工藤さん家の娘さんは目が見えない
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亡くなったのは村長の黒岩辰次さんだった。死因は刺殺で、現場には血で書かれた譜面が残されていたそうだ。
当たりは騒然となり誰が犯人だと言い争う声が響き渡る。怒号と臭いが重なり頭が痛くなってきた。ムクを連れてこなくて良かった…。収集がつかなくなりそうな所で、新ちゃんが楽譜の暗号を読み解いたらしく、隠されたメッセージを読み上げ始める。その内容を聞くと今回毛利さんに依頼を出した麻生圭二さんが深く関わっているのが嫌でも分かった。
「かなえねーちゃん大丈夫?」
あらかた場が落ち着いてから新ちゃんが心配そうに声をかけてくれた。顔を少し下げて大丈夫と言おうとしたが、考え直し素直に体調が悪いことを伝える。
「ちょっと気持ち悪いかも…。」
「ボク今から駐在さんと派出所に行くけど、一緒に行く?外の空気吸えば少しは気分が良くなるかも!」
子供特有の温かい体温が私の手を柔らかく包む。私は容疑者から外れているし、もう旅館に行ってもいいかもしれない。
「なら一緒に行こうかな…。そのまま旅館に戻ってもいい?」
「うん!目暮警部に言っておくね。」
そう言って新ちゃんは駆けて行く。丁度駐在所は旅館の近くだったので、駐在さんが探している間に新ちゃんが送ってくれることになった。
◇
簡単に戻れると思っていたが、その後寄った公民館でまた新たな死体が見つからしく、自殺のようにして殺されていたのは西本さんだった。黒岩さんの第一発見者で、麻生さんが生きていると怯えていた人でもある。同じく公民館のピアノの部屋で村沢さんも襲われて気絶していたらしく、事情聴取のやり直しのため旅館に迎えに来た蘭ちゃんが申し訳なさそうにしていたのが心に痛い。
仕方なく役場に戻った私は忙しそうな周りから離れてベンチに座る。人の出入りが多いおかげか臭いは落ち着いていた。
「大丈夫そう?」
ぼー、と自分の番が来るのを待っていると新ちゃんが隣に腰掛けてきた。
「うん。まだちょっと頭痛はするけど平気だよ。」
「成美先生に診てもらえば?」
「そこまでじゃないから大丈夫だよ。」
笑って言うと新ちゃんは少し黙ったあと、言いにくそうにくぐもった声を出した。
「あのさ、僕の勘違いならいいんだけど…。成美先生の事苦手?」
はた、と新ちゃんの言葉が不意を突いた。内心首を傾げているとトイレの時も嫌がってたみたいだから、ともごもごと言われた。
「…あぁ!あれね。あれは苦手だからじゃなくて、流石に男性にトイレ着いてきてもらうのはちょっと恥ずかしかっただけ。」
「え?!」
「ん?」
大声を上げた新ちゃんに私も驚いてしまう。何かおかしな事を言っただろうか。
「成美先生って男なの?」
「え?えぇ、そうだと思ってたんだけど…。もしかして、違った…?」
やだ、もしかして勘違いしてた?性別を間違えることなんて今まで無かったのに…。やっぱり調子が悪いのかなぁ、と眉間を揉んでいると新ちゃんが黙ってしまった。この感じは…。何か気づいたのだろうか。
「私なら大丈夫だから行っていいよ。」
きっと真実を見つけたのだろう。この連続殺人にピリオドを打ってもらうため送り出すと、新ちゃんは行ってくると言い走って行った。暫くしてザザッと雑音の混じった毛利さんの声がスピーカーから聞こえてきた。麻酔銃を撃ったのだろう。毛利さんのフリをした新ちゃんが推理を始めた。
村沢さんを襲ったのが平田さんであり、彼は亡くなった3人と違法薬物の取り引きを行っていたのだと言う。なるほど、ならあの微かに香った甘い匂いは薬物の…。初日のことを思い出し身震いする。しかしその平田さんは連続して起こった3つの殺人の犯人ではないらしく、次々に暴かれていくトリックが犯人を追い詰めているのが分かる。この感じ、苦手だ。まるでじわじわと首を絞めているかのようでこちらまで緊張してしまう。冷や汗をかきながら新ちゃんの推理に耳を傾けていると、遂に犯人の名前が呼ばれた。
「浅井成美。あなたしかいないんですよ!」
予想外の名前にはっ、と息を飲んだ。そうか、だから性別を…。しかも本名は麻生成美さんと言い、12年前に亡くなった麻生圭二さんの息子だと言う。明るみになっていく真実に驚愕していると目暮警部の怒鳴り声が聞こえた。
「なに!?逃げられた!!探せぇ!!」
どうやら浅井さんが逃亡したらしく、バタバタと大人数の足音が駆け足に過ぎていく。
どうしたものかと1人困っていると名前を呼ばれ肩を叩かれた。
「かなえさん!肩に掴まってください!」
「蘭ちゃん!ありがとう。」
導かれるまま蘭ちゃんの肩に手を置く。私が行ったところで何も出来ないけれど、見届ける必要があるだろう。そう決意して私たちも公民館へと急いだ。
◇
結局今回の月影島連続殺人事件の犯人である浅井成美、もとい麻生成美さんは父親の形見とも言えるピアノと共に亡くなった。公民館は朝まで燃え続け何も残らなかったそうだ。
「あんまりゆっくり出来ませんでしたね。」
隣に座る蘭ちゃんが苦笑混じりに声をかけてきた。確かに観光は殆ど出来なかったし、大きな事件にも巻き込まれてしまった。久しぶりのリハビリ旅行にしては濃い内容に私も苦笑いしてしまう。
「あ!ねぇ、成美先生が弾いてた暗号って何だったの?」
蘭ちゃんの言葉にそう言えば灼熱と共にピアノの音もあそこにはあったのを思い出した。私も気になって耳を傾けていたが、新ちゃんは忘れたと言う。答える気はないようだった。
つまらなさそうにしていた蘭ちゃんも興味が失せたのか、毛利さんの所に行くと傍を離れる。船は揺れているのに難なく歩いていく足音にやっぱり体感強いなと感心した。
残った新ちゃんと2人で何ともなしに潮風を感じていると、ポツリと小さな声が聞こえた。
「探偵も一緒だよ。」
「ん?」
「成美先生と言ってたろ?言葉を読み取る、って。探偵もそうだなって思ったんだよ。」
船のエンジン音に埋もれそうだった。でも何かを決意したような、固く真っ直ぐな声音は確かに私の耳に届く。
「声にならない声を聞いて真実へ導く。暴くだけが正義じゃないんだ。」
少し暗い雰囲気に今回のことで思うところがあったのだろう思った。こうやって大人になっていくんだろうな…。寂しいような嬉しいような、複雑な気持ちのまま新ちゃんがいる位置に向け微笑む。
「そうだね。私たちは言葉が武器にもなるから、責任を持たなきゃ。」
潮の匂いが鼻奥につん、と刺さる。きっとこの感覚も新ちゃんは忘れることはないのだろう。私ももっと話しておけばよかったな。靡く髪を耳にかけながらやるせない想いを眠らせる。
潮風はもう背中を押していた。
当たりは騒然となり誰が犯人だと言い争う声が響き渡る。怒号と臭いが重なり頭が痛くなってきた。ムクを連れてこなくて良かった…。収集がつかなくなりそうな所で、新ちゃんが楽譜の暗号を読み解いたらしく、隠されたメッセージを読み上げ始める。その内容を聞くと今回毛利さんに依頼を出した麻生圭二さんが深く関わっているのが嫌でも分かった。
「かなえねーちゃん大丈夫?」
あらかた場が落ち着いてから新ちゃんが心配そうに声をかけてくれた。顔を少し下げて大丈夫と言おうとしたが、考え直し素直に体調が悪いことを伝える。
「ちょっと気持ち悪いかも…。」
「ボク今から駐在さんと派出所に行くけど、一緒に行く?外の空気吸えば少しは気分が良くなるかも!」
子供特有の温かい体温が私の手を柔らかく包む。私は容疑者から外れているし、もう旅館に行ってもいいかもしれない。
「なら一緒に行こうかな…。そのまま旅館に戻ってもいい?」
「うん!目暮警部に言っておくね。」
そう言って新ちゃんは駆けて行く。丁度駐在所は旅館の近くだったので、駐在さんが探している間に新ちゃんが送ってくれることになった。
◇
簡単に戻れると思っていたが、その後寄った公民館でまた新たな死体が見つからしく、自殺のようにして殺されていたのは西本さんだった。黒岩さんの第一発見者で、麻生さんが生きていると怯えていた人でもある。同じく公民館のピアノの部屋で村沢さんも襲われて気絶していたらしく、事情聴取のやり直しのため旅館に迎えに来た蘭ちゃんが申し訳なさそうにしていたのが心に痛い。
仕方なく役場に戻った私は忙しそうな周りから離れてベンチに座る。人の出入りが多いおかげか臭いは落ち着いていた。
「大丈夫そう?」
ぼー、と自分の番が来るのを待っていると新ちゃんが隣に腰掛けてきた。
「うん。まだちょっと頭痛はするけど平気だよ。」
「成美先生に診てもらえば?」
「そこまでじゃないから大丈夫だよ。」
笑って言うと新ちゃんは少し黙ったあと、言いにくそうにくぐもった声を出した。
「あのさ、僕の勘違いならいいんだけど…。成美先生の事苦手?」
はた、と新ちゃんの言葉が不意を突いた。内心首を傾げているとトイレの時も嫌がってたみたいだから、ともごもごと言われた。
「…あぁ!あれね。あれは苦手だからじゃなくて、流石に男性にトイレ着いてきてもらうのはちょっと恥ずかしかっただけ。」
「え?!」
「ん?」
大声を上げた新ちゃんに私も驚いてしまう。何かおかしな事を言っただろうか。
「成美先生って男なの?」
「え?えぇ、そうだと思ってたんだけど…。もしかして、違った…?」
やだ、もしかして勘違いしてた?性別を間違えることなんて今まで無かったのに…。やっぱり調子が悪いのかなぁ、と眉間を揉んでいると新ちゃんが黙ってしまった。この感じは…。何か気づいたのだろうか。
「私なら大丈夫だから行っていいよ。」
きっと真実を見つけたのだろう。この連続殺人にピリオドを打ってもらうため送り出すと、新ちゃんは行ってくると言い走って行った。暫くしてザザッと雑音の混じった毛利さんの声がスピーカーから聞こえてきた。麻酔銃を撃ったのだろう。毛利さんのフリをした新ちゃんが推理を始めた。
村沢さんを襲ったのが平田さんであり、彼は亡くなった3人と違法薬物の取り引きを行っていたのだと言う。なるほど、ならあの微かに香った甘い匂いは薬物の…。初日のことを思い出し身震いする。しかしその平田さんは連続して起こった3つの殺人の犯人ではないらしく、次々に暴かれていくトリックが犯人を追い詰めているのが分かる。この感じ、苦手だ。まるでじわじわと首を絞めているかのようでこちらまで緊張してしまう。冷や汗をかきながら新ちゃんの推理に耳を傾けていると、遂に犯人の名前が呼ばれた。
「浅井成美。あなたしかいないんですよ!」
予想外の名前にはっ、と息を飲んだ。そうか、だから性別を…。しかも本名は麻生成美さんと言い、12年前に亡くなった麻生圭二さんの息子だと言う。明るみになっていく真実に驚愕していると目暮警部の怒鳴り声が聞こえた。
「なに!?逃げられた!!探せぇ!!」
どうやら浅井さんが逃亡したらしく、バタバタと大人数の足音が駆け足に過ぎていく。
どうしたものかと1人困っていると名前を呼ばれ肩を叩かれた。
「かなえさん!肩に掴まってください!」
「蘭ちゃん!ありがとう。」
導かれるまま蘭ちゃんの肩に手を置く。私が行ったところで何も出来ないけれど、見届ける必要があるだろう。そう決意して私たちも公民館へと急いだ。
◇
結局今回の月影島連続殺人事件の犯人である浅井成美、もとい麻生成美さんは父親の形見とも言えるピアノと共に亡くなった。公民館は朝まで燃え続け何も残らなかったそうだ。
「あんまりゆっくり出来ませんでしたね。」
隣に座る蘭ちゃんが苦笑混じりに声をかけてきた。確かに観光は殆ど出来なかったし、大きな事件にも巻き込まれてしまった。久しぶりのリハビリ旅行にしては濃い内容に私も苦笑いしてしまう。
「あ!ねぇ、成美先生が弾いてた暗号って何だったの?」
蘭ちゃんの言葉にそう言えば灼熱と共にピアノの音もあそこにはあったのを思い出した。私も気になって耳を傾けていたが、新ちゃんは忘れたと言う。答える気はないようだった。
つまらなさそうにしていた蘭ちゃんも興味が失せたのか、毛利さんの所に行くと傍を離れる。船は揺れているのに難なく歩いていく足音にやっぱり体感強いなと感心した。
残った新ちゃんと2人で何ともなしに潮風を感じていると、ポツリと小さな声が聞こえた。
「探偵も一緒だよ。」
「ん?」
「成美先生と言ってたろ?言葉を読み取る、って。探偵もそうだなって思ったんだよ。」
船のエンジン音に埋もれそうだった。でも何かを決意したような、固く真っ直ぐな声音は確かに私の耳に届く。
「声にならない声を聞いて真実へ導く。暴くだけが正義じゃないんだ。」
少し暗い雰囲気に今回のことで思うところがあったのだろう思った。こうやって大人になっていくんだろうな…。寂しいような嬉しいような、複雑な気持ちのまま新ちゃんがいる位置に向け微笑む。
「そうだね。私たちは言葉が武器にもなるから、責任を持たなきゃ。」
潮の匂いが鼻奥につん、と刺さる。きっとこの感覚も新ちゃんは忘れることはないのだろう。私ももっと話しておけばよかったな。靡く髪を耳にかけながらやるせない想いを眠らせる。
潮風はもう背中を押していた。
