工藤さん家の娘さんは目が見えない。
お好きな名前をどうぞ
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父が来るまで一緒にいてくれるらしい萩原さんにお礼を言いつつ事件の内容をさらに詳しく聞くために行ってしまった新ちゃんを待っていると、ふと真新しい靴音が聞こえた。
「ハギ。」
男の人だ。ハギ、と言うのは萩原さんのことだろうか。ここに居るということは同じ警察の人なんだろうけど、同期と言うよりは友人のような気さくさだった。
「おー、陣平ちゃん!丁度よかった。この子が前言ってた工藤かなえちゃん。」
「はじめまして。」
相手がいるであろう方向に頭を少し下げた。先程聞いた話通りなら彼がもうひとつの爆弾を解体した松田陣平と言う人なのだろう。ならこの人が萩原さんから良く聞く幼馴染みか。確かにそれならあだ名も理解出来る。
「あんたがあの工藤優作の子供か…。ハギの話じゃ随分とろくて危なっかしい奴だって聞いたが…、なんだ、しっかりしてんじゃねーか。」
「萩原さん…。」
思わず萩原さんがいるであろう方向に顔を上げた。まぁ普通の人から見たら危なっかしいのは認めるがとろいって…。目について説明してくれたらしいのは感謝するが、一体松田さんになんて私の事を説明したのだろうか。ジトっと眉を寄せると萩原さんは慌てたように喋り始めた。
「いやとろいは言ってなくない?!でもかなえちゃん自覚ないだけで、本当に危機感薄いんだって!知らない俺に抱っこされてるのに抵抗しないし声出さないし。」
「うっ、いや、あの時はいきなりだったからで、普段はちゃんとしてますって。」
いや、そんな抵抗しないといけない事に出会いたくはないがいざとなれば大声も出すし暴れたりもする。本当にあの時は驚きすぎただけなのだと説明するも萩原さんどころか松田さんまで微妙な返事をした。私もう19なんだが。解せない。
「けど命の恩人なのは変わりねぇしな。ありがとよ。」
「私はただ見つけただけですし、解体したのは萩原さんですから。」
「そーそー。陣平ちゃんは俺とかなえちゃんに感謝しろよ?回らない寿司でいいぜ。」
「なんでだよ。てかおめーは仕事だろがよ。」
確かに。松田さんの言葉に頷くと萩原さんがえー、と声を上げた。それに難色を示し軽口をたたき合い始めた2人は、やはり嬉しいのだろう。互いの言葉の中には安堵の色が強く含まれていた。物腰が柔らかい萩原さんと少しヤンチャな物言いの松田さんは、真逆だけど本当に良いコンビなのだなと声を潜めて笑った。
あれから数日。
あの後本当に松田さんの奢りでご飯に行く話になり、何故か私のスマホにその松田さんの連絡先が新たに追加された。私のスマホは警察の連絡網か何かなのだろうか。まぁ非常時の連絡先が多いに越したことはないし、父も2人のことは信頼出来ると言っていたので多くは言わないでおこう。それにもう少し仲を深めて頼み事が出来るようになったら…、とそこまで考えて1人留守番をしていた私の耳にインターホンが響いた。ピクリと反応したムクに待つよう指示を出し、手すりを伝い備え付けのテレビドアホンを触る。これは隣に住む阿笠博士が私のために改良してくれたもので、玄関にいる人の性別や背格好、持ち物などを音声で教えてくれるというものだ。勿論外には聞こえないし何かと人の関心を引く家族だからこの機能は重宝している。
対人センサーが反応し数秒後に優しい女の人の声が聞こえた。スーツを着た成人男性、しかも手ぶら。怪しすぎる。少し怖くて居留守でもしようかと考えるも、もしかしたら父の知り合いかもしれないと思い恐る恐る通話のボタンを押した。
「はい。」
『突然申し訳ありません。私、警視庁の風見と申します。』
記憶にはない名前だ。家族からも聞いたことがない。何かと注目を集める家族なだけに過去には色々と大変なこともあったので内心怯えながら、しかしいきなり切る訳にもいかないのでとりあえず警察と一番関わりのある父の名をだす。
「申し訳ございませんが今父は出ておりまして。」
『いえ、工藤かなえさん。貴女に用があって来ました。』
「…私?」
『はい。緑川唯からの伝言です。』
ひゅっと息が詰まった。
心臓がいやに大きな音を立てる。
直ぐにあがってもらおうとした私に彼はインターホン越しで構わないと言い、ならばと一音も聞き逃さないように耳をそばだてた。
『"全てが終わったら、俺のおすすめの店で君が書いた小説を見せてくれ"、と。』
ただそれだけを伝えそれではと去っていく彼に何も返せずその場にへたりこんだ。考えなければいけないことは色々あるのに出来たのは口元に手を添えるだけだった。
「ふ、うっ、〜〜っっ…。」
小説の話をしたのはお兄さんにだけだ。まだ2人だけの秘密だった。それなのにあの風見と言う人は知っていた。それはつまり。
信じられないくらい熱い息が掌にかかる。
良かった。生きていた。
頭を駆け巡る疑問は尽きないが、それでも胸の締めつけは解かれていく。溢れ出す涙が頬を濡らし始めその声にムクが心配して来てくれても、私はただただ顔を覆って泣いていた。
『これでいいんですか、降谷さん。』
「ああ…。」
風見から頼み事が無事終わったと電話で報告を受けた降谷はそっと息を吐いた。
降谷と諸伏は公安としてとある組織に潜入していた。しかしどこから漏れたのか、諸伏がNOCとバレ、ライがベルモットの指示で組織が開発した毒薬を服用させた。幸いその時揉み合ったせいかスマホは破壊されていたが、血を流し地に倒れている姿を見た時は頭が真っ白になった。
薬が未完成だったからか、はたまた単純に運か。その後色々と手を回し何とか取り返した諸伏は死んではおらず仮死状態だった。そしてライすら見抜けなかった諸伏の身体は今も眠り続け、公安が厳重に守っている。
そんな緑川唯改め諸伏とあの工藤[#dc=1#]と言う少女がどういった関係かは知らない。降谷も諸伏のデスクを整理しなければ彼女の名前が宛名に書かれた手紙を見つけることはなかったし、存在すら知らなかった。
鍵のかかった引き出しのそれを、降谷は申し訳ないと思いながらも封を切り中身を確認した。しかしそこには降谷が想像していたものなど1つも書かれていなかった。
たった1枚の紙に、ほんの数行文字が書かれていただけだった。
本当なら自分が届けたかったが、あの一件後から降谷への監視の目は鋭く、何も知らないであろう彼女どころか工藤家にまで迷惑がかかってしまうのは容易に想像できた。そのため降谷は部下に持たせ手紙の内容を伝えに行かせた。部下にはそうまでしてやらなければいけないことなのかと言われたし、事実降谷自身も公安が一般人に、しかも年端もいかない少女一人に肩入れするなどあってはならないと思っている。けれど一つ一つの文字に丁寧に点字が打っていたり、柄ではなく匂いのする紙を選んでいたりしたのを見た時、降谷は1人の親友として諸伏の願いを叶えてやりたくなったのだ。
それに、と手紙の最後の行を思い出す。
点字の打たれていない、しかし少しの希望が込められたいつもより筆圧の強いその言葉。
文字にするだけでは意味がないぞと今だ目覚めない親友にそう心の中で語りかけながら、降谷は静かに電話ボックスを後にした。
「ハギ。」
男の人だ。ハギ、と言うのは萩原さんのことだろうか。ここに居るということは同じ警察の人なんだろうけど、同期と言うよりは友人のような気さくさだった。
「おー、陣平ちゃん!丁度よかった。この子が前言ってた工藤かなえちゃん。」
「はじめまして。」
相手がいるであろう方向に頭を少し下げた。先程聞いた話通りなら彼がもうひとつの爆弾を解体した松田陣平と言う人なのだろう。ならこの人が萩原さんから良く聞く幼馴染みか。確かにそれならあだ名も理解出来る。
「あんたがあの工藤優作の子供か…。ハギの話じゃ随分とろくて危なっかしい奴だって聞いたが…、なんだ、しっかりしてんじゃねーか。」
「萩原さん…。」
思わず萩原さんがいるであろう方向に顔を上げた。まぁ普通の人から見たら危なっかしいのは認めるがとろいって…。目について説明してくれたらしいのは感謝するが、一体松田さんになんて私の事を説明したのだろうか。ジトっと眉を寄せると萩原さんは慌てたように喋り始めた。
「いやとろいは言ってなくない?!でもかなえちゃん自覚ないだけで、本当に危機感薄いんだって!知らない俺に抱っこされてるのに抵抗しないし声出さないし。」
「うっ、いや、あの時はいきなりだったからで、普段はちゃんとしてますって。」
いや、そんな抵抗しないといけない事に出会いたくはないがいざとなれば大声も出すし暴れたりもする。本当にあの時は驚きすぎただけなのだと説明するも萩原さんどころか松田さんまで微妙な返事をした。私もう19なんだが。解せない。
「けど命の恩人なのは変わりねぇしな。ありがとよ。」
「私はただ見つけただけですし、解体したのは萩原さんですから。」
「そーそー。陣平ちゃんは俺とかなえちゃんに感謝しろよ?回らない寿司でいいぜ。」
「なんでだよ。てかおめーは仕事だろがよ。」
確かに。松田さんの言葉に頷くと萩原さんがえー、と声を上げた。それに難色を示し軽口をたたき合い始めた2人は、やはり嬉しいのだろう。互いの言葉の中には安堵の色が強く含まれていた。物腰が柔らかい萩原さんと少しヤンチャな物言いの松田さんは、真逆だけど本当に良いコンビなのだなと声を潜めて笑った。
あれから数日。
あの後本当に松田さんの奢りでご飯に行く話になり、何故か私のスマホにその松田さんの連絡先が新たに追加された。私のスマホは警察の連絡網か何かなのだろうか。まぁ非常時の連絡先が多いに越したことはないし、父も2人のことは信頼出来ると言っていたので多くは言わないでおこう。それにもう少し仲を深めて頼み事が出来るようになったら…、とそこまで考えて1人留守番をしていた私の耳にインターホンが響いた。ピクリと反応したムクに待つよう指示を出し、手すりを伝い備え付けのテレビドアホンを触る。これは隣に住む阿笠博士が私のために改良してくれたもので、玄関にいる人の性別や背格好、持ち物などを音声で教えてくれるというものだ。勿論外には聞こえないし何かと人の関心を引く家族だからこの機能は重宝している。
対人センサーが反応し数秒後に優しい女の人の声が聞こえた。スーツを着た成人男性、しかも手ぶら。怪しすぎる。少し怖くて居留守でもしようかと考えるも、もしかしたら父の知り合いかもしれないと思い恐る恐る通話のボタンを押した。
「はい。」
『突然申し訳ありません。私、警視庁の風見と申します。』
記憶にはない名前だ。家族からも聞いたことがない。何かと注目を集める家族なだけに過去には色々と大変なこともあったので内心怯えながら、しかしいきなり切る訳にもいかないのでとりあえず警察と一番関わりのある父の名をだす。
「申し訳ございませんが今父は出ておりまして。」
『いえ、工藤かなえさん。貴女に用があって来ました。』
「…私?」
『はい。緑川唯からの伝言です。』
ひゅっと息が詰まった。
心臓がいやに大きな音を立てる。
直ぐにあがってもらおうとした私に彼はインターホン越しで構わないと言い、ならばと一音も聞き逃さないように耳をそばだてた。
『"全てが終わったら、俺のおすすめの店で君が書いた小説を見せてくれ"、と。』
ただそれだけを伝えそれではと去っていく彼に何も返せずその場にへたりこんだ。考えなければいけないことは色々あるのに出来たのは口元に手を添えるだけだった。
「ふ、うっ、〜〜っっ…。」
小説の話をしたのはお兄さんにだけだ。まだ2人だけの秘密だった。それなのにあの風見と言う人は知っていた。それはつまり。
信じられないくらい熱い息が掌にかかる。
良かった。生きていた。
頭を駆け巡る疑問は尽きないが、それでも胸の締めつけは解かれていく。溢れ出す涙が頬を濡らし始めその声にムクが心配して来てくれても、私はただただ顔を覆って泣いていた。
『これでいいんですか、降谷さん。』
「ああ…。」
風見から頼み事が無事終わったと電話で報告を受けた降谷はそっと息を吐いた。
降谷と諸伏は公安としてとある組織に潜入していた。しかしどこから漏れたのか、諸伏がNOCとバレ、ライがベルモットの指示で組織が開発した毒薬を服用させた。幸いその時揉み合ったせいかスマホは破壊されていたが、血を流し地に倒れている姿を見た時は頭が真っ白になった。
薬が未完成だったからか、はたまた単純に運か。その後色々と手を回し何とか取り返した諸伏は死んではおらず仮死状態だった。そしてライすら見抜けなかった諸伏の身体は今も眠り続け、公安が厳重に守っている。
そんな緑川唯改め諸伏とあの工藤[#dc=1#]と言う少女がどういった関係かは知らない。降谷も諸伏のデスクを整理しなければ彼女の名前が宛名に書かれた手紙を見つけることはなかったし、存在すら知らなかった。
鍵のかかった引き出しのそれを、降谷は申し訳ないと思いながらも封を切り中身を確認した。しかしそこには降谷が想像していたものなど1つも書かれていなかった。
たった1枚の紙に、ほんの数行文字が書かれていただけだった。
本当なら自分が届けたかったが、あの一件後から降谷への監視の目は鋭く、何も知らないであろう彼女どころか工藤家にまで迷惑がかかってしまうのは容易に想像できた。そのため降谷は部下に持たせ手紙の内容を伝えに行かせた。部下にはそうまでしてやらなければいけないことなのかと言われたし、事実降谷自身も公安が一般人に、しかも年端もいかない少女一人に肩入れするなどあってはならないと思っている。けれど一つ一つの文字に丁寧に点字が打っていたり、柄ではなく匂いのする紙を選んでいたりしたのを見た時、降谷は1人の親友として諸伏の願いを叶えてやりたくなったのだ。
それに、と手紙の最後の行を思い出す。
点字の打たれていない、しかし少しの希望が込められたいつもより筆圧の強いその言葉。
文字にするだけでは意味がないぞと今だ目覚めない親友にそう心の中で語りかけながら、降谷は静かに電話ボックスを後にした。