工藤さん家の娘さんは目が見えない
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私の卒業と同時に両親が海外へと移住し月日が経った。最初は心細さを感じていたも、新ちゃん達の入学やら本格的に始まった仕事やらでそんな気持ちもいつしか落ち着いていき問題なく生活出来ている。
今日も日用品を買いにムクと共にメモを持ちスーパーへと行ったのだが、色々と物色しているうちにカゴの中に入れてしまい結局買いすぎてしまった。腕にかけた袋が大変重い。新ちゃんに電話しようかな。いや…、でもなぁ。あの子今日は蘭ちゃんとデートだったはず。前のニューヨークで進展してないみたいだし、やっぱり頑張ろう。そう決意してムクのリードと白杖を握り直す。まぁあんまりキツかったらどこかで休憩でもしよう。ここからならポアロが近かったな、と頭に地図を広げる。
「おぉい!嬢ちゃん!」
ムクに指示を出し方向転換しようとした瞬間、前方の、多分100m程先から大きな声が聞こえた。この声と呼び方は確か…。
「伊達さん!速いですって!」
あ、そうそう伊達さんだ。度々父と協力して犯人を逮捕している刑事さんで、父経由で会ってから以降私と新ちゃんをよく気にかけてくれる優しい人だ。久しく会っていなかったがまさかこんな所で会えるとは。止まった私たちにバラバラと駆け足が近づきそのまま正面で止まった。2人いるから仕事中かな。
「久しぶりだな!元気だったか?」
「はい。伊達さんもお変わりないようで良かったです。」
厚みのある声が上から降ってくる。そこから大凡の位置を把握し伊達さんの顔があるであろう方を向いて微笑んだ。
「伊達さん、この方は…。」
「お、そうか。高木は会ったことなかったな。このお嬢さんは工藤かなえちゃん。俺たちがよーく、お世話になる工藤優作さんのご息女だ。で、こっちは高木渉。俺の後輩だ。」
「初めまして。」
「は、初めまして!」
伊達さんの紹介を聞き終え軽く頭を下げる。高木さんのこの慣れてない感じは…新米刑事さんかな?
思った通りその後伊達さんは自分が教育係であることや今は徹夜明けの仕事帰りであることを話してくれた。高木さんと逮捕したのが嬉しかったのだろう、自慢げに話す声音に微笑ましくなる。なら長く話していても悪かろうとそろそろ切り上げるため声をかけようとした時、ふと、ムクの空気が変わった。そわっとした雰囲気はトイレじゃない、何か人間には聞こえない音を拾っている時だ。
「あの、」
何となく嫌な予感がして伊達さんの腕を引こうとしたその瞬間、とてつもなく大きな衝突音が響き渡った。
「かなえちゃん事故だ。あまり距離は離れてねぇがこっちに被害が来ることはねぇ。大丈夫だ。」
「は、い…。」
驚いて固まる私を安心させるように伊達さんが事情を説明してくれる。それにどうにか返事するも喉が乾いて仕方なかった。
「伊達さん!」
「わーってるよ!嬢ちゃん、悪いがちょっとここで待っててくれ。破片が飛んでるかもしれないから動くなよ!」
そう言って駆け出して行く2人に今度こそ上手く返事が出来なかった。
大丈夫、大丈夫…。私じゃない。痛くない。
騒がしくなる周りと漂い始めた煙の匂いが嫌な記憶を思い起こさせる。寒さのせいだけじゃない震えを抑えるように掌の硬い感覚を確かめた。リードは離していない。ムクも足元にいる。それだけが今この場で意識を継いでおける存在だった。
◇
あの後連絡を受けた他の警察官がその場を引き続き、私たちは事情聴取のため警視庁へと向かった。と言っても私は見えていないので詳しい話は伊達さんと高木さんが行い、怪我もなかったため落ち着いたら帰宅しても良いとの事だった。
「本当に大丈夫?」
「はい、ありがとうございました。」
軽い聞き取りや検査の付き添いなど担当してくれた宮本さんと別れてムクと待合室のソファに腰掛ける。ぼーっとしながらひとつ息を吐きムクを1度撫でた。
安全な場所なのに脈はずっと早い。もう随分とボヤけた母の顔が脳裏に浮かび上がっている。身体が、痛い。
「ヨダレ垂れてんぞ。」
「っ!松田さん!?」
突如聞こえた声に思いっきり肩が跳ねる。びっくりした…。足音にも気づかないほどぼんやりしていたらしく、松田さんが声をかけてくれるまで全く気づかなかった。私の反応に驚いたムクを宥めるとタバコの匂いが右側に移動した。
「姉弟そろってよくもまぁ警視庁に来るもんだ。あれだな。弟と一緒でお前も呼ぶ方かもな。」
「どう言う意味ですか。」
「あ、でも弟の方は姉ちゃんみたいにヨダレ垂らしてなかったな。」
「姉ちゃんも垂らしてません!」
確かにぼーっとはしていたがヨダレが垂れるほどではない。絶対に。ただちょっと心配になって口元を触った私に隣から大きな笑い声が聞こえた。からかわれている…。なんて人だと思い拳を握り軽く松田さんの方に当てる。いてっ、と大して痛くなさそうな声に少しだけ溜飲が下がった。
「あー笑った笑った。」
「笑い過ぎです。」
「悪かったよ。お詫びに、ほら。」
そう言って掌に乗せられたのは温かく円柱の硬いもの。缶だった。
「そのココアやるよ。」
「え、」
突然のことに顔を上げる。しかし当然ながら松田さんがどんな顔をしているかは分からなかった。
「お前にはヨダレ垂らした脳天気な顔の方がお似合いだぜ。」
そう言って松田さんは私の頭をひと撫でして去っていった。
残された掌のココアを握る。そこから熱が身体に広がっていくのが分かった。痛みももうないし心臓が変に速いこともない。彼なりに気遣ってくれたのだろう。照れるような嬉しいような、少し擽ったくなって自分の頭を先程をなぞる様に撫でた。
今日も日用品を買いにムクと共にメモを持ちスーパーへと行ったのだが、色々と物色しているうちにカゴの中に入れてしまい結局買いすぎてしまった。腕にかけた袋が大変重い。新ちゃんに電話しようかな。いや…、でもなぁ。あの子今日は蘭ちゃんとデートだったはず。前のニューヨークで進展してないみたいだし、やっぱり頑張ろう。そう決意してムクのリードと白杖を握り直す。まぁあんまりキツかったらどこかで休憩でもしよう。ここからならポアロが近かったな、と頭に地図を広げる。
「おぉい!嬢ちゃん!」
ムクに指示を出し方向転換しようとした瞬間、前方の、多分100m程先から大きな声が聞こえた。この声と呼び方は確か…。
「伊達さん!速いですって!」
あ、そうそう伊達さんだ。度々父と協力して犯人を逮捕している刑事さんで、父経由で会ってから以降私と新ちゃんをよく気にかけてくれる優しい人だ。久しく会っていなかったがまさかこんな所で会えるとは。止まった私たちにバラバラと駆け足が近づきそのまま正面で止まった。2人いるから仕事中かな。
「久しぶりだな!元気だったか?」
「はい。伊達さんもお変わりないようで良かったです。」
厚みのある声が上から降ってくる。そこから大凡の位置を把握し伊達さんの顔があるであろう方を向いて微笑んだ。
「伊達さん、この方は…。」
「お、そうか。高木は会ったことなかったな。このお嬢さんは工藤かなえちゃん。俺たちがよーく、お世話になる工藤優作さんのご息女だ。で、こっちは高木渉。俺の後輩だ。」
「初めまして。」
「は、初めまして!」
伊達さんの紹介を聞き終え軽く頭を下げる。高木さんのこの慣れてない感じは…新米刑事さんかな?
思った通りその後伊達さんは自分が教育係であることや今は徹夜明けの仕事帰りであることを話してくれた。高木さんと逮捕したのが嬉しかったのだろう、自慢げに話す声音に微笑ましくなる。なら長く話していても悪かろうとそろそろ切り上げるため声をかけようとした時、ふと、ムクの空気が変わった。そわっとした雰囲気はトイレじゃない、何か人間には聞こえない音を拾っている時だ。
「あの、」
何となく嫌な予感がして伊達さんの腕を引こうとしたその瞬間、とてつもなく大きな衝突音が響き渡った。
「かなえちゃん事故だ。あまり距離は離れてねぇがこっちに被害が来ることはねぇ。大丈夫だ。」
「は、い…。」
驚いて固まる私を安心させるように伊達さんが事情を説明してくれる。それにどうにか返事するも喉が乾いて仕方なかった。
「伊達さん!」
「わーってるよ!嬢ちゃん、悪いがちょっとここで待っててくれ。破片が飛んでるかもしれないから動くなよ!」
そう言って駆け出して行く2人に今度こそ上手く返事が出来なかった。
大丈夫、大丈夫…。私じゃない。痛くない。
騒がしくなる周りと漂い始めた煙の匂いが嫌な記憶を思い起こさせる。寒さのせいだけじゃない震えを抑えるように掌の硬い感覚を確かめた。リードは離していない。ムクも足元にいる。それだけが今この場で意識を継いでおける存在だった。
◇
あの後連絡を受けた他の警察官がその場を引き続き、私たちは事情聴取のため警視庁へと向かった。と言っても私は見えていないので詳しい話は伊達さんと高木さんが行い、怪我もなかったため落ち着いたら帰宅しても良いとの事だった。
「本当に大丈夫?」
「はい、ありがとうございました。」
軽い聞き取りや検査の付き添いなど担当してくれた宮本さんと別れてムクと待合室のソファに腰掛ける。ぼーっとしながらひとつ息を吐きムクを1度撫でた。
安全な場所なのに脈はずっと早い。もう随分とボヤけた母の顔が脳裏に浮かび上がっている。身体が、痛い。
「ヨダレ垂れてんぞ。」
「っ!松田さん!?」
突如聞こえた声に思いっきり肩が跳ねる。びっくりした…。足音にも気づかないほどぼんやりしていたらしく、松田さんが声をかけてくれるまで全く気づかなかった。私の反応に驚いたムクを宥めるとタバコの匂いが右側に移動した。
「姉弟そろってよくもまぁ警視庁に来るもんだ。あれだな。弟と一緒でお前も呼ぶ方かもな。」
「どう言う意味ですか。」
「あ、でも弟の方は姉ちゃんみたいにヨダレ垂らしてなかったな。」
「姉ちゃんも垂らしてません!」
確かにぼーっとはしていたがヨダレが垂れるほどではない。絶対に。ただちょっと心配になって口元を触った私に隣から大きな笑い声が聞こえた。からかわれている…。なんて人だと思い拳を握り軽く松田さんの方に当てる。いてっ、と大して痛くなさそうな声に少しだけ溜飲が下がった。
「あー笑った笑った。」
「笑い過ぎです。」
「悪かったよ。お詫びに、ほら。」
そう言って掌に乗せられたのは温かく円柱の硬いもの。缶だった。
「そのココアやるよ。」
「え、」
突然のことに顔を上げる。しかし当然ながら松田さんがどんな顔をしているかは分からなかった。
「お前にはヨダレ垂らした脳天気な顔の方がお似合いだぜ。」
そう言って松田さんは私の頭をひと撫でして去っていった。
残された掌のココアを握る。そこから熱が身体に広がっていくのが分かった。痛みももうないし心臓が変に速いこともない。彼なりに気遣ってくれたのだろう。照れるような嬉しいような、少し擽ったくなって自分の頭を先程をなぞる様に撫でた。
