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小エビとウツボとウミヘビと、時々怪奇

入口のガラス張りの扉は鍵がかかっておらず難なく開いた。ギィ、と軋んだ音が玄関内に木霊する。いくつかの下駄箱が鎮座するそこは真っ暗だが、外見に反して小綺麗だった。ジャミルは慎重に辺りを見渡し終わると振り返りフロイドと監督生に頷く。足を踏み入れたジャミルに2人も続いた。中に設置してある窓から見える景色はやはり赤黒い。何だか気温が一気に下がった気がして監督生は自身の腕を摩っていると、

バンッ!

「あ。」

監督生の声に急いでジャミルが確認に行くも扉はもうビクともせず、フロイドがすぐさまガラス部分を蹴るも割れるどころかヒビも入らない。閉じ込められたのだと瞬時に3人は理解した。



開かない扉を相手にしていても仕方ないと周囲を一通り調べたも結局何が分かるわけでもなく、唯一見つけた電気のスイッチも作動しなかった。

「…まぁ、だろうな。」
「最初っから罠っぽかったですもんね…。」
「あぁ〜!うぜぇぇ!!」

とうとう頭を掻き乱すフロイド。常から束縛を嫌っているこの男が今の状況に我慢出来るわけがなかった。見るからに不穏な気配を漂わせ始めたフロイドに、ジャミルと監督生は距離をとる。とばっちりは御免だ。

「取り敢えず放送室を目指すしかないですね。」
「録音にしろ生にしろ、そこしか人の気配がないからな…。それでいいかフロイド。」

ジャミルの声に、しかしフロイドは不機嫌そうに眉を寄せたまま低く唸った。

「あ?なんでウミヘビくんが指揮ってんの。」
「お前がガキみたいなことしてるからだろ。」
「あー、先輩方落ち着いて!」

早速喧嘩腰で今にも掴みかからんばかりに睨み合う2人の間に入りながら、監督生はこれからの事を思い胃が痛くなった。




ゆっくり、なるべく物音を立てないように歩く3人。1番体躯のいいフロイドが後方に立ち、間に監督生、前方をジャミルが守る形で進んでいた。

「ここを真っ直ぐ行ったら階段があるんですけど、そこの壁に確か見取り図があったと思います。」

3人は監督生の記憶を頼りに見取り図がある西階段へと向かっていた。目的地は放送室なのだが、監督生も大分昔の記憶なので細部に何があったかまでは覚えていない。何もなければいいが、もし逃げなければならない状況になった時のためにもルートは把握して起きたい。魔法が使えない今は成る可く何かあった際にその何かを避ける方法が必要だった。

「てか暗すぎじゃね。外の光全く入ってないじゃん。」

フロイドの言う通り、気味の悪い景色でも外は確かに光があるのに校舎内は目を凝らさなければ壁と廊下の界目が分からないほどだった。夜の校舎と言うには暗すぎるここは、確かに異界なのだと感じざるを得ない。そんな重苦しく澱んだ空気と恐怖から意識を逸らすべく、そう言えば、と監督生は口を開いた。

「今日は随分と大人しいですねフロイド先輩。いつもならオレもう飽きたぁ。って言ってどっか行くのに。」
「あはっ。小エビちゃんそれオレの真似のつもり?似てねぇよ、絞めんぞ。」
「あだだだだだ!絞まってる、もう絞まってる!!」

容赦なくヘッドロックをかけられる監督生は、我後輩、か弱い後輩!と叫びながら自分の首に回ったフロイドの腕をタップする。そんな彼女に先程までの恐怖で震えていた姿はなく、普段通り魔法渦巻く異世界で図太く逞しく生活する監督生の姿だった。全く…、と呆れたように立ち止まるジャミルはぐぇっ、と汚い声を出す監督生に肩を下ろす。そんな監督生もジャミルも無視してフロイドはす、と目を細めた。

「ウミヘビくんと一緒。オレも伊達に海ん中で生きてきてねぇから。死にたくねぇし、やべぇのはビシバシ肌で感じてる。」

指揮ってんのはうぜぇけど、と続けたフロイドに監督生は目を見開く。それからそうか、と納得した。知らない場所で自衛も出来ないこの状況、先輩達の方が危機感が強いに決まってる。私と違ってあったものが無くなったのだから。なんだか監督生は安堵と同時にぐっと熱いものが込み上げてきた。

「先輩の場合肌じゃなくて鱗でしょ。」
「ほんといい度胸してんね。」

なんで今火にガソリンを注いだんだ。再度絞められ始めた監督生が助けを求めるのをジャミルは無視し顔を覆った。
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