工藤さん家の娘さんは目が見えない
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公民館に再度辿り着いた私たちはここで一夜を明かすことにした。遺体と一緒に寝るなんて、とか何とか駐在の方には正気を疑われたが、生憎この場にそれを気にする人はいない。
「かなえねーちゃん、臭い大丈夫?」
「うん。海…海藻の匂いの方が強いから大丈夫だよ。」
袖を引く新ちゃんは、私の言葉を聞いて納得したのかその後私の体調について触れることはなかった。こう言う時見えないってちょっと助かる。
壁に背を預け毛利さんの話しが終わるまで待つ。どうも駐在さんが死体を動かすなど、現場検証が終わっていないにも関わらず結構大胆に色々と動かしたみたいだった。毛利さんの苛立ちを感じる中、これが島特有の緩さかと苦笑する。まぁ事件現場で寝る私たちが言えた義理ではないが。
「これ『月光』の譜面よ。」
取り返した譜面を見たであろう蘭ちゃんの声に、ここでもまた月光かとゲンナリする。新ちゃんの補助の元、私もピアノの傍へと寄り蘭ちゃんの演奏に耳を傾けた。相変わらず上手だ。思わず聴き惚れそうになっていると、いきなり音が旋律から外れた。
驚いた私たちに蘭ちゃんが楽譜が何やらおかしいのだと言う。見えないためどこがどう変なのか分からず新ちゃんに教えてもらおうとした時、ふと足音が聞こえた。
「あのー、旅館に電話したらこちらだと聞いたんですけど…。」
「な、成美先生?」
現れたのは島の医師の浅井さんだった。夜食を持って来てくれたらしいとのことで、そこで初めて朝から何も食べてないことを思い出した。そう言えばお腹空いた…。
「わざわざありがとうございます。」
「いえいえ。あ、そのまま腰下ろして大丈夫です。」
「はい。」
お礼を言いつつ床に座り浅井さんが持って来てくれたおにぎりとおかずを食べる。中身は梅と昆布らしく私は梅を頂いた。
食べながらの談笑は、何故私たちがここにいるのかから浅井さんがこの島で医者をやっている理由に変わる。なんでも元からこの島の住人ではなく、東京から通いで診療所をやっているのだそうだ。毎回船でここまでとは大変そうだが、本人は幼い頃から島で医者をやるのが夢だったそうで語る声に疲れは見えない。凄いなと感心する反面、少し羨ましくも思ってしまった。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね。」
「場所分かります?」
「多分大丈夫だと思う。」
「あ、なら私着いて行きましょうか?」
まさかの言葉に思わずフリーズしてしまう。あれ、だよね。道案内ってことだよね?
「えっと…、いえ大丈夫です。」
お気遣いなく、と笑いながらその場を後にする。焦った…。多分善意からなのだろうが、流石に男性にトイレまで着いてきてもらうのは気が引ける。
普段なら鍵を見て開閉の判断できないので一応誰かに着いてきてもらうことが多いが、今日この公民館には誰もいないと言っていたし、まぁ大丈夫だろう。
白杖と壁をつたいながら問題なく辿り着きトイレを済ます。手探りで水道を捻っていると大きな怒鳴り声が聞こえた。
「な、なに…?」
「かなえさん!」
「蘭ちゃん?」
ビクビクしていると駆け足と共に蘭ちゃんの声が聞こえた。何でも犯人らしき人影が現れたらしく、心配して来てくれたらしい。特に何もなかったことを伝えると安心したように息を吐く音がした。
そのまま2人で元の部屋に戻ると若干重い空気が漂っていた。取り逃したことへの歯痒さからか、毛利さんが一際大きな声で張り上げた。
「この公民館で寝ずの番だ!」
◇
と、言っていた毛利さんと駐在さんがいの一番に寝てしまい私と蘭ちゃんと新ちゃん、それと浅井さんの4人で呆れながらも身を寄せ合う。
「ならかなえさんは翻訳家なんですね。」
「まだまだ駆け出しですけどね。」
夜はまだまだ長い。眠気を覚ますためにも会話を続けていた私たちは、お互いのプライベートな話もするようになっていた。
「目が見えない分他の方より手間はかかりますけど、原文に合う言葉を見つけたり探したりするのは勉強にもなります。」
「へー。…何だか医者と似てますね。私たちも患者さんの訴えをしっかり聞いて症状にあったことをするのが仕事ですから。」
「そう言われれば、確かに。」
文字か肉声かの違いはあるが、他者の声やその声の裏に隠れた本心を正確に受け取ると言うのは同じことだ。意外な共通点に気持ちが高揚する。話もしやすい人だし、やっぱりさっきのは善意だったのだろう。
夜が更けるのと同じように話も盛り上がっていく。欠伸は出るもどうにか持ち堪え、朝日と共に現れた目暮警部たち警察の人に事件のあらましを伝える。やっぱり死体の近くで寝ていたことには引かれてしまったが、ご苦労さまと言う目暮警部の言葉に安心した私はゆっくりと睡魔に呑まれるのだった。
まだ少し眠たさが残る中月影島村役場にて昨晩の続きが行われることになった。法事に参加していた村民は38人。それを一人一人名前と住所を一致させるのは大変そうで、窓の外の光がまた眩しくなっていった。多分夕日だろうけど、やっぱり時間かかってるな…。毛利さんは事情聴取に協力しに行っちゃったし暇だな。そう思い欠伸を噛み殺しながら身体を伸ばす。床で寝たせいかバキバキと音がした。
「凄い音。」
「布団の有難みを再確認したよ。」
「私もです。…音と言えば令子さんも凄いですよね。もう10分は怒鳴ってる。」
蘭ちゃんの言葉に同意するよう頷く。キンキンと声を上げているのは村長の娘の黒岩令子さんだ。疑われて気分がよくないのだろうが、よく体力が持つものだ。
新ちゃんもトイレに行ってしまい手持ち無沙汰な私たちは今日は旅館に行きたいね、落ち着いたら島を散策したいね、など取り留めのない話をしていた。
と、突然乾いたノイズ音が走り思わずスピーカーのある上を向いてしまった。
「これ…。」
ポツリと呟いた蘭ちゃんに頷く。『月光』の第二楽章だ。
直後男性の悲鳴が響き渡り、周りは騒然となった。私たちも嫌な予感がしながら恐る恐る皆が集まる場所へと向かう。
浅井先生には先に行ってもらい蘭ちゃんに手を引かれていると、段々と不快な臭いが濃くなっていく。
「…ごめん、蘭ちゃん。臭いが…。」
口を押さえ軽くえずいてしまった私に、蘭ちゃんは慌てたように来た道を戻ってくれる。どうにかフラフラしながらロビーのソファに座り直した。
「多分コナン君も行ってると思うから、蘭ちゃんは先行ってて。」
「でも…。」
「大丈夫。」
何とか笑みを浮かべた私に蘭ちゃんは最後まで心配そうにしながら、それでも新ちゃんの様子を見に行ってくれた。それに安堵の息を吐きながら、身体を横にする。
新鮮な血の匂いではなかったあれ。一体誰が今度は亡くなったのだろうと、滅入った気持ちに重たいため息が出た。
「かなえねーちゃん、臭い大丈夫?」
「うん。海…海藻の匂いの方が強いから大丈夫だよ。」
袖を引く新ちゃんは、私の言葉を聞いて納得したのかその後私の体調について触れることはなかった。こう言う時見えないってちょっと助かる。
壁に背を預け毛利さんの話しが終わるまで待つ。どうも駐在さんが死体を動かすなど、現場検証が終わっていないにも関わらず結構大胆に色々と動かしたみたいだった。毛利さんの苛立ちを感じる中、これが島特有の緩さかと苦笑する。まぁ事件現場で寝る私たちが言えた義理ではないが。
「これ『月光』の譜面よ。」
取り返した譜面を見たであろう蘭ちゃんの声に、ここでもまた月光かとゲンナリする。新ちゃんの補助の元、私もピアノの傍へと寄り蘭ちゃんの演奏に耳を傾けた。相変わらず上手だ。思わず聴き惚れそうになっていると、いきなり音が旋律から外れた。
驚いた私たちに蘭ちゃんが楽譜が何やらおかしいのだと言う。見えないためどこがどう変なのか分からず新ちゃんに教えてもらおうとした時、ふと足音が聞こえた。
「あのー、旅館に電話したらこちらだと聞いたんですけど…。」
「な、成美先生?」
現れたのは島の医師の浅井さんだった。夜食を持って来てくれたらしいとのことで、そこで初めて朝から何も食べてないことを思い出した。そう言えばお腹空いた…。
「わざわざありがとうございます。」
「いえいえ。あ、そのまま腰下ろして大丈夫です。」
「はい。」
お礼を言いつつ床に座り浅井さんが持って来てくれたおにぎりとおかずを食べる。中身は梅と昆布らしく私は梅を頂いた。
食べながらの談笑は、何故私たちがここにいるのかから浅井さんがこの島で医者をやっている理由に変わる。なんでも元からこの島の住人ではなく、東京から通いで診療所をやっているのだそうだ。毎回船でここまでとは大変そうだが、本人は幼い頃から島で医者をやるのが夢だったそうで語る声に疲れは見えない。凄いなと感心する反面、少し羨ましくも思ってしまった。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね。」
「場所分かります?」
「多分大丈夫だと思う。」
「あ、なら私着いて行きましょうか?」
まさかの言葉に思わずフリーズしてしまう。あれ、だよね。道案内ってことだよね?
「えっと…、いえ大丈夫です。」
お気遣いなく、と笑いながらその場を後にする。焦った…。多分善意からなのだろうが、流石に男性にトイレまで着いてきてもらうのは気が引ける。
普段なら鍵を見て開閉の判断できないので一応誰かに着いてきてもらうことが多いが、今日この公民館には誰もいないと言っていたし、まぁ大丈夫だろう。
白杖と壁をつたいながら問題なく辿り着きトイレを済ます。手探りで水道を捻っていると大きな怒鳴り声が聞こえた。
「な、なに…?」
「かなえさん!」
「蘭ちゃん?」
ビクビクしていると駆け足と共に蘭ちゃんの声が聞こえた。何でも犯人らしき人影が現れたらしく、心配して来てくれたらしい。特に何もなかったことを伝えると安心したように息を吐く音がした。
そのまま2人で元の部屋に戻ると若干重い空気が漂っていた。取り逃したことへの歯痒さからか、毛利さんが一際大きな声で張り上げた。
「この公民館で寝ずの番だ!」
◇
と、言っていた毛利さんと駐在さんがいの一番に寝てしまい私と蘭ちゃんと新ちゃん、それと浅井さんの4人で呆れながらも身を寄せ合う。
「ならかなえさんは翻訳家なんですね。」
「まだまだ駆け出しですけどね。」
夜はまだまだ長い。眠気を覚ますためにも会話を続けていた私たちは、お互いのプライベートな話もするようになっていた。
「目が見えない分他の方より手間はかかりますけど、原文に合う言葉を見つけたり探したりするのは勉強にもなります。」
「へー。…何だか医者と似てますね。私たちも患者さんの訴えをしっかり聞いて症状にあったことをするのが仕事ですから。」
「そう言われれば、確かに。」
文字か肉声かの違いはあるが、他者の声やその声の裏に隠れた本心を正確に受け取ると言うのは同じことだ。意外な共通点に気持ちが高揚する。話もしやすい人だし、やっぱりさっきのは善意だったのだろう。
夜が更けるのと同じように話も盛り上がっていく。欠伸は出るもどうにか持ち堪え、朝日と共に現れた目暮警部たち警察の人に事件のあらましを伝える。やっぱり死体の近くで寝ていたことには引かれてしまったが、ご苦労さまと言う目暮警部の言葉に安心した私はゆっくりと睡魔に呑まれるのだった。
まだ少し眠たさが残る中月影島村役場にて昨晩の続きが行われることになった。法事に参加していた村民は38人。それを一人一人名前と住所を一致させるのは大変そうで、窓の外の光がまた眩しくなっていった。多分夕日だろうけど、やっぱり時間かかってるな…。毛利さんは事情聴取に協力しに行っちゃったし暇だな。そう思い欠伸を噛み殺しながら身体を伸ばす。床で寝たせいかバキバキと音がした。
「凄い音。」
「布団の有難みを再確認したよ。」
「私もです。…音と言えば令子さんも凄いですよね。もう10分は怒鳴ってる。」
蘭ちゃんの言葉に同意するよう頷く。キンキンと声を上げているのは村長の娘の黒岩令子さんだ。疑われて気分がよくないのだろうが、よく体力が持つものだ。
新ちゃんもトイレに行ってしまい手持ち無沙汰な私たちは今日は旅館に行きたいね、落ち着いたら島を散策したいね、など取り留めのない話をしていた。
と、突然乾いたノイズ音が走り思わずスピーカーのある上を向いてしまった。
「これ…。」
ポツリと呟いた蘭ちゃんに頷く。『月光』の第二楽章だ。
直後男性の悲鳴が響き渡り、周りは騒然となった。私たちも嫌な予感がしながら恐る恐る皆が集まる場所へと向かう。
浅井先生には先に行ってもらい蘭ちゃんに手を引かれていると、段々と不快な臭いが濃くなっていく。
「…ごめん、蘭ちゃん。臭いが…。」
口を押さえ軽くえずいてしまった私に、蘭ちゃんは慌てたように来た道を戻ってくれる。どうにかフラフラしながらロビーのソファに座り直した。
「多分コナン君も行ってると思うから、蘭ちゃんは先行ってて。」
「でも…。」
「大丈夫。」
何とか笑みを浮かべた私に蘭ちゃんは最後まで心配そうにしながら、それでも新ちゃんの様子を見に行ってくれた。それに安堵の息を吐きながら、身体を横にする。
新鮮な血の匂いではなかったあれ。一体誰が今度は亡くなったのだろうと、滅入った気持ちに重たいため息が出た。
