軍刀女士の大戦記
空欄の場合は夕凪になります
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夕凪と言う刀剣を必要とする審神者は少なくない。
特に女審神者には一定数需要があり、ここ岩見のとある本丸でも夕凪は審神者から重宝されていた。
「なら大将を頼むぞ。何かあったら俺っちに連絡くれ。」
「はい。」
「あと長谷部に何か言われたら遠慮なく言ってくれ。」
「善処します。」
そう言って白い小さな袋を渡す薬研藤四郎に苦笑しながら夕凪はその袋を受け取る。審神者は毎月数日の間自室に隠る。その間の書類や部隊の管理等の審神者の業務は一時的に初期刀である山姥切国広や他の刀剣が請け負うのだが、夕凪だけは他の役目があった。それは付きっきりで審神者の世話をする事。しかも1振りだけで。
理由を察している刀剣もいるにはいるがそれを不満に思う刀剣の方が多い。だが山姥切国広や古参の薬研藤四郎が何も言わないため皆、一応口は噤んでくれている。けれど中には納得がいかないと不平を口にする刀剣もおり、中でもへし切長谷部は夕凪を目の敵にしていた。夕凪からしたら審神者の命令に従っているだけなのだが、どことも由縁のない新参者で得体の知れない刀剣である夕凪と自分達の主を2人きりに出来るか、とは長谷部の言い分だ。
心配からきているのだろうけど…。
夕凪はこの数日が終わったあとの長谷部からの質問責めを思って苦笑するしかなかった。
「マジかぁ…。」
世話の任から解かれてはや数日、夕凪は通常の業務に戻っていた。廊下にある内番表を見、自分の名前を確認する。馬当番か。初めてやるが大変そうだと意気込み相方を確認した後、馬小屋へと向かった夕凪はそこで見留めた姿に心底気落ちした。
「今日は博多殿だと思っていましたが。」
「博多は腹痛だ。だから今月は俺が代わった。…なんだ、不満そうだな。」
そこにいたのは本日の相方であった博多藤四郎とは似ても似つかない長身、へし切長谷部であった。
眉間に皺を寄せ顔を顰めている長谷部に夕凪は内心ため息をつく。代打か、もっと他の刀剣はいなかったのだろうか。段々と憂鬱になっていく己を何とか鼓舞し夕凪はいいいえ、と首を振った。それに面白くなさそうにふんっと鼻を鳴らしさっさと歩いていく長谷部のあとを慌てて追う。この本丸では内番は1ヶ月交代。これから1ヶ月間毎日長谷部と顔を合わせるのかと思うと、夕凪は胃がキリキリと痛んだ。
「おい、おがくずはしっかり分けろ。桶はそこに置くな。あと馬に触る時は声をかけろ。戦場で乗る時もそんな風に扱うつもりか?」
「申し訳ない…。」
1をやれば10の指摘。気が滅入りそうだ。
長谷部の言い方はキツいが間違ったことは言っていない。ただ苦手だと思って仕事をすれば、声が大きく聞こえてしまうのは仕方ないことで。夕凪はそうそうにやる気がなくなってしまっていた。
そも夕凪が造られた時代に馬で戦う事などなかった。戦闘時は戦車や軍艦が主流で、人間以外の生き物が戦争に使われるなど余っ程でなければ無かったと記憶している。故に夕凪にとって馬に乗ると言うのは映画や時代劇の中のイメージで、共に戦う以前に慣れることから始めなければいけないのだ。
そんな状態なのに、馬に乗って戦うとは?
いまいち理解出来ぬまま、それでも戦場でそれを理由に負けでもしたらと思うと夕凪は長谷部の言うことに何も否定は出来なかった。
閣下に言ってこの内番が終わったら馬に慣れるための練習をさせてもらおう。今のままじゃあまりにも情けない。
夕凪は内心ため息をつきながら長谷部を見る。
丁寧かつ素早い動きや困っていたらすかさず手助けに入る姿は夕凪も見習うべきだと思う。
でもこうもあからさまに敵対視されると何とも…。
過去にここの審神者にあったことを思えば過保護に心配するのも理解できるが、それでもやはり疑われるのは悲しい。けど閣下は知られたくないと言ってるしなぁ…。何とか察してくれないかと、きりきりと動く長谷部の背に祈るしかなかった。
未だ慣れない馬当番も何とか注意を受けない程度には出来るようになってきた夕凪は、戦場へ出る前の慣らしとして午後から遠征部隊に参加させてもらった。
疲れたが中々興味深かったなと感心しながら自室に戻ろうとしていた夕凪は、はたと廊下に見知った姿を見つけ目を瞬かせる。
「長谷部殿?どうしたんですこんな処で。」
縁側に独り、項垂れて座り込む長谷部に夕凪は慌てて声をかけた。何かあったのだろうか。何も言わない長谷部に心配が募るも、根気強く傍にいると遂にポツポツと話始めた。
「主の、体調がまた良くなくなったと聞いて、会いに行ったんだ…。」
おや、と[#d=1#]は眉を上げる。しかしそんな夕凪に気づくことなく長谷部は徐々に声を震わせて言った。
「血の、臭いがしたから怪我をしたと思って、聞いたら…、っ、『長谷部なんて嫌い、出てけ』と、言われっ。」
「あぁ…。」
喉を詰まらせほぼ嗚咽のように話す長谷部に夕凪は今回は早かったな、と内心独り言ちる。ならばまた数日間世話役か。その間の馬当番はどうしようかと考えていると、グズり、と鼻をすする音がし始めた。
「は、長谷部殿?」
「主に、捨てられたら、どうしようっ。」
泣いている。
あの鬼のように厳しい長谷部が泣いている。
その姿に衝撃を感じると共になんだ、と夕凪は肩の力が抜けた。長谷部殿は本当に、ただ閣下のことが好きで好きでたまらないのか。
それを分かってしまえば簡単だ。根は悪い刀ではないのは知っている。ならば、と笑いそうになる頬を何とか引き締め夕凪は自室へと向かうと棚の中の箱からティーバッグを1つ取り出し、そのままいつものようにハーブティーを作った。そしてカップをお盆に乗せると未だに項垂れたままの長谷部の元へ座る。
「長谷部殿。これを閣下に持って行ってください。」
「…これは?」
「ハーブティーです。初日なので濃いめにしましたと伝えておいてください。」
「初日?」
「長谷部殿、閣下のそれは毎月ありますが特病ではありません。では何故誰にも言わず刀剣の中でも私だけが傍に置かれるのか。それは私は刀剣女士だからです。閣下の痛みが分かる同じ女だからです。」
そう、審神者が毎月数日間隠る理由は生理痛が酷いからだ。それを他の刀剣男士には伝えにくく、しかも下手に伝えれば過度に干渉されてしまうかもしれない。それが嫌で同じ生理がある夕凪がその間身の回りの世話を任されていたのだ。
ポカンとする長谷部に夕凪はやれやれとお盆を渡し、しっかりと長谷部の顔を見た。
「閣下は月のものの時は兎に角構われるのを嫌がります。これを渡し後から私が行くことを伝えて、その後は長居せず速やかにその場を立ち去ってください。」
え、あ、と吃る長谷部に再度念押ししてから夕凪はさっさとその場を去っていった。
閣下は生理で気が立っている。長谷部殿に言ったことは決して本心ではないだろう。それなら長谷部殿が行けば閣下から何かしらの言葉がかかる。そこから2人がどんなことを喋るかは知らないが、お膳立てはしたのだから、精々上手くいってくれよと夕凪は肩を落とした。
「馬…。」
あの後審神者と長谷部はしっかりと和解したらしく、長谷部から礼と謝罪を告げられた夕凪は、その長谷部から呼び出しがあり馬小屋へと来ていた。
「あぁ。主から聞いた。夕凪は馬に全く慣れていないと。」
「えっと…。まぁあまり触れてはきませんでしたね。」
「刀として前の主と共に乗ったことはあったが、俺も人の身を得て初めて馬に触れたから気持ちは少しは分かるつもりだ。」
だから、その、と言葉が濁る長谷部に夕凪は目を瞬かせる。そして長谷部の言いたいことを理解すると、ふっと微笑んで見せた。
「乗り方、教えてくださいますか?」
「、あぁ。しっかり覚えろよ。」
初めて見た長谷部の笑みは、不器用でも柔く、優しい笑みだった。
余談だが夕凪はその後、長谷部の丁寧な教えも虚しく馬から滑落して手入れ部屋送りとなった。
内番(馬)ボイス 開始『馬…。』
終了『馬に乗って戦うとは…?』
特に女審神者には一定数需要があり、ここ岩見のとある本丸でも夕凪は審神者から重宝されていた。
「なら大将を頼むぞ。何かあったら俺っちに連絡くれ。」
「はい。」
「あと長谷部に何か言われたら遠慮なく言ってくれ。」
「善処します。」
そう言って白い小さな袋を渡す薬研藤四郎に苦笑しながら夕凪はその袋を受け取る。審神者は毎月数日の間自室に隠る。その間の書類や部隊の管理等の審神者の業務は一時的に初期刀である山姥切国広や他の刀剣が請け負うのだが、夕凪だけは他の役目があった。それは付きっきりで審神者の世話をする事。しかも1振りだけで。
理由を察している刀剣もいるにはいるがそれを不満に思う刀剣の方が多い。だが山姥切国広や古参の薬研藤四郎が何も言わないため皆、一応口は噤んでくれている。けれど中には納得がいかないと不平を口にする刀剣もおり、中でもへし切長谷部は夕凪を目の敵にしていた。夕凪からしたら審神者の命令に従っているだけなのだが、どことも由縁のない新参者で得体の知れない刀剣である夕凪と自分達の主を2人きりに出来るか、とは長谷部の言い分だ。
心配からきているのだろうけど…。
夕凪はこの数日が終わったあとの長谷部からの質問責めを思って苦笑するしかなかった。
「マジかぁ…。」
世話の任から解かれてはや数日、夕凪は通常の業務に戻っていた。廊下にある内番表を見、自分の名前を確認する。馬当番か。初めてやるが大変そうだと意気込み相方を確認した後、馬小屋へと向かった夕凪はそこで見留めた姿に心底気落ちした。
「今日は博多殿だと思っていましたが。」
「博多は腹痛だ。だから今月は俺が代わった。…なんだ、不満そうだな。」
そこにいたのは本日の相方であった博多藤四郎とは似ても似つかない長身、へし切長谷部であった。
眉間に皺を寄せ顔を顰めている長谷部に夕凪は内心ため息をつく。代打か、もっと他の刀剣はいなかったのだろうか。段々と憂鬱になっていく己を何とか鼓舞し夕凪はいいいえ、と首を振った。それに面白くなさそうにふんっと鼻を鳴らしさっさと歩いていく長谷部のあとを慌てて追う。この本丸では内番は1ヶ月交代。これから1ヶ月間毎日長谷部と顔を合わせるのかと思うと、夕凪は胃がキリキリと痛んだ。
「おい、おがくずはしっかり分けろ。桶はそこに置くな。あと馬に触る時は声をかけろ。戦場で乗る時もそんな風に扱うつもりか?」
「申し訳ない…。」
1をやれば10の指摘。気が滅入りそうだ。
長谷部の言い方はキツいが間違ったことは言っていない。ただ苦手だと思って仕事をすれば、声が大きく聞こえてしまうのは仕方ないことで。夕凪はそうそうにやる気がなくなってしまっていた。
そも夕凪が造られた時代に馬で戦う事などなかった。戦闘時は戦車や軍艦が主流で、人間以外の生き物が戦争に使われるなど余っ程でなければ無かったと記憶している。故に夕凪にとって馬に乗ると言うのは映画や時代劇の中のイメージで、共に戦う以前に慣れることから始めなければいけないのだ。
そんな状態なのに、馬に乗って戦うとは?
いまいち理解出来ぬまま、それでも戦場でそれを理由に負けでもしたらと思うと夕凪は長谷部の言うことに何も否定は出来なかった。
閣下に言ってこの内番が終わったら馬に慣れるための練習をさせてもらおう。今のままじゃあまりにも情けない。
夕凪は内心ため息をつきながら長谷部を見る。
丁寧かつ素早い動きや困っていたらすかさず手助けに入る姿は夕凪も見習うべきだと思う。
でもこうもあからさまに敵対視されると何とも…。
過去にここの審神者にあったことを思えば過保護に心配するのも理解できるが、それでもやはり疑われるのは悲しい。けど閣下は知られたくないと言ってるしなぁ…。何とか察してくれないかと、きりきりと動く長谷部の背に祈るしかなかった。
未だ慣れない馬当番も何とか注意を受けない程度には出来るようになってきた夕凪は、戦場へ出る前の慣らしとして午後から遠征部隊に参加させてもらった。
疲れたが中々興味深かったなと感心しながら自室に戻ろうとしていた夕凪は、はたと廊下に見知った姿を見つけ目を瞬かせる。
「長谷部殿?どうしたんですこんな処で。」
縁側に独り、項垂れて座り込む長谷部に夕凪は慌てて声をかけた。何かあったのだろうか。何も言わない長谷部に心配が募るも、根気強く傍にいると遂にポツポツと話始めた。
「主の、体調がまた良くなくなったと聞いて、会いに行ったんだ…。」
おや、と[#d=1#]は眉を上げる。しかしそんな夕凪に気づくことなく長谷部は徐々に声を震わせて言った。
「血の、臭いがしたから怪我をしたと思って、聞いたら…、っ、『長谷部なんて嫌い、出てけ』と、言われっ。」
「あぁ…。」
喉を詰まらせほぼ嗚咽のように話す長谷部に夕凪は今回は早かったな、と内心独り言ちる。ならばまた数日間世話役か。その間の馬当番はどうしようかと考えていると、グズり、と鼻をすする音がし始めた。
「は、長谷部殿?」
「主に、捨てられたら、どうしようっ。」
泣いている。
あの鬼のように厳しい長谷部が泣いている。
その姿に衝撃を感じると共になんだ、と夕凪は肩の力が抜けた。長谷部殿は本当に、ただ閣下のことが好きで好きでたまらないのか。
それを分かってしまえば簡単だ。根は悪い刀ではないのは知っている。ならば、と笑いそうになる頬を何とか引き締め夕凪は自室へと向かうと棚の中の箱からティーバッグを1つ取り出し、そのままいつものようにハーブティーを作った。そしてカップをお盆に乗せると未だに項垂れたままの長谷部の元へ座る。
「長谷部殿。これを閣下に持って行ってください。」
「…これは?」
「ハーブティーです。初日なので濃いめにしましたと伝えておいてください。」
「初日?」
「長谷部殿、閣下のそれは毎月ありますが特病ではありません。では何故誰にも言わず刀剣の中でも私だけが傍に置かれるのか。それは私は刀剣女士だからです。閣下の痛みが分かる同じ女だからです。」
そう、審神者が毎月数日間隠る理由は生理痛が酷いからだ。それを他の刀剣男士には伝えにくく、しかも下手に伝えれば過度に干渉されてしまうかもしれない。それが嫌で同じ生理がある夕凪がその間身の回りの世話を任されていたのだ。
ポカンとする長谷部に夕凪はやれやれとお盆を渡し、しっかりと長谷部の顔を見た。
「閣下は月のものの時は兎に角構われるのを嫌がります。これを渡し後から私が行くことを伝えて、その後は長居せず速やかにその場を立ち去ってください。」
え、あ、と吃る長谷部に再度念押ししてから夕凪はさっさとその場を去っていった。
閣下は生理で気が立っている。長谷部殿に言ったことは決して本心ではないだろう。それなら長谷部殿が行けば閣下から何かしらの言葉がかかる。そこから2人がどんなことを喋るかは知らないが、お膳立てはしたのだから、精々上手くいってくれよと夕凪は肩を落とした。
「馬…。」
あの後審神者と長谷部はしっかりと和解したらしく、長谷部から礼と謝罪を告げられた夕凪は、その長谷部から呼び出しがあり馬小屋へと来ていた。
「あぁ。主から聞いた。夕凪は馬に全く慣れていないと。」
「えっと…。まぁあまり触れてはきませんでしたね。」
「刀として前の主と共に乗ったことはあったが、俺も人の身を得て初めて馬に触れたから気持ちは少しは分かるつもりだ。」
だから、その、と言葉が濁る長谷部に夕凪は目を瞬かせる。そして長谷部の言いたいことを理解すると、ふっと微笑んで見せた。
「乗り方、教えてくださいますか?」
「、あぁ。しっかり覚えろよ。」
初めて見た長谷部の笑みは、不器用でも柔く、優しい笑みだった。
余談だが夕凪はその後、長谷部の丁寧な教えも虚しく馬から滑落して手入れ部屋送りとなった。
内番(馬)ボイス 開始『馬…。』
終了『馬に乗って戦うとは…?』
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