工藤さん家の娘さんは目が見えない
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「もー!やんなっちゃうわ!!」
「まぁまぁ。」
大声を上げる母を宥めるも全く私の言葉は意味をなさない。数時間のフライトを終え最終便での帰宅だというのに元気だなぁと感心する隣で、新ちゃんが呆れたように息を吐いた。
珍しく昼間に母から電話があった。何かと思えばどうやら父と喧嘩したらしく、怒り心頭なのが電話口から伝わる。売れっ子の小説家だし飲み会は良くあることだと思うがカンカンな母にはそんな言い分は通じず、このまま私と暮らすと言って聞かない。多分今日中に日本に帰って来るだろうなと切れた電話に苦笑していると、予想通り夕刻チャイムが鳴り今に至る。
「優作さんなんてもう知らない!原稿に埋もれて倒れちゃえばいいんだわ!」
「そんなこと言わないでお母さん。」
「くぅ〜むしゃくしゃする!新ちゃんお酒ついで!」
「まだ呑むのかよ…。」
鼻息が荒くなる母に新ちゃんはうんざりした様に言う。偶然会ったらしい新ちゃんを無理矢理連れ、そのまま母は晩酌を始めた。夕食多めに用意しといて良かった。
「2人は明日出かけるんだよね。朝ごはんどうする?」
「早いからコンビニか何処か寄って買うわ。それよりかなえちゃんは本当に行かないの?」
「うん。2人で楽しんできて。」
そう言って笑うと母が不満気な声を上げる。久しぶりに会えたし一緒に行きたいのは山々だが、多分明日は家にいた方がいい。
全く犬も食わない夫婦だこと。まだまだ不満が止まらない母をたしなめつつ、やれやれと肩を下げた。
◇
早朝、まだ夢の中にいる新ちゃんを連れて母は出かけて行った。ムクと2人で見送り軽く私たちも朝食を取る。事前の連絡だとそろそろかな…。スマホの音声を聞こうとした時、丁度よくチャイムが鳴り響いた。
「ただいまかなえ。」
「お帰りお父さん。」
時間ぴったり。全く、と内心呆れながらテレビドアホンの音声を確認した後、玄関を開ける。久しぶりに会った父はタバコの匂いが濃かった。
「お母さん迎えに来たんでしょ?群馬に行っちゃったよ。」
「あぁ。幼馴染みに会いに行ったんだろう。」
「何でもいいけど早く仲直りしてよね。夫婦喧嘩はムクも食べないよ。」
ねー、と言いながら足元のムクを撫でる。首を傾げるのを手で感じていると父が苦笑をもらしたのが分かった。心配して朝イチで迎えに来るくらいなら飲み会なんて行かなければいいのに。私は母の味方なのでそう思えば、察したのか父が私の名前を呼びながらご機嫌取りを始めた。お土産なんていらないからお母さんを早く迎えに行ってよ。
「そうだ、久しぶりに父さんと出かけるか!」
「えぇ?」
突拍子もない提案に眉が寄る。そんな事より早く母と仲直りして欲しい。渋る私に父が悲しげに嫌なのか問うてきて、思わず言葉が詰まる。その言い方はずるい。
「…いいけど、満足したらお母さん迎えに行ってね。」
「勿論だとも。それにしても、久しぶりのかなえとのデートかぁ。嬉しいなぁ!」
途端に嬉しそうに声が弾んだ父に私も笑ってしまう。まぁ偶にはいいかも、と緩みそうになる頬を咳払いで誤魔化した。
父の運転で訪れたのは個人経営の文房具店で買い物を終えた後、2人で近くの喫茶店に入り少し早い昼食を採ることにした。私はケチャップ味のオムライスを、父はサンドウィッチとコーヒーを頼んだ。注文した品が直ぐに届き挨拶をしてから食べ始める。ケチャップの酸味と卵の柔らかさが絶妙で思わず声が漏れた。
おいしっ。家のオムライスは基本デミグラスソースなため、時々ケチャップ味が食べたくなる。この店にあって良かったと機嫌よく食べ進めていると、ぽつりと父が言葉をこぼした。
「かなえは本当に、可愛いなぁ。」
驚いてスプーンを持つ手が止まる。私や新ちゃんが何かしていた時、よく父はしみじみと可愛いと言う時があった。しかしそれは子供の頃の事で、大人になって言われるのは久しぶりだったので驚きと同時に照れが湧いた。
「いきなり止めてよ。」
「ふふ、すまない。それより本読んだよ。言葉選びが上手くなったね。」
「ほんと?」
嬉しくなって思わず腰を少し浮かしてしまった。それを慌てて下げる。技術が上がった事も嬉しいが、父がわざわざロサンゼルスで日本語訳の本を買って読んでいてくれた事が嬉しい。頬が緩んでいくのに気づき慌てて引き締めた。いけないいけない、嬉しくても耐えねば。そうポーカーフェイスを気取っていると父に笑われた。まるで子供相手のような笑い方に少し口を尖らせる。
「…ねぇお父さん。ちょっと相談なんだけど…。」
「ん?どうした。」
「私嘘が上手くなりたいの。どうすればいい?」
「嘘?」
聞き返してくる父に頷く。元から嘘や誤魔化しが苦手ではあったが、最近それに少し危機感を抱いていた。なので何かアドバイスが欲しいな、と言ってみたが父は悩ましげに言葉を続けた。
「うーん…難しいだろうなぁ。かなえは顔に出やすいし。」
「やっぱりかぁ…。」
分かってはいたがやっぱりショックだ。気落ちしながらも残りのオムライスを食べていると、父の雰囲気が柔らかいものに変わっていくのが分かった。
「かなえはそのままが一番だよ。」
「えぇ?」
「きっとかなえのその素直さに救われてる人は沢山いるはずだよ。父さんだってそのうちの1人さ。かなえと一緒にいれば心が安らぐんだ。」
「うーん?」
要領を得ない言葉に思わず首を傾げる。そんな私に父はそれ以上何かを言うことなく、笑いながらサンドウィッチを咀嚼し始めた。
食事が終わり家に戻ると父はそのまま母を迎えに行くと言った。やっとか、とやや呆れながら玄関から送り出すとポンポンと頭を撫でらる。
「分かりやすいってことは、それだけ信用が出来るってことだ。嘘が多い世界でかなえの隣は何よりも息がしやすいんだよ。」
だから無理に変わらなくていい、そう言って去って行った父の言葉を反芻する。…まぁ、直ぐにすぐ変えられるものでもないし、暫くはこのままでいてみよっかな。
そう思い直し機嫌よく家の中へ入る私はしかし、後日その考えを死ぬほど後悔することになるのだった。
「まぁまぁ。」
大声を上げる母を宥めるも全く私の言葉は意味をなさない。数時間のフライトを終え最終便での帰宅だというのに元気だなぁと感心する隣で、新ちゃんが呆れたように息を吐いた。
珍しく昼間に母から電話があった。何かと思えばどうやら父と喧嘩したらしく、怒り心頭なのが電話口から伝わる。売れっ子の小説家だし飲み会は良くあることだと思うがカンカンな母にはそんな言い分は通じず、このまま私と暮らすと言って聞かない。多分今日中に日本に帰って来るだろうなと切れた電話に苦笑していると、予想通り夕刻チャイムが鳴り今に至る。
「優作さんなんてもう知らない!原稿に埋もれて倒れちゃえばいいんだわ!」
「そんなこと言わないでお母さん。」
「くぅ〜むしゃくしゃする!新ちゃんお酒ついで!」
「まだ呑むのかよ…。」
鼻息が荒くなる母に新ちゃんはうんざりした様に言う。偶然会ったらしい新ちゃんを無理矢理連れ、そのまま母は晩酌を始めた。夕食多めに用意しといて良かった。
「2人は明日出かけるんだよね。朝ごはんどうする?」
「早いからコンビニか何処か寄って買うわ。それよりかなえちゃんは本当に行かないの?」
「うん。2人で楽しんできて。」
そう言って笑うと母が不満気な声を上げる。久しぶりに会えたし一緒に行きたいのは山々だが、多分明日は家にいた方がいい。
全く犬も食わない夫婦だこと。まだまだ不満が止まらない母をたしなめつつ、やれやれと肩を下げた。
◇
早朝、まだ夢の中にいる新ちゃんを連れて母は出かけて行った。ムクと2人で見送り軽く私たちも朝食を取る。事前の連絡だとそろそろかな…。スマホの音声を聞こうとした時、丁度よくチャイムが鳴り響いた。
「ただいまかなえ。」
「お帰りお父さん。」
時間ぴったり。全く、と内心呆れながらテレビドアホンの音声を確認した後、玄関を開ける。久しぶりに会った父はタバコの匂いが濃かった。
「お母さん迎えに来たんでしょ?群馬に行っちゃったよ。」
「あぁ。幼馴染みに会いに行ったんだろう。」
「何でもいいけど早く仲直りしてよね。夫婦喧嘩はムクも食べないよ。」
ねー、と言いながら足元のムクを撫でる。首を傾げるのを手で感じていると父が苦笑をもらしたのが分かった。心配して朝イチで迎えに来るくらいなら飲み会なんて行かなければいいのに。私は母の味方なのでそう思えば、察したのか父が私の名前を呼びながらご機嫌取りを始めた。お土産なんていらないからお母さんを早く迎えに行ってよ。
「そうだ、久しぶりに父さんと出かけるか!」
「えぇ?」
突拍子もない提案に眉が寄る。そんな事より早く母と仲直りして欲しい。渋る私に父が悲しげに嫌なのか問うてきて、思わず言葉が詰まる。その言い方はずるい。
「…いいけど、満足したらお母さん迎えに行ってね。」
「勿論だとも。それにしても、久しぶりのかなえとのデートかぁ。嬉しいなぁ!」
途端に嬉しそうに声が弾んだ父に私も笑ってしまう。まぁ偶にはいいかも、と緩みそうになる頬を咳払いで誤魔化した。
父の運転で訪れたのは個人経営の文房具店で買い物を終えた後、2人で近くの喫茶店に入り少し早い昼食を採ることにした。私はケチャップ味のオムライスを、父はサンドウィッチとコーヒーを頼んだ。注文した品が直ぐに届き挨拶をしてから食べ始める。ケチャップの酸味と卵の柔らかさが絶妙で思わず声が漏れた。
おいしっ。家のオムライスは基本デミグラスソースなため、時々ケチャップ味が食べたくなる。この店にあって良かったと機嫌よく食べ進めていると、ぽつりと父が言葉をこぼした。
「かなえは本当に、可愛いなぁ。」
驚いてスプーンを持つ手が止まる。私や新ちゃんが何かしていた時、よく父はしみじみと可愛いと言う時があった。しかしそれは子供の頃の事で、大人になって言われるのは久しぶりだったので驚きと同時に照れが湧いた。
「いきなり止めてよ。」
「ふふ、すまない。それより本読んだよ。言葉選びが上手くなったね。」
「ほんと?」
嬉しくなって思わず腰を少し浮かしてしまった。それを慌てて下げる。技術が上がった事も嬉しいが、父がわざわざロサンゼルスで日本語訳の本を買って読んでいてくれた事が嬉しい。頬が緩んでいくのに気づき慌てて引き締めた。いけないいけない、嬉しくても耐えねば。そうポーカーフェイスを気取っていると父に笑われた。まるで子供相手のような笑い方に少し口を尖らせる。
「…ねぇお父さん。ちょっと相談なんだけど…。」
「ん?どうした。」
「私嘘が上手くなりたいの。どうすればいい?」
「嘘?」
聞き返してくる父に頷く。元から嘘や誤魔化しが苦手ではあったが、最近それに少し危機感を抱いていた。なので何かアドバイスが欲しいな、と言ってみたが父は悩ましげに言葉を続けた。
「うーん…難しいだろうなぁ。かなえは顔に出やすいし。」
「やっぱりかぁ…。」
分かってはいたがやっぱりショックだ。気落ちしながらも残りのオムライスを食べていると、父の雰囲気が柔らかいものに変わっていくのが分かった。
「かなえはそのままが一番だよ。」
「えぇ?」
「きっとかなえのその素直さに救われてる人は沢山いるはずだよ。父さんだってそのうちの1人さ。かなえと一緒にいれば心が安らぐんだ。」
「うーん?」
要領を得ない言葉に思わず首を傾げる。そんな私に父はそれ以上何かを言うことなく、笑いながらサンドウィッチを咀嚼し始めた。
食事が終わり家に戻ると父はそのまま母を迎えに行くと言った。やっとか、とやや呆れながら玄関から送り出すとポンポンと頭を撫でらる。
「分かりやすいってことは、それだけ信用が出来るってことだ。嘘が多い世界でかなえの隣は何よりも息がしやすいんだよ。」
だから無理に変わらなくていい、そう言って去って行った父の言葉を反芻する。…まぁ、直ぐにすぐ変えられるものでもないし、暫くはこのままでいてみよっかな。
そう思い直し機嫌よく家の中へ入る私はしかし、後日その考えを死ぬほど後悔することになるのだった。
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