軍刀女士の大戦記
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お菓子に洋服、御守りに資材。食事処に小洒落たカフェから春を買う宿まで。本丸の運営に必要な物から日々の暮らしのお供まで何でも揃う万屋通り。
そこの雑貨屋に派遣されてからはや数年が経ちました。特殊な環境や業務にも慣れ、毎日新鮮な想いを感じられるこの仕事に非常にやり甲斐を感じております。
しかしながら時の政府の管轄下と言うのは、想像以上に制約が厳しく息が詰まるものです。ですので店に訪れる方々の人間観察や噂話は売り子にとっては良い暇つぶしになりました。特に見目の麗しい刀剣男士様方は目の保養にもなりますし、売り子の話題の的でした。
硝子細工の風鈴がぶつかり合う高い音がお客様が御来店されたことを告げます。棚に品物を並べていた私とレジに立っている同僚の挨拶が重なりました。
「全く。何故この私がこんな小娘と万屋に来ねばならんのだ。」
「仕方ありませんよ。他の方々は皆ご予定がありましたし。」
軽く言い合いをしながら現れたのは、揺蕩う白髪をそのままに体躯の恵まれた男性と、凛々しさを感じさせるお顔と一片の隙もない佇まいの女性。刀剣男士と小狐丸様と刀剣女士の夕凪様でございました。
「今日はぬしさまにこの毛並みに合う櫛を選んでいただくはずだったのに…。」
「そこまで酷い熱でもないのでしょう?ぱぱっと終わらせて帰れば話くらいは出来ますよ。」
「ならもっと早く歩け。それとも、その短い足では難しいか?」
何ともまぁ酷い言い草です。私共から言わせれば御二方どちらの御御足も長く見えますが、やはり付喪神の中でも優劣と言うのはあるのでしょうか。そんな事を考えていると夕凪様は特別気にした様子もなく謝罪を口にし、小狐丸様は鼻を鳴らしてまた悪態をつかれました。
傍から見たら心配になる光景ですが、しかしながら私は頬が緩むのを抑えられません。良くない事と思いつつ目線を少し上げ御二人の姿を盗み見ます。
真っ直ぐ通路を歩く夕凪様の後ろでは先程まで伸ばしていた背を丸め酷く落ち込んだ様子の小狐丸様。
そうです。何を隠そうこの小狐丸様、夕凪様に恋慕を抱いておられるのです。
始めこそその悪態から嫌っているのかと思いましたが、決して夕凪様の傍を離れず、どんな小さな物でも夕凪様には持たせず、悪態をついた後のあの落ち込み様と夕凪を盗み見ている時の甘い眼差しは、もう素直になれない典型的な男子そのものでした。
それが分かった時などもう、売上もそっちのけで皆で盛り上がったものです。見目の麗しい方々がまるで少女漫画のように可愛いらしくももどかしいやり取りをする。私達売り子の興味関心を引くには充分でした。
そして今日もご来店された御二方を棚の影から観察、見守ります。夕凪様は女性の姿をしていますが、背は平均より高めです。ですが体躯も背丈も小狐丸様の方が大きくお二人が並ぶと頭ひとつ分程の差があります。故に夕凪様は気づかないのでしょうが、夕凪様を見下ろす小狐丸様は何とも緩んだお顔をしておられました。口元を引き結び眉を寄せる顔は一見不機嫌にも見えますが、いやはや…。緩む頬は抑えられていませんね。いじらしいものです。
「そも今日お前は非番だっただろう。何故買い出しになっている。」
「今剣殿が何やらご予定があるそうなので。」
「はっ、それで変わったのか。相変わらず酔狂な奴だ。そんな事を続けて大事な時に無様を晒すなよ。」
「心配して下さるんですか?ありがとうございます。」
「心配何ぞしとらん!!」
大声を上げて否定する小狐丸様の何というベタな態度。あまりにも可愛らしいやり取りに頬がゆるゆると緩んでしまいます。レジの方の同僚も顔を俯かせ震えています。昼時ということもあり食事処へ人が流れていったのは幸いでした。こんな締まりのない顔、売り子として失格です。頬の内側を噛み何とか表情を固め直し、耳だけをそばだたせまた業務を開始しました。
「毎回毎回馬鹿にされていると言うのに気づかないなど…。余程のうつけか?そんなのでよく生きてこれたものだ。もう少し他人の言葉を理解する頭を持ったらどうだ。」
「小狐丸殿、あそこの棚の上の物を取ってください。」
「聞け!」
そう言いつつも素早く棚の一番上にあった商品を取る小狐丸様。ブツブツ文句を言いつつも頼られて嬉しいのでしょうね、お礼を言われて満更でもない顔をしています。
その後もあんな所の物も取れないのかや、足だけでなく背も腕も短いなど、結構なことを言い続けておりますがやはり夕凪様は何処吹く風です。それが面白くないのでしょうが、時折反論されると小狐丸様の見えない尻尾が揺れるのを感じます。
「これは…。」
テキパキと必要な物を手に取ろうとして小狐丸様に奪われつつも迷いなく足を進めていた夕凪様は、ふと、とある場所で歩みを止められました。
店の中央に位置する台の上には、おすすめの文字が書かれた広告カードが目を引く当店一押しの品物。今が旬の梅を氷菓子と共に炭酸水に漬け込んだ梅ジュースは、今の時期にピッタリの代物でございます。
「買うてやろうか。」
あんなに遅いと急かしたのにも関わらず置いていくことなく、それどころか小さな声でも聞こえる距離を保っていたのでしょう。同じように立ち止まった小狐丸様のその言葉に私と同僚は勢いよく顔を向けてしまいました。そして胸に歓喜の色が湧き上がります。
あの小狐丸様がついに!
いつもは菓子を多めに買ったやら処分しとけなど理由をつけてでないと夕凪様に何も渡せなった小狐丸様が、初めて、夕凪様のために買ってあげると言われました!
目線は合っておらず、声はいつもより小さく、組んだ腕の片袖が皺だらけになるほど握りしめられており格好は付きませんが、とてつもない勇気を出したのはひしひしと伝わってきます。まるで我が子の発表会を見に来た気分です。泣きそうになりながら、さて夕凪様はどう反応するかと伺っていると、夕凪様は小首を傾げた後私共が見守る中で暖かな笑顔を浮かべ言いました。
「いえ結構です。贅沢は敵ですから。」
私と同僚の挨拶に混じって硝子細工の風鈴の音が鳴ります。それを背に当店を去って行く普段の様子と変わらない夕凪様と、とぼとぼと落胆しきった小狐丸様の背中を見送りながら、そう言えば巷では夕凪様は『難攻不落』と呼ばれていることを思い出しました。
万屋ボイス『贅沢は敵、ですよ。』
そこの雑貨屋に派遣されてからはや数年が経ちました。特殊な環境や業務にも慣れ、毎日新鮮な想いを感じられるこの仕事に非常にやり甲斐を感じております。
しかしながら時の政府の管轄下と言うのは、想像以上に制約が厳しく息が詰まるものです。ですので店に訪れる方々の人間観察や噂話は売り子にとっては良い暇つぶしになりました。特に見目の麗しい刀剣男士様方は目の保養にもなりますし、売り子の話題の的でした。
硝子細工の風鈴がぶつかり合う高い音がお客様が御来店されたことを告げます。棚に品物を並べていた私とレジに立っている同僚の挨拶が重なりました。
「全く。何故この私がこんな小娘と万屋に来ねばならんのだ。」
「仕方ありませんよ。他の方々は皆ご予定がありましたし。」
軽く言い合いをしながら現れたのは、揺蕩う白髪をそのままに体躯の恵まれた男性と、凛々しさを感じさせるお顔と一片の隙もない佇まいの女性。刀剣男士と小狐丸様と刀剣女士の夕凪様でございました。
「今日はぬしさまにこの毛並みに合う櫛を選んでいただくはずだったのに…。」
「そこまで酷い熱でもないのでしょう?ぱぱっと終わらせて帰れば話くらいは出来ますよ。」
「ならもっと早く歩け。それとも、その短い足では難しいか?」
何ともまぁ酷い言い草です。私共から言わせれば御二方どちらの御御足も長く見えますが、やはり付喪神の中でも優劣と言うのはあるのでしょうか。そんな事を考えていると夕凪様は特別気にした様子もなく謝罪を口にし、小狐丸様は鼻を鳴らしてまた悪態をつかれました。
傍から見たら心配になる光景ですが、しかしながら私は頬が緩むのを抑えられません。良くない事と思いつつ目線を少し上げ御二人の姿を盗み見ます。
真っ直ぐ通路を歩く夕凪様の後ろでは先程まで伸ばしていた背を丸め酷く落ち込んだ様子の小狐丸様。
そうです。何を隠そうこの小狐丸様、夕凪様に恋慕を抱いておられるのです。
始めこそその悪態から嫌っているのかと思いましたが、決して夕凪様の傍を離れず、どんな小さな物でも夕凪様には持たせず、悪態をついた後のあの落ち込み様と夕凪を盗み見ている時の甘い眼差しは、もう素直になれない典型的な男子そのものでした。
それが分かった時などもう、売上もそっちのけで皆で盛り上がったものです。見目の麗しい方々がまるで少女漫画のように可愛いらしくももどかしいやり取りをする。私達売り子の興味関心を引くには充分でした。
そして今日もご来店された御二方を棚の影から観察、見守ります。夕凪様は女性の姿をしていますが、背は平均より高めです。ですが体躯も背丈も小狐丸様の方が大きくお二人が並ぶと頭ひとつ分程の差があります。故に夕凪様は気づかないのでしょうが、夕凪様を見下ろす小狐丸様は何とも緩んだお顔をしておられました。口元を引き結び眉を寄せる顔は一見不機嫌にも見えますが、いやはや…。緩む頬は抑えられていませんね。いじらしいものです。
「そも今日お前は非番だっただろう。何故買い出しになっている。」
「今剣殿が何やらご予定があるそうなので。」
「はっ、それで変わったのか。相変わらず酔狂な奴だ。そんな事を続けて大事な時に無様を晒すなよ。」
「心配して下さるんですか?ありがとうございます。」
「心配何ぞしとらん!!」
大声を上げて否定する小狐丸様の何というベタな態度。あまりにも可愛らしいやり取りに頬がゆるゆると緩んでしまいます。レジの方の同僚も顔を俯かせ震えています。昼時ということもあり食事処へ人が流れていったのは幸いでした。こんな締まりのない顔、売り子として失格です。頬の内側を噛み何とか表情を固め直し、耳だけをそばだたせまた業務を開始しました。
「毎回毎回馬鹿にされていると言うのに気づかないなど…。余程のうつけか?そんなのでよく生きてこれたものだ。もう少し他人の言葉を理解する頭を持ったらどうだ。」
「小狐丸殿、あそこの棚の上の物を取ってください。」
「聞け!」
そう言いつつも素早く棚の一番上にあった商品を取る小狐丸様。ブツブツ文句を言いつつも頼られて嬉しいのでしょうね、お礼を言われて満更でもない顔をしています。
その後もあんな所の物も取れないのかや、足だけでなく背も腕も短いなど、結構なことを言い続けておりますがやはり夕凪様は何処吹く風です。それが面白くないのでしょうが、時折反論されると小狐丸様の見えない尻尾が揺れるのを感じます。
「これは…。」
テキパキと必要な物を手に取ろうとして小狐丸様に奪われつつも迷いなく足を進めていた夕凪様は、ふと、とある場所で歩みを止められました。
店の中央に位置する台の上には、おすすめの文字が書かれた広告カードが目を引く当店一押しの品物。今が旬の梅を氷菓子と共に炭酸水に漬け込んだ梅ジュースは、今の時期にピッタリの代物でございます。
「買うてやろうか。」
あんなに遅いと急かしたのにも関わらず置いていくことなく、それどころか小さな声でも聞こえる距離を保っていたのでしょう。同じように立ち止まった小狐丸様のその言葉に私と同僚は勢いよく顔を向けてしまいました。そして胸に歓喜の色が湧き上がります。
あの小狐丸様がついに!
いつもは菓子を多めに買ったやら処分しとけなど理由をつけてでないと夕凪様に何も渡せなった小狐丸様が、初めて、夕凪様のために買ってあげると言われました!
目線は合っておらず、声はいつもより小さく、組んだ腕の片袖が皺だらけになるほど握りしめられており格好は付きませんが、とてつもない勇気を出したのはひしひしと伝わってきます。まるで我が子の発表会を見に来た気分です。泣きそうになりながら、さて夕凪様はどう反応するかと伺っていると、夕凪様は小首を傾げた後私共が見守る中で暖かな笑顔を浮かべ言いました。
「いえ結構です。贅沢は敵ですから。」
私と同僚の挨拶に混じって硝子細工の風鈴の音が鳴ります。それを背に当店を去って行く普段の様子と変わらない夕凪様と、とぼとぼと落胆しきった小狐丸様の背中を見送りながら、そう言えば巷では夕凪様は『難攻不落』と呼ばれていることを思い出しました。
万屋ボイス『贅沢は敵、ですよ。』
7/7ページ
