小エビとウツボとウミヘビと、時々怪奇


「っ!!」

意識が一気に覚醒する。
バクバクと鳴る心臓と共に瞳を限界まで開いた監督生は、自分を心配そうに覗き込むジャミルとフロイドを見留めた。

「小エビちゃん!」
「監督生!」

安心したように、けれど不安を拭えない声音で自分を呼ぶ2人に頭がズキズキと痛む。確か保健室に行くって言って、それでいきなり足の力が抜けたんだ。そしてそのまま階段から転げ落ちたのだと思い出した監督生は、痛みが全身を巡る中何とか口を開く。

「せ、んぱい…。」
「無理に喋るな。痛みは?」
「頭が、特に…。」
「少し見るぞ。」

身体に響かないよう背を支え監督生を起こすジャミルはそのまま頭を触る。後頭部にボコッと瘤が出来ているが血は出ていない。足や腕も所々擦り傷はあるが直ぐに治療が必要な程ではなかった。それにほっと息を吐き、心配そうにしているフロイドにも軽く説明をした。

「この下は保健室だったな…。フロイド、監督生をおぶってくれ。俺が前を行く。」
「ん。小エビちゃんちょっとごめんね。」
「はい…。」

覇気のない声で返事をし、監督生はフロイドに背負われる。フロイドがぐったりとした監督生をしっかりと抱えたのを確認すると、ジャミルは先程よりも慎重に階段を下り始めた。



辿り着いた保健室は明かりは点かなかったが、何故か冷蔵庫は生きておりその中から保冷剤を見つけ取り出した。ジャミルは吐き気がぶり返し奥のトイレへと消え、フロイドも保健室内を調べると言って動き回っているので、監督生は1人でベッドに腰かけながら保冷剤を後頭部に当てたていた。じわじわと瘤の熱が抜ける感覚に段々痛みが引いていくのを感じながら、監督生はふと落ちた時の事を思い出す。

あの階段で、何故かいきなり足の感覚がなくなった。先程まで自分の意思で動かしていたのに、あの時は本当に突然力が抜けたのだ。今までここに居て、そんな内側から危険が迫ることはなかったのに…。…このままここに居たら、またあんな事が起きるかもしれない。私は運良く軽傷で済んだが、今度もそうとは限らない。
本当に早くここから出なければ。でも今の今まで収穫らしい収穫は何も無かった。放送に従っても危険だらけだし。…まさか、一生このまま、とか?

「何難しい顔してんの。」
「うっ、」

言うやいなや、フロイドが人差し指で監督生の眉間を小突く。そんなに強くはないが驚いた監督生は少し息を詰めた。

「先輩…。」
「小エビちゃん、今ちょーブスだったよ。」
「なんちゅう失礼な。」

あまりの言い草に少しムッとした監督生。しかしフロイドはそんな監督生の片手を取ると、自身の両手で握りしめた。

「大丈夫、は無責任には言えねぇけど、頑張ろ。必ず帰れっから。」
「フロイド先輩…。」

それはフロイド自身にも言い聞かせているようだった。監督生は目を伏せたフロイドを見つめグッと唇を噛み締める。そうだ、諦めるのはまだ早い。まだまだ調べてないところはある。放送室にだって行ってない。
弱気になっていた自分を振り払うように監督生は一度目を力強く瞑ると、パッとフロイドに微笑みかけた。

「ですね。諦めたらそこで試合終了ですもんね。」
「えー、何それ。」
「私の世界で有名な言葉です。」
「何かよく分かんねぇけど、試合したいなら帰ったら相手してあげんね。」
「いいですよ。脳天にダンク決めてやりますよ。エースが。」
「あはっ、カニちゃん生意気〜。帰ったら絞めよ。」

何故か理不尽に絞められることが確定した友人に監督生が胸の中で手を合わせた。なんかごめん、エース。


痛みも大分落ち着きそろそろジャミルを呼びに行こうかとしていると、ジジジとノイズ音が聞こえた。

『蜿ェ莉翫h繧翫?∝穀讌ュ蠑上r謖呵。後@縺セ縺吶?ょ穀讌ュ逕溘?菴楢ご鬢ィ縺ォ蜷代°縺?∪縺励g縺??』

「えっ?」
「どうしたの小エビちゃん。」

慣れたくもない放送に耳を澄ませていた監督生は、その内容に声を漏らした。

「今度の放送は何だった。」
「あ、お帰り〜。」

ガチャりと扉の開く音と共に奥から姿を現したジャミルは、早速監督生から内容を聞こうとするが、監督生はポカンとしたままどこか気が抜けたような顔をしていた。不審に思い監督生の名を呼ぶと、監督生は酷く困惑した顔でジャミルとフロイドを見つめる。

「卒業式が始まるから卒業生は体育館に来い、って…。」
「卒業式?」

思いもよらない言葉にフロイドとジャミルは顔を見合わせる。そんな2人を横目に、監督生は何故か湧き上がる不安にそっと自分の肩を摩った。
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