華の元JK、空を飛ぶ
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物心ついた時から世界には2人しかいなかった。
初めからこの街にいたのか、途中からこの街に来たのかはもう覚えていない。ただ寒い夜は薄く頼りない布でお互いを包み、積荷からくすねたリンゴは半分ずつ食べ、大切なものを奪われた時は2人で力を合わせて奪い返した。
何をするにも一緒で、どんな時でもどんな事でも共有してきたカトルとエッセルは、シエテに会った後も十天衆になった今でも変わらず分け合うのが当たり前だった。
吹き抜ける空の下停留したグランサイファーの看板には大小様々なシーツが所狭しと風に靡いている。
ここ最近忙しかったため今日はこの騎空艇全体をオフにしており急ではない限りは一切の依頼を断っている。朝から掃除をしたり料理をしたり小型艇で買い物に出かけたりと団員達も各々有意義に過ごしていた。かく言う私[#dc=1#]も掃除を一段落させたばかりで、一息つこうと看板から空を眺めていた。
何時もは忙しく気にもとめなかったが、やはり艇が空を飛ぶとは何とも不可思議な現象だ。空気抵抗、風圧との摩擦、燃料や重量。どれも魔法なんて言葉で片付けられているが当初は顎が外れてしまうのではないかと思うほど驚愕したものだ。流石に今は大袈裟に驚くこともなくなったが未だに浮遊している島の海水はどういう仕組みになっているか疑問だし、前世の物と類似した物はあるしで、たまに居心地が悪くなる。口が裂けても言えないが。
流れる雲を見つめながらマスクを顎まで下げ、作ったばかりの雲パンを包んでいたキッチンペーパーから取り出し齧り付く。うん、ふわふわしてない。チョコ味で美味しいけどペシャンコだ。どうしてこう料理下手かなともそもそ口を動かし続けていると頬を撫でる柔らかい風と共に聞き馴染んだ声が届いた。
すぐさまくるりと身体を捻り声の主を見やると自然と口元が緩む。
「エッセルさん、カトル君。おかえりなさい。」
「ただいま。」
「ただいま戻りました、スイさん。」
十天衆でお揃いだと言う白いマントを纏い双子のエルーンーエッセルさんとカトル君がこちらへと向かってくる。
先日2人の故郷である星屑の街で大きな事件があり、その後始末のためこの艇を長期で離れたのは記憶に新しい。私達も復旧作業を手伝っていたが次々舞い込む依頼に途中で離れてしまい申し訳なかったが、戻って来たということはひと段落ついたのだろう。
「復興の方はどう?」
「ん、順調だよ。スーオファミリーの人も手伝ってくれてるし。」
「はっ、マイファの薄汚い手を借りるなんて腸煮えくり返りそうですけどね。」
「カトル…。」
「はは。カトル君、反抗期だ。」
「はぁ?!」
顔を歪めたカトル君にエッセルさんと顔を見合わせ笑った。入団した時はエッセルさん以外には一線引いた態度で同じ十天衆の人達でさえ寄れば斬るみたいな感じだったのに、随分と慣れたものだと思う。こんな風に揶揄う事が出来る日が来るとは、月日の流れは感慨深い。
そのまま去るかと思ったが2人は私を挟み同じように柵から景色を眺め始めた。暫くは私と共にいるらしく、手持ち無沙汰になったのでまだ食べてない端の方を手頃な大きさにちぎって2人に分けた。
「へぇ、料理出来たんですね。」
「簡単なやつならどうにかこうにか。味の保証はないけどね。」
「ん、美味しいよ。でもこれは…パン?」
「パンであってる、一応。」
苦笑しながら言うとカトル君に鼻で笑われた。さっきの事を根に持っているな。まぁ料理が下手なのは事実なので言い返しはしないが、エッセルさんの爪の垢でも煎じて飲めばもう少し優しくなるんじゃないかなとは思った。優しいカトル君なんて不気味だけれど。
「今失礼なこと考えませんでしたか。」
「いいえ?ただエッセルさんみたいに優しいカトル君は気味悪いなぁって。」
「やっぱり考えてるじゃねぇか!」
「わー、エッセルさぁん。」
キャーっとわざと悲鳴を上げエッセルさんの背後へと回り込む前にぐっと服を引っ張られ捕まった私をカトル君は遠慮なく締め上げ始めた。
「クソガキ、躾し直してやるよ。」
「し直すも何もされた事ないし、なんならクソガキはカトル君のほ、待ってギブギブっ。」
「カトル、あんまりやり過ぎたらダメだよ。」
「止めてはくれないのねっ。」
ぐぇっとカエルの潰れたような声を出す私におかしそうに笑い出す2人。
首に回った腕をタップしながらこんな休日も悪くないかと、午後の予定を聞くため口を開いた。
珍しく年相応に笑っているスイと楽しそうに口を弾ませる弟にエッセルはふと、昔を思い出した。
物心ついた時から世界には2人しかいなかった。
寒い夜は薄く頼りない布でお互いを包み、積荷からくすねたリンゴは半分ずつ食べ、大切なものを奪われた時は2人で力を合わせて奪い返した。
何をするにも一緒で、どんな時でもどんな事でも共有してきたカトルとエッセルは、シエテに会った後も十天衆になった今でも変わらず分け合うのが当たり前だった。
『ごめん姉さん。スイさんは、スイさんだけは、分けてあげられない。』
いつかは忘れた。
そう言ったカトルにけれどショックを受けることはなく、エッセルは言い様のない暖かなもので満たされるのを感じた。
「そして実はまだあのパン数個残ってるだよね。」
「どんだけ作ったんですか。まぁ、不味くはなかったから仕方なく貰ってあげますよ。」
「有難い。優しくないとか言ってごめんね。」
「本当ですよ。姉さんそう言う事で昼食はパンでもいいですか?」
ん、と返事をする。
先を歩く2人を見つめながらいつかの日と同じ言葉を想う。
大丈夫だよ、カトル。もう充分なくらい貰ったから。
初めからこの街にいたのか、途中からこの街に来たのかはもう覚えていない。ただ寒い夜は薄く頼りない布でお互いを包み、積荷からくすねたリンゴは半分ずつ食べ、大切なものを奪われた時は2人で力を合わせて奪い返した。
何をするにも一緒で、どんな時でもどんな事でも共有してきたカトルとエッセルは、シエテに会った後も十天衆になった今でも変わらず分け合うのが当たり前だった。
吹き抜ける空の下停留したグランサイファーの看板には大小様々なシーツが所狭しと風に靡いている。
ここ最近忙しかったため今日はこの騎空艇全体をオフにしており急ではない限りは一切の依頼を断っている。朝から掃除をしたり料理をしたり小型艇で買い物に出かけたりと団員達も各々有意義に過ごしていた。かく言う私[#dc=1#]も掃除を一段落させたばかりで、一息つこうと看板から空を眺めていた。
何時もは忙しく気にもとめなかったが、やはり艇が空を飛ぶとは何とも不可思議な現象だ。空気抵抗、風圧との摩擦、燃料や重量。どれも魔法なんて言葉で片付けられているが当初は顎が外れてしまうのではないかと思うほど驚愕したものだ。流石に今は大袈裟に驚くこともなくなったが未だに浮遊している島の海水はどういう仕組みになっているか疑問だし、前世の物と類似した物はあるしで、たまに居心地が悪くなる。口が裂けても言えないが。
流れる雲を見つめながらマスクを顎まで下げ、作ったばかりの雲パンを包んでいたキッチンペーパーから取り出し齧り付く。うん、ふわふわしてない。チョコ味で美味しいけどペシャンコだ。どうしてこう料理下手かなともそもそ口を動かし続けていると頬を撫でる柔らかい風と共に聞き馴染んだ声が届いた。
すぐさまくるりと身体を捻り声の主を見やると自然と口元が緩む。
「エッセルさん、カトル君。おかえりなさい。」
「ただいま。」
「ただいま戻りました、スイさん。」
十天衆でお揃いだと言う白いマントを纏い双子のエルーンーエッセルさんとカトル君がこちらへと向かってくる。
先日2人の故郷である星屑の街で大きな事件があり、その後始末のためこの艇を長期で離れたのは記憶に新しい。私達も復旧作業を手伝っていたが次々舞い込む依頼に途中で離れてしまい申し訳なかったが、戻って来たということはひと段落ついたのだろう。
「復興の方はどう?」
「ん、順調だよ。スーオファミリーの人も手伝ってくれてるし。」
「はっ、マイファの薄汚い手を借りるなんて腸煮えくり返りそうですけどね。」
「カトル…。」
「はは。カトル君、反抗期だ。」
「はぁ?!」
顔を歪めたカトル君にエッセルさんと顔を見合わせ笑った。入団した時はエッセルさん以外には一線引いた態度で同じ十天衆の人達でさえ寄れば斬るみたいな感じだったのに、随分と慣れたものだと思う。こんな風に揶揄う事が出来る日が来るとは、月日の流れは感慨深い。
そのまま去るかと思ったが2人は私を挟み同じように柵から景色を眺め始めた。暫くは私と共にいるらしく、手持ち無沙汰になったのでまだ食べてない端の方を手頃な大きさにちぎって2人に分けた。
「へぇ、料理出来たんですね。」
「簡単なやつならどうにかこうにか。味の保証はないけどね。」
「ん、美味しいよ。でもこれは…パン?」
「パンであってる、一応。」
苦笑しながら言うとカトル君に鼻で笑われた。さっきの事を根に持っているな。まぁ料理が下手なのは事実なので言い返しはしないが、エッセルさんの爪の垢でも煎じて飲めばもう少し優しくなるんじゃないかなとは思った。優しいカトル君なんて不気味だけれど。
「今失礼なこと考えませんでしたか。」
「いいえ?ただエッセルさんみたいに優しいカトル君は気味悪いなぁって。」
「やっぱり考えてるじゃねぇか!」
「わー、エッセルさぁん。」
キャーっとわざと悲鳴を上げエッセルさんの背後へと回り込む前にぐっと服を引っ張られ捕まった私をカトル君は遠慮なく締め上げ始めた。
「クソガキ、躾し直してやるよ。」
「し直すも何もされた事ないし、なんならクソガキはカトル君のほ、待ってギブギブっ。」
「カトル、あんまりやり過ぎたらダメだよ。」
「止めてはくれないのねっ。」
ぐぇっとカエルの潰れたような声を出す私におかしそうに笑い出す2人。
首に回った腕をタップしながらこんな休日も悪くないかと、午後の予定を聞くため口を開いた。
珍しく年相応に笑っているスイと楽しそうに口を弾ませる弟にエッセルはふと、昔を思い出した。
物心ついた時から世界には2人しかいなかった。
寒い夜は薄く頼りない布でお互いを包み、積荷からくすねたリンゴは半分ずつ食べ、大切なものを奪われた時は2人で力を合わせて奪い返した。
何をするにも一緒で、どんな時でもどんな事でも共有してきたカトルとエッセルは、シエテに会った後も十天衆になった今でも変わらず分け合うのが当たり前だった。
『ごめん姉さん。スイさんは、スイさんだけは、分けてあげられない。』
いつかは忘れた。
そう言ったカトルにけれどショックを受けることはなく、エッセルは言い様のない暖かなもので満たされるのを感じた。
「そして実はまだあのパン数個残ってるだよね。」
「どんだけ作ったんですか。まぁ、不味くはなかったから仕方なく貰ってあげますよ。」
「有難い。優しくないとか言ってごめんね。」
「本当ですよ。姉さんそう言う事で昼食はパンでもいいですか?」
ん、と返事をする。
先を歩く2人を見つめながらいつかの日と同じ言葉を想う。
大丈夫だよ、カトル。もう充分なくらい貰ったから。