軍刀女士の大戦記
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昭和20年8月15日。永きに渡る大戦が終わりを告げた。
ラジオから流れる陛下のお言葉に男が嗚咽を漏らす。
片脚が飛ばされても目を潰されても決して涙を見せなかった人が、悔しそうに、歯を食いしばって泣いた。
その姿を後ろから見つめながら嗚呼、と熱い息が零れる。
『…に対し其の共同宣言を受諾する旨を…』
戦争で折れることも、御国のために命を散らすこともなく、お世辞にも綺麗とは言い難いこの病室で、私達は死んだのだ。
『…堪え難きを堪え、忍び難きを忍び…』
それがどうしても悔しくて、悲しくて、泣き喚きたかったけれど今の私にそんな芸当出来るはずもなく、
『…なんじ臣民其れ克く朕が意を体ぜよ。』
ただただ、折れてしまいたかった。
◇
私は元々人間だった。
女子高生だった私は、少し心配性でも優しい両親、巫山戯ながらも寄り添い合った友人、親身に話を聞いてくれた先生に囲まれながら普通に生活していた。
だがそんな平凡な日常は、ある日突然テープが切れたようにプツリと終わった。
ドラマや映画のように死んだ記憶はない。本当に、気がついたら何故か昭和にタイムスリップし、私は刀になっていた。
初めこそ何が何だか分からず何度も逃げ出そうとしたりこの刀の製作者であろう男に幾度も問いかけ助けを乞うたりした。けれど全て無駄だった。
真っ暗な闇の中。まるでテレビを観ているみたいに頭上に広がる外の景色。動けもしないし声も出ない状態で意識のみが存在する中、涙すら乾き果てて数ヶ月。それでも私は諦めきれなかった。何故なら私が来たこの時代は昭和初期。
これから世界は、日本は大戦へと向かう。
段々と風向きが戦争へ向かっていく中、焦りだけが募っていく。私は平和な世を生きた人間だ。ここに来て何ヶ月経とうとも、あのかけがえのない日々を忘れられるわけがない。私はその記憶に縋り付きながら恐怖に必死に耐えた。
しかし時代は待ってはくれない。
教科書通りに真珠湾攻撃が始まり、遂に火蓋は切って落とされた。
私は刀として多くの人間を斬った。
斬って斬って斬って斬って斬って。
いつしか幸せな記憶は遠く薄れ、"人間を斬る"から"敵を斬る"に意識が変わっていくのにさほど時間はかからなかった。それと同時に暗闇は徐々に晴れていき、私は頭上の世界へと出てこれた。そして身体が形成され始めたのだ。
地を踏む足、拳を握る手、空気を震わす声、どれも人間には認識されないものだったが私は確かに存在していった。
本体である刀からはあまり離れられないので常に製作者の男と一緒にいたが、そのおかげで気づけたこともあった。
私を造った男はとても優秀な軍人だった。
的確な指揮、勇ましく戦う姿、情に厚く仲間想い。誰も彼もが男を尊敬し、信頼した。
ただ私は見ていた。残してきた家族の写真を毎朝大切に撫でる指を。仲間や部下が死ぬ度己を責め、血だらけになる拳を。死への恐怖で泣きそうになりながら、それでも私を振るう覚悟の背中を。
それが悲しくも誇らしく、いつの間にかこの男に使われることこそが私の存在意義だと思い始めていた。
しかしそんな男も激化する戦いの中で命を散らした。
最期まで誉れ高き日本男児だった。
次の所有者は男の部下だった。
男が1番信頼し、一等強い覚悟を持った瞳をしていた。
遺言通り私を受け取った部下の男は私に敬礼を向けた。勿論私の姿は見えてないので刀身へだが、何人も揺るがすことの出来ないその姿に、見えないと知りながら私も同じ様に返していた。
それが答えだった。
そこから何人かの軍人に受け渡され海にも行ったが、どれも皆大日本帝国に恥じぬ男達であった。
最後の男こそ生き長らえてしまったことに涙したがそれでも素晴らしい主人だった。
だからこそ彼が息絶える時共に果てるつもりだった。
資源の少なかった時代だ。大切にはされてきたがやはり満足な手入れは受けてない。自身の中にある何かが枯渇していたのを常々感じていた私は静かに目を閉じた。
このまま消滅するのだろうか。
まるで泥に沈むように落ちる感覚に身を委ねながら、それもいいかもしれないと思っていた。
「夕凪様、どうかお力をお貸しください。」
しかしそれは叶わず、私はあの日から百年以上も後の未来で目を覚ましたのだった。
◇
「現在、世界はかつてない危機に瀕しています。歴史修正主義者を名乗る者達が歴史改変を目論み"時間遡行軍"なるものを結成しました。過去への攻撃を阻止するため、政府は刀剣に宿る付喪神"刀剣男士"とそれを目覚めさせ力を引き出す"審神者"なる者達を戦力とし対抗しております。」
暗く埃っぽい蔵の中で、時の政府と名乗ったその者たちは私を起こした事をまず謝罪し、眠っていた数百年を画像や資料を元に詳細に説明した。中でも近年世界中で猛威を奮っている歴史修正主義には大分手を焼いているらしく、日本国を主軸として各国と連携しながら戦っているらしい。
「しかし"検非違使"と呼ばれる第三勢力も現れはじめ戦いは苛烈するばかり。どうか一刻も早い終戦のために力をお借り出来ないでしょうか。」
そう言って頭を下げるスーツの男に続き、後ろにいる十数名の男女も一斉に頭を下げる。
地位が上の者が頭を下げる姿は何とも居心地悪い。頭皮が薄く見える頭を見下ろしながら、私はどうしたものかと内心ため息を着く。
「状況は把握しました。しかし話を聞く限り現在顕現されているのは男士のみ。私は女士です。しかも私は刀を重視していた時代ではなく、銃や戦車が主流の時代に造られました。価値観も何もかもが違う私が連携の取れた戦いをできるとは思えません。ご期待には添えないかと。」
それに、と私は己を振り返る。確かに長く使われてきたものには命が宿るというが、私の場合は少し特殊だ。元人間の魂が末席とは言え神になるとは思えない。
軍刀としては日本国のために何かしらで力を貸したいのが本音だが、勝つためにはなるべくリスクは排除すべきだ。私と言うイレギュラーは特に。
けれど男は慌てたように顔を上げると声を張上げた。
「とんでもございません!夕凪様のそれは利点にございます。世界大戦なるものを経験したことがあるのは夕凪様以外におりませんし、審神者の中には刀剣男士様方との価値観に悩む者も少なくなく…。現代に近い思考は逆に有難いのです。それに女性の審神者も"男ばかりで息が詰まる"と。」
「ああ、それは確かに…。」
「もし憐れに思うのならば、何卒お力添えを!」
本日何度目かの土下座に静かに目を閉じた。脳裏に映るのは掠れてボロボロになった記憶達。それが先程観た映像と重なる。蹂躙される我が国。行き場のない怒りと悲しみ。
…嗚呼、まだ終わっていない。
「分かりました。我が国の未来のため助力いたしましょう。」
「ありがとうございます!」
歓喜に湧く人間達をゆっくりと見回す。
戦争中にしては脳天気なその姿に思わず失笑した。
「ただし、」
え、と誰かの気の抜けた声が聞こえる。
「私が忠誠を誓うのは日本国のみ。もし審神者や政府に膿を見つけた場合は、日本国に仇なす害悪として処理します。」
全ては我が国の栄光と、あの日の無念のため。
青ざめる人間達を見つめながら、あの日流した血と涙が私の身体に纏わりついていくのが分かった。
ラジオから流れる陛下のお言葉に男が嗚咽を漏らす。
片脚が飛ばされても目を潰されても決して涙を見せなかった人が、悔しそうに、歯を食いしばって泣いた。
その姿を後ろから見つめながら嗚呼、と熱い息が零れる。
『…に対し其の共同宣言を受諾する旨を…』
戦争で折れることも、御国のために命を散らすこともなく、お世辞にも綺麗とは言い難いこの病室で、私達は死んだのだ。
『…堪え難きを堪え、忍び難きを忍び…』
それがどうしても悔しくて、悲しくて、泣き喚きたかったけれど今の私にそんな芸当出来るはずもなく、
『…なんじ臣民其れ克く朕が意を体ぜよ。』
ただただ、折れてしまいたかった。
◇
私は元々人間だった。
女子高生だった私は、少し心配性でも優しい両親、巫山戯ながらも寄り添い合った友人、親身に話を聞いてくれた先生に囲まれながら普通に生活していた。
だがそんな平凡な日常は、ある日突然テープが切れたようにプツリと終わった。
ドラマや映画のように死んだ記憶はない。本当に、気がついたら何故か昭和にタイムスリップし、私は刀になっていた。
初めこそ何が何だか分からず何度も逃げ出そうとしたりこの刀の製作者であろう男に幾度も問いかけ助けを乞うたりした。けれど全て無駄だった。
真っ暗な闇の中。まるでテレビを観ているみたいに頭上に広がる外の景色。動けもしないし声も出ない状態で意識のみが存在する中、涙すら乾き果てて数ヶ月。それでも私は諦めきれなかった。何故なら私が来たこの時代は昭和初期。
これから世界は、日本は大戦へと向かう。
段々と風向きが戦争へ向かっていく中、焦りだけが募っていく。私は平和な世を生きた人間だ。ここに来て何ヶ月経とうとも、あのかけがえのない日々を忘れられるわけがない。私はその記憶に縋り付きながら恐怖に必死に耐えた。
しかし時代は待ってはくれない。
教科書通りに真珠湾攻撃が始まり、遂に火蓋は切って落とされた。
私は刀として多くの人間を斬った。
斬って斬って斬って斬って斬って。
いつしか幸せな記憶は遠く薄れ、"人間を斬る"から"敵を斬る"に意識が変わっていくのにさほど時間はかからなかった。それと同時に暗闇は徐々に晴れていき、私は頭上の世界へと出てこれた。そして身体が形成され始めたのだ。
地を踏む足、拳を握る手、空気を震わす声、どれも人間には認識されないものだったが私は確かに存在していった。
本体である刀からはあまり離れられないので常に製作者の男と一緒にいたが、そのおかげで気づけたこともあった。
私を造った男はとても優秀な軍人だった。
的確な指揮、勇ましく戦う姿、情に厚く仲間想い。誰も彼もが男を尊敬し、信頼した。
ただ私は見ていた。残してきた家族の写真を毎朝大切に撫でる指を。仲間や部下が死ぬ度己を責め、血だらけになる拳を。死への恐怖で泣きそうになりながら、それでも私を振るう覚悟の背中を。
それが悲しくも誇らしく、いつの間にかこの男に使われることこそが私の存在意義だと思い始めていた。
しかしそんな男も激化する戦いの中で命を散らした。
最期まで誉れ高き日本男児だった。
次の所有者は男の部下だった。
男が1番信頼し、一等強い覚悟を持った瞳をしていた。
遺言通り私を受け取った部下の男は私に敬礼を向けた。勿論私の姿は見えてないので刀身へだが、何人も揺るがすことの出来ないその姿に、見えないと知りながら私も同じ様に返していた。
それが答えだった。
そこから何人かの軍人に受け渡され海にも行ったが、どれも皆大日本帝国に恥じぬ男達であった。
最後の男こそ生き長らえてしまったことに涙したがそれでも素晴らしい主人だった。
だからこそ彼が息絶える時共に果てるつもりだった。
資源の少なかった時代だ。大切にはされてきたがやはり満足な手入れは受けてない。自身の中にある何かが枯渇していたのを常々感じていた私は静かに目を閉じた。
このまま消滅するのだろうか。
まるで泥に沈むように落ちる感覚に身を委ねながら、それもいいかもしれないと思っていた。
「夕凪様、どうかお力をお貸しください。」
しかしそれは叶わず、私はあの日から百年以上も後の未来で目を覚ましたのだった。
◇
「現在、世界はかつてない危機に瀕しています。歴史修正主義者を名乗る者達が歴史改変を目論み"時間遡行軍"なるものを結成しました。過去への攻撃を阻止するため、政府は刀剣に宿る付喪神"刀剣男士"とそれを目覚めさせ力を引き出す"審神者"なる者達を戦力とし対抗しております。」
暗く埃っぽい蔵の中で、時の政府と名乗ったその者たちは私を起こした事をまず謝罪し、眠っていた数百年を画像や資料を元に詳細に説明した。中でも近年世界中で猛威を奮っている歴史修正主義には大分手を焼いているらしく、日本国を主軸として各国と連携しながら戦っているらしい。
「しかし"検非違使"と呼ばれる第三勢力も現れはじめ戦いは苛烈するばかり。どうか一刻も早い終戦のために力をお借り出来ないでしょうか。」
そう言って頭を下げるスーツの男に続き、後ろにいる十数名の男女も一斉に頭を下げる。
地位が上の者が頭を下げる姿は何とも居心地悪い。頭皮が薄く見える頭を見下ろしながら、私はどうしたものかと内心ため息を着く。
「状況は把握しました。しかし話を聞く限り現在顕現されているのは男士のみ。私は女士です。しかも私は刀を重視していた時代ではなく、銃や戦車が主流の時代に造られました。価値観も何もかもが違う私が連携の取れた戦いをできるとは思えません。ご期待には添えないかと。」
それに、と私は己を振り返る。確かに長く使われてきたものには命が宿るというが、私の場合は少し特殊だ。元人間の魂が末席とは言え神になるとは思えない。
軍刀としては日本国のために何かしらで力を貸したいのが本音だが、勝つためにはなるべくリスクは排除すべきだ。私と言うイレギュラーは特に。
けれど男は慌てたように顔を上げると声を張上げた。
「とんでもございません!夕凪様のそれは利点にございます。世界大戦なるものを経験したことがあるのは夕凪様以外におりませんし、審神者の中には刀剣男士様方との価値観に悩む者も少なくなく…。現代に近い思考は逆に有難いのです。それに女性の審神者も"男ばかりで息が詰まる"と。」
「ああ、それは確かに…。」
「もし憐れに思うのならば、何卒お力添えを!」
本日何度目かの土下座に静かに目を閉じた。脳裏に映るのは掠れてボロボロになった記憶達。それが先程観た映像と重なる。蹂躙される我が国。行き場のない怒りと悲しみ。
…嗚呼、まだ終わっていない。
「分かりました。我が国の未来のため助力いたしましょう。」
「ありがとうございます!」
歓喜に湧く人間達をゆっくりと見回す。
戦争中にしては脳天気なその姿に思わず失笑した。
「ただし、」
え、と誰かの気の抜けた声が聞こえる。
「私が忠誠を誓うのは日本国のみ。もし審神者や政府に膿を見つけた場合は、日本国に仇なす害悪として処理します。」
全ては我が国の栄光と、あの日の無念のため。
青ざめる人間達を見つめながら、あの日流した血と涙が私の身体に纏わりついていくのが分かった。
