軍刀女士の大戦記
空欄の場合は夕凪になります
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「どうかされましたか?」
道場へと向かう途中、部屋で1人考え込んでいる加州清光殿を見つけた私は廊下から声をかけた。
加州殿は机に広げられた雑誌から顔を上げると軽く返事をする。その生返事ぶりにおや、と思いながら一言断りをいれて敷居を跨ぎ未だ難しい顔をしている加州殿の隣へと腰掛けた。
「これは、ネイルアートの特集記事ですか?」
「そ。なんかさ、いっつも同じようなのだと主に飽きられるかなーって。でも中々いいのないんだよね。」
そう言ってまた雑誌に目を向けた加州殿はどこか物憂げな表情で、普段の頼もしい背中を見せながら引っ張ってくれている姿とはギャップがあった。それにふむ、と顎に手を当て考える。常日頃から加州殿にはとてもお世話になっている。そして加州殿が可愛くあろうと努力しているのも知っている。ならば、と少しでも報いたくて自身の記憶を引っ張り出し人間だった頃の知識を口にした。
「グラデーションネイルなんてどうでしょう。」
「グラデーション?」
首を傾げた加州殿に頷く。
この雑誌に載ってないのが逆に珍しいくらいのスタンダードなものだが、加州殿はお気に召したらしい。私の説明を聞くと瞳をキラキラと輝かせて声を弾ませた。
「それいい!可愛いじゃん!」
「ただ加州殿の普段のネイルからすると、随分淡くなってしまうのですが…。」
「新鮮でいいじゃん。しかもそれで気づいてくれたら主はちゃんと俺を見てくれてるってことでしょ?」
そう言って嬉しそうに笑う加州殿にこちらも笑みが零れた。頼られたと言う程でもないが、それでもほんの少し恩返しが出来た気がして早速加州殿の手を取った。
「夕凪ー!」
タッタッタッと軽やかな足音共に聞こえた声に立ち止まり後ろを振り向いた。
「加州殿。どうされました?」
「じゃーん!」
小走りしたせいか少し乱れた内番服を整えたあと、加州清光殿はそう言って私の目の前に両手の甲をかざした。しなやかでもしっかりとしたその指先にはキラキラと艶やかなネイルが彩られていて、それは普段とは違い綺麗にグラデーションがかけられていた。
「この前夕凪から教わったグラデーションネイル、やっと上手くいったんだ。」
「もう出来るようになったんですか?凄い、ほんとにお上手。綺麗ですね。」
まじまじと加州殿の爪を見つめながら感嘆すると彼は嬉しそうに鼻を鳴らした。やり方を教えたのはつい先日のことだ。それなのにもうものにするとは…。研究熱心だからか元来の器用さ故か、何にせよ感心せざるを得ない。
「閣下にはもうお見せに?」
「うん。朝イチで気づいてくれて可愛いって褒められた。」
はにかむ加州殿にこちらも笑みが零れる。よかったと1人安堵しているとあ、と加州殿が声を出した。
「そう言えば、今度隊長やるんだって?」
「…えぇ。」
世間話の一環だったのだろうが、突かれたくない話題に若干歯切れが悪くなってしまった。慌ててこれからそのために道場に行くのだと続けたが、加州殿は暫し考え込んだあと私の手を取りついて来るよう言った。
案内された加州殿の部屋には同室者である大和守殿の姿はなく、机にはいくつかのネイル瓶が置かれていた。そのまま座布団に座った加州殿は立ち尽くす私に隣の座布団を叩きながら座るよう促してくる。困惑するも加州殿の指示に従い彼の隣に正座すると、机のネイル瓶を弄りながら加州殿は手袋を外すよう言ってきた。
「え?」
「不安なんでしょ?隊長やるの。」
その言葉にうっと喉が詰まった。
加州殿の言う通り、先日閣下から第4部隊の隊長に任命されてからほんの少し不安が募っていた。任されたことは素直に嬉しいが、それでも大役を任されていると言う責任から日増しに道場へと通う回数は増えていった。
ちらりと加州殿を見やる。普段と変わらないも、もしかしたら隊長がそれではどうすると叱咤されるのだろうか。確かに今のままでは隊長どころか他の仲間にも迷惑がかかる。けれどせっかく認められたのに期待を裏切るようなことしたくはない。
どうしたものか…。そう悶々と考えていると、ヒヤリとしたものが爪先を包む感覚がした。驚いて手を引っ込めようとするとダメ、と声が上がりぐっと引っ張られる。考え込んでいる間に手袋は外されていたらしく、加州殿が私の指を持ちながら爪にネイルを塗っていた。
「夕凪はさ、あんまり自分に自信ないよね。」
いつも調子で言う加州殿の手つきは澱みない。スルスルと指先を動かし次々と私の爪に透明な膜を貼っていく。
「造られた時代とか、色々あるのは知ってる。」
全ての爪に塗り終わると乾いた上から色を重ねていき、それも塗り終われば細い筆に持ち替え何かを描き始める。
「まぁ全部ではないけど気持ちは分かるよ。でもお前はこの本丸の刀剣だ。主も俺も、皆も認めた仲間。だから、」
離された自分の手を上げた。
爪には加州殿の色である赤と黒をベースに繊細で可愛らしいネイルアートが施されていた。
「大丈夫っておまじない。俺がついてる、夕凪ならやれるよ。」
そう言って微笑む加州殿は誰よりも格好よかった。
ざり、っと自身の戦地を踏みしめる音が身体に伝わる。
土煙が立ち霞む視界でも敵の禍々しい姿はしっかりと見えた。隊長である私の作戦開始の言葉と共に臨戦態勢になる仲間の前でふーっと息を吐く。
大丈夫、1人じゃない。
私には皆が、加州殿がついていてくれる。
瞼を開き、柄を握る手を見た。手袋の下で感じる指先の力強さに小さく頷き、そして声を張り上げた。
「各個撃破、用意!」
駆け出す仲間と共に私の一太刀が敵を斬り捨てた。
索敵ボイス 『作戦開始。』
戦闘開始ボイス 『各個撃破、用意!』
道場へと向かう途中、部屋で1人考え込んでいる加州清光殿を見つけた私は廊下から声をかけた。
加州殿は机に広げられた雑誌から顔を上げると軽く返事をする。その生返事ぶりにおや、と思いながら一言断りをいれて敷居を跨ぎ未だ難しい顔をしている加州殿の隣へと腰掛けた。
「これは、ネイルアートの特集記事ですか?」
「そ。なんかさ、いっつも同じようなのだと主に飽きられるかなーって。でも中々いいのないんだよね。」
そう言ってまた雑誌に目を向けた加州殿はどこか物憂げな表情で、普段の頼もしい背中を見せながら引っ張ってくれている姿とはギャップがあった。それにふむ、と顎に手を当て考える。常日頃から加州殿にはとてもお世話になっている。そして加州殿が可愛くあろうと努力しているのも知っている。ならば、と少しでも報いたくて自身の記憶を引っ張り出し人間だった頃の知識を口にした。
「グラデーションネイルなんてどうでしょう。」
「グラデーション?」
首を傾げた加州殿に頷く。
この雑誌に載ってないのが逆に珍しいくらいのスタンダードなものだが、加州殿はお気に召したらしい。私の説明を聞くと瞳をキラキラと輝かせて声を弾ませた。
「それいい!可愛いじゃん!」
「ただ加州殿の普段のネイルからすると、随分淡くなってしまうのですが…。」
「新鮮でいいじゃん。しかもそれで気づいてくれたら主はちゃんと俺を見てくれてるってことでしょ?」
そう言って嬉しそうに笑う加州殿にこちらも笑みが零れた。頼られたと言う程でもないが、それでもほんの少し恩返しが出来た気がして早速加州殿の手を取った。
「夕凪ー!」
タッタッタッと軽やかな足音共に聞こえた声に立ち止まり後ろを振り向いた。
「加州殿。どうされました?」
「じゃーん!」
小走りしたせいか少し乱れた内番服を整えたあと、加州清光殿はそう言って私の目の前に両手の甲をかざした。しなやかでもしっかりとしたその指先にはキラキラと艶やかなネイルが彩られていて、それは普段とは違い綺麗にグラデーションがかけられていた。
「この前夕凪から教わったグラデーションネイル、やっと上手くいったんだ。」
「もう出来るようになったんですか?凄い、ほんとにお上手。綺麗ですね。」
まじまじと加州殿の爪を見つめながら感嘆すると彼は嬉しそうに鼻を鳴らした。やり方を教えたのはつい先日のことだ。それなのにもうものにするとは…。研究熱心だからか元来の器用さ故か、何にせよ感心せざるを得ない。
「閣下にはもうお見せに?」
「うん。朝イチで気づいてくれて可愛いって褒められた。」
はにかむ加州殿にこちらも笑みが零れる。よかったと1人安堵しているとあ、と加州殿が声を出した。
「そう言えば、今度隊長やるんだって?」
「…えぇ。」
世間話の一環だったのだろうが、突かれたくない話題に若干歯切れが悪くなってしまった。慌ててこれからそのために道場に行くのだと続けたが、加州殿は暫し考え込んだあと私の手を取りついて来るよう言った。
案内された加州殿の部屋には同室者である大和守殿の姿はなく、机にはいくつかのネイル瓶が置かれていた。そのまま座布団に座った加州殿は立ち尽くす私に隣の座布団を叩きながら座るよう促してくる。困惑するも加州殿の指示に従い彼の隣に正座すると、机のネイル瓶を弄りながら加州殿は手袋を外すよう言ってきた。
「え?」
「不安なんでしょ?隊長やるの。」
その言葉にうっと喉が詰まった。
加州殿の言う通り、先日閣下から第4部隊の隊長に任命されてからほんの少し不安が募っていた。任されたことは素直に嬉しいが、それでも大役を任されていると言う責任から日増しに道場へと通う回数は増えていった。
ちらりと加州殿を見やる。普段と変わらないも、もしかしたら隊長がそれではどうすると叱咤されるのだろうか。確かに今のままでは隊長どころか他の仲間にも迷惑がかかる。けれどせっかく認められたのに期待を裏切るようなことしたくはない。
どうしたものか…。そう悶々と考えていると、ヒヤリとしたものが爪先を包む感覚がした。驚いて手を引っ込めようとするとダメ、と声が上がりぐっと引っ張られる。考え込んでいる間に手袋は外されていたらしく、加州殿が私の指を持ちながら爪にネイルを塗っていた。
「夕凪はさ、あんまり自分に自信ないよね。」
いつも調子で言う加州殿の手つきは澱みない。スルスルと指先を動かし次々と私の爪に透明な膜を貼っていく。
「造られた時代とか、色々あるのは知ってる。」
全ての爪に塗り終わると乾いた上から色を重ねていき、それも塗り終われば細い筆に持ち替え何かを描き始める。
「まぁ全部ではないけど気持ちは分かるよ。でもお前はこの本丸の刀剣だ。主も俺も、皆も認めた仲間。だから、」
離された自分の手を上げた。
爪には加州殿の色である赤と黒をベースに繊細で可愛らしいネイルアートが施されていた。
「大丈夫っておまじない。俺がついてる、夕凪ならやれるよ。」
そう言って微笑む加州殿は誰よりも格好よかった。
ざり、っと自身の戦地を踏みしめる音が身体に伝わる。
土煙が立ち霞む視界でも敵の禍々しい姿はしっかりと見えた。隊長である私の作戦開始の言葉と共に臨戦態勢になる仲間の前でふーっと息を吐く。
大丈夫、1人じゃない。
私には皆が、加州殿がついていてくれる。
瞼を開き、柄を握る手を見た。手袋の下で感じる指先の力強さに小さく頷き、そして声を張り上げた。
「各個撃破、用意!」
駆け出す仲間と共に私の一太刀が敵を斬り捨てた。
索敵ボイス 『作戦開始。』
戦闘開始ボイス 『各個撃破、用意!』