軍刀女士の大戦記
空欄の場合は夕凪になります
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砂埃の中を6つの人影が走る。
迫る矢や弾をものともせず刀剣達は突き進み、遂に敵を眼前に捉えた。切っ先を向ける敵と仲間の刃がぶつかり合う。金属の甲高い音を響かせながら駆け抜けた夕凪は、そのままの勢いを殺すことなく己を振り上げた。
「朝日を拝まず死ぬがいい!」
夕凪の咆哮と共に禍々しい巨体は地に伏した。その身体が灰のようになり風に流れていくのを確認したあと、夕凪は刃の血を払い鞘に収める。
「お疲れさま。中々覇気のある一撃だったね。」
「亀甲殿。」
穏やかに話しかけてきた亀甲貞宗に夕凪は笑みを零す。同部隊と言っても彼は極で、夕凪との力の差は歴然だ。だからこそ亀甲は夕凪をよく気にかけこうして戦闘後は必ず声をかけてくれていた。
「あまり見られたくないんですけどね。はしたないですし。」
「そんなことないさ。誰よりも格好良かったよ。それに…、」
そこで言葉を濁した亀甲に内心首を傾げた夕凪は、ふと自身を見つめる亀甲の目を見てブルりと身震いする。
どろりと溶ける薄い水色の瞳。その奥から何か、夕凪的に良くない物が顔を覗かせていた。
夕凪は走っていた。
勝手知ったる本丸の廊下を兎に角ひたすらに走っていた。ドタドタと、歌仙辺りに見つかればはしたないと注意されるだろうほど激しく足を動かし、夕凪は走っていた。
否、逃げていた。
「待って!待っておくれ!」
「嫌です!追いかけて来ないで下さい!!」
「なら逃げないでくれ、夕凪くん!!」
そう言って手を伸ばしてくる亀甲に夕凪は尚更足を速める。そう、夕凪は亀甲から逃げていたのだった。
つい先日、初めて亀甲の前で会心の一撃を見せてから亀甲は夕凪を静かに見つめることが増えた。特に敵意などはないも、何も言われずじっと見られ続けるのはいい気がしない。そんなある日、タイミングを見計らってどうしたのかと問うた夕凪に、亀甲は頬を淡く染め瞳を潤ませたかと思うと、熱い吐息を漏らして言った。
『あの会心の一撃の時の、君の冷徹な瞳が忘れられないんだ…。1度でいい!僕を罵倒してくれないか!!』
ハァハァと何故か息の上がっている亀甲に夕凪は卒倒しそうになる。目の前に迫る亀甲を突き飛ばし、発狂しそうな口を閉じながら夕凪は逃げた。
しかし来る日も来る日も亀甲は諦めることなく、隙を見ては夕凪に迫っていた。
それが今日まで、夕凪が亀甲から逃げている理由である。
必死に足を動かすが段々とその速度は落ちていく。それでも捕まる訳にはいかないと力を振り絞るが、等々夕凪は亀甲に腕を掴まれてしまった。
ぐっ、と引っ張られその流れで身体が亀甲の方へと向く。運悪く逃げたここも本丸の端の方で、誰もいなければ四方を壁に囲まれていた。壁を背に、前には亀甲、万事休すかと夕凪は肩を落とす。
「やっと捕まえられた…。」
やや汗ばんでいるも疲れた様子のない亀甲。その顔から目を伏せた夕凪は静かに口を開いた。
「…何度も言いますが仲間を罵倒するなど出来ません。」
夕凪の顔の横に置かれた右手がピクリと反応する。彼は常々愛がなければ、と言っていた。何故自分にこだわるのかは分からないが、それは亀甲の流儀に反するのではないかと伝えると、彼は少しだけ眉を下げる。
「…確かに夕凪くんの言う通りだ。…でも、でも僕はあの日の君の顔と声音が忘れられないんだ!」
そう言って力強く見つめる亀甲に夕凪は内心ため息をつく。理由は理解した。でもだからって何で私が…。じわじわと湧き出る苛立ちに、やはり納得は出来ないと亀甲を跳ね除けようと夕凪が手を上げる。
「頼む。1度だけでいいんだ。金輪際関わらないと誓う。だからお願いだ、1度だけ僕を蔑んでくれないかっ。」
上げた手を亀甲が縋るように取った。
咄嗟のことでなすがままになる夕凪をいいことに、その手の甲に額を当て一生懸命懇願する。
何をするのかと、夕凪は手を払おうとした。けれどその頭に垂れた犬の耳が見えた気がして、夕凪は飼っていた犬を思い出しふっ、と微笑んでいた。
「…なんて顔してんのよ、情けない。」
気が緩んだのだろう。あまりに砕けた自身の物言いに夕凪ははっとして口を塞ぐ。なんと言うことだ。歴を積んだ国宝にとんだ口を聞いてしまった。
やってしまったと後悔しザワつく胸を抑え、夕凪が恐る恐る亀甲の顔を伺うと、
「…………。」
ポーっ、と顔を赤く染めこちらを見つめる亀甲。それは怒りで赤くなっていると言うより熱に浮かされているように見えた。
何か尚更面倒臭いことになってる…?
それでも離されない手をそのままに、夕凪は頭を抱えたくなった。
会心の一撃 『朝日を拝まず死ぬがいい!』
迫る矢や弾をものともせず刀剣達は突き進み、遂に敵を眼前に捉えた。切っ先を向ける敵と仲間の刃がぶつかり合う。金属の甲高い音を響かせながら駆け抜けた夕凪は、そのままの勢いを殺すことなく己を振り上げた。
「朝日を拝まず死ぬがいい!」
夕凪の咆哮と共に禍々しい巨体は地に伏した。その身体が灰のようになり風に流れていくのを確認したあと、夕凪は刃の血を払い鞘に収める。
「お疲れさま。中々覇気のある一撃だったね。」
「亀甲殿。」
穏やかに話しかけてきた亀甲貞宗に夕凪は笑みを零す。同部隊と言っても彼は極で、夕凪との力の差は歴然だ。だからこそ亀甲は夕凪をよく気にかけこうして戦闘後は必ず声をかけてくれていた。
「あまり見られたくないんですけどね。はしたないですし。」
「そんなことないさ。誰よりも格好良かったよ。それに…、」
そこで言葉を濁した亀甲に内心首を傾げた夕凪は、ふと自身を見つめる亀甲の目を見てブルりと身震いする。
どろりと溶ける薄い水色の瞳。その奥から何か、夕凪的に良くない物が顔を覗かせていた。
夕凪は走っていた。
勝手知ったる本丸の廊下を兎に角ひたすらに走っていた。ドタドタと、歌仙辺りに見つかればはしたないと注意されるだろうほど激しく足を動かし、夕凪は走っていた。
否、逃げていた。
「待って!待っておくれ!」
「嫌です!追いかけて来ないで下さい!!」
「なら逃げないでくれ、夕凪くん!!」
そう言って手を伸ばしてくる亀甲に夕凪は尚更足を速める。そう、夕凪は亀甲から逃げていたのだった。
つい先日、初めて亀甲の前で会心の一撃を見せてから亀甲は夕凪を静かに見つめることが増えた。特に敵意などはないも、何も言われずじっと見られ続けるのはいい気がしない。そんなある日、タイミングを見計らってどうしたのかと問うた夕凪に、亀甲は頬を淡く染め瞳を潤ませたかと思うと、熱い吐息を漏らして言った。
『あの会心の一撃の時の、君の冷徹な瞳が忘れられないんだ…。1度でいい!僕を罵倒してくれないか!!』
ハァハァと何故か息の上がっている亀甲に夕凪は卒倒しそうになる。目の前に迫る亀甲を突き飛ばし、発狂しそうな口を閉じながら夕凪は逃げた。
しかし来る日も来る日も亀甲は諦めることなく、隙を見ては夕凪に迫っていた。
それが今日まで、夕凪が亀甲から逃げている理由である。
必死に足を動かすが段々とその速度は落ちていく。それでも捕まる訳にはいかないと力を振り絞るが、等々夕凪は亀甲に腕を掴まれてしまった。
ぐっ、と引っ張られその流れで身体が亀甲の方へと向く。運悪く逃げたここも本丸の端の方で、誰もいなければ四方を壁に囲まれていた。壁を背に、前には亀甲、万事休すかと夕凪は肩を落とす。
「やっと捕まえられた…。」
やや汗ばんでいるも疲れた様子のない亀甲。その顔から目を伏せた夕凪は静かに口を開いた。
「…何度も言いますが仲間を罵倒するなど出来ません。」
夕凪の顔の横に置かれた右手がピクリと反応する。彼は常々愛がなければ、と言っていた。何故自分にこだわるのかは分からないが、それは亀甲の流儀に反するのではないかと伝えると、彼は少しだけ眉を下げる。
「…確かに夕凪くんの言う通りだ。…でも、でも僕はあの日の君の顔と声音が忘れられないんだ!」
そう言って力強く見つめる亀甲に夕凪は内心ため息をつく。理由は理解した。でもだからって何で私が…。じわじわと湧き出る苛立ちに、やはり納得は出来ないと亀甲を跳ね除けようと夕凪が手を上げる。
「頼む。1度だけでいいんだ。金輪際関わらないと誓う。だからお願いだ、1度だけ僕を蔑んでくれないかっ。」
上げた手を亀甲が縋るように取った。
咄嗟のことでなすがままになる夕凪をいいことに、その手の甲に額を当て一生懸命懇願する。
何をするのかと、夕凪は手を払おうとした。けれどその頭に垂れた犬の耳が見えた気がして、夕凪は飼っていた犬を思い出しふっ、と微笑んでいた。
「…なんて顔してんのよ、情けない。」
気が緩んだのだろう。あまりに砕けた自身の物言いに夕凪ははっとして口を塞ぐ。なんと言うことだ。歴を積んだ国宝にとんだ口を聞いてしまった。
やってしまったと後悔しザワつく胸を抑え、夕凪が恐る恐る亀甲の顔を伺うと、
「…………。」
ポーっ、と顔を赤く染めこちらを見つめる亀甲。それは怒りで赤くなっていると言うより熱に浮かされているように見えた。
何か尚更面倒臭いことになってる…?
それでも離されない手をそのままに、夕凪は頭を抱えたくなった。
会心の一撃 『朝日を拝まず死ぬがいい!』