華の元JK、空を飛ぶ
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ふと意識が浮上し瞼を持ち上げる。
目の前に広がる天井を3秒ほど見つめ脳を覚醒させた。
シーツと寝巻きの擦れる乾いた音共に上体を起こし、一晩で凝り固まった身体を伸ばす。
背が伸びる気持ちよさに意味のない母音が喉から漏れた。
時刻は朝の4時。
いつも通りの時間に目が覚めた私は支度をするため温かい布団から足を下ろした。
「おはよーございまーす。」
身だしなみを整えまず向かったのは厨房。
扉の隙間からでも香る美味しそうな匂いにマスクの下の鼻がひくつく。
「ウィーッス、フクチョ。相変わらず早起きっすね。」
片手を動かしながらお玉らしきもので鍋の中身を回す今日の料理仕込み担当の彼ーローアインさんは気だるげにこちらを振り向いた。
その際揺れた金髪に生えた動物の耳に最初こそ驚いたも今では不躾に凝視することもなく、スムーズに彼の隣へと向かう。
「癖みたいなものですから。手伝うことあります?」
「いんや、もう終わりっすね。」
「相変わらず手際いいですね、ありがとうございます。あ、この前入団した方の資料貼っときますね。軽度ですけど乳製品にアレルギーがあるみたいです。」
「さすがフクチョ、仕事マジはぇー。」
マジパネーション!と続いた言葉に少し笑ってしまう。朝早いためか少しキレが悪いのが何ともおかしかった。
やる事がないのなら居ても意味がないだろうと離れると声を掛け厨房を後にした私は鍛錬や割り振った仕事で起きていた団員達と食堂へと向かう道すがら挨拶を交わして行く。
「おはようございます、鍛錬ですか?」
「あぁ副団長か。嫌なに、歳をとるとどーも寝れなくってなぁ。それに最近夢見が悪くって一汗かいてきたところよ。」
たらりと流れた汗を拭き取りながら言うソリッズさんはとても70代には見えない。年齢を感じさせない逞しい腕と強さの秘訣はやはり日々の鍛錬なのだと感心する。まだまだ現役引退には程遠い。
「最近多いですよね悪夢。調査は進めてますが、とりあえずお疲れ様でした。風呂場は開けてあるので使ってください。」
「お、悪いねぇ。なんなら一緒に入るかい?」
いやらしさを感じさせない軽口に態と怒ったフリをすれば豪快な笑い声と共にソリッズさんは風呂場へと歩いて行った。
多くの机と椅子が並ぶ食堂は日頃の賑わいを消し閑散としている。それにほんの少しの寂しさを感じながら先程とは別の、食堂と直に繋がっている厨房の隅に設置したロッカーから掃除用具を取り出しバケツに水を組んだ。
それを邪魔にならない位置に置き、まず始めに箒とちりとりで床を掃いていく。
日々毎日掃除していても汚れやゴミは溜まるもので、多くの団員を抱え中には王族なんかもいるこの騎空艇は特に細めに清潔保持が必要になってくる。
今度お掃除ロボットでも買おうかなと考えながらゴミ箱へとゴミを乗せたちりとりを運ぶ私の耳にカチャリと扉の開く音が届いた。
「あれ?今日の担当はスイちゃんじゃなかったよね?」
箒を片手に食堂に入ってきた桃色の髪の女性ーナルメアさんはそう言って不思議そうに首を傾げた。
「おはようございます、ナルメアさん。書斎の掃除ありがとうございます。担当だったベアトリクスさんは急遽用事で昨日の晩に船を降りたんですよ。」
だから代わりですと続けるとナルメアさんはその優しい目を更に垂れさせ嬉しそうに微笑む。
「偉いねぇスイちゃん、お姉さんが頭撫でてあげよっか!」
身体への不用意な接触はあまり好きではないのだが、仕方なく私より背の低い彼女が撫でやすいように膝を曲げた。刀を握っているせいか少し硬い手のひらが右頭部を往復する。…やっぱりむず痒いな。
ナルメアさん然り他の団員然り、よくこうやって頭を撫でてくれる人はいる。最初は遠慮していたが断った後のあまりにも悲しそうな顔に良心が痛み今では甘んじてこの行為を受け止めているのだが、やはりいつまで経っても慣れない。
彼女達からしたら歳下を可愛がっているだけなのだろうけど…。純日本人だった私にはなかなかハードなスキンシップだ。
がやがやと騒がしい午前7時。
今日の朝ごはんはさくさくとしたバタークロワッサンに柔らかくふわふわとしたスクランブルエッグ、レタスとニンジンとキャベツのサラダには特性のドレッシングがかかっている。厚切りのハムはこんがりと焼き色がついており肉汁が染み出ていた。
透明な黄土色のコンソメスープには玉ねぎやじゃがいもなどが食べやすいよう1口サイズに切られており温かそうな湯気が登っている。確か、隠し味を入れていると聞いたがこの芳ばしい匂いが強いのはそのおかげなのだろう。
マスクを外し口をカップに付ける。うん、美味しい。
味が濃いものは苦手だがこれはさほど濃くなく、玉ねぎが溶け胡椒とコンソメの味がマイルドになっていた。流石ローアインさん、料理の腕は全空一だ。
「おはようスイ。掃除ありがとう。」
「おはようございます!スイさん。」
「おはようグラン、ルリアちゃん。食堂掃除は厨房で味見させてもらえるから逆に有難かったよ。」
「あはは、ベアもそれで悔しがってたよ。」
「いいなぁ、私も味見してみたいです…。」
「ルリアちゃんはまず早起きからだね。」
朝からとても爽やかな笑顔で現れた2人だが、私の言葉に途端に顔を顰めたルリアちゃんにグランと顔を見合わせ笑う。まぁ慣れてなければ4時はキツイけど今は昼の仕事を主に割り振っているルリアちゃんにもそろそろ朝の掃除をしてもらおうかと話したのは記憶に新しい。
他の人にも挨拶をしてくるというのでそうそうに会話は切り上げ、グランとルリアちゃんは団員達がいる食堂の中央へと向かって行った。
楽しそうに会話するクラリスさん達とグラン、ルリアを遠目にハムにフォークを立てる。
隅とは言わないがこの広い食堂内で私が座る位置は必ず端にしている。
人と会話するのが苦手とか誰かと食事するのが嫌とかではないのだが元々の性格ゆえか奥に奥にとつめて座ってしまうのだ。
よく真ん中に、もっと広い場所にと言ってくれる人もいるがもうこの場所が定位置になってしまっているので今更変えるのも何だか落ち着かない。故に、私個人に用があったり席が空いていなかったりしない限りは1人の食事を楽しんでいる。
「お、おはようスイさん…。」
「おはようニーアさん。」
紫がかった黒い長髪を揺蕩わせながらトレーを持ち近ずいてきたエルーンの少女ーニーアさんの意図を組み対面の椅子を勧める。
するとその深い隈のある目尻を緩め嬉しそうに髪と同じ色の獣耳を動かしながら着席した。
「今日は、食堂のご飯なんだね…。」
「うん、ストックが切れちゃってね。丁度いいかなと思って。」
この食堂では何も厨房が出した料理を必ず食べなければいけないという訳ではない。私のように自分で用意する者もいれば全く食べない人もいる。まぁ三食団のものを食べる人の方が大多数なのだが。
ニーアさんも例に漏れずここの食事を気に入っており三食必ず食べている。
「なら、今日は、街へ買い物に…?」
「そうだね。楽譜ファイルも新しいのが欲しいし、今日は私がする依頼もないからお昼前には出るつもり。」
今日の依頼を受けるメンバーや魔物の討伐メンバーに自分の名前はなかったので久しぶりの休みを利用して足りなくなったものや欲しいものを買いに行こうと考えていた。
それをそのまま伝えると彼女は頭を少し下げモジモジと身体を揺らし、その赤褐色の瞳を忙しなく動かす。そして意を決したように勢いよく顔を上げると私を見つめ若干震えた小さな唇を動かす。
「あ、じゃ、じゃあ、あの嫌じゃなければだけど、私も一緒に、行ってもいい…?」
入団した当初、グランの配慮で私が彼女の世話役をしていた。そこで自分と私の境遇が似通っていると知った彼女は世話役の任を解かれた後もよく私に懐いてくれた。しかし私と同じ俗に言う"重い"の分類に入る彼女はその無自覚さからちょっと副団長として動きにくくなるくらいには私にかまけてしまった過去があるので、今は出来る限り穏便に済む範囲の関係を保っている。想われることは有難いことなのだが仕事に支障をきたしたくはない。
「ごめんね、今日は1人で動きたくて。また今度お休み合わせてお出かけしよう?」
「!うん!!」
断りながらもフォローを入れた私の視界の隅で成り行きを見守っていたロゼッタさんが親指を立てたのが映る。
それに反応は示さずそのいつかの休日の予定をもう楽しそうに立てているニーアさんに苦笑しながら最後のクロワッサンを一口飲み込んだ。
目の前に広がる天井を3秒ほど見つめ脳を覚醒させた。
シーツと寝巻きの擦れる乾いた音共に上体を起こし、一晩で凝り固まった身体を伸ばす。
背が伸びる気持ちよさに意味のない母音が喉から漏れた。
時刻は朝の4時。
いつも通りの時間に目が覚めた私は支度をするため温かい布団から足を下ろした。
「おはよーございまーす。」
身だしなみを整えまず向かったのは厨房。
扉の隙間からでも香る美味しそうな匂いにマスクの下の鼻がひくつく。
「ウィーッス、フクチョ。相変わらず早起きっすね。」
片手を動かしながらお玉らしきもので鍋の中身を回す今日の料理仕込み担当の彼ーローアインさんは気だるげにこちらを振り向いた。
その際揺れた金髪に生えた動物の耳に最初こそ驚いたも今では不躾に凝視することもなく、スムーズに彼の隣へと向かう。
「癖みたいなものですから。手伝うことあります?」
「いんや、もう終わりっすね。」
「相変わらず手際いいですね、ありがとうございます。あ、この前入団した方の資料貼っときますね。軽度ですけど乳製品にアレルギーがあるみたいです。」
「さすがフクチョ、仕事マジはぇー。」
マジパネーション!と続いた言葉に少し笑ってしまう。朝早いためか少しキレが悪いのが何ともおかしかった。
やる事がないのなら居ても意味がないだろうと離れると声を掛け厨房を後にした私は鍛錬や割り振った仕事で起きていた団員達と食堂へと向かう道すがら挨拶を交わして行く。
「おはようございます、鍛錬ですか?」
「あぁ副団長か。嫌なに、歳をとるとどーも寝れなくってなぁ。それに最近夢見が悪くって一汗かいてきたところよ。」
たらりと流れた汗を拭き取りながら言うソリッズさんはとても70代には見えない。年齢を感じさせない逞しい腕と強さの秘訣はやはり日々の鍛錬なのだと感心する。まだまだ現役引退には程遠い。
「最近多いですよね悪夢。調査は進めてますが、とりあえずお疲れ様でした。風呂場は開けてあるので使ってください。」
「お、悪いねぇ。なんなら一緒に入るかい?」
いやらしさを感じさせない軽口に態と怒ったフリをすれば豪快な笑い声と共にソリッズさんは風呂場へと歩いて行った。
多くの机と椅子が並ぶ食堂は日頃の賑わいを消し閑散としている。それにほんの少しの寂しさを感じながら先程とは別の、食堂と直に繋がっている厨房の隅に設置したロッカーから掃除用具を取り出しバケツに水を組んだ。
それを邪魔にならない位置に置き、まず始めに箒とちりとりで床を掃いていく。
日々毎日掃除していても汚れやゴミは溜まるもので、多くの団員を抱え中には王族なんかもいるこの騎空艇は特に細めに清潔保持が必要になってくる。
今度お掃除ロボットでも買おうかなと考えながらゴミ箱へとゴミを乗せたちりとりを運ぶ私の耳にカチャリと扉の開く音が届いた。
「あれ?今日の担当はスイちゃんじゃなかったよね?」
箒を片手に食堂に入ってきた桃色の髪の女性ーナルメアさんはそう言って不思議そうに首を傾げた。
「おはようございます、ナルメアさん。書斎の掃除ありがとうございます。担当だったベアトリクスさんは急遽用事で昨日の晩に船を降りたんですよ。」
だから代わりですと続けるとナルメアさんはその優しい目を更に垂れさせ嬉しそうに微笑む。
「偉いねぇスイちゃん、お姉さんが頭撫でてあげよっか!」
身体への不用意な接触はあまり好きではないのだが、仕方なく私より背の低い彼女が撫でやすいように膝を曲げた。刀を握っているせいか少し硬い手のひらが右頭部を往復する。…やっぱりむず痒いな。
ナルメアさん然り他の団員然り、よくこうやって頭を撫でてくれる人はいる。最初は遠慮していたが断った後のあまりにも悲しそうな顔に良心が痛み今では甘んじてこの行為を受け止めているのだが、やはりいつまで経っても慣れない。
彼女達からしたら歳下を可愛がっているだけなのだろうけど…。純日本人だった私にはなかなかハードなスキンシップだ。
がやがやと騒がしい午前7時。
今日の朝ごはんはさくさくとしたバタークロワッサンに柔らかくふわふわとしたスクランブルエッグ、レタスとニンジンとキャベツのサラダには特性のドレッシングがかかっている。厚切りのハムはこんがりと焼き色がついており肉汁が染み出ていた。
透明な黄土色のコンソメスープには玉ねぎやじゃがいもなどが食べやすいよう1口サイズに切られており温かそうな湯気が登っている。確か、隠し味を入れていると聞いたがこの芳ばしい匂いが強いのはそのおかげなのだろう。
マスクを外し口をカップに付ける。うん、美味しい。
味が濃いものは苦手だがこれはさほど濃くなく、玉ねぎが溶け胡椒とコンソメの味がマイルドになっていた。流石ローアインさん、料理の腕は全空一だ。
「おはようスイ。掃除ありがとう。」
「おはようございます!スイさん。」
「おはようグラン、ルリアちゃん。食堂掃除は厨房で味見させてもらえるから逆に有難かったよ。」
「あはは、ベアもそれで悔しがってたよ。」
「いいなぁ、私も味見してみたいです…。」
「ルリアちゃんはまず早起きからだね。」
朝からとても爽やかな笑顔で現れた2人だが、私の言葉に途端に顔を顰めたルリアちゃんにグランと顔を見合わせ笑う。まぁ慣れてなければ4時はキツイけど今は昼の仕事を主に割り振っているルリアちゃんにもそろそろ朝の掃除をしてもらおうかと話したのは記憶に新しい。
他の人にも挨拶をしてくるというのでそうそうに会話は切り上げ、グランとルリアちゃんは団員達がいる食堂の中央へと向かって行った。
楽しそうに会話するクラリスさん達とグラン、ルリアを遠目にハムにフォークを立てる。
隅とは言わないがこの広い食堂内で私が座る位置は必ず端にしている。
人と会話するのが苦手とか誰かと食事するのが嫌とかではないのだが元々の性格ゆえか奥に奥にとつめて座ってしまうのだ。
よく真ん中に、もっと広い場所にと言ってくれる人もいるがもうこの場所が定位置になってしまっているので今更変えるのも何だか落ち着かない。故に、私個人に用があったり席が空いていなかったりしない限りは1人の食事を楽しんでいる。
「お、おはようスイさん…。」
「おはようニーアさん。」
紫がかった黒い長髪を揺蕩わせながらトレーを持ち近ずいてきたエルーンの少女ーニーアさんの意図を組み対面の椅子を勧める。
するとその深い隈のある目尻を緩め嬉しそうに髪と同じ色の獣耳を動かしながら着席した。
「今日は、食堂のご飯なんだね…。」
「うん、ストックが切れちゃってね。丁度いいかなと思って。」
この食堂では何も厨房が出した料理を必ず食べなければいけないという訳ではない。私のように自分で用意する者もいれば全く食べない人もいる。まぁ三食団のものを食べる人の方が大多数なのだが。
ニーアさんも例に漏れずここの食事を気に入っており三食必ず食べている。
「なら、今日は、街へ買い物に…?」
「そうだね。楽譜ファイルも新しいのが欲しいし、今日は私がする依頼もないからお昼前には出るつもり。」
今日の依頼を受けるメンバーや魔物の討伐メンバーに自分の名前はなかったので久しぶりの休みを利用して足りなくなったものや欲しいものを買いに行こうと考えていた。
それをそのまま伝えると彼女は頭を少し下げモジモジと身体を揺らし、その赤褐色の瞳を忙しなく動かす。そして意を決したように勢いよく顔を上げると私を見つめ若干震えた小さな唇を動かす。
「あ、じゃ、じゃあ、あの嫌じゃなければだけど、私も一緒に、行ってもいい…?」
入団した当初、グランの配慮で私が彼女の世話役をしていた。そこで自分と私の境遇が似通っていると知った彼女は世話役の任を解かれた後もよく私に懐いてくれた。しかし私と同じ俗に言う"重い"の分類に入る彼女はその無自覚さからちょっと副団長として動きにくくなるくらいには私にかまけてしまった過去があるので、今は出来る限り穏便に済む範囲の関係を保っている。想われることは有難いことなのだが仕事に支障をきたしたくはない。
「ごめんね、今日は1人で動きたくて。また今度お休み合わせてお出かけしよう?」
「!うん!!」
断りながらもフォローを入れた私の視界の隅で成り行きを見守っていたロゼッタさんが親指を立てたのが映る。
それに反応は示さずそのいつかの休日の予定をもう楽しそうに立てているニーアさんに苦笑しながら最後のクロワッサンを一口飲み込んだ。