工藤さん家の娘さんは目が見えない。
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足元で伏せるムクが欠伸をするいつものカフェで、点字をなぞる。
つい先日打ち終わったこの本は本屋大賞を取ったファンタジー小説なのだが、これがまた難解だった。
父の本のようなミステリやサスペンスは読みやすい。現実に元ずいた話や設定なので見えなくとも何となく当たりをつけることが出来る。逆にファンタジーなどのその物語に独自の設定があると私は直ぐに置いて行かれる。”風が冷たい”とか”硬い寝床"なら分かるが、登場人物が初めて見るものは私には当然見えないので想像出来ないのだ。しかし私も小説を書くのだから視覚的な情報は必要なわけで。どうしたものかと本に栞を挟み、こんな時お兄さんなら何とアドバイスしてくれるだろうかと思いながら、前までは飲めなかったコーヒーのカップを手探りで持ち上げた。
あの、風見と言う人が来てからお兄さんの電話に繋がるようになった。まぁ留守番にしか入らないのだが、それでも今まで何度とかけた番号がしっかりとコール音を出してくれるのは嬉しい。メールは相変わらず受信不可だが。
けれどそれと同時に電話の向こうは本当にお兄さんなのかと訝しく思う。風見と言う人が本当に警察かも分からないし伝言が本物かも怪しい。そも、お兄さんが警察なら何故そう言ってくれなかったのかも分からない。
友達になれたと思ったのだけど…。
本当に私はお兄さんの事を何も知らないんだと痛感してしまう。
はぁ、とひとつため息をこぼす。
こんなことではまた体調が悪くなる。もういっそ萩原さんか松田さんに慰めて貰おうか。ご飯を一緒に食べに行ってからそこそこ仲良くなったし、お兄さんが本当に警察なら2人も知ってるだろう。それに松田さんの不器用ながらの慰めは結構キュンとするので定期的に欲しい。
よし、そうと決まればまた萩原さんとドッキリを仕掛けようと丁度飲み終わったカップを置いて立ち上がった瞬間左手が固いものに当たった。あ、と思ったのもつかの間、バサバサゴトンと音を立てて本が床に落ちた。
あーあ、と肩を落とす。驚いて起き上がったムクをステイさせ、取り敢えず通路に出て拾おうとした私の前の空気が波打った。
「おい。」
低い男の人の声。いつの間にいたのだろうか、気配には敏感なはずなのに全く分からなかった。しばしポカンとしていると、痺れを切らしたのか多少強引に引かれた手に何かが乗る。本だ。
「え、あ、ありがとうございます。すみません、お手数をお掛けして。」
「通行の邪魔だから拾っただけだ。これからは気をつけるこったな。」
頭を下げた私をそのままに、踵を返す音がし男の人が前を進んで行く気配がする。と、ふと揺れる空気に漂って煙と錆臭い匂いがした。
はっと顔を上げる。
しかしもう気配は掴めずその人はいなくなっていた。
「……帰ろ。」
新ちゃんならつゆ知らず、血と硝煙の匂いなんて薮蛇はゴメンだ。本当に米花町は物騒なところだと身震いしながらムクと共に帰路に着いた。
その日の夜、留守番に今日の出来事をつらつら喋っていたらまさかのお兄さんからメールが来た。慌てて文面を音声にして流すと、
『ジンには関わるな。』
"じん"って何だお兄さん。
つい先日打ち終わったこの本は本屋大賞を取ったファンタジー小説なのだが、これがまた難解だった。
父の本のようなミステリやサスペンスは読みやすい。現実に元ずいた話や設定なので見えなくとも何となく当たりをつけることが出来る。逆にファンタジーなどのその物語に独自の設定があると私は直ぐに置いて行かれる。”風が冷たい”とか”硬い寝床"なら分かるが、登場人物が初めて見るものは私には当然見えないので想像出来ないのだ。しかし私も小説を書くのだから視覚的な情報は必要なわけで。どうしたものかと本に栞を挟み、こんな時お兄さんなら何とアドバイスしてくれるだろうかと思いながら、前までは飲めなかったコーヒーのカップを手探りで持ち上げた。
あの、風見と言う人が来てからお兄さんの電話に繋がるようになった。まぁ留守番にしか入らないのだが、それでも今まで何度とかけた番号がしっかりとコール音を出してくれるのは嬉しい。メールは相変わらず受信不可だが。
けれどそれと同時に電話の向こうは本当にお兄さんなのかと訝しく思う。風見と言う人が本当に警察かも分からないし伝言が本物かも怪しい。そも、お兄さんが警察なら何故そう言ってくれなかったのかも分からない。
友達になれたと思ったのだけど…。
本当に私はお兄さんの事を何も知らないんだと痛感してしまう。
はぁ、とひとつため息をこぼす。
こんなことではまた体調が悪くなる。もういっそ萩原さんか松田さんに慰めて貰おうか。ご飯を一緒に食べに行ってからそこそこ仲良くなったし、お兄さんが本当に警察なら2人も知ってるだろう。それに松田さんの不器用ながらの慰めは結構キュンとするので定期的に欲しい。
よし、そうと決まればまた萩原さんとドッキリを仕掛けようと丁度飲み終わったカップを置いて立ち上がった瞬間左手が固いものに当たった。あ、と思ったのもつかの間、バサバサゴトンと音を立てて本が床に落ちた。
あーあ、と肩を落とす。驚いて起き上がったムクをステイさせ、取り敢えず通路に出て拾おうとした私の前の空気が波打った。
「おい。」
低い男の人の声。いつの間にいたのだろうか、気配には敏感なはずなのに全く分からなかった。しばしポカンとしていると、痺れを切らしたのか多少強引に引かれた手に何かが乗る。本だ。
「え、あ、ありがとうございます。すみません、お手数をお掛けして。」
「通行の邪魔だから拾っただけだ。これからは気をつけるこったな。」
頭を下げた私をそのままに、踵を返す音がし男の人が前を進んで行く気配がする。と、ふと揺れる空気に漂って煙と錆臭い匂いがした。
はっと顔を上げる。
しかしもう気配は掴めずその人はいなくなっていた。
「……帰ろ。」
新ちゃんならつゆ知らず、血と硝煙の匂いなんて薮蛇はゴメンだ。本当に米花町は物騒なところだと身震いしながらムクと共に帰路に着いた。
その日の夜、留守番に今日の出来事をつらつら喋っていたらまさかのお兄さんからメールが来た。慌てて文面を音声にして流すと、
『ジンには関わるな。』
"じん"って何だお兄さん。