軍刀女士の大戦記
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8月15日、長きに渡る戦争が終わりを告げた
玉音放送で聴いた敗北の知らせに、主は涙を流した。
片脚が吹っ飛ばされても片目を潰されても泣かなかった人が、悔しそうに泣いていた。
その時、ああ、負けたんだと自覚した。
戦争で折れることも国のために命を散らすこともなく、お世辞にも綺麗とは言い難いこの病室で、私達は死んだのだ。
それがどうしても悔しくて、悲しくて恥ずかしくて泣き喚きたかったけれど、刀である今の私にはそんな芸当出来るはずもなく、
ただただ、折れることを切に願うしかなかった。
私は元々人間だったのだが、気がついたら刀になっていた。何を言っているんだと思われるかもしれないがちゃんと人だった頃の記憶がある。死んだ記憶はないので前世、というのも少し違う気はするが、とにかく私の前世は女子高生だった。
けれど何の因果かいつの間にか軍刀 [#dc=1#] になっていたのである。
初めこそ何が何だか分からず、何度も逃げ出そうとしたり主人である男に幾度も問いかけ助けを乞うたりした。しかし所詮は刀。動けもしないし声も出ない。
意識のみが存在する中、涙すら乾き果て、数ヶ月すれば諦めていた。
また時代も悪かったのだろう。
昭和初期、ほとんど勉強していなかった私にもわかる。
これから世界は、日本は大戦へと向かう。
段々と国民が戦争へ向かっていく中、相反するように心は憂いていった。
そして遂に戦争が始まり、私は多くの人間を斬った。
斬って斬って斬って斬って斬って。
"人間を斬る"から"敵を斬る"に意識が変わっていくのと同時に、私の身体も形成されていった。
地を踏む足、拳を握る手、空気を震わす声、どれも人間には認識されないものだったが、確かに私は存在していった。
本体である刀からはあまり離れられないので常に主と一緒にいたが、そのおかげで気づけたこともあった。
主はとても優秀な軍人だった。
的確な指揮、勇ましく戦う姿、情に厚く仲間想い、そんな彼を誰も彼もが慕い尊敬した。
その事が誇らしく、彼こそが私の太陽だと思った。
しかし、そんな主も激化する戦いの中で命を散らした。
最期まで強い方だった。
次の主は彼の部下だった。
彼が1番信頼し、一等強い覚悟を持った瞳をしていた。
遺言通り私を受け取った部下の男は本体である刀身に敬礼を向けた。
何人も揺るがすことの出来ないその姿に見えないと知りながら私も同じ様に返していた。
それが答えだった。
そこから何人かの主に受け渡されてきたが、どれも皆大日本帝国に恥じぬ男達であった。
最後の男こそ生き長らえてしまったことに涙したがそれでも素晴らしい主人だった。
だからこそ彼が息絶える時、共に果てるつもりだった。
だったのだが…、
「夕凪様、どうかお力をお貸しください。」
何故に私は何人もの人間の前に居るのだろうか。
西暦2212年、長い眠りから目覚めさせられた私は重大な選択を迫られていた。
「我々は今、かつてないほどの危機に瀕しています。歴史修正主義者を名乗る者達が歴史改変を目論み、"時間遡行軍"なるものを結成しました。」
「過去への攻撃を阻止するため、政府は刀剣に宿る付喪神"刀剣男士"とそれを目覚めさせ力を引き出す"審神者"なる者達を戦力とし、対抗してきました。」
「しかし、"検非違使"と呼ばれる第三勢力も現れはじめ戦いは苛烈するばかり。」
「どうか一刻も早い終わりのためにもう一度戦ってもらえないでしょうか。」
そう言って頭を下げる代表の男に続き、後ろにいる数十名も一斉に頭を下げる。
付喪神、かぁ…。いつの間にそんなものになったのやら。
確かに長く使われてきたものには命が宿るというが、私の場合は少し特殊だ。元人間の魂は末席とはいえ神になれるのだろうか。いや、でも弟刀は何も言わなかったし…。
「あの、夕凪様…?」
男の言葉にハッとする。いけない、客人の前だった。
「ああ、申し訳ない。えっと、私の力ですよね…。話を聞く限り、今顕現されている刀剣は全て男の姿ですよね。しかし私は女の姿をしています。それに私は刀を重視していた時代ではなく、銃を主流としていた時代に産まれました。価値観も何もかもが違う私が連携の取れた戦いをできるとは思えません。ご期待には添えないかと…。」
「とんでもございません!夕凪様のそれは利点にございます。世界大戦なるものを経験したことがあるのは夕凪様以外におりませんし、審神者の中には刀剣男士様方との価値観に悩む者も少なくなく…。現代に近い思考は逆に有難いのです。それに女性の審神者も"男ばかりで息が詰まる"と。」
「ああ、それは確かに…。」
「ですので、何卒お願い致します。」
本日何度目かの土下座にため息をつく。
もう戦争には関わらないと思っていたが…。
仕方ない。大の大人がプライドを捨てここまでやっているのだ。無下にするほど私も鬼ではない。
「分かりました。我が国の未来のため、国民の健やかな暮らしのため助力いたしましょう。」
「!ありがとうござ「ただし」、え?」
歓喜に湧く人間をゆっくりと見回す。
戦争中にしては脳天気なその姿に自ずと冷笑した。
「私が忠誠を誓うのは大日本帝国のみ。もし審神者や政府に膿を見つけた場合は、大日本帝国に仇なす害悪として処理します。」
全ては我が国の安寧と栄光のため。
二度と地に伏し頭を垂れぬよう、この日ノ本に勝利を捧げてみせよう。
誰かの息を飲む音を聞きながら何百年か越しに感じた鉛のようにドロリと重い決意を懐かしんだ。
玉音放送で聴いた敗北の知らせに、主は涙を流した。
片脚が吹っ飛ばされても片目を潰されても泣かなかった人が、悔しそうに泣いていた。
その時、ああ、負けたんだと自覚した。
戦争で折れることも国のために命を散らすこともなく、お世辞にも綺麗とは言い難いこの病室で、私達は死んだのだ。
それがどうしても悔しくて、悲しくて恥ずかしくて泣き喚きたかったけれど、刀である今の私にはそんな芸当出来るはずもなく、
ただただ、折れることを切に願うしかなかった。
私は元々人間だったのだが、気がついたら刀になっていた。何を言っているんだと思われるかもしれないがちゃんと人だった頃の記憶がある。死んだ記憶はないので前世、というのも少し違う気はするが、とにかく私の前世は女子高生だった。
けれど何の因果かいつの間にか軍刀 [#dc=1#] になっていたのである。
初めこそ何が何だか分からず、何度も逃げ出そうとしたり主人である男に幾度も問いかけ助けを乞うたりした。しかし所詮は刀。動けもしないし声も出ない。
意識のみが存在する中、涙すら乾き果て、数ヶ月すれば諦めていた。
また時代も悪かったのだろう。
昭和初期、ほとんど勉強していなかった私にもわかる。
これから世界は、日本は大戦へと向かう。
段々と国民が戦争へ向かっていく中、相反するように心は憂いていった。
そして遂に戦争が始まり、私は多くの人間を斬った。
斬って斬って斬って斬って斬って。
"人間を斬る"から"敵を斬る"に意識が変わっていくのと同時に、私の身体も形成されていった。
地を踏む足、拳を握る手、空気を震わす声、どれも人間には認識されないものだったが、確かに私は存在していった。
本体である刀からはあまり離れられないので常に主と一緒にいたが、そのおかげで気づけたこともあった。
主はとても優秀な軍人だった。
的確な指揮、勇ましく戦う姿、情に厚く仲間想い、そんな彼を誰も彼もが慕い尊敬した。
その事が誇らしく、彼こそが私の太陽だと思った。
しかし、そんな主も激化する戦いの中で命を散らした。
最期まで強い方だった。
次の主は彼の部下だった。
彼が1番信頼し、一等強い覚悟を持った瞳をしていた。
遺言通り私を受け取った部下の男は本体である刀身に敬礼を向けた。
何人も揺るがすことの出来ないその姿に見えないと知りながら私も同じ様に返していた。
それが答えだった。
そこから何人かの主に受け渡されてきたが、どれも皆大日本帝国に恥じぬ男達であった。
最後の男こそ生き長らえてしまったことに涙したがそれでも素晴らしい主人だった。
だからこそ彼が息絶える時、共に果てるつもりだった。
だったのだが…、
「夕凪様、どうかお力をお貸しください。」
何故に私は何人もの人間の前に居るのだろうか。
西暦2212年、長い眠りから目覚めさせられた私は重大な選択を迫られていた。
「我々は今、かつてないほどの危機に瀕しています。歴史修正主義者を名乗る者達が歴史改変を目論み、"時間遡行軍"なるものを結成しました。」
「過去への攻撃を阻止するため、政府は刀剣に宿る付喪神"刀剣男士"とそれを目覚めさせ力を引き出す"審神者"なる者達を戦力とし、対抗してきました。」
「しかし、"検非違使"と呼ばれる第三勢力も現れはじめ戦いは苛烈するばかり。」
「どうか一刻も早い終わりのためにもう一度戦ってもらえないでしょうか。」
そう言って頭を下げる代表の男に続き、後ろにいる数十名も一斉に頭を下げる。
付喪神、かぁ…。いつの間にそんなものになったのやら。
確かに長く使われてきたものには命が宿るというが、私の場合は少し特殊だ。元人間の魂は末席とはいえ神になれるのだろうか。いや、でも弟刀は何も言わなかったし…。
「あの、夕凪様…?」
男の言葉にハッとする。いけない、客人の前だった。
「ああ、申し訳ない。えっと、私の力ですよね…。話を聞く限り、今顕現されている刀剣は全て男の姿ですよね。しかし私は女の姿をしています。それに私は刀を重視していた時代ではなく、銃を主流としていた時代に産まれました。価値観も何もかもが違う私が連携の取れた戦いをできるとは思えません。ご期待には添えないかと…。」
「とんでもございません!夕凪様のそれは利点にございます。世界大戦なるものを経験したことがあるのは夕凪様以外におりませんし、審神者の中には刀剣男士様方との価値観に悩む者も少なくなく…。現代に近い思考は逆に有難いのです。それに女性の審神者も"男ばかりで息が詰まる"と。」
「ああ、それは確かに…。」
「ですので、何卒お願い致します。」
本日何度目かの土下座にため息をつく。
もう戦争には関わらないと思っていたが…。
仕方ない。大の大人がプライドを捨てここまでやっているのだ。無下にするほど私も鬼ではない。
「分かりました。我が国の未来のため、国民の健やかな暮らしのため助力いたしましょう。」
「!ありがとうござ「ただし」、え?」
歓喜に湧く人間をゆっくりと見回す。
戦争中にしては脳天気なその姿に自ずと冷笑した。
「私が忠誠を誓うのは大日本帝国のみ。もし審神者や政府に膿を見つけた場合は、大日本帝国に仇なす害悪として処理します。」
全ては我が国の安寧と栄光のため。
二度と地に伏し頭を垂れぬよう、この日ノ本に勝利を捧げてみせよう。
誰かの息を飲む音を聞きながら何百年か越しに感じた鉛のようにドロリと重い決意を懐かしんだ。