工藤さん家の娘さんは目が見えない
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両親の一時帰国から数ヶ月経った。その後は特に危険なこともなく何も変わらない日常を送っている。
雪もすっかり溶け活動しやすい気温になってきた。そんな日は外で仕事がしたくなり、いつものカフェにムクと訪れた。コーヒーのいい匂いが立ち込める店内に居心地の良さを感じながらマスターと少し会話して、ガトーショコラとアイスコーヒー、それとドッグメニューを注文する。
待つ間にノートパソコンの電源を入れ早速仕事に取り掛かった。
私以外に人がいる気配はないのだがなるべく音量を小さく設定し直し、打った文字をイヤフォンで確認しながら広げた本の点字をなぞる。やっぱりここはもう少し言葉を変えた方がいいかな…。前後の文的には今のままでも問題ないが、全体の内容から考えるともう少しキツい言葉の和訳でも大丈夫だろう。そう思って横に置いた電子辞書を開く。博士が作ってくれたこの辞書は売り物にする予定らしく、私はテストを兼ねて使わせてもらっているが、数多の国の言語が入っているだけでなく音声読取も抜群で大変使いやすい。
麻酔銃と言いこの辞書と言いやっぱり博士は凄い人なんだと再確認する。まぁ失敗する割合の方が高いけど、と先日も大きな音を立てていた博士の家を思い出し人知れず苦笑した。失敗は成功の母とも言うし博士も楽しそうだからあまり言うまい。
カタカタとキーボードで文章を打ち込み、片手でストローを掴む。口を付け吸おうとするとズズズと大きな音がした。あれ、もう無いや。なら次は何を飲もうか。メニュー表を見ることは出来ないが内容は覚えているので次を注文するため手を挙げようとした。
「っ、あぁ〜…。」
しまった。またやった。
バサバサと大きな音を立てて落ちていく本にため息が出る。いつものように邪魔にならない位置に重ねて置いていたが、今回はその重ね方が悪かったらしく少し飛び出ていた本の角に手が当たってしまったようだった。
全く嫌になると内心愚痴りながら驚いたムクの頭を撫で本を拾うために席から通路へと動く。落ちた本は全部で3冊。そのうち1冊は薄い雑誌だ。あの軽さだから通路を滑って遠くに行ったかも、と少し億劫になりながら手探りで床を触ると幸い2冊は直ぐに見つかった。ページが折れていたり傷がついていたりは触った感じしない。それに安心したもやはり雑誌はなく、どうも私が想像した通りの事が起こったようで思わず唸る。いくら人が少ないからってこのまま通路にいては邪魔だ。…しかたない。申し訳ないがマスターに頼むしかなさそうだ。
「おい。」
奥に引っ込んでいるマスターを呼ぼうと声を出そうとした瞬間、低い男の人の声が降ってきた。いきなりのことに驚いて肩が跳ねる。全く足音が聞こえなかった…。目が見えない分他の器官が優れている私だが、気配も足音さえも全く気づくことが出来なかった。そんなに集中しているつもりはなかったけれど邪魔しているのは事実なわけで退けようと謝罪を口にしながら慌てて机の角を掴む。しかし慌て過ぎたせいか手は滑り体勢が一気に崩れていった。
「わっ!」
転ぶ、と身構えた私の腕を強い力が引く。間一髪。私の身体は尻もちをつくことなく、斜めに傾いた状態で止まった。びっくりした。バクバクとなる心臓を落ち着かせようと深呼吸すると、また引く力が強くなりその力に逆らえず私はたたらを踏みながら立ち上がった。
「っあ、りがとうございます…。」
「…。」
無言のまま腕を離される。少し痛みを感じて掴まれていた腕を摩った。何か、怖いな…。威圧感と言うか圧迫感と言うか、そんなものを感じる。けど怒っている雰囲気ではなさそうだ。とりあえず再度お礼と謝罪をしようとして、ふと嗅ぎ覚えのある匂いにあ、と声が漏れた。
「あの、前にも本を拾ってくださいましたよね。」
「…見えてんのか。」
「いえ。ただあの時と同じタバコの匂いだったので…。」
まぁタバコ、だけじゃなく微かな硝煙と血の匂いの混じったこの人特有の匂いだけど。それでも普段なら決して嗅ぐことの無い独特の匂いだから、前の助けてくれた人とこの人が同一人物だと確定するには十分だった。
けど匂いで判断ってちょっと変態臭かったかな。しかも何だか危険人物のようだし…。もしかして私色々とはやまった?
両親から言われたばかりだと言うのに早速のやらかしにどんどんと体温が下がっていく。どう切り抜けようかと内心頭を抱えていると喉をならすような笑い声が頭上から降ってきた。
「犬みてぇな奴だな。」
小馬鹿にしたよう言い方に少しカチンときたも特に危ない空気は流れなかった。難を逃れた、でいいのかな。そのまま何事も無かったかのようにその人は隣を通り過ぎて行く。先程の足音のなさが嘘のように革靴のコツコツとした小気味良い音が遠ざかっていくのを耳が拾いながらぼんやりと考える。
前も思ったけど声の位置からして随分と背の高い人だ。外国の方かな。それにしては日本語が上手いなと手に持った本を机に置きながら1人感心する。と、そこで手に何か薄い冊子の様なものが当たった。何か置いたっけ、と思いながら触って確認するとそれはさっき探していた雑誌だった。あの時私と彼以外に周りに人はいなかったから、大方あの人が拾って置いてくれたのだろう。
独特の匂いを纏う彼だが案外悪い人ではないのかもしれない。怖いもの見たさと言うか、新ちゃんの好奇心が移ったのだろうか。どうしても気になってしまうその人に今度会ったらお礼も兼ねて少し話してみたいな、と思いながら雑誌の表紙をなぞった。
雪もすっかり溶け活動しやすい気温になってきた。そんな日は外で仕事がしたくなり、いつものカフェにムクと訪れた。コーヒーのいい匂いが立ち込める店内に居心地の良さを感じながらマスターと少し会話して、ガトーショコラとアイスコーヒー、それとドッグメニューを注文する。
待つ間にノートパソコンの電源を入れ早速仕事に取り掛かった。
私以外に人がいる気配はないのだがなるべく音量を小さく設定し直し、打った文字をイヤフォンで確認しながら広げた本の点字をなぞる。やっぱりここはもう少し言葉を変えた方がいいかな…。前後の文的には今のままでも問題ないが、全体の内容から考えるともう少しキツい言葉の和訳でも大丈夫だろう。そう思って横に置いた電子辞書を開く。博士が作ってくれたこの辞書は売り物にする予定らしく、私はテストを兼ねて使わせてもらっているが、数多の国の言語が入っているだけでなく音声読取も抜群で大変使いやすい。
麻酔銃と言いこの辞書と言いやっぱり博士は凄い人なんだと再確認する。まぁ失敗する割合の方が高いけど、と先日も大きな音を立てていた博士の家を思い出し人知れず苦笑した。失敗は成功の母とも言うし博士も楽しそうだからあまり言うまい。
カタカタとキーボードで文章を打ち込み、片手でストローを掴む。口を付け吸おうとするとズズズと大きな音がした。あれ、もう無いや。なら次は何を飲もうか。メニュー表を見ることは出来ないが内容は覚えているので次を注文するため手を挙げようとした。
「っ、あぁ〜…。」
しまった。またやった。
バサバサと大きな音を立てて落ちていく本にため息が出る。いつものように邪魔にならない位置に重ねて置いていたが、今回はその重ね方が悪かったらしく少し飛び出ていた本の角に手が当たってしまったようだった。
全く嫌になると内心愚痴りながら驚いたムクの頭を撫で本を拾うために席から通路へと動く。落ちた本は全部で3冊。そのうち1冊は薄い雑誌だ。あの軽さだから通路を滑って遠くに行ったかも、と少し億劫になりながら手探りで床を触ると幸い2冊は直ぐに見つかった。ページが折れていたり傷がついていたりは触った感じしない。それに安心したもやはり雑誌はなく、どうも私が想像した通りの事が起こったようで思わず唸る。いくら人が少ないからってこのまま通路にいては邪魔だ。…しかたない。申し訳ないがマスターに頼むしかなさそうだ。
「おい。」
奥に引っ込んでいるマスターを呼ぼうと声を出そうとした瞬間、低い男の人の声が降ってきた。いきなりのことに驚いて肩が跳ねる。全く足音が聞こえなかった…。目が見えない分他の器官が優れている私だが、気配も足音さえも全く気づくことが出来なかった。そんなに集中しているつもりはなかったけれど邪魔しているのは事実なわけで退けようと謝罪を口にしながら慌てて机の角を掴む。しかし慌て過ぎたせいか手は滑り体勢が一気に崩れていった。
「わっ!」
転ぶ、と身構えた私の腕を強い力が引く。間一髪。私の身体は尻もちをつくことなく、斜めに傾いた状態で止まった。びっくりした。バクバクとなる心臓を落ち着かせようと深呼吸すると、また引く力が強くなりその力に逆らえず私はたたらを踏みながら立ち上がった。
「っあ、りがとうございます…。」
「…。」
無言のまま腕を離される。少し痛みを感じて掴まれていた腕を摩った。何か、怖いな…。威圧感と言うか圧迫感と言うか、そんなものを感じる。けど怒っている雰囲気ではなさそうだ。とりあえず再度お礼と謝罪をしようとして、ふと嗅ぎ覚えのある匂いにあ、と声が漏れた。
「あの、前にも本を拾ってくださいましたよね。」
「…見えてんのか。」
「いえ。ただあの時と同じタバコの匂いだったので…。」
まぁタバコ、だけじゃなく微かな硝煙と血の匂いの混じったこの人特有の匂いだけど。それでも普段なら決して嗅ぐことの無い独特の匂いだから、前の助けてくれた人とこの人が同一人物だと確定するには十分だった。
けど匂いで判断ってちょっと変態臭かったかな。しかも何だか危険人物のようだし…。もしかして私色々とはやまった?
両親から言われたばかりだと言うのに早速のやらかしにどんどんと体温が下がっていく。どう切り抜けようかと内心頭を抱えていると喉をならすような笑い声が頭上から降ってきた。
「犬みてぇな奴だな。」
小馬鹿にしたよう言い方に少しカチンときたも特に危ない空気は流れなかった。難を逃れた、でいいのかな。そのまま何事も無かったかのようにその人は隣を通り過ぎて行く。先程の足音のなさが嘘のように革靴のコツコツとした小気味良い音が遠ざかっていくのを耳が拾いながらぼんやりと考える。
前も思ったけど声の位置からして随分と背の高い人だ。外国の方かな。それにしては日本語が上手いなと手に持った本を机に置きながら1人感心する。と、そこで手に何か薄い冊子の様なものが当たった。何か置いたっけ、と思いながら触って確認するとそれはさっき探していた雑誌だった。あの時私と彼以外に周りに人はいなかったから、大方あの人が拾って置いてくれたのだろう。
独特の匂いを纏う彼だが案外悪い人ではないのかもしれない。怖いもの見たさと言うか、新ちゃんの好奇心が移ったのだろうか。どうしても気になってしまうその人に今度会ったらお礼も兼ねて少し話してみたいな、と思いながら雑誌の表紙をなぞった。
