華の元JK、空を飛ぶ
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がやがやと人が奏でる音にこの街の賑わいを感じながら隣に立つユーステスさんに声をかける。
「すみません、お付き合いいただいて。」
「問題ない。」
一瞥もなく端的に言う彼に申し訳なく思いながら船を出る際のことを思い出す。
財布とその他諸々必要なものを鞄に詰め部屋を出る。お昼にはまだ時間があるが買い物が終われば良い時間になるだろうと、外で食べて来ることをロジーヌさんに伝え甲板に出ると午後からの討伐に行くグランに声を掛けられた。
「スイ、悪いけど買い物ついでにシェロさんから荷物貰って来てくれない?今日届くはずなんだ。」
「いいよ。何時くらいに取りに行くとかある?」
「時間は大丈夫、お金も払ってある。ただ、小分けな分量が多くて…。」
「また何かややこしいの買ったんだ。分かったよ、受け取って来る。」
「いや、でも往復とかなったら悪いな…。あ、丁度いいところに。おーい!ユーステスー!!」
後方に向かい大声を出すグランに振り返って目を向ける。何処かへと歩いていたエルーンの男性ーユーステスさんはその声に反応するとこちら側に方向を変えその足を進めた。
「どうした団長。」
「ごめんいきなり。シェロさんの所から荷物を貰って来て欲しいんだけどちょっと量が多くて。スイだけじゃ心配だから一緒にお願いできる?」
「俺は構わないが…。」
ちらりとこちらを見下ろす左目に軽く頭を下げる。1人で動きたかったが仕方ない。何往復するのも億劫なのでお言葉に甘えさせていただいた。
それに先にシェロさんの所を済ませてしまえば後は当初の予定通りに私もユーステスさんも動けるので、すぐさま荷物を取りに行った。
シェロさんの心遣いにより小分けの部品は大きめの箱2箱分に纏められており往復する必要はなかったのだが、これなら私1人でも十分だったなとユーステスさんに申し訳なくなる。
「荷物、私1人でも大丈夫そうですね。すみません来ていただいたのに。」
「それは構わないが…。おい。」
低く感情のあまり乗らない声がシェロさんを呼ぶ。
「はいは〜い、どうされましたか〜?」
「まだ預かることは可能か。」
「今日中でしたら何時でも構いませんよ〜。」
いきなりの言葉に困惑しているとシェロさんから顔を私に向けたユーステスさんはまた口を開く。
「これを抱えたまま用事を済ませるのは効率が悪い。買い物を終わらせ最後に取りに来ればそのまま騎空艇へと帰れる。行くぞ、最初は何処だ。」
「えっと、それはそうですけど。一緒に来るんですか?」
「?そのつもりだが、悪いか。」
「いや、ユーステスさん自身にもご予定があるのでは?」
「ない。」
一刀両断で首を傾げる彼にこちらが疑問に思いたいほどだった。
ユーステスさんはビィとグラン、ルリアちゃんにはとても心を開いているようでよく4人で笑いあったり出かけたりするのを目撃する。組織の人達は言わずもがなだが、同じ犬好きの団員と会話を弾ませているのも最近ではよく見かける。
逆に私はというと挨拶をしたり依頼の話をしたりはするが、これといって交流はない。まぁ彼が騎空艇に乗る際ちょっと面倒臭い事を言ってしまい煙たがられている自覚はあるので当然っちゃ当然なのだが、何故今日はこんな積極的なのか困惑する。
どう返したものかと言葉を探しあぐねていると痺れを切らしたのか開いていた距離を詰め私の手を取る。
「時間が惜しい。行くぞ。」
また後ほど〜。
シェロさんの声が聞こえる頃にはもう店を出た後で、私は互いのグローブ越しに体温を感じながら賑わう街へと繰り出していた。
朝食の定番であるヨーグルトを買い込み楽器屋で新しい楽譜とファイルを買う。その際私が買った物にも関わらず全て彼が袋を持ってくれ、見事荷物持ちにしてしまった。
イケメンと連れ立って歩くのは周りの目が痛いし何より他人に持たせるという罪悪感が半端じゃなくなった私は正午を告げる鐘の音にこれ幸いと近くのレストランへと誘った。
お互いに注文が決まりウェイターに伝え終わると2人の間に沈黙が流れる。別段苦になるような静けさでもないので料理が来るまでの間、窓から見える人々の往来を眺めていた。
「有名なんだな。」
あ、転んだ。
勢いよくスライディングしたまだ年端もいかない幼女に駆け寄る母親らしき女性。その光景に遠い昔を重ねマスクの下で口角を上げた私に珈琲を飲んでいたユーステスさんが口を開く。
「有名…ああ、楽器屋の事ですか?」
「ああ。」
窓から顔をユーステスさんの方へと向け先程の出来事を振り返る。
この世界で自分の伸ばせる力がピアノしかなかった時、文字通り血反吐を吐くような努力をして全空一を手に入れた。
その過程で生まれたファンという存在の1人がさっきの楽器屋の店主だったのだ。
握手とサインと、2、3語言葉を交わす。何も特別ではないその光景に、そう言えば彼がほんの少しだけ目を丸くしていたのを思い出した。
「まぁこれでも全空一を1回は取ってますからね。界隈ではそこそこ有名なんですよ。」
「そうなのか…。」
そしてまた訪れる沈黙。
しかし先程と少し違う空気に何となく今回のユーステスさんの目的が解った気がして今度はこちらから声を掛けた。
「…何か言いたい事があるんですか?」
珍しく口篭り視線を下げた彼は、けれどまた顔を上げそのびいどろのような薄い青の瞳に私を映す。
「騎空艇に乗る際俺に言った言葉を覚えてるか。」
「えぇ、まぁ。」
ー組織にとっても異端ですもんねー
全てが理解できた訳ではなかったが、それでも今までの会話と行動内容からして良い意味での入団ではないと私の脳が告げていた。正直実力差は歴然としており万に一つも望みは薄かったがそれでもグランにもルリアちゃんにも手を出すなと牽制だけはしておきたかったのだ。
「正直目的に気づくはずがないと思っていた。」
「まぁあの3人は箱入りな部分がありますからね…。」
「気づかれたとしても実力差は埋まらないだろうとも、な。…だがあの牽制が無ければもっと速くに任務を遂行していただろう。平穏と静寂を守れたのはスイ、お前のおかげだ。」
意外な言葉に目を瞬かせる。
目じりを下げ優しく微笑むその姿は遠目から見たグラン達に全身で愛おしさを表していたのと酷く類似しており、無性に恥ずかしくなってしまった。
「嫌い、までいくかは分かりませんでしたけど、煙たがられてると思ってました。」
「グランとルリアは仕方ないが、組織はまだお前のことはノーマークだ。わざわざ危険に晒す必要もないだろう。」
傷ついたのなら、すまない。
どことなく垂れた耳に誤解していたことを謝ろうと口を開くも美味しそうな香りと共に料理が運ばれてきてしまった。
あぁ、食事をするのにマスクを外さなければいけないが赤くなる頬が治まるまでもう暫く着けていようと、心配するユーステスさんに苦笑し手で顔を扇いだ。
結局荷物は全てユーステスさんが1人で持ってしまい、罪悪感と、袋と箱を器用に抱えるそのバランス感覚への感心とで綯い交ぜになりながら艇へと戻った。
「いやー、ありがとう2人とも!重かったでしょ?」
「問題ない。」
グランの言葉に一層申し訳なくなる。
私今回なんにもしていない。
すると再度彼は問題ないとあのむず痒くなる優しい瞳と柔らかい声音で言った。
「結局食事代も出して頂きましたし…。いや、本当に私の気が済まないので、何かお礼を…。」
といっても叶えられることなどたかが知れてるわけで。言ってからあ、お茶にでも誘えばよかったと後悔する。
「礼、か…。なら時間の空いた時でいい。俺の故郷の曲を一曲弾いてくれないか。」
意外なリクエストに目を丸くする。
勝手なイメージなのだが音楽にはあまり興味無いと思っていた。
「駄目か。」
「いいえ!是非弾かせてください。…なら、その後でも良いので一緒にお茶でも如何ですか?」
今度は完璧に垂れてしまった耳に急いで紡いだ私の言葉を聞いて、ユーステスさんはその端正な顔を緩め頷く。次回までに楽譜を用意しようと約束を交した所で生暖かい視線が向けられているのに気づいた。
「…なに。」
同じように丸めていたクセに今じゃ心底愉快そうに目を細めにやにやとする口を隠しもせず腕を組むグランをじろりと睨む。
「うん、うんうん。仲直りしてよかった!」
まず喧嘩してないし、とは面倒臭いので言わないが、それでも箱入りのくせに妙に察しのいい弟に悪態を着くと頭上でふっと笑う声が聞こえた。
「すみません、お付き合いいただいて。」
「問題ない。」
一瞥もなく端的に言う彼に申し訳なく思いながら船を出る際のことを思い出す。
財布とその他諸々必要なものを鞄に詰め部屋を出る。お昼にはまだ時間があるが買い物が終われば良い時間になるだろうと、外で食べて来ることをロジーヌさんに伝え甲板に出ると午後からの討伐に行くグランに声を掛けられた。
「スイ、悪いけど買い物ついでにシェロさんから荷物貰って来てくれない?今日届くはずなんだ。」
「いいよ。何時くらいに取りに行くとかある?」
「時間は大丈夫、お金も払ってある。ただ、小分けな分量が多くて…。」
「また何かややこしいの買ったんだ。分かったよ、受け取って来る。」
「いや、でも往復とかなったら悪いな…。あ、丁度いいところに。おーい!ユーステスー!!」
後方に向かい大声を出すグランに振り返って目を向ける。何処かへと歩いていたエルーンの男性ーユーステスさんはその声に反応するとこちら側に方向を変えその足を進めた。
「どうした団長。」
「ごめんいきなり。シェロさんの所から荷物を貰って来て欲しいんだけどちょっと量が多くて。スイだけじゃ心配だから一緒にお願いできる?」
「俺は構わないが…。」
ちらりとこちらを見下ろす左目に軽く頭を下げる。1人で動きたかったが仕方ない。何往復するのも億劫なのでお言葉に甘えさせていただいた。
それに先にシェロさんの所を済ませてしまえば後は当初の予定通りに私もユーステスさんも動けるので、すぐさま荷物を取りに行った。
シェロさんの心遣いにより小分けの部品は大きめの箱2箱分に纏められており往復する必要はなかったのだが、これなら私1人でも十分だったなとユーステスさんに申し訳なくなる。
「荷物、私1人でも大丈夫そうですね。すみません来ていただいたのに。」
「それは構わないが…。おい。」
低く感情のあまり乗らない声がシェロさんを呼ぶ。
「はいは〜い、どうされましたか〜?」
「まだ預かることは可能か。」
「今日中でしたら何時でも構いませんよ〜。」
いきなりの言葉に困惑しているとシェロさんから顔を私に向けたユーステスさんはまた口を開く。
「これを抱えたまま用事を済ませるのは効率が悪い。買い物を終わらせ最後に取りに来ればそのまま騎空艇へと帰れる。行くぞ、最初は何処だ。」
「えっと、それはそうですけど。一緒に来るんですか?」
「?そのつもりだが、悪いか。」
「いや、ユーステスさん自身にもご予定があるのでは?」
「ない。」
一刀両断で首を傾げる彼にこちらが疑問に思いたいほどだった。
ユーステスさんはビィとグラン、ルリアちゃんにはとても心を開いているようでよく4人で笑いあったり出かけたりするのを目撃する。組織の人達は言わずもがなだが、同じ犬好きの団員と会話を弾ませているのも最近ではよく見かける。
逆に私はというと挨拶をしたり依頼の話をしたりはするが、これといって交流はない。まぁ彼が騎空艇に乗る際ちょっと面倒臭い事を言ってしまい煙たがられている自覚はあるので当然っちゃ当然なのだが、何故今日はこんな積極的なのか困惑する。
どう返したものかと言葉を探しあぐねていると痺れを切らしたのか開いていた距離を詰め私の手を取る。
「時間が惜しい。行くぞ。」
また後ほど〜。
シェロさんの声が聞こえる頃にはもう店を出た後で、私は互いのグローブ越しに体温を感じながら賑わう街へと繰り出していた。
朝食の定番であるヨーグルトを買い込み楽器屋で新しい楽譜とファイルを買う。その際私が買った物にも関わらず全て彼が袋を持ってくれ、見事荷物持ちにしてしまった。
イケメンと連れ立って歩くのは周りの目が痛いし何より他人に持たせるという罪悪感が半端じゃなくなった私は正午を告げる鐘の音にこれ幸いと近くのレストランへと誘った。
お互いに注文が決まりウェイターに伝え終わると2人の間に沈黙が流れる。別段苦になるような静けさでもないので料理が来るまでの間、窓から見える人々の往来を眺めていた。
「有名なんだな。」
あ、転んだ。
勢いよくスライディングしたまだ年端もいかない幼女に駆け寄る母親らしき女性。その光景に遠い昔を重ねマスクの下で口角を上げた私に珈琲を飲んでいたユーステスさんが口を開く。
「有名…ああ、楽器屋の事ですか?」
「ああ。」
窓から顔をユーステスさんの方へと向け先程の出来事を振り返る。
この世界で自分の伸ばせる力がピアノしかなかった時、文字通り血反吐を吐くような努力をして全空一を手に入れた。
その過程で生まれたファンという存在の1人がさっきの楽器屋の店主だったのだ。
握手とサインと、2、3語言葉を交わす。何も特別ではないその光景に、そう言えば彼がほんの少しだけ目を丸くしていたのを思い出した。
「まぁこれでも全空一を1回は取ってますからね。界隈ではそこそこ有名なんですよ。」
「そうなのか…。」
そしてまた訪れる沈黙。
しかし先程と少し違う空気に何となく今回のユーステスさんの目的が解った気がして今度はこちらから声を掛けた。
「…何か言いたい事があるんですか?」
珍しく口篭り視線を下げた彼は、けれどまた顔を上げそのびいどろのような薄い青の瞳に私を映す。
「騎空艇に乗る際俺に言った言葉を覚えてるか。」
「えぇ、まぁ。」
ー組織にとっても異端ですもんねー
全てが理解できた訳ではなかったが、それでも今までの会話と行動内容からして良い意味での入団ではないと私の脳が告げていた。正直実力差は歴然としており万に一つも望みは薄かったがそれでもグランにもルリアちゃんにも手を出すなと牽制だけはしておきたかったのだ。
「正直目的に気づくはずがないと思っていた。」
「まぁあの3人は箱入りな部分がありますからね…。」
「気づかれたとしても実力差は埋まらないだろうとも、な。…だがあの牽制が無ければもっと速くに任務を遂行していただろう。平穏と静寂を守れたのはスイ、お前のおかげだ。」
意外な言葉に目を瞬かせる。
目じりを下げ優しく微笑むその姿は遠目から見たグラン達に全身で愛おしさを表していたのと酷く類似しており、無性に恥ずかしくなってしまった。
「嫌い、までいくかは分かりませんでしたけど、煙たがられてると思ってました。」
「グランとルリアは仕方ないが、組織はまだお前のことはノーマークだ。わざわざ危険に晒す必要もないだろう。」
傷ついたのなら、すまない。
どことなく垂れた耳に誤解していたことを謝ろうと口を開くも美味しそうな香りと共に料理が運ばれてきてしまった。
あぁ、食事をするのにマスクを外さなければいけないが赤くなる頬が治まるまでもう暫く着けていようと、心配するユーステスさんに苦笑し手で顔を扇いだ。
結局荷物は全てユーステスさんが1人で持ってしまい、罪悪感と、袋と箱を器用に抱えるそのバランス感覚への感心とで綯い交ぜになりながら艇へと戻った。
「いやー、ありがとう2人とも!重かったでしょ?」
「問題ない。」
グランの言葉に一層申し訳なくなる。
私今回なんにもしていない。
すると再度彼は問題ないとあのむず痒くなる優しい瞳と柔らかい声音で言った。
「結局食事代も出して頂きましたし…。いや、本当に私の気が済まないので、何かお礼を…。」
といっても叶えられることなどたかが知れてるわけで。言ってからあ、お茶にでも誘えばよかったと後悔する。
「礼、か…。なら時間の空いた時でいい。俺の故郷の曲を一曲弾いてくれないか。」
意外なリクエストに目を丸くする。
勝手なイメージなのだが音楽にはあまり興味無いと思っていた。
「駄目か。」
「いいえ!是非弾かせてください。…なら、その後でも良いので一緒にお茶でも如何ですか?」
今度は完璧に垂れてしまった耳に急いで紡いだ私の言葉を聞いて、ユーステスさんはその端正な顔を緩め頷く。次回までに楽譜を用意しようと約束を交した所で生暖かい視線が向けられているのに気づいた。
「…なに。」
同じように丸めていたクセに今じゃ心底愉快そうに目を細めにやにやとする口を隠しもせず腕を組むグランをじろりと睨む。
「うん、うんうん。仲直りしてよかった!」
まず喧嘩してないし、とは面倒臭いので言わないが、それでも箱入りのくせに妙に察しのいい弟に悪態を着くと頭上でふっと笑う声が聞こえた。