軍刀女士の大戦記
空欄の場合は夕凪になります
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山城国のとある万屋に派遣されてからはや数年の月日が経ちましたが毎日新鮮な思いが出来るこの仕事には非常にやり甲斐を感じております。政府の結界内ということもあり現世から隔離されたここは数少ない交流の場として皆様方から重宝されておりました。また、私達も刀剣様方の見目の良さを仕事の癒しとしており、店子はなかなか人気のお仕事でした。しかしながら最近私達の店子は別の理由で人気になっております。
硝子細工の風鈴がぶつかり合う高い音がお客様が御来店されたことを告げます。
すぐに入口に頭を向け挨拶を述べ今しがた入店されたお客様に目を向けました。
「全く。何故この私がこんな小娘と万屋に来ねばならんのだ。」
「仕方ありませんよ、他の方々は皆用事がおありでしたし。」
軽い言い合いをしながら現れたのは、揺蕩う白髪をそのままに体躯の恵まれた男性と凛々しさを感じさせるお顔と一片の隙もない佇まいの女性。
そう、この御二方こそ私達店子が今話題にしている刀剣様方でございます。
私達のような政府の派遣社員も閉鎖的なこの空間からは出入りが自由に許されていないため退屈にも近い毎日でした。それゆえほんの少しでも楽しそうなものがあれば、それは馬の脚より速く店子の間を駆けるのです。
特に、色恋話は。
鮮やかに彩られた棚を避け流行りの商品に目も向けずさくさくと通路を歩く夕凪様の少し後ろで小狐丸様はその妖艶なかんばせを歪め悪態を着き続けます。
「ぬしさまにこの毛並みに合う櫛を選んでいただくはずだったのに。」
「まぁ閣下も人の子ですから突然体調を崩すこともありましょう。ぱっぱっと終わらせて帰りましょう。」
「ふん、ならばもっと早く歩かぬか。その短い足では難しいか?」
今日もきれっきれの憎まれ口が炸裂していますが、後ろを歩く夕凪様にはきっと見えないのでしょう。直後の小狐丸様の落ち込みようは。
そうです。何を隠そうこの小狐丸様、夕凪様に恋慕を抱いておられるのです。始めこそその悪態から嫌っているのかと思いましたが、店内では決して夕凪様の傍を離れず、どんな小さな物でも夕凪様には持たせず、悪態をついた後のあの落ち込み様はもう素直になれない典型的な男子そのものでした。そんな可愛いらしくももどかしく、焦れったい小狐丸様の様子は申し訳ないとは思いつつも私達の楽しみでした。
思わず垂れた頬を引き締め失礼にならない程度に御二方を眺めます。昼時ということもあり食事処へ人が流れていったので客足の遠のいた店内では御二方を眺めても変に思われないのは幸いです。
「これは…。」
ふと足を止められた夕凪様の視線がとあるコーナーへと向けられます。
キャッチーなフレーズとそれを引き立てるポップな絵柄が目を引く当店一押しの物。今が旬の梅を氷菓子と共にソーダ水に漬け込んだ梅ジュースは今の時期にピッタリの代物でございます。
「買うてやろうか。」
あんなに遅いと急かしたのにも関わらず置いていくことなく、それどころか小さな声でも聞こえる距離を保っていたのでしょう。同じように立ち止まった小狐丸様の言葉に私と丁度品出を終えた他の店子、夕凪様の目が品物から移り集まります。
そして店子の私達は顔を見合わせ歓喜しました。
あの小狐丸様がついに!
いつもは菓子を多めに買ったとか処分しとけとか何とか理由をつけて渡していたおられた小狐丸様が、初めて、夕凪様のために買ってあげると言われました!
目線は合っておらず、声はいつもより小さく、組んだ腕の片袖が皺だらけになるほど握りしめられておりかっこよくはありませんが、とてつもない勇気を出したのはひしひしと伝わってきます。
私共もどうにかニヤけないように内頬を噛み締めます。まるで我が子の発表会を見に来た気分です。
気恥しいのかそれ以降言葉もなく目線も斜め上。そんな小狐丸様を夕凪様ははて、と小首を傾げた後私共が見守る中で暖かな笑顔を浮かべ、
「いえ結構です。欲しがりませんから、勝つまでは。」
普段の様子と変わらない夕凪様と、とぼとぼと落胆しきった小狐丸様の背中を見送りながら、そう言えば巷では夕凪様は『難攻不落』と呼ばれていることを思い出しました。
万屋ボイス 『欲しがりませんよ、勝つまでは。』
硝子細工の風鈴がぶつかり合う高い音がお客様が御来店されたことを告げます。
すぐに入口に頭を向け挨拶を述べ今しがた入店されたお客様に目を向けました。
「全く。何故この私がこんな小娘と万屋に来ねばならんのだ。」
「仕方ありませんよ、他の方々は皆用事がおありでしたし。」
軽い言い合いをしながら現れたのは、揺蕩う白髪をそのままに体躯の恵まれた男性と凛々しさを感じさせるお顔と一片の隙もない佇まいの女性。
そう、この御二方こそ私達店子が今話題にしている刀剣様方でございます。
私達のような政府の派遣社員も閉鎖的なこの空間からは出入りが自由に許されていないため退屈にも近い毎日でした。それゆえほんの少しでも楽しそうなものがあれば、それは馬の脚より速く店子の間を駆けるのです。
特に、色恋話は。
鮮やかに彩られた棚を避け流行りの商品に目も向けずさくさくと通路を歩く夕凪様の少し後ろで小狐丸様はその妖艶なかんばせを歪め悪態を着き続けます。
「ぬしさまにこの毛並みに合う櫛を選んでいただくはずだったのに。」
「まぁ閣下も人の子ですから突然体調を崩すこともありましょう。ぱっぱっと終わらせて帰りましょう。」
「ふん、ならばもっと早く歩かぬか。その短い足では難しいか?」
今日もきれっきれの憎まれ口が炸裂していますが、後ろを歩く夕凪様にはきっと見えないのでしょう。直後の小狐丸様の落ち込みようは。
そうです。何を隠そうこの小狐丸様、夕凪様に恋慕を抱いておられるのです。始めこそその悪態から嫌っているのかと思いましたが、店内では決して夕凪様の傍を離れず、どんな小さな物でも夕凪様には持たせず、悪態をついた後のあの落ち込み様はもう素直になれない典型的な男子そのものでした。そんな可愛いらしくももどかしく、焦れったい小狐丸様の様子は申し訳ないとは思いつつも私達の楽しみでした。
思わず垂れた頬を引き締め失礼にならない程度に御二方を眺めます。昼時ということもあり食事処へ人が流れていったので客足の遠のいた店内では御二方を眺めても変に思われないのは幸いです。
「これは…。」
ふと足を止められた夕凪様の視線がとあるコーナーへと向けられます。
キャッチーなフレーズとそれを引き立てるポップな絵柄が目を引く当店一押しの物。今が旬の梅を氷菓子と共にソーダ水に漬け込んだ梅ジュースは今の時期にピッタリの代物でございます。
「買うてやろうか。」
あんなに遅いと急かしたのにも関わらず置いていくことなく、それどころか小さな声でも聞こえる距離を保っていたのでしょう。同じように立ち止まった小狐丸様の言葉に私と丁度品出を終えた他の店子、夕凪様の目が品物から移り集まります。
そして店子の私達は顔を見合わせ歓喜しました。
あの小狐丸様がついに!
いつもは菓子を多めに買ったとか処分しとけとか何とか理由をつけて渡していたおられた小狐丸様が、初めて、夕凪様のために買ってあげると言われました!
目線は合っておらず、声はいつもより小さく、組んだ腕の片袖が皺だらけになるほど握りしめられておりかっこよくはありませんが、とてつもない勇気を出したのはひしひしと伝わってきます。
私共もどうにかニヤけないように内頬を噛み締めます。まるで我が子の発表会を見に来た気分です。
気恥しいのかそれ以降言葉もなく目線も斜め上。そんな小狐丸様を夕凪様ははて、と小首を傾げた後私共が見守る中で暖かな笑顔を浮かべ、
「いえ結構です。欲しがりませんから、勝つまでは。」
普段の様子と変わらない夕凪様と、とぼとぼと落胆しきった小狐丸様の背中を見送りながら、そう言えば巷では夕凪様は『難攻不落』と呼ばれていることを思い出しました。
万屋ボイス 『欲しがりませんよ、勝つまでは。』