工藤さん家の娘さんは目が見えない
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父が来るまで一緒にいてくれるらしい萩原さんにお礼を言いつつ、2人で他愛もない話をする。新ちゃんは今回の事件で犯人が捕まらなかったため詳しく事件内容を聞きに行ってしまった。全く…。呆れ半分で肩を落としていると、ふと真新しい靴音が聞こえた。
「ハギ。」
男の人だ。ハギ、と言うのは萩原さんのことだろうか。ここに居るということは同じ警察の人なんだろうけど、同期と言うよりは友人のような気さくさだった。
「おー、陣平ちゃん!丁度よかった。この子が前言ってた工藤かなえちゃん。」
「はじめまして。」
相手がいるであろう方向に頭を少し下げた。先程聞いた話通りなら彼がもうひとつの爆弾を解体した松田陣平と言う人なのだろう。ならこの人が萩原さんから良く聞く幼馴染みか。確かにそれならあだ名も理解出来る。
「あんたがあの工藤優作の子供か…。ハギの話じゃ随分とろくて危なっかしい奴だって聞いたが…、なんだ案外しっかりしてんじゃねーか。」
「萩原さん…。」
思わず萩原さんがいるであろう方向に顔を上げた。普通の人から見たら危なっかしいのは認めるがとろいって…。一体松田さんになんて私の事を説明したのだろうか。ジトっと眉を寄せると萩原さんは慌てたように喋り始めた。
「いやとろいは言ってなくない?!でもかなえちゃん自覚ないだけで本当に危機感薄いんだって!知らない俺に抱っこされてるのに抵抗しないし声出さないし。」
「うっ、いや、あの時はいきなりだったからで、普段はちゃんとしてますって。」
あの時は驚きすぎただけなのだと何度も説明しているのに、萩原さんどころか松田さんまで微妙な返事をした。解せない。
「けど命の恩人なのは変わりねぇしな。感謝する。」
「私はただ見つけただけですし、解体したのは弟と萩原さんですから。」
「そーそー。陣平ちゃんは俺と工藤姉弟に感謝しろよ?回らない寿司でいいぜ。」
「なんでだよ。てかおめーは仕事だろがよ。」
確かに。松田さんの言葉に頷くと萩原さんがえー、と声を上げた。それに難色を示し軽口をたたき合い始めた2人は、やはり嬉しいのだろう。互いの言葉の中には安堵の色が強く含まれていた。物腰が柔らかい萩原さんと少しヤンチャな物言いの松田さんは、真逆だけど本当に良いコンビなのだなと声を潜めて笑った。
◇
あれから数日。あの後本当にご飯に連れて行かれ申し訳なくも松田さんに奢ってもらった。最初は警戒していた新ちゃんも最後の方は楽しそうにしていたし、松田さんも萩原さんも新ちゃんが質問する度に嬉しそうに答えていた。
ただ、あまり専門知識が増えるのは危険に首を突っ込む理由を増やす様なものなので、ちょっと、いやかなり複雑だが…。
と、そこまで考えていると足元からムクのあくびが聞こえた。
「ごめん、もうちょっとで終わるからね。」
コソッと謝り頭を撫でるとムクがマズルを押し当てて来た。可愛い。申し訳ない気持ち半分、健気さに癒された気持ち半分で笑いながら広げた本の点字をなぞる。
休日の今日、私たちはいつものカフェに来ていた。
先日海外のファンタジー小説を父から渡され、これで翻訳の練習をしてみてはどうかと勧められたのだが、これがなかなか難解だった。
父の本のようなミステリやサスペンスは読みやすい。現実に元ずいているので見えなくとも何となく当たりをつけることが出来きる。
しかしファンタジーなどのその物語に独自の設定があると私は直ぐに置いて行かれる。”風が冷たい”とか”硬い寝床"なら分かるが、登場人物が初めて見るものは私には当然見えないので想像出来ないのだ。
どうしたものかと本に栞を挟む。こんな時お兄さんなら何とアドバイスしてくれるだろうか。はぁ、とひとつため息をつきカフェオレを飲み干す。そしてそのまま空になったカップを置こうとした瞬間左手が固いものに当たった。あ、と思ったのもつかの間、バサバサゴトンと音を立てて本が床に落ちた。あーあやっちゃった。驚いて起き上がったムクに安心させるよう声をかけ落ちた本を拾おうと通路に出る。
「おい。」
ビクッと肩が跳ねた。低い男の人の声。いつの間にいたのだろうか。気配には敏感なはずなのに全く分からなかった。いきなりの事に見えないにも関わらず声の主がいるであろう方に顔を上げポカンとしていると、痺れを切らしたのか多少強引に引かれた手に何かが乗る。本だ。
「え、あ、ありがとうございます。すみません、お手数をお掛けして。」
「通行の邪魔だから拾っただけだ。これからは気をつけるこったな。」
頭を下げた私をそのままに、踵を返す音がし男の人が前を進んで行く気配がする。と、ふと揺れる空気に漂って煙と錆臭い匂いがした。
はっと息を飲む。
しかしもう気配は掴めずその人はいなくなっていた。
「ムク?」
足元のムクの雰囲気がおかしい。少し唸り声が聞こえてきた。怒っている…、いや、怯えてる?
「…帰ろっか。」
安心させるように頭から背中を優しく撫でるとムクの身体の強ばりが徐々に治まっていく。それにホッと胸を撫で下ろしたあと自身の腕を摩った。
新ちゃんならつゆ知らず、血と硝煙の匂いなんて薮蛇はゴメンだ。本当に米花町は物騒なところだと身震いしながら荷物を片付けムクと共に早足でその場を後にした。
「ハギ。」
男の人だ。ハギ、と言うのは萩原さんのことだろうか。ここに居るということは同じ警察の人なんだろうけど、同期と言うよりは友人のような気さくさだった。
「おー、陣平ちゃん!丁度よかった。この子が前言ってた工藤かなえちゃん。」
「はじめまして。」
相手がいるであろう方向に頭を少し下げた。先程聞いた話通りなら彼がもうひとつの爆弾を解体した松田陣平と言う人なのだろう。ならこの人が萩原さんから良く聞く幼馴染みか。確かにそれならあだ名も理解出来る。
「あんたがあの工藤優作の子供か…。ハギの話じゃ随分とろくて危なっかしい奴だって聞いたが…、なんだ案外しっかりしてんじゃねーか。」
「萩原さん…。」
思わず萩原さんがいるであろう方向に顔を上げた。普通の人から見たら危なっかしいのは認めるがとろいって…。一体松田さんになんて私の事を説明したのだろうか。ジトっと眉を寄せると萩原さんは慌てたように喋り始めた。
「いやとろいは言ってなくない?!でもかなえちゃん自覚ないだけで本当に危機感薄いんだって!知らない俺に抱っこされてるのに抵抗しないし声出さないし。」
「うっ、いや、あの時はいきなりだったからで、普段はちゃんとしてますって。」
あの時は驚きすぎただけなのだと何度も説明しているのに、萩原さんどころか松田さんまで微妙な返事をした。解せない。
「けど命の恩人なのは変わりねぇしな。感謝する。」
「私はただ見つけただけですし、解体したのは弟と萩原さんですから。」
「そーそー。陣平ちゃんは俺と工藤姉弟に感謝しろよ?回らない寿司でいいぜ。」
「なんでだよ。てかおめーは仕事だろがよ。」
確かに。松田さんの言葉に頷くと萩原さんがえー、と声を上げた。それに難色を示し軽口をたたき合い始めた2人は、やはり嬉しいのだろう。互いの言葉の中には安堵の色が強く含まれていた。物腰が柔らかい萩原さんと少しヤンチャな物言いの松田さんは、真逆だけど本当に良いコンビなのだなと声を潜めて笑った。
◇
あれから数日。あの後本当にご飯に連れて行かれ申し訳なくも松田さんに奢ってもらった。最初は警戒していた新ちゃんも最後の方は楽しそうにしていたし、松田さんも萩原さんも新ちゃんが質問する度に嬉しそうに答えていた。
ただ、あまり専門知識が増えるのは危険に首を突っ込む理由を増やす様なものなので、ちょっと、いやかなり複雑だが…。
と、そこまで考えていると足元からムクのあくびが聞こえた。
「ごめん、もうちょっとで終わるからね。」
コソッと謝り頭を撫でるとムクがマズルを押し当てて来た。可愛い。申し訳ない気持ち半分、健気さに癒された気持ち半分で笑いながら広げた本の点字をなぞる。
休日の今日、私たちはいつものカフェに来ていた。
先日海外のファンタジー小説を父から渡され、これで翻訳の練習をしてみてはどうかと勧められたのだが、これがなかなか難解だった。
父の本のようなミステリやサスペンスは読みやすい。現実に元ずいているので見えなくとも何となく当たりをつけることが出来きる。
しかしファンタジーなどのその物語に独自の設定があると私は直ぐに置いて行かれる。”風が冷たい”とか”硬い寝床"なら分かるが、登場人物が初めて見るものは私には当然見えないので想像出来ないのだ。
どうしたものかと本に栞を挟む。こんな時お兄さんなら何とアドバイスしてくれるだろうか。はぁ、とひとつため息をつきカフェオレを飲み干す。そしてそのまま空になったカップを置こうとした瞬間左手が固いものに当たった。あ、と思ったのもつかの間、バサバサゴトンと音を立てて本が床に落ちた。あーあやっちゃった。驚いて起き上がったムクに安心させるよう声をかけ落ちた本を拾おうと通路に出る。
「おい。」
ビクッと肩が跳ねた。低い男の人の声。いつの間にいたのだろうか。気配には敏感なはずなのに全く分からなかった。いきなりの事に見えないにも関わらず声の主がいるであろう方に顔を上げポカンとしていると、痺れを切らしたのか多少強引に引かれた手に何かが乗る。本だ。
「え、あ、ありがとうございます。すみません、お手数をお掛けして。」
「通行の邪魔だから拾っただけだ。これからは気をつけるこったな。」
頭を下げた私をそのままに、踵を返す音がし男の人が前を進んで行く気配がする。と、ふと揺れる空気に漂って煙と錆臭い匂いがした。
はっと息を飲む。
しかしもう気配は掴めずその人はいなくなっていた。
「ムク?」
足元のムクの雰囲気がおかしい。少し唸り声が聞こえてきた。怒っている…、いや、怯えてる?
「…帰ろっか。」
安心させるように頭から背中を優しく撫でるとムクの身体の強ばりが徐々に治まっていく。それにホッと胸を撫で下ろしたあと自身の腕を摩った。
新ちゃんならつゆ知らず、血と硝煙の匂いなんて薮蛇はゴメンだ。本当に米花町は物騒なところだと身震いしながら荷物を片付けムクと共に早足でその場を後にした。
