工藤さん家の娘さんは目が見えない。
お好きな名前をどうぞ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
足元に寝転ぶムクの体温を感じながらコーヒーをすする。この気温ならアイスでも良かったかなと思いながら持ってきていたノートパソコンの電源を入れた。
雪もすっかり溶け段々と気温が暖かくなっていく。そんな日は外で仕事がしたくなる性で、丁度白杖も新調したばかりだしといつものカフェにムクと2人で訪れた。
コーヒーのいい匂いが立ち込める店内に頬を緩めながらマスターと少し会話して、早速仕事に取り掛かる。 ノートパソコンを起動した後、同じ鞄から本を数冊と電子辞書、ノートとペンを取り出し隣へと置く。私以外に人がいる気配はないのだがなるべく音量を小さく設定し直し、打った文字をスピーカーで確認しながら広げたノートの点字をなぞった。
やっぱりここはもう少し言葉を変えた方がいいかな…。前後の文的には今のままでも問題ないが、全体の内容から考えるともう少しキツい言葉の和訳でも大丈夫だろう。そう思って横に置いた電子辞書を開く。博士が作ってくれたこの辞書は売り物にする予定らしく、私はテストを兼ねて使わせてもらっているが、これがまた大変使いやすい。麻酔銃と言いこの辞書と言いやっぱり博士は凄い人なんだと再確認する。まぁ爆発する割合の方が多いっちゃ多いけど
、と先日も大きな音を立てていた博士の家を思い出し人知れず苦笑した。
カタカタとキーボードで文章を打ち込み、片手でカップを持ち上げる。しかしそれに重さがないのに気づき次を注文するため手を挙げようとした。
「っ、あぁ〜…。」
しまった、またやった。
バサバサと大きな音を立てて落ちていく本にため息が出る。いつものように邪魔にならない位置に重ねて置いていたが、今回はその重ね方が悪かったらしく少し飛び出ていた本の角に手が当たってしまったようだった。
全く嫌になると内心愚痴りながら驚いたムクの頭を撫で本を拾うために席から通路へと動く。落ちた本は全部で3冊。そのうち1冊は薄い雑誌だ。あの軽さだから通路を滑って遠くに行ったかも、と少し億劫になりながら手探りで床を触ると幸い2冊は直ぐに見つかった。ページが折れていたり傷がついていたりは触った感じしない。それに安心したもやはり雑誌はなく、どうも私が想像した通りの事が起こったようで思わず唸る。いくら人が少ないからってこのまま通路にいては邪魔だ。…しかたない。申し訳ないがマスターに頼むしかなさそうだ。
「おい。」
奥に引っ込んでいるマスターを呼ぼうと声を出そうとした瞬間、低い男の人の声が降ってきた。いきなりのことに驚いて肩が跳ねる。全く足音が聞こえなかった…。目が見えない分他の器官が優れている私だが、気配も足音さえも全く気づくことが出来なかった。そんなに集中しているつもりはなかったが、けれど邪魔しているのは事実なわけで退けようと謝罪を口にしながら慌てて机の角を掴む。しかし慌て過ぎたせいか手は滑り体勢が一気に崩れていった。
「わっ!」
転ぶ、と身構えた私の腕を強い力が引く。間一髪。私の身体は尻もちをつくことなく、若干床から浮いた状態で止まった。びっくりした。バクバクとなる心臓を落ち着かせようとした瞬間、また引く力が強くなりその力に逆らえず私はたたらを踏みながら立ち上がった。
「っあ、りがとうございます…。」
「…。」
無言のまま腕を離される。何となく威圧感と言うか圧迫感と言うか、そんなものを感じる。けど怒っている雰囲気ではなさそうだ。とりあえず再度お礼と謝罪をしようとして、ふと嗅ぎ覚えのある匂いにあ、と声が漏れた。
「あの、前も拾ってくださいましたよね。」
「…見えてんのか。」
「いえ。ただ前本を拾ってくれた方と同じタバコの匂いだったので…。」
まぁタバコ、だけじゃなく微かな硝煙と血の匂いの混じったこの人特有の匂いだけど。それでも普段なら決して嗅ぐことの無い独特の匂いだ。前の助けてくれた人とこの人が同一人物だと確定するには十分だった。
けど匂いで判断って…、ちょっと変態臭かったかな。しかも何だか危険人物のようだし、もしかして私色々とはやまった?
どんどんと体温が下がっていくのを感じながら内心頭を抱えていると、突然クックックと喉をならす音が頭上から降ってきた。
「犬みてぇな奴だな。」
小馬鹿にした言い方に少しカチンときたも特に危ない空気は流れなかったので安堵の息を吐く。そのまま何事も無かったかのように、その人は隣を通り過ぎて行く。先程の革足音のなさが嘘のように革靴のコツコツとした小気味良い音が遠ざかっていくのを耳が拾いながら、今しがたあったことを思い出す。
声の位置からして随分と背の高い人だったな。外国の方かな。それにしては日本語が上手いなと手に持った本を机に置きながら1人感心する。と、そこで手に何か薄い冊子の様なものが当たった。何か置いたっけ、と思いながら触って確認するとそれはさっき探していた雑誌だった。あの時私と彼以外に周りに人はいなかったから、大方あの人が拾って置いてくれたのだろう。
独特の匂いを纏う彼だが、案外悪い人ではないのかもしれない。もし今度会ったらお礼も兼ねて少し話してみたいな、と思いながら雑誌の表紙をなぞった。
雪もすっかり溶け段々と気温が暖かくなっていく。そんな日は外で仕事がしたくなる性で、丁度白杖も新調したばかりだしといつものカフェにムクと2人で訪れた。
コーヒーのいい匂いが立ち込める店内に頬を緩めながらマスターと少し会話して、早速仕事に取り掛かる。 ノートパソコンを起動した後、同じ鞄から本を数冊と電子辞書、ノートとペンを取り出し隣へと置く。私以外に人がいる気配はないのだがなるべく音量を小さく設定し直し、打った文字をスピーカーで確認しながら広げたノートの点字をなぞった。
やっぱりここはもう少し言葉を変えた方がいいかな…。前後の文的には今のままでも問題ないが、全体の内容から考えるともう少しキツい言葉の和訳でも大丈夫だろう。そう思って横に置いた電子辞書を開く。博士が作ってくれたこの辞書は売り物にする予定らしく、私はテストを兼ねて使わせてもらっているが、これがまた大変使いやすい。麻酔銃と言いこの辞書と言いやっぱり博士は凄い人なんだと再確認する。まぁ爆発する割合の方が多いっちゃ多いけど
、と先日も大きな音を立てていた博士の家を思い出し人知れず苦笑した。
カタカタとキーボードで文章を打ち込み、片手でカップを持ち上げる。しかしそれに重さがないのに気づき次を注文するため手を挙げようとした。
「っ、あぁ〜…。」
しまった、またやった。
バサバサと大きな音を立てて落ちていく本にため息が出る。いつものように邪魔にならない位置に重ねて置いていたが、今回はその重ね方が悪かったらしく少し飛び出ていた本の角に手が当たってしまったようだった。
全く嫌になると内心愚痴りながら驚いたムクの頭を撫で本を拾うために席から通路へと動く。落ちた本は全部で3冊。そのうち1冊は薄い雑誌だ。あの軽さだから通路を滑って遠くに行ったかも、と少し億劫になりながら手探りで床を触ると幸い2冊は直ぐに見つかった。ページが折れていたり傷がついていたりは触った感じしない。それに安心したもやはり雑誌はなく、どうも私が想像した通りの事が起こったようで思わず唸る。いくら人が少ないからってこのまま通路にいては邪魔だ。…しかたない。申し訳ないがマスターに頼むしかなさそうだ。
「おい。」
奥に引っ込んでいるマスターを呼ぼうと声を出そうとした瞬間、低い男の人の声が降ってきた。いきなりのことに驚いて肩が跳ねる。全く足音が聞こえなかった…。目が見えない分他の器官が優れている私だが、気配も足音さえも全く気づくことが出来なかった。そんなに集中しているつもりはなかったが、けれど邪魔しているのは事実なわけで退けようと謝罪を口にしながら慌てて机の角を掴む。しかし慌て過ぎたせいか手は滑り体勢が一気に崩れていった。
「わっ!」
転ぶ、と身構えた私の腕を強い力が引く。間一髪。私の身体は尻もちをつくことなく、若干床から浮いた状態で止まった。びっくりした。バクバクとなる心臓を落ち着かせようとした瞬間、また引く力が強くなりその力に逆らえず私はたたらを踏みながら立ち上がった。
「っあ、りがとうございます…。」
「…。」
無言のまま腕を離される。何となく威圧感と言うか圧迫感と言うか、そんなものを感じる。けど怒っている雰囲気ではなさそうだ。とりあえず再度お礼と謝罪をしようとして、ふと嗅ぎ覚えのある匂いにあ、と声が漏れた。
「あの、前も拾ってくださいましたよね。」
「…見えてんのか。」
「いえ。ただ前本を拾ってくれた方と同じタバコの匂いだったので…。」
まぁタバコ、だけじゃなく微かな硝煙と血の匂いの混じったこの人特有の匂いだけど。それでも普段なら決して嗅ぐことの無い独特の匂いだ。前の助けてくれた人とこの人が同一人物だと確定するには十分だった。
けど匂いで判断って…、ちょっと変態臭かったかな。しかも何だか危険人物のようだし、もしかして私色々とはやまった?
どんどんと体温が下がっていくのを感じながら内心頭を抱えていると、突然クックックと喉をならす音が頭上から降ってきた。
「犬みてぇな奴だな。」
小馬鹿にした言い方に少しカチンときたも特に危ない空気は流れなかったので安堵の息を吐く。そのまま何事も無かったかのように、その人は隣を通り過ぎて行く。先程の革足音のなさが嘘のように革靴のコツコツとした小気味良い音が遠ざかっていくのを耳が拾いながら、今しがたあったことを思い出す。
声の位置からして随分と背の高い人だったな。外国の方かな。それにしては日本語が上手いなと手に持った本を机に置きながら1人感心する。と、そこで手に何か薄い冊子の様なものが当たった。何か置いたっけ、と思いながら触って確認するとそれはさっき探していた雑誌だった。あの時私と彼以外に周りに人はいなかったから、大方あの人が拾って置いてくれたのだろう。
独特の匂いを纏う彼だが、案外悪い人ではないのかもしれない。もし今度会ったらお礼も兼ねて少し話してみたいな、と思いながら雑誌の表紙をなぞった。
21/21ページ