工藤さん家の娘さんは目が見えない
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無事に最高学年へと上がった日からはや数ヶ月。
盲目故に学校行事にはあまり参加出来ていないものの、優しい先生とクラスメイトや工夫した学習方法のおかげで充実した3年間を過ごせている。
「あ、ねぇ。かなえの弟が犯人捕まえたって本当?」
「あー…。」
前の席の友人が声をかけてきた。数学の先生に予定が出来たため今は自習中なのだがそうそうに飽きたらしい。椅子を引く音と風が流れたことで本格的にこちらに向き直ったことが分かり、私も持っていたペンを置く。
「後輩の1人がたまたま事件現場に遭遇してさ。かなえのパパと弟くんが推理ショーしてるの見たんだって。」
「なるほどね。まぁ新ちゃんはただお父さんに着いてっただけだよ。そこでちょっと口挟んだみたい。」
彼女の説明を聞きながら内心は溜息をこぼす。最近、父は新ちゃんをよく現場に連れて行く。あの子がせがんでいると言うこともあるが、どうもそれだけではないのは父の嬉しそうな声音で分かる。全く変な英才教育しないで欲しい。
「本当、危ないから止めて欲しいよ。」
「そんなに心配ならあの人に止めてもらえば?ほら、あのかなえのこと大好きな。」
「そんな人いません。」
どことなく上擦った声になってきたので強制的に話を終わらせる。前にご飯行った話をまだ擦る気なのかこの子は。
「お堅いなぁ〜。ウチらのJKブランド最後なんだよ?恋人の2人や10人いてもいいじゃん。」
「なんで複数人からスタートなの…。」
呆れる私に友人はケラケラ笑う。何かにつけて物事を恋愛に絡めようとするのは成長した今でも変わらない彼女の悪癖だ。
どこの学校の誰がかっこいいやらテレビのあの俳優がいいやら語り出した彼女に苦笑する。面食い加減は園子ちゃんといい勝負かもしれない。色めき立つ彼女に相槌を打っていると適当なのがバレたのか、もういいよと言われ話題が変わった。
「来年入学だよね、かなえの弟。あー会ってみたかったなぁー。イケメンなんでしょ?」
「あれ、会ったことなかったっけ?」
「ないよ。…あ、なら今日あんたん家遊び行っていい?ムクにも会いたいし!」
名案だと言わんばかりの弾む声に首を振る。ムクも彼女にはよく懐いていたから会って欲しい気持ちはあるが、今日は生憎予定がある。
「今日はチダイのアクアパッツァを作るのでダメです。」
「なにその言い訳!」
私も食べたい!と大騒ぎする彼女を宥め私たちは課題を再開し始めた。
◇
「え、海外に?」
晩ご飯が終わり各々好きに過ごしていると両親が話があると言った。内心首を傾げ新ちゃんと2人の前に行く。椅子に腰を下ろし聞く体勢を取ると、普段より幾分か畏まった声で告げられた内容は思いもよらないものだった。
「そうなんだ。父さんの仕事の都合でな。」
「本当はかなえちゃんが成人するまで、って思ってたんだけど予定が早まったの。」
お父さんとお母さんがロサンゼルスに…。口ぶりから随分前から決まっていたことなのだろうが、驚きは隠せない。ポカンとしているとそのまま父は着いてくるか残るかと問いかけてきた。
「俺は日本に残るぜ。」
「だろうな。」
新ちゃんの言葉に父が分かっていたかのように言った。まぁ蘭ちゃんもいるし新ちゃんはそうだろうな。それより問題は私だ。出来ることは増えたがそれでも他者の手はまだまだいる私は、両親からの手助けが1番多い。だから本来なら2人に着いて行った方がいいのだが…。
「かなえちゃんは一緒に行く?」
「私は…。…私も日本に残りたい。これから翻訳家としての仕事もあるし、1人でどこまでやれるかやってみたいの。」
「…そう…。」
母の静かな返答に居心地が悪くなる。我が家の両親は放任主義を掲げでいるが、それは私にはあまり適用されない。ハンデがあるからなのは分かるが少しだけ寂しく思うのも事実だ。
「有希子、そんな顔するな。」
「でも…。」
「かなえだってもう大人なんだ。自分である程度出来るさ。」
な?と同意を求める父に軽く頷く。
「お父さんとお母さんの子供だもん。信じてよ。」
母が私を心から心配してくれているのは分かっている。けれど私の気持ちも理解して欲しくて、緩く笑いながら母の方を向いた。
「…そうね!かなえちゃんはいつも頑張ってるもの。ごめんね、お母さんちょっと寂しくて。」
「ううん。心配してくれてるんでしょ?嬉しいよ、ありがとう。」
「新一もあまりはしゃぎ過ぎないように。何かあればお姉ちゃんを守るんだぞ。」
「わーってるよ。」
その後は特にこの話が続くことなく話題は移り変っていった。ただその夜、何だか肌寒さを覚えた私は母を部屋に招いた。幼い頃から今までの思い出話を、2人では狭くなったベッドで横たわりながら話す。時折頭を撫でる母の手の温かさに何だか無性に泣きたくなった。
「ねぇお母さん。」
「ん?」
優しくて穏やかな声音。事故のフラッシュバックで泣いた夜はこの声が火のようだった。
「寂しくなったら電話してもいい?」
「寂しくなくても、毎日でも電話して。かなえちゃんの声を聞かないとお母さんもお父さんもやる気が出ないもの。」
「何それ。」
クスクスと声を潜めて笑うとシーツが擦れる音がしてぎゅっと抱きしめられた。後頭部を優しく撫でられ私も母の背に手を回す。心臓の音が思考を溶かして身体が温かくなっていった。
「大丈夫、大丈夫。かなえちゃんの努力は必ず報われる。かなえちゃんは何だって出来る。だから幸せになる事を決して諦めないで。」
大丈夫、大丈夫と繰り返す母のその優しい声に、今度こそ涙が一筋流れた。
盲目故に学校行事にはあまり参加出来ていないものの、優しい先生とクラスメイトや工夫した学習方法のおかげで充実した3年間を過ごせている。
「あ、ねぇ。かなえの弟が犯人捕まえたって本当?」
「あー…。」
前の席の友人が声をかけてきた。数学の先生に予定が出来たため今は自習中なのだがそうそうに飽きたらしい。椅子を引く音と風が流れたことで本格的にこちらに向き直ったことが分かり、私も持っていたペンを置く。
「後輩の1人がたまたま事件現場に遭遇してさ。かなえのパパと弟くんが推理ショーしてるの見たんだって。」
「なるほどね。まぁ新ちゃんはただお父さんに着いてっただけだよ。そこでちょっと口挟んだみたい。」
彼女の説明を聞きながら内心は溜息をこぼす。最近、父は新ちゃんをよく現場に連れて行く。あの子がせがんでいると言うこともあるが、どうもそれだけではないのは父の嬉しそうな声音で分かる。全く変な英才教育しないで欲しい。
「本当、危ないから止めて欲しいよ。」
「そんなに心配ならあの人に止めてもらえば?ほら、あのかなえのこと大好きな。」
「そんな人いません。」
どことなく上擦った声になってきたので強制的に話を終わらせる。前にご飯行った話をまだ擦る気なのかこの子は。
「お堅いなぁ〜。ウチらのJKブランド最後なんだよ?恋人の2人や10人いてもいいじゃん。」
「なんで複数人からスタートなの…。」
呆れる私に友人はケラケラ笑う。何かにつけて物事を恋愛に絡めようとするのは成長した今でも変わらない彼女の悪癖だ。
どこの学校の誰がかっこいいやらテレビのあの俳優がいいやら語り出した彼女に苦笑する。面食い加減は園子ちゃんといい勝負かもしれない。色めき立つ彼女に相槌を打っていると適当なのがバレたのか、もういいよと言われ話題が変わった。
「来年入学だよね、かなえの弟。あー会ってみたかったなぁー。イケメンなんでしょ?」
「あれ、会ったことなかったっけ?」
「ないよ。…あ、なら今日あんたん家遊び行っていい?ムクにも会いたいし!」
名案だと言わんばかりの弾む声に首を振る。ムクも彼女にはよく懐いていたから会って欲しい気持ちはあるが、今日は生憎予定がある。
「今日はチダイのアクアパッツァを作るのでダメです。」
「なにその言い訳!」
私も食べたい!と大騒ぎする彼女を宥め私たちは課題を再開し始めた。
◇
「え、海外に?」
晩ご飯が終わり各々好きに過ごしていると両親が話があると言った。内心首を傾げ新ちゃんと2人の前に行く。椅子に腰を下ろし聞く体勢を取ると、普段より幾分か畏まった声で告げられた内容は思いもよらないものだった。
「そうなんだ。父さんの仕事の都合でな。」
「本当はかなえちゃんが成人するまで、って思ってたんだけど予定が早まったの。」
お父さんとお母さんがロサンゼルスに…。口ぶりから随分前から決まっていたことなのだろうが、驚きは隠せない。ポカンとしているとそのまま父は着いてくるか残るかと問いかけてきた。
「俺は日本に残るぜ。」
「だろうな。」
新ちゃんの言葉に父が分かっていたかのように言った。まぁ蘭ちゃんもいるし新ちゃんはそうだろうな。それより問題は私だ。出来ることは増えたがそれでも他者の手はまだまだいる私は、両親からの手助けが1番多い。だから本来なら2人に着いて行った方がいいのだが…。
「かなえちゃんは一緒に行く?」
「私は…。…私も日本に残りたい。これから翻訳家としての仕事もあるし、1人でどこまでやれるかやってみたいの。」
「…そう…。」
母の静かな返答に居心地が悪くなる。我が家の両親は放任主義を掲げでいるが、それは私にはあまり適用されない。ハンデがあるからなのは分かるが少しだけ寂しく思うのも事実だ。
「有希子、そんな顔するな。」
「でも…。」
「かなえだってもう大人なんだ。自分である程度出来るさ。」
な?と同意を求める父に軽く頷く。
「お父さんとお母さんの子供だもん。信じてよ。」
母が私を心から心配してくれているのは分かっている。けれど私の気持ちも理解して欲しくて、緩く笑いながら母の方を向いた。
「…そうね!かなえちゃんはいつも頑張ってるもの。ごめんね、お母さんちょっと寂しくて。」
「ううん。心配してくれてるんでしょ?嬉しいよ、ありがとう。」
「新一もあまりはしゃぎ過ぎないように。何かあればお姉ちゃんを守るんだぞ。」
「わーってるよ。」
その後は特にこの話が続くことなく話題は移り変っていった。ただその夜、何だか肌寒さを覚えた私は母を部屋に招いた。幼い頃から今までの思い出話を、2人では狭くなったベッドで横たわりながら話す。時折頭を撫でる母の手の温かさに何だか無性に泣きたくなった。
「ねぇお母さん。」
「ん?」
優しくて穏やかな声音。事故のフラッシュバックで泣いた夜はこの声が火のようだった。
「寂しくなったら電話してもいい?」
「寂しくなくても、毎日でも電話して。かなえちゃんの声を聞かないとお母さんもお父さんもやる気が出ないもの。」
「何それ。」
クスクスと声を潜めて笑うとシーツが擦れる音がしてぎゅっと抱きしめられた。後頭部を優しく撫でられ私も母の背に手を回す。心臓の音が思考を溶かして身体が温かくなっていった。
「大丈夫、大丈夫。かなえちゃんの努力は必ず報われる。かなえちゃんは何だって出来る。だから幸せになる事を決して諦めないで。」
大丈夫、大丈夫と繰り返す母のその優しい声に、今度こそ涙が一筋流れた。
