工藤さん家の娘さんは目が見えない。
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緊張からガチガチと身体が固まる。前と隣からじわじわと感じる圧が恐ろしい。ムクは知らぬ存ぜぬで自分のハウスへ戻ってしまったし、そもそもなんで広いソファにこんなに萎縮して座らなきゃいけないんだ、と目の前に座っているであろう松田さんと隣にいる萩原さんに胃が痛くなった。
「さて、説明してもらおうか。」
松田さんの声が重々しく聞こえるのは罪悪感のせいだろうか。自分家なのに居心地が悪すぎる。
「それよりお茶持って来ましょうか…?」
「あ、お構いなく〜。」
速攻で却下された。ちくしょうと浮いた腰をまたソファに沈める。ただちょっと言い訳を考える時間が欲しいだけだのに…。因みに言い間違えたはもう言ったしとぼけもしてみたがこの状況を見れば結果はお察しだろう。
はぁ、と1人バレないようため息をつく。お母さんや新ちゃんなら露知らず、私に隠し事なんて無理だ。向いてない。かと言って全部喋るなんて出来ないわけで、通じないとは分かっていても無言を貫くしかなかった。
「それで?今度は何に首突っ込んだんだよ。」
「…。」
「無言ってことはお前も噛んでんのか。」
「…。」
「あのなぁ、黙ってたって分かんねぇんだよ。」
「陣平ちゃん。」
痺れを切らしたように語気を強めた松田さんに萩原さんが咎めるように名前を被せた。そしてそのまま優しく穏やかな声音で、しかし逃れられない事を言う。
「でも正直な話、危険なことに巻き込まれてるなら見過ごせない。」
ぐっと喉が詰まる。
2人は警察だし私が普通の人よりハンデがあるからなのは理解出来るが、こんな取り調べのような事をされてはまるで犯人みたいだ。普段事件に首を突っ込む新ちゃんのことは、心配してても最後には笑って許してるのにと気分が暗くなる。だからついポロッと口が滑ってしまった。
「私の目が見えないから?」
「お前…。」
「かなえちゃん…。」
しまった。
咄嗟に口を手で押さえるも1度言ったことがなかったことになる訳もなく自分の言葉に顔から血の気が引いた。
こんな事言うはずではなかったのに、しかも事実厄介事に巻き込まれてると認めるようなものだ。
慌てて違うのだと声を上げようとした私の手を暖かく節くれだった手が包み込んだ。
「確かにかなえちゃんは人よりハンデがある。」
怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもない萩原さんの声に耳の神経が集中する。
「それで苦労することもあるだろうし、現に俺たちが他の人より気にかける度合いは高くなる。ほら、俺たち警察だから。」
顔を下げたまま頷く。それは当たり前のことで私自身も他者の助けがないと出来ない事は多い。けれど言葉にするとやっぱり壁を感じた。
そんな私に萩原さんはでも、と言葉を続ける。
「それ以前に俺たちはかなえちゃんの友達なんだ。警察とかは関係ない。ダチが困ってるのに無視するなんてありえねぇよ。」
はっと、顔を上げた。
勿論萩原さんの顔は見えなかった。けれど彼は私の手をすっと引き自身の顔に導いてくれた。指先に伝わる萩原さんの顔は確かに口角を緩やかに上げ、優しい形をしていた。思えば彼らは常日頃から私が迷惑だなんて言動で否定してくれていたのに、新ちゃんの姉なのに守れない不甲斐なさや悔しさから八つ当たりをしてしまった。
途端に申し訳ないやら照れるやらで顔が熱くなる。友達、か。なんだか久しぶりに聞いた気がするそのフレーズがじわじわと心を暖かくさせた。
…でも、だからこそ言えない。言うわけにはいかないのだ。
「ありがとうございます。…でも、ごめんなさい。新ちゃんと約束したから、言えません。」
「…まぁ、そう言うわな。だってよ陣平ちゃん!」
成り行きを見守っていてくれていたのだろう。黙っていた松田さんは1つ大きなため息をこぼしてから、やれやれと言う感じで私の頭に手を置いた。
「ったく…。やべぇと思ったら問答無用だからな。」
「っはい!」
「ほんとに分かってんのか?」
嬉しくて思わず笑う私の頭を松田さんはぐりぐりと押さえる。痛たたた。
「いや〜、でもかなえちゃんの本音がちょっとでも分かってよかったわ!」
「うっ…、ごめんなさい……。」
「俺はもっと仲良くなれた気がして嬉しかったぜ?でも、かなえちゃんだけってのはフェアじゃねぇよな。」
含みのある言い方だ。
なんだろうかと首を傾げる私の頭上にある腕が緊張したかのように力が入った。
「おい待てハギ。」
「陣平ちゃん、この前失恋したんだぜ。」
「てめぇっ!!」
「え? それ本当?!誰ですか?!」
萩原さんの笑い声に松田さんの怒号が被さった。それを気にすることなく黄色い声で詳細聞く私に松田さんが更に切れたのは言うまでもない。
その日の夜、私はもう一度家の中を確認してみた。と言っても見えないから触ることしか出来ないけれど。
2人は何もないと言っていたし、まぁ当たり前かと何事もなく全ての部屋の確認が終わった。
と、ふと、新ちゃんが昔着ていた子供服が入っていたタンスが気になった。取っ手を触り引っ張って中を手で確かめる。そこには何もない。当然だ、今は蘭ちゃんの所にあるんだから。
「…気のせいかな。」
やっぱり気を張りすぎているのかもしれない。
タンスの引き出しを戻し部屋を後にする。
鼻腔を病院のような匂いが擽ったが、気に留めることなく扉を閉めた。
「さて、説明してもらおうか。」
松田さんの声が重々しく聞こえるのは罪悪感のせいだろうか。自分家なのに居心地が悪すぎる。
「それよりお茶持って来ましょうか…?」
「あ、お構いなく〜。」
速攻で却下された。ちくしょうと浮いた腰をまたソファに沈める。ただちょっと言い訳を考える時間が欲しいだけだのに…。因みに言い間違えたはもう言ったしとぼけもしてみたがこの状況を見れば結果はお察しだろう。
はぁ、と1人バレないようため息をつく。お母さんや新ちゃんなら露知らず、私に隠し事なんて無理だ。向いてない。かと言って全部喋るなんて出来ないわけで、通じないとは分かっていても無言を貫くしかなかった。
「それで?今度は何に首突っ込んだんだよ。」
「…。」
「無言ってことはお前も噛んでんのか。」
「…。」
「あのなぁ、黙ってたって分かんねぇんだよ。」
「陣平ちゃん。」
痺れを切らしたように語気を強めた松田さんに萩原さんが咎めるように名前を被せた。そしてそのまま優しく穏やかな声音で、しかし逃れられない事を言う。
「でも正直な話、危険なことに巻き込まれてるなら見過ごせない。」
ぐっと喉が詰まる。
2人は警察だし私が普通の人よりハンデがあるからなのは理解出来るが、こんな取り調べのような事をされてはまるで犯人みたいだ。普段事件に首を突っ込む新ちゃんのことは、心配してても最後には笑って許してるのにと気分が暗くなる。だからついポロッと口が滑ってしまった。
「私の目が見えないから?」
「お前…。」
「かなえちゃん…。」
しまった。
咄嗟に口を手で押さえるも1度言ったことがなかったことになる訳もなく自分の言葉に顔から血の気が引いた。
こんな事言うはずではなかったのに、しかも事実厄介事に巻き込まれてると認めるようなものだ。
慌てて違うのだと声を上げようとした私の手を暖かく節くれだった手が包み込んだ。
「確かにかなえちゃんは人よりハンデがある。」
怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもない萩原さんの声に耳の神経が集中する。
「それで苦労することもあるだろうし、現に俺たちが他の人より気にかける度合いは高くなる。ほら、俺たち警察だから。」
顔を下げたまま頷く。それは当たり前のことで私自身も他者の助けがないと出来ない事は多い。けれど言葉にするとやっぱり壁を感じた。
そんな私に萩原さんはでも、と言葉を続ける。
「それ以前に俺たちはかなえちゃんの友達なんだ。警察とかは関係ない。ダチが困ってるのに無視するなんてありえねぇよ。」
はっと、顔を上げた。
勿論萩原さんの顔は見えなかった。けれど彼は私の手をすっと引き自身の顔に導いてくれた。指先に伝わる萩原さんの顔は確かに口角を緩やかに上げ、優しい形をしていた。思えば彼らは常日頃から私が迷惑だなんて言動で否定してくれていたのに、新ちゃんの姉なのに守れない不甲斐なさや悔しさから八つ当たりをしてしまった。
途端に申し訳ないやら照れるやらで顔が熱くなる。友達、か。なんだか久しぶりに聞いた気がするそのフレーズがじわじわと心を暖かくさせた。
…でも、だからこそ言えない。言うわけにはいかないのだ。
「ありがとうございます。…でも、ごめんなさい。新ちゃんと約束したから、言えません。」
「…まぁ、そう言うわな。だってよ陣平ちゃん!」
成り行きを見守っていてくれていたのだろう。黙っていた松田さんは1つ大きなため息をこぼしてから、やれやれと言う感じで私の頭に手を置いた。
「ったく…。やべぇと思ったら問答無用だからな。」
「っはい!」
「ほんとに分かってんのか?」
嬉しくて思わず笑う私の頭を松田さんはぐりぐりと押さえる。痛たたた。
「いや〜、でもかなえちゃんの本音がちょっとでも分かってよかったわ!」
「うっ…、ごめんなさい……。」
「俺はもっと仲良くなれた気がして嬉しかったぜ?でも、かなえちゃんだけってのはフェアじゃねぇよな。」
含みのある言い方だ。
なんだろうかと首を傾げる私の頭上にある腕が緊張したかのように力が入った。
「おい待てハギ。」
「陣平ちゃん、この前失恋したんだぜ。」
「てめぇっ!!」
「え? それ本当?!誰ですか?!」
萩原さんの笑い声に松田さんの怒号が被さった。それを気にすることなく黄色い声で詳細聞く私に松田さんが更に切れたのは言うまでもない。
その日の夜、私はもう一度家の中を確認してみた。と言っても見えないから触ることしか出来ないけれど。
2人は何もないと言っていたし、まぁ当たり前かと何事もなく全ての部屋の確認が終わった。
と、ふと、新ちゃんが昔着ていた子供服が入っていたタンスが気になった。取っ手を触り引っ張って中を手で確かめる。そこには何もない。当然だ、今は蘭ちゃんの所にあるんだから。
「…気のせいかな。」
やっぱり気を張りすぎているのかもしれない。
タンスの引き出しを戻し部屋を後にする。
鼻腔を病院のような匂いが擽ったが、気に留めることなく扉を閉めた。