番外編 ご都合展開シリーズ
空欄の場合は『スイ』になります。
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依頼のためとある山に来ていた私、イオちゃん、クラリスさんは道中見たことない魔物の群れに襲われた。各々直ぐに武器を構え応戦するもそんなに魔物達は強くはなく、これならものの数分もすれば片付くだろうと思った。
その油断がいけなかった。
「っ!」
「スイ!」
イオちゃんの声に咄嗟に武器を振るう。しかし相手の方が速く霧状の何かが顔にかかった。曇る視界にそれでも何とか魔物を倒し、直ぐに目を擦る。マスクをしていたため鼻や口は無事だが目は異物が入ったせいか涙が出てきた。痛みはないが眼球がゴロゴロする。まだ目に何か入っている気がして何度も瞬きを繰り返した。
「大丈夫?」
「目がゴロゴロする…。」
「見せて。」
魔物を倒し終わった2人が駆け寄って来る。心配してくれるイオちゃんに症状を伝えるとクラリスさんが私の顔を掬った。違和感でしっかり開かない目を指で開きながら観察するクラリスさん。大丈夫だろうかと思いながら顔を上げていると少しして手を離された。
「ん〜、見た感じは何ともないけど…。ティコとかソフィアさんにちゃんと見てもらった方がいいよ。」
「そうします…。」
情けないが自業自得だ。
2人に要らぬ心配をかけてしまったことを恥ながら私は力なく頷いた。
結局ティコさんからは今のところ特に異常はないと診断を受け、その後涙も止まりその日私は安心して眠りについた。
翌朝目が覚めても眼球に違和感はなく視界もクリアなので安心して朝の支度を始めた。
今日私が受ける依頼は何だったかな。今日の編成とスケジュールを確認するために廊下を歩いていると前方に白い羽が飾られた背中を見つけた。
「おはようございます、アルタイルさん。」
「あぁスイさん。おはようございます。」
団員の1人であるアルタイルさんはそう言うと柔く微笑んだ。それに私も軽く頭を下げて返す。
「スイさんも仕事ですか?」
「いえ。昨日確認し忘れたので今から、」
はた、と目を瞬かせる。
言葉の途中で視界の隅に見えたそれが気になり目線を上げると、アルタイルさんの頭上に変なものが見えた。白色の『9』の文字。それがアルタイルさんのツムジの真上に浮いていた。何これ。
「どうしましたか?」
「あの、それは新しい装飾ですか…?」
それ、と頭を上を指さすとアルタイルさんは怪訝な顔をした。そして自分の頭を触るもその手は不可思議な数字をすり抜ける。嘘でしょ。
「何かついてます?」
「あ、ホコリでした。今落ちました。」
慌ててそう嘘をつくとアルタイルさんは少し照れたように笑った。そのまま用事があると言う彼に別れを告げるも、やはりその頭上には数字が浮かんだままだった。
何だったんだろうか。私しか見えておらず、しかも触れない。何らかの魔法かとも思ったが魔力は感じられなかった。しかも『9』ってなんだ。なんでそんな半端な数字なんだ。そうモヤモヤとしながら歩いていると、後ろからジャミル君の声がした。
「おはようございます、スイ様。」
「おはようジャミル君。様はつけなくていいよ。」
駆け寄って来るジャミル君にそう言うもいつも通り『主君のお姉様ですから』と言われる。思わず苦笑する私はしかし、はたと目を瞬かせた。…ジャミル君の上にもあるんだけど、数字。しかもさっきより増えて『12』だし。
「どうかされましたか?」
「え?あぁ何でもないよ。」
「もしや昨日のがまだ…。」
「違う違う。本当に何でもないよ。」
まだ何か言いたそうなジャミル君を笑顔で制し話題を変える。取り留めのない会話を続けながら連れ立って歩くも、私の頭の中は浮かんでいる数字のことでいっぱいだった。
年齢ではないし誕生日や入団日数でもなさそうだ。何かのカウントダウンにしても繋がりがないし…。一体これは何なのか。考えても分からない私の脳みそにふと、昔何かの広告で見た言葉が過ぎった。
「ねぇ、ジャミル君。あのさ、ちょっと変なこと聞いてもいい?」
「えぇ、構いませんよ。」
「あのね、えっと…。…私のことさ、好き?」
ピタリ、とジャミル君の足が止まる。フードから覗く両目がみるみるうちに見開かれていくのが分かり慌てて口を開いた。
「あ、勿論仲間としてってことだよ?恋愛的な意味じゃないよ?」
「あっ、え、…そう、ですよね。少し驚いてしまいました。申し訳ありません。」
「ううん。こちらこそごめん。聞き方が悪かったね。」
頭を下げるジャミル君に私の方こそと謝った。
何故こんなこと聞いたかと言うと、昔と言うか前世、私は漫画か何かの広告で『好感度が数値として見える世界』というのを見たことがあった。それは今の状況と同じように頭上に数字が現れ当事者、主人公にしか見えないと言う設定だった。
今のところアルタイルさんとジャミル君にか会ってないので2人を基準で考えるしかなく、その2人で何が違うか思い出してみた。2人とも私に良くしてくれているが普段の生活や態度から考察するに、明確に差が出たのは好感度だった。アルタイルさんは私に色々教えてくれたり気にかけてくれたりするが、やはりグランを主君と慕っているため姉の私も無条件で慕ってくれているジャミル君ほどではない。入団してからの歴もアルタイルさんより長いし。まぁ好感度と言うよりは懐き度と言った方が的確かもしれないが。
でもあながち間違ってはないだろうと、徐々に落ち着きこちらをしっかり見据えるジャミル君の言葉を待った。
「えっとスイ様を好きかどうか、でしたね。改めて聞かれると照れますが…、はい、お慕いしております。」
やっぱり。アルタイルさんに聞かなかったから絶対とは言えないが概ね仮説は当たっていたらしい。
1人納得してお礼を言おうとした私に、しかしジャミル君はなおも言葉を続けた。
「戦闘時の凛々しいお姿も、ピアノを弾かれる時の繊細な仕草も、主君を見つめる時の優しげな眼差しも、全て好きです。スイ様が望むのならどんな事でもしてみせます。」
「あ、うん…。」
思った以上に詳しく出てきた。これで『12』。いや上限が分からいから低いかどうかは知らないが凄いな。てかジャミル君そんな饒舌に話せるんだね。
何だか肌も少し赤みが出てきた気がするが如何せん褐色肌なので分からず、目がキラキラ、ギラギラ?するジャミル君に改めてお礼を言って2人でまた歩き出した。
「スイさーん!ジャミルさーん!」
食堂の入口で私達を先に見つけたルリアちゃんが声を上げる。それに答えようと顔を上げた私は、ルリアちゃんとその傍にいたカタリナさんとサラちゃんの頭上を認識した。
ルリアちゃん『0』
サラちゃん『0』
カタリナさん『0』
「嘘でしょ??!!」
思わず叫んだ私に隣のジャミル君がビクッとなる。ごめんジャミル君、でも今君を気にしてられない。嘘でしょ、嘘だよね?この3人が0?え、嫌われてるの私。いつから?なんで?嘘でしょ?ショックで膝を着いた私にルリアちゃん達が駆け寄る。ジャミル君も物凄く焦ってるのが肌で感じた。今本当に立ち直れない。
「スイ?どうかしたのか?」
打ちひしがれながら心配する周りにゆるゆると顔を上げた。仲良いと思ってたんだけど…。マジか。
「私、もうちょっと頑張るね…。」
力ない私の言葉に4人は首を傾げるばかりだった。
食堂の所定の位置に座り頭を抱える。数字は近距離じゃないと見えないので食堂内全員のを見たわけではないが、挨拶した人達は軒並み0だった。ヤイアちゃんですら0だった。私人望無さすぎる。ヨーグルトにも手をつけず、ひたすら打ちひしがれている私を周りは心配そうにしているが、ピアノ関係で大きい仕事が入ると毎回私はこんなものなので今回もそう思われているのか声がかかることはない。嬉しいような寂しいような。
「大丈夫か。」
そんな私の肩を誰かが叩く。どんよりとした心のまま顔を上げるとショウ君がいた。心配してくれている。申し訳ない、より私は、彼の頭上の方に目を向けてしまった。
ガタリと勢いよく立ち上がる。ショウ君がちょっと身構えたのが分かったが、それどころではない。傷ついた私の心にはショウ君の頭上の『126』に後光が差して見えていた。
「ショウ君。」
「あ?」
「大好き。」
言うが早いか私はショウ君の手を両手でガシッと掴んだ。常なら絶対しないであろうが感極まった私は止まらない。
固まるショウ君。何かが割れる音。凍る空気。
後、絶叫。
全てを無視して更にショウ君に詰め寄る私を物凄い勢いでパーシヴァルさんは引き剥がした。
そんなパーシヴァルさんは『2』だった。
あの後パーシヴァルさんに烈火のごとく怒られることを危惧し、何やら怖い顔の団員達の間をぬって甲板へと移動していた。
周りから死角になっていて日差しも弱い場所を見つけそこに腰を下ろす。なんか、ジャミル君の時といいショウ君の時といい私ちょっと可笑しいな。この数字は十中八九あの魔物のせいだろうが今までの言動は自分の意思だ。少し落ち着こう。…でも、パーシヴァルさん『2』か…。結構可愛がってもらってる自覚あったけど、勘違いだったかな。ダメだ、ダメージが大きい。
はぁ、とため息が出る。意識してなくとも見てしまうし悪気がなくとも比較してしまう現状がキツい。好感度なんて見るもんじゃないな。物凄く疲れた。そのせいか若干痛む胸を抑えていると、ふと声がかかった。
「何してんだよ。」
「アイル君。」
声の主はアイル君だった。仏頂面は変わらないもどこかよそよそしい雰囲気を漂わせる彼は、けれど何か言うでもなくそのまま私の隣に腰掛けた。え、珍しい。
「…朝の、」
「朝の?」
「朝の騒ぎ、アンタだろ。大丈夫かよ。」
はた、と目を瞬かせる。常日頃アイル君はもろ反抗期真っ只中のような態度で、お姉さんのジェシカさんや何故か私にもつっけんどな態度を取る事が多かった。だからこうやって隣に座って心配までしてくれるとは思わず少々驚いた。アイル君…、と少し感動しているとチラリと頭上の数字に目がいってしまった。
『78』
…ふーん。
「勘違いすんなよ。心配したわけじゃねぇからな。ただでさえ騒がしい艇なのに、朝っぱらからあんな騒がれたらうるせぇってだけだからな。…おい、なんだよその顔。聞いてんのかよ。」
「アイル君って、私のこと結構好きなんだね。」
「はぁ?!いきなりなんだよっ、頭湧いてんじゃねぇか!!?」
物凄い勢いで悪態をつくアイル君に、しかし私はマスクの下の頬が緩むのが抑えられない。
ジェシカさん、あなたの言う通り弟さんめっちゃ可愛いです。そう心の中で話しかけながらアイル君の頭を撫でた私に、アイル君の拳が飛んできたのは言うまでもない。
朝の騒ぎも落ち着き艇の中を何事もなく歩けるようになった。すれ違う人の頭上には相変わらず数字が浮かんでいるが、この数時間で私はこの数字が好感度ではないんじゃないかと思い始めていた。
何故か女性と子供だけではなく、星晶獣は誰一人として浮かんでいなかった。それにグランが『0』だった。もし好感度なら誰が『0』でもグランだけは有り得ない。その事からも頭上の数字は好感度ではなく全く別の意味があるのだと考え直したのだ。
しかし私は魔物の専門家ではない。いくら考えてもやはり分からないものは分からないので、私はこの艇の中で一番魔物に詳しいウィルさんの元へ向かうことにした。
「と言うわけなんですけど…。」
「なるほど。」
図鑑や標本、剥製が所狭しと並ぶウィルさんの部屋で私は今朝から見える数字について伝えた。因みにウィルさんの頭上は『0』だった。
私の話を聞き終わるとウィルさんは直ぐに近くにあった本を1冊手繰り寄せ、素早くページを開き私に見せた。
「この中にいるかい。」
「えっと…。あ、これです。」
4匹の魔物が描かれているそのページの右上に昨日対峙した魔物がいた。色は違うがこれだ。細かい文字が添えて書かれているが、それを読む前にウィルさんは本を自分の方へと向ける。そして何やら考え込むような仕草をしてパッと私を見た。
「数字が見えるんだったね。」
「はい。皆の頭の上に。」
「昨日の魔物はこの図鑑と色が違ったかい?」
「えぇ。鼻先は赤ではなく黄色でした。」
「メスだね。なら簡単だ。その数字は好感度ではない。自慰行為の数だ。」
じいこうい、と復唱する。
それにウィルさんは頷き言葉を続けた。
「この魔物のメスは魔力のこもった鼻息をオスにかけることで、そのオスを魅了し番うことで繁殖している。ただ何故か人間にその鼻息がかかると作用が異なるんだ。」
「作用が異なる。」
「ああ。解明はまだされていないんだけどね、『鼻息がかかった対象に、その対象以外の人間が対象を思って絶頂した数を見せる。』作用に転じるんだよ。面白いだろ?」
ゆっくりとウィルさんの言葉を噛み砕いていく。
え、とてことはなんだ。
私がオカズになった数ってこと…?ならあの数は…。
段々と青ざめていく私に、ウィルさんは変わらぬ笑顔を浮かべている。
「効果は丸一日、薬はない。せいぜい楽しみたまえ。」
物凄くいい笑顔で言ってのけるウィルに目の前が暗くなる。
あぁ、ほんとなんで油断したんだろう。まだまだ続く今日に私は絶望しながら昨日の自分を呪った。
その油断がいけなかった。
「っ!」
「スイ!」
イオちゃんの声に咄嗟に武器を振るう。しかし相手の方が速く霧状の何かが顔にかかった。曇る視界にそれでも何とか魔物を倒し、直ぐに目を擦る。マスクをしていたため鼻や口は無事だが目は異物が入ったせいか涙が出てきた。痛みはないが眼球がゴロゴロする。まだ目に何か入っている気がして何度も瞬きを繰り返した。
「大丈夫?」
「目がゴロゴロする…。」
「見せて。」
魔物を倒し終わった2人が駆け寄って来る。心配してくれるイオちゃんに症状を伝えるとクラリスさんが私の顔を掬った。違和感でしっかり開かない目を指で開きながら観察するクラリスさん。大丈夫だろうかと思いながら顔を上げていると少しして手を離された。
「ん〜、見た感じは何ともないけど…。ティコとかソフィアさんにちゃんと見てもらった方がいいよ。」
「そうします…。」
情けないが自業自得だ。
2人に要らぬ心配をかけてしまったことを恥ながら私は力なく頷いた。
結局ティコさんからは今のところ特に異常はないと診断を受け、その後涙も止まりその日私は安心して眠りについた。
翌朝目が覚めても眼球に違和感はなく視界もクリアなので安心して朝の支度を始めた。
今日私が受ける依頼は何だったかな。今日の編成とスケジュールを確認するために廊下を歩いていると前方に白い羽が飾られた背中を見つけた。
「おはようございます、アルタイルさん。」
「あぁスイさん。おはようございます。」
団員の1人であるアルタイルさんはそう言うと柔く微笑んだ。それに私も軽く頭を下げて返す。
「スイさんも仕事ですか?」
「いえ。昨日確認し忘れたので今から、」
はた、と目を瞬かせる。
言葉の途中で視界の隅に見えたそれが気になり目線を上げると、アルタイルさんの頭上に変なものが見えた。白色の『9』の文字。それがアルタイルさんのツムジの真上に浮いていた。何これ。
「どうしましたか?」
「あの、それは新しい装飾ですか…?」
それ、と頭を上を指さすとアルタイルさんは怪訝な顔をした。そして自分の頭を触るもその手は不可思議な数字をすり抜ける。嘘でしょ。
「何かついてます?」
「あ、ホコリでした。今落ちました。」
慌ててそう嘘をつくとアルタイルさんは少し照れたように笑った。そのまま用事があると言う彼に別れを告げるも、やはりその頭上には数字が浮かんだままだった。
何だったんだろうか。私しか見えておらず、しかも触れない。何らかの魔法かとも思ったが魔力は感じられなかった。しかも『9』ってなんだ。なんでそんな半端な数字なんだ。そうモヤモヤとしながら歩いていると、後ろからジャミル君の声がした。
「おはようございます、スイ様。」
「おはようジャミル君。様はつけなくていいよ。」
駆け寄って来るジャミル君にそう言うもいつも通り『主君のお姉様ですから』と言われる。思わず苦笑する私はしかし、はたと目を瞬かせた。…ジャミル君の上にもあるんだけど、数字。しかもさっきより増えて『12』だし。
「どうかされましたか?」
「え?あぁ何でもないよ。」
「もしや昨日のがまだ…。」
「違う違う。本当に何でもないよ。」
まだ何か言いたそうなジャミル君を笑顔で制し話題を変える。取り留めのない会話を続けながら連れ立って歩くも、私の頭の中は浮かんでいる数字のことでいっぱいだった。
年齢ではないし誕生日や入団日数でもなさそうだ。何かのカウントダウンにしても繋がりがないし…。一体これは何なのか。考えても分からない私の脳みそにふと、昔何かの広告で見た言葉が過ぎった。
「ねぇ、ジャミル君。あのさ、ちょっと変なこと聞いてもいい?」
「えぇ、構いませんよ。」
「あのね、えっと…。…私のことさ、好き?」
ピタリ、とジャミル君の足が止まる。フードから覗く両目がみるみるうちに見開かれていくのが分かり慌てて口を開いた。
「あ、勿論仲間としてってことだよ?恋愛的な意味じゃないよ?」
「あっ、え、…そう、ですよね。少し驚いてしまいました。申し訳ありません。」
「ううん。こちらこそごめん。聞き方が悪かったね。」
頭を下げるジャミル君に私の方こそと謝った。
何故こんなこと聞いたかと言うと、昔と言うか前世、私は漫画か何かの広告で『好感度が数値として見える世界』というのを見たことがあった。それは今の状況と同じように頭上に数字が現れ当事者、主人公にしか見えないと言う設定だった。
今のところアルタイルさんとジャミル君にか会ってないので2人を基準で考えるしかなく、その2人で何が違うか思い出してみた。2人とも私に良くしてくれているが普段の生活や態度から考察するに、明確に差が出たのは好感度だった。アルタイルさんは私に色々教えてくれたり気にかけてくれたりするが、やはりグランを主君と慕っているため姉の私も無条件で慕ってくれているジャミル君ほどではない。入団してからの歴もアルタイルさんより長いし。まぁ好感度と言うよりは懐き度と言った方が的確かもしれないが。
でもあながち間違ってはないだろうと、徐々に落ち着きこちらをしっかり見据えるジャミル君の言葉を待った。
「えっとスイ様を好きかどうか、でしたね。改めて聞かれると照れますが…、はい、お慕いしております。」
やっぱり。アルタイルさんに聞かなかったから絶対とは言えないが概ね仮説は当たっていたらしい。
1人納得してお礼を言おうとした私に、しかしジャミル君はなおも言葉を続けた。
「戦闘時の凛々しいお姿も、ピアノを弾かれる時の繊細な仕草も、主君を見つめる時の優しげな眼差しも、全て好きです。スイ様が望むのならどんな事でもしてみせます。」
「あ、うん…。」
思った以上に詳しく出てきた。これで『12』。いや上限が分からいから低いかどうかは知らないが凄いな。てかジャミル君そんな饒舌に話せるんだね。
何だか肌も少し赤みが出てきた気がするが如何せん褐色肌なので分からず、目がキラキラ、ギラギラ?するジャミル君に改めてお礼を言って2人でまた歩き出した。
「スイさーん!ジャミルさーん!」
食堂の入口で私達を先に見つけたルリアちゃんが声を上げる。それに答えようと顔を上げた私は、ルリアちゃんとその傍にいたカタリナさんとサラちゃんの頭上を認識した。
ルリアちゃん『0』
サラちゃん『0』
カタリナさん『0』
「嘘でしょ??!!」
思わず叫んだ私に隣のジャミル君がビクッとなる。ごめんジャミル君、でも今君を気にしてられない。嘘でしょ、嘘だよね?この3人が0?え、嫌われてるの私。いつから?なんで?嘘でしょ?ショックで膝を着いた私にルリアちゃん達が駆け寄る。ジャミル君も物凄く焦ってるのが肌で感じた。今本当に立ち直れない。
「スイ?どうかしたのか?」
打ちひしがれながら心配する周りにゆるゆると顔を上げた。仲良いと思ってたんだけど…。マジか。
「私、もうちょっと頑張るね…。」
力ない私の言葉に4人は首を傾げるばかりだった。
食堂の所定の位置に座り頭を抱える。数字は近距離じゃないと見えないので食堂内全員のを見たわけではないが、挨拶した人達は軒並み0だった。ヤイアちゃんですら0だった。私人望無さすぎる。ヨーグルトにも手をつけず、ひたすら打ちひしがれている私を周りは心配そうにしているが、ピアノ関係で大きい仕事が入ると毎回私はこんなものなので今回もそう思われているのか声がかかることはない。嬉しいような寂しいような。
「大丈夫か。」
そんな私の肩を誰かが叩く。どんよりとした心のまま顔を上げるとショウ君がいた。心配してくれている。申し訳ない、より私は、彼の頭上の方に目を向けてしまった。
ガタリと勢いよく立ち上がる。ショウ君がちょっと身構えたのが分かったが、それどころではない。傷ついた私の心にはショウ君の頭上の『126』に後光が差して見えていた。
「ショウ君。」
「あ?」
「大好き。」
言うが早いか私はショウ君の手を両手でガシッと掴んだ。常なら絶対しないであろうが感極まった私は止まらない。
固まるショウ君。何かが割れる音。凍る空気。
後、絶叫。
全てを無視して更にショウ君に詰め寄る私を物凄い勢いでパーシヴァルさんは引き剥がした。
そんなパーシヴァルさんは『2』だった。
あの後パーシヴァルさんに烈火のごとく怒られることを危惧し、何やら怖い顔の団員達の間をぬって甲板へと移動していた。
周りから死角になっていて日差しも弱い場所を見つけそこに腰を下ろす。なんか、ジャミル君の時といいショウ君の時といい私ちょっと可笑しいな。この数字は十中八九あの魔物のせいだろうが今までの言動は自分の意思だ。少し落ち着こう。…でも、パーシヴァルさん『2』か…。結構可愛がってもらってる自覚あったけど、勘違いだったかな。ダメだ、ダメージが大きい。
はぁ、とため息が出る。意識してなくとも見てしまうし悪気がなくとも比較してしまう現状がキツい。好感度なんて見るもんじゃないな。物凄く疲れた。そのせいか若干痛む胸を抑えていると、ふと声がかかった。
「何してんだよ。」
「アイル君。」
声の主はアイル君だった。仏頂面は変わらないもどこかよそよそしい雰囲気を漂わせる彼は、けれど何か言うでもなくそのまま私の隣に腰掛けた。え、珍しい。
「…朝の、」
「朝の?」
「朝の騒ぎ、アンタだろ。大丈夫かよ。」
はた、と目を瞬かせる。常日頃アイル君はもろ反抗期真っ只中のような態度で、お姉さんのジェシカさんや何故か私にもつっけんどな態度を取る事が多かった。だからこうやって隣に座って心配までしてくれるとは思わず少々驚いた。アイル君…、と少し感動しているとチラリと頭上の数字に目がいってしまった。
『78』
…ふーん。
「勘違いすんなよ。心配したわけじゃねぇからな。ただでさえ騒がしい艇なのに、朝っぱらからあんな騒がれたらうるせぇってだけだからな。…おい、なんだよその顔。聞いてんのかよ。」
「アイル君って、私のこと結構好きなんだね。」
「はぁ?!いきなりなんだよっ、頭湧いてんじゃねぇか!!?」
物凄い勢いで悪態をつくアイル君に、しかし私はマスクの下の頬が緩むのが抑えられない。
ジェシカさん、あなたの言う通り弟さんめっちゃ可愛いです。そう心の中で話しかけながらアイル君の頭を撫でた私に、アイル君の拳が飛んできたのは言うまでもない。
朝の騒ぎも落ち着き艇の中を何事もなく歩けるようになった。すれ違う人の頭上には相変わらず数字が浮かんでいるが、この数時間で私はこの数字が好感度ではないんじゃないかと思い始めていた。
何故か女性と子供だけではなく、星晶獣は誰一人として浮かんでいなかった。それにグランが『0』だった。もし好感度なら誰が『0』でもグランだけは有り得ない。その事からも頭上の数字は好感度ではなく全く別の意味があるのだと考え直したのだ。
しかし私は魔物の専門家ではない。いくら考えてもやはり分からないものは分からないので、私はこの艇の中で一番魔物に詳しいウィルさんの元へ向かうことにした。
「と言うわけなんですけど…。」
「なるほど。」
図鑑や標本、剥製が所狭しと並ぶウィルさんの部屋で私は今朝から見える数字について伝えた。因みにウィルさんの頭上は『0』だった。
私の話を聞き終わるとウィルさんは直ぐに近くにあった本を1冊手繰り寄せ、素早くページを開き私に見せた。
「この中にいるかい。」
「えっと…。あ、これです。」
4匹の魔物が描かれているそのページの右上に昨日対峙した魔物がいた。色は違うがこれだ。細かい文字が添えて書かれているが、それを読む前にウィルさんは本を自分の方へと向ける。そして何やら考え込むような仕草をしてパッと私を見た。
「数字が見えるんだったね。」
「はい。皆の頭の上に。」
「昨日の魔物はこの図鑑と色が違ったかい?」
「えぇ。鼻先は赤ではなく黄色でした。」
「メスだね。なら簡単だ。その数字は好感度ではない。自慰行為の数だ。」
じいこうい、と復唱する。
それにウィルさんは頷き言葉を続けた。
「この魔物のメスは魔力のこもった鼻息をオスにかけることで、そのオスを魅了し番うことで繁殖している。ただ何故か人間にその鼻息がかかると作用が異なるんだ。」
「作用が異なる。」
「ああ。解明はまだされていないんだけどね、『鼻息がかかった対象に、その対象以外の人間が対象を思って絶頂した数を見せる。』作用に転じるんだよ。面白いだろ?」
ゆっくりとウィルさんの言葉を噛み砕いていく。
え、とてことはなんだ。
私がオカズになった数ってこと…?ならあの数は…。
段々と青ざめていく私に、ウィルさんは変わらぬ笑顔を浮かべている。
「効果は丸一日、薬はない。せいぜい楽しみたまえ。」
物凄くいい笑顔で言ってのけるウィルに目の前が暗くなる。
あぁ、ほんとなんで油断したんだろう。まだまだ続く今日に私は絶望しながら昨日の自分を呪った。