…でも、ごめんなさい。新ちゃんと約束したから、言えません。」
「…まぁ、そう言うわな。だってよ陣平ちゃん!」
成り行きを見守っていてくれていたのだろう。黙っていた松田さんは1つ大きなため息をこぼしてからポン、と私の頭に手を置いた。
「ったく…。やべぇと思ったら問答無用だからな。」
「っ、はい!」
「ほんとに分かってんのか?」
ぐりぐりと圧迫され頭が押さつけられる。痛くて髪も乱れたけど、何故か嫌ではなかった。
◇
2人が帰った後もう一度家の中を確認してみた。特に変わった事はなくやはり自分の勘違いかと思っていると、ふと、タンスが気になった。私たちの昔着ていた子供服が入っていたそこには今は何もない。
「…気のせいかな。」
呟いて引き出しを戻す。何ともないと松田さんも言っていたし気にし過ぎかと部屋を後にする。
ただ扉を閉める際、どこからか消毒液の匂いが香った。
「…?」
人の気配があるわけじゃない。でも、何だか妙だ。もしかして、と早くなる心臓に押されるようにムクを連れ玄関を離れ門を過ぎる。生憎阿笠博士は発表会か何かで昨日から留守だ。大事にはしたくないが、仕方ないとスマホを開きタ行の所定の位置をタップした。
「…あ、もしもし伊達さん。お忙しいところすみません。ちょっと家が変で…。そうです。家の中です。…いえ、なんと言うか違和感があると言うか…。」
私の分かりにくい説明を真摯に聞いてくれた伊達さんは、直ぐに人を向かわせると言ってくれた。その言葉にほっと息を着いて通話を切る。誰が来てくれるだろうか…。佐藤さんかな。でもお嬢ちゃんに会いたがってる奴って言ってたし、そんな人いたかな。思い当たる節はなくムクと2人門の前で待っていると車のエンジン音が近づいてきた。
「よー!久しぶりかなえちゃん。」
「萩原さん?!」
「俺もいるけどな。」
「松田さんも!」
会いたがってた人って萩原さんと松田さんの事だったのか。特有のタバコの匂いに先程の不安が薄れる。ムクもパタパタとしっぽが揺れているのが音で分かった。
「それで?どうかしたの。」
「えっと、実は家に他の人の気配?みたいなのがあって。」
「不法侵入ってことか?今も家の中に?」
「ごめんなさい、中にはまだ入ってなくて…。」
「ううん、怖いもんね。大丈夫。因みに知り合いの可能性は?」
「うちに来るの蘭ちゃんか私の友達くらいですけど、2人共必ず来る前に連絡くれるし、まず家の鍵持ってないです。」
「成程ね…。陣平ちゃん。」
「わーってるよ。」
様子を見てくると言う松田さんに鍵は開けてあることを伝え、萩原さんと待っているとものの数分で戻ってきた。
「どうだった。」
「ざっと見たが荒らされたり誰かがいることはなかったな。」
「そうですか…。」
やはり杞憂だったのだろうか。少し敏感になり過ぎていただけかもしれない。自分の早とちりに恥ずかしくなりながら、それでも来てくれたことに再度お礼を言おうとすると萩原さんがそう言えば、と口を開いた。
「新一君、大きい事件の調査してるんだってね。どこ行ってるの?」
「え?」
不意を突かれて言葉が出てこなかった。え、新ちゃんそう言う言い訳してるの?
「そーいや最近現場によく来る毛利探偵のとこのガキ、遠い親戚らしいな。」
「え、あ、その…。」
「ちょこちょこ現場を走り回って邪魔してんのかと思えば変に勘が良いし。子供らしくないこと言うと思えば、誰かにそっくりな生意気なことも言うし。」
「あの、えっと…。」
「似てるよね〜。新一君に。」
何も言えない。ダラダラと流れ始める汗が嫌に冷たく感じる。思わず口籠もった私に2人の空気が変わる。まずいまずいまずい。
「かなえちゃん、ちょーっとお兄さん達とお話しようか。」
「…はい…。」
デジャブ。こんな事になるならもっとちゃんと擦り合わせしとくんだった…。しかし後悔しても遅く、ガックリと肩を落とした私にムクが心配そうに鼻を鳴らした。
◇
リビングへと2人を通しソファへと腰かけると、緊張で固くなる私の隣と前の席からじわじわと強い圧を感じる。ムクが足元にいるのがせめてもの救いだ。
そもそもなんで広いソファにこんなに萎縮して座らなきゃいけないんだ、と目の前に座っているであろう松田さんと隣にいる萩原さんに胃が痛くなった。
「さて、説明してもらおうか。」
「それよりお茶持って来ましょうか…?」
「あ、お構いなく〜。」
浮いた腰をまたソファに沈める。速攻で却下されてしまった。
こんな事ならもっと父に食い下がっておくべきだった。まさかこんな早く、しかも近しい人からピンチに陥れられるとは思わなかった。
「あの子供、江戸川コナン君だっけ。俺らが学生時代に会った新一君の小さい頃に瓜二つなんだよね。」
「…。」
思わず無言になる。新ちゃん、あんた萩原さん達に会ってたの。意外な繋がりに世間って狭いな、と現実逃避しようと思うも前から聞こえる小刻みな衣擦れの音に意識が戻ってくる。
「それで?今度は何に首突っ込んだんだよ。」
「えっと…。」
「お前も噛んでんのか。」
「その…。」
「はっきり言え。」
「松田。」
ドスの効いた松田さんの声に思わずビクッと肩が跳ねた。鼻先を当ててくるムクと松田さんを諌める萩原さんに何とか心臓を落ち着かせる。まるで取り調べを受ける犯人のようだ。
「陣平ちゃんがごめんな?でもコイツも心配してるんだよ。それは俺も同じだし、何かあったなら頼って欲しい。」
ぐっと喉が詰まる。2人が言っていることは何も間違ってない。なのに…。
思い出すのは注意しながらも協力し合う3人の声。新ちゃんのことは心配してても最後には笑って許してたな、と気分が暗くなる。
なんか、私ってほんと何も出来ないんだなぁ…。
だからついポロッと口が滑ってしまった。
「目が見えないから?」
「お前…。」
「かなえちゃん…。」
しまった。咄嗟に口を手で押さえるも、言ったことがなかったことになる訳もなく血の気が引く。当てつけのような事を言ってしまった。これじゃ癇癪を起こした子供だ。
慌てて違うのだと声を上げようとした私を隣からの声が遮った。
「確かにかなえちゃんのハンデを俺達は気にかけてる。」
怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもない萩原さんの声に耳の神経が集中する。当たり前の事だが言葉にするとやっぱり壁を感じた。悲しくなって顔を下げた私に萩原さんはでも、と言葉を続ける。
「それ以前に俺達はかなえちゃんの友達なんだ。ダチが困ってるのに無視するなんてありえねぇよ。」
思わず顔を上げる。
勿論顔は見えなかったが、優しく微笑んでくれているのはよく分かった。
友達、か。
その言葉が嬉しくて泣きそうになるのをムクの頭を撫でて誤魔化す。思えば彼らはいつも言動で示してくれていたのに、少しでも疑った自分が恥ずかしい。
…でも、だからこそ言う訳にはいかない。
「ありがとうございます。…でも、ごめんなさい。新ちゃんと約束したから、言えません。」
「…まぁ、そう言うわな。だってよ陣平ちゃん!」
成り行きを見守っていてくれていたのだろう。黙っていた松田さんは1つ大きなため息をこぼしてからポン、と私の頭に手を置いた。
「ったく…。やべぇと思ったら問答無用だからな。」
「っ、はい!」
「ほんとに分かってんのか?」
ぐりぐりと圧迫され頭が押さつけられる。痛くて髪も乱れたけど、何故か嫌ではなかった。
◇
2人が帰った後もう一度家の中を確認してみた。特に変わった事はなくやはり自分の勘違いかと思っていると、ふと、タンスが気になった。私たちの昔着ていた子供服が入っていたそこには今は何もない。
「…気のせいかな。」
呟いて引き出しを戻す。何ともないと松田さんも言っていたし気にし過ぎかと部屋を後にする。
ただ扉を閉める際、どこからか消毒液の匂いが香った。
