工藤さん家の娘さんは目が見えない。
お好きな名前をどうぞ
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お盆に乗せていたコップを3つ、博士と一緒に机に置く。
開けてある庭の方から元気よく走り回る子供達の声と楽しげなムクの息遣いに頬が緩んだ。
「オレンジジュース置いとくねー。」
「ありがとうございます!」
「わーい!お姉さんありがとう!」
「オレ、1番大きいやつ!」
ドタドタと室内に上がってくる子供達にまずは手を洗うよう伝え洗面台に向かってもらう。元気のいい返事と共に駆けていく足音に、ムクの足を拭きながら笑いが漏れた。
彼ら、光彦君と歩美ちゃんと元太君に出会ったのはつい先日のことだ。人の出入りが少ないため子供達の間ではお化け屋敷と噂されていたらしい我が家に真意を確かめに来たらしく、3人は突然押しかけた事を物凄く申し訳なさそうにしながら話してくれた。その後新ちゃんことコナン君の仲介や元来の子供達の素直さもあり、今では私の代わりにムクと遊んでくれるまでに親しくなった。
今日も私の代わりに博士の庭でムクと遊んでくれている。本来ならパートナーであり飼い主でもある私がしなければいけないのだが、如何せん私には体力的にも行動範囲的にも限度がある。だから子供達には本当に感謝してもしきれないくらいだ。
それに新ちゃんがお友達を紹介してくれたのはほぼ初めてのことなので、例え今だけだとしても仲良くしたいのだ。
ムクも大分満足したのか今は眠っている。子供達もジュースとおやつを食べ終わりそろそろお開きの流れになった。
「今日はありがとうね。皆が来てくれてよかった。」
「お易い御用ですよ!」
「歩美もムクのこと好きだから楽しかった!」
「次はシュークリームが食べたいんだぞ!」
「分かった。用意しておくね。」
バイバイとまだまだ元気が有り余っていそうな声に、気をつけてねと返しながら皆を見送る。暫くしてから家の中へと戻り博士にもお礼を告げた。
「博士もありがとう。庭貸してくれて。」
「なに、構わんよ。」
家の庭では少し狭いのでムクが遊ぶ時は公園を利用しているが、時々博士の庭を借りている。勿論借りる時はお菓子を持ってきてはいるが今度何かちゃんとしたお礼をしなければな、と思いながらソファへと腰かけた。
飲み物を持ってきてくれると言う博士に甘えていると新ちゃんが隣に座った。
「新ちゃんもありがとう。」
「別に。あいつらもムクに会いたがってたから。」
「友達思いだねぇ。」
「バーロー。そんなんじゃねーよ。」
全く素直じゃないな。
でもそんな小生意気なところが可愛いくてニヤニヤとしていたらデコピンされた。私お姉ちゃんなのに。
「そう言えば、あの女の人どうなったの?」
ふと思い出したのは前に毛利さんの所に来たと言う女性の話だった。なんでも父親の捜索を依頼しに来たらしいが、蓋を開ければ捜索依頼の男性は父親でもなく血縁関係者でもなかったらしい。しかもその女性はあの組織に関わりがあったらしく、新ちゃんからその日絶対外に出ないよう言われたのだ。一応私もお兄さんの留守電に事件の内容と女性の名前を言ってはみたけど解決したのかは分からずじまいだった。そう思って聞いてみたが、予想に反して新ちゃんの声は暗く少し沈んでいた。
「死んじまった。組織の奴に殺されてな…。」
「…そっか。」
ならお兄さんが来ててもどうもならなかっただろうな。随分下になってしまった頭に手を置く。そのまま優しく撫でる私の手を新ちゃんは払うことはなかった。
「でも妙なんだ。」
「何が?」」
新ちゃんの頭から手を離す。
「死体を警察が持って行く時、高木刑事が言ってたんだ。『何故かこの死体は公安が回収するらしい』って。」
「公安?」
公安についての知識はほぼ皆無だが、同じ警察なら持って行っても大丈夫ではないのだろうか。そう聞こうとしたら丁度博士が戻ってきて、その話はそこで途切れてしまった。
…そう言えば、萩原さん達の同期の人が公安に行ったって前に聞いた事があったが、
「考え過ぎか…。」
「どうした?」
怪訝な声を出す新ちゃんに首を振る。
お兄さんが本当に警察かも分かってないんだからと、自分の考えをコップのお茶と一緒に飲み込んだ。
足早に過ぎて行くキャリーケース、楽しげな家族の声、多種多様な言語が響くターミナルから少し離れた場所で、私は辺りを見渡す。
今日、私は生まれ育ったこの国を去る。慣れ親しんだ名を捨て、私は別人として生きていかなければならない。自分を偽り、知らない過去を語り、思い出すら持って行けない。それが怖くてしかない。
でも、私にもう道はない。
大切な妹のためにも、私は決めたのだ。
「…信じてるから、零くん。」
罪悪感と少しの希望を抱き、私はゲートの外に『宮野明美』の名を捨て去った。
開けてある庭の方から元気よく走り回る子供達の声と楽しげなムクの息遣いに頬が緩んだ。
「オレンジジュース置いとくねー。」
「ありがとうございます!」
「わーい!お姉さんありがとう!」
「オレ、1番大きいやつ!」
ドタドタと室内に上がってくる子供達にまずは手を洗うよう伝え洗面台に向かってもらう。元気のいい返事と共に駆けていく足音に、ムクの足を拭きながら笑いが漏れた。
彼ら、光彦君と歩美ちゃんと元太君に出会ったのはつい先日のことだ。人の出入りが少ないため子供達の間ではお化け屋敷と噂されていたらしい我が家に真意を確かめに来たらしく、3人は突然押しかけた事を物凄く申し訳なさそうにしながら話してくれた。その後新ちゃんことコナン君の仲介や元来の子供達の素直さもあり、今では私の代わりにムクと遊んでくれるまでに親しくなった。
今日も私の代わりに博士の庭でムクと遊んでくれている。本来ならパートナーであり飼い主でもある私がしなければいけないのだが、如何せん私には体力的にも行動範囲的にも限度がある。だから子供達には本当に感謝してもしきれないくらいだ。
それに新ちゃんがお友達を紹介してくれたのはほぼ初めてのことなので、例え今だけだとしても仲良くしたいのだ。
ムクも大分満足したのか今は眠っている。子供達もジュースとおやつを食べ終わりそろそろお開きの流れになった。
「今日はありがとうね。皆が来てくれてよかった。」
「お易い御用ですよ!」
「歩美もムクのこと好きだから楽しかった!」
「次はシュークリームが食べたいんだぞ!」
「分かった。用意しておくね。」
バイバイとまだまだ元気が有り余っていそうな声に、気をつけてねと返しながら皆を見送る。暫くしてから家の中へと戻り博士にもお礼を告げた。
「博士もありがとう。庭貸してくれて。」
「なに、構わんよ。」
家の庭では少し狭いのでムクが遊ぶ時は公園を利用しているが、時々博士の庭を借りている。勿論借りる時はお菓子を持ってきてはいるが今度何かちゃんとしたお礼をしなければな、と思いながらソファへと腰かけた。
飲み物を持ってきてくれると言う博士に甘えていると新ちゃんが隣に座った。
「新ちゃんもありがとう。」
「別に。あいつらもムクに会いたがってたから。」
「友達思いだねぇ。」
「バーロー。そんなんじゃねーよ。」
全く素直じゃないな。
でもそんな小生意気なところが可愛いくてニヤニヤとしていたらデコピンされた。私お姉ちゃんなのに。
「そう言えば、あの女の人どうなったの?」
ふと思い出したのは前に毛利さんの所に来たと言う女性の話だった。なんでも父親の捜索を依頼しに来たらしいが、蓋を開ければ捜索依頼の男性は父親でもなく血縁関係者でもなかったらしい。しかもその女性はあの組織に関わりがあったらしく、新ちゃんからその日絶対外に出ないよう言われたのだ。一応私もお兄さんの留守電に事件の内容と女性の名前を言ってはみたけど解決したのかは分からずじまいだった。そう思って聞いてみたが、予想に反して新ちゃんの声は暗く少し沈んでいた。
「死んじまった。組織の奴に殺されてな…。」
「…そっか。」
ならお兄さんが来ててもどうもならなかっただろうな。随分下になってしまった頭に手を置く。そのまま優しく撫でる私の手を新ちゃんは払うことはなかった。
「でも妙なんだ。」
「何が?」」
新ちゃんの頭から手を離す。
「死体を警察が持って行く時、高木刑事が言ってたんだ。『何故かこの死体は公安が回収するらしい』って。」
「公安?」
公安についての知識はほぼ皆無だが、同じ警察なら持って行っても大丈夫ではないのだろうか。そう聞こうとしたら丁度博士が戻ってきて、その話はそこで途切れてしまった。
…そう言えば、萩原さん達の同期の人が公安に行ったって前に聞いた事があったが、
「考え過ぎか…。」
「どうした?」
怪訝な声を出す新ちゃんに首を振る。
お兄さんが本当に警察かも分かってないんだからと、自分の考えをコップのお茶と一緒に飲み込んだ。
足早に過ぎて行くキャリーケース、楽しげな家族の声、多種多様な言語が響くターミナルから少し離れた場所で、私は辺りを見渡す。
今日、私は生まれ育ったこの国を去る。慣れ親しんだ名を捨て、私は別人として生きていかなければならない。自分を偽り、知らない過去を語り、思い出すら持って行けない。それが怖くてしかない。
でも、私にもう道はない。
大切な妹のためにも、私は決めたのだ。
「…信じてるから、零くん。」
罪悪感と少しの希望を抱き、私はゲートの外に『宮野明美』の名を捨て去った。