小エビとウツボとウミヘビと、時々怪奇
「ぅ、っおぇぇぇぇ!!!」
びちゃびちゃとジャミルの口から肉片が飛び出る。
「先輩!!」
膝をついて身体を丸めるジャミルを監督生が咄嗟に支える。しかし吐いても吐いても口の中で肉の感覚が暴れ回るジャミルは身体の震えも嘔吐も止まらず、遂には胃液を吐き始めた。どうしよう。当たりを見回すも何も見つからず焦りばかりが募っていく。その間もジャミルは苦しそうに嘔吐いている。どうすればいいの。監督生の額にじわりと汗が浮かんできた。
「小エビちゃん、ちょっとどいて。」
「えっ、あ、はい!」
いつの間にか近くに来ていたフロイドに監督生は慌てて身体をずらす。そのままフロイドはジャミルの傍に腰を下ろしその肩を軽く叩いた。
「ウミヘビくん大丈夫?」
「っだぃ、じょ、ぶに、っぅみえ、るかっ。」
「喋れんなら大丈夫じゃん。取り敢えず立つよ。」
脇腹に手を添えフロイドはジャミルを立たせると直ぐそこにあった水道へと運んだ。蛇口を捻り水を流すフロイドにジャミルは顔を歪める。口の中は気持ち悪いが、今ここのものを口に入れるのははばかれた。
「これは大丈夫。確認したし。」
「…飲んだのか。」
「飲んでないけど分かんの。ウツボ舐めんなよ。」
そう言うフロイドにジャミルは若干呆れながら、それでも信用したのか自身の両手で水を受けると溜まったそれを口に含んだ。2、3度口をゆすぎ落ち着いたのか顔はまだ青いもジャミルは支えなくとも立てていた。
「先輩…。」
「大丈夫だ…。まだ気持ち悪いが、ぅっ。」
「休むにしてもここじゃ無理だし、どっかない?」
「3階は多分何処も休むところはないです。」
保健室は1階だが、成る可く2階は通りたくない。しかしジャミルを見るとこのまま探索を続けられそうもなく、どうするかと2人は頭を悩ませる。音楽室の毛布やタオルを集めて床にひくくらいしかないか。フロイドはそう考え音楽室に戻ろうとしたも、その前にジャミルがか細く口を開いた。
「いや…、2階に向かおう…。」
「あのさぁ、そんな状態であそこ抜けれんの?足引っ張るって分かんねぇかなぁ。」
「俺達の目標は放送室だろう。俺なら問題ない。」
「そんなフラフラでよく言えんね。意地張んのは別の時にしてくんね?迷惑だから。」
「意地じゃない。俺自身が問題ないって言ったら問題ないんだよ。」
「あーもー!2人共喧嘩しない!!」
監督生はそう言うとまた睨み合い始めた2人の間にはいり、そのまま互いの身体を押し成る可く近寄らないよう離した。お互い言い方は悪いが言い分は正しい。ジャミルは本調子とは言えないし、かと言って3階の前館に移動した放送室へは向かわなければならない。こんなことならあの時理科室じゃなくて放送室から先に見とくんだった…。何度目か分からないため息をひとつ吐いた監督生はその瞬間、あ、と声を上げた。
「どうしたの小エビちゃん。」
「階段あります、ここ。2階じゃなくて保健室前に直通のですけど、ここの廊下の奥にあります。下の見取り図は省略形だから忘れてた…。」
「なんでそんなのあんの。」
「ここ、元々あった学校をリフォームして建てられたんですよ。だから隠し部屋みたいなのとかたまにあって、階段もそんな感じだったと思います。」
「ならそっから1階に戻れば別館通らずに2階の前館に行けんじゃん。」
「はい。」
頷く監督生にフロイドとジャミルから苛立ちが飛んでいく。思い出せて良かった…。ほっと胸を撫で下ろす監督生にジャミルが口を開いた。
「直ぐ見つかるか?」
「はい。右側にあります。あの、第3実験室に行く時の階段と同じような感じです。」
「あはっ、めっちゃラッキーじゃん。なら早く行こ。」
「まて、鍵がかかってるんじゃなかったか?」
ジャミルの言葉にあ、と思い出した監督生とフロイドはすぐさま扉に手をかける。しかし先程のようにビクともしないことはなく、ガラガラと音を立てて扉は動いた。
「開いた…。」
「放送通りにしたからか?まぁ、何にせよ先に進もう。」
「今回はオレか先行くわ。」
そう言ってジャミルを押しのけフロイドは扉から少し頭を出す。まだ若干顔色が悪いジャミルを気遣ってか、はたまたいつもの気分かは分からないがジャミルと監督生は特に何も言わずフロイドに任せた。
フロイドは注意深く左右を確認するも廊下は相変わらず真っ暗で先は見えない。しかし今のところ自分達以外の気配はなかった。ジャミルと監督生に大丈夫だと伝え、3人はまた薄気味悪い廊下を歩き出した。
「ここか…。」
暫く歩いて辿り着いた階段は確かにあの階段と同じように左右を壁に囲まれ一層暗かった。あまりの異様さに降りることに少し躊躇する。見つめるフロイドと監督生も重苦しい空気に顔を顰めた。
「…行くしかないですよね。」
「だね〜。」
スマホのライトをつけながら進むフロイド。それに続くように監督生も一段、足を下ろした。
と、
「っえ、」
ずるり、と監督生の足から力が抜ける。重力に逆らえず、そのまま支えを失った身体は前へと傾いていった。
「監督生!」
「小エビちゃん?!」
ジャミルとフロイドが手を伸ばすも間に合わず、監督生は階段を転げ落ちていく。
ドンッ、と一際大きな衝撃と共に身体の動きが止まった。鈍い痛みに意識が朦朧とする中、2人が慌てて自分に近寄ってくるのを最後に、監督生の意識は闇に沈んでいった。
びちゃびちゃとジャミルの口から肉片が飛び出る。
「先輩!!」
膝をついて身体を丸めるジャミルを監督生が咄嗟に支える。しかし吐いても吐いても口の中で肉の感覚が暴れ回るジャミルは身体の震えも嘔吐も止まらず、遂には胃液を吐き始めた。どうしよう。当たりを見回すも何も見つからず焦りばかりが募っていく。その間もジャミルは苦しそうに嘔吐いている。どうすればいいの。監督生の額にじわりと汗が浮かんできた。
「小エビちゃん、ちょっとどいて。」
「えっ、あ、はい!」
いつの間にか近くに来ていたフロイドに監督生は慌てて身体をずらす。そのままフロイドはジャミルの傍に腰を下ろしその肩を軽く叩いた。
「ウミヘビくん大丈夫?」
「っだぃ、じょ、ぶに、っぅみえ、るかっ。」
「喋れんなら大丈夫じゃん。取り敢えず立つよ。」
脇腹に手を添えフロイドはジャミルを立たせると直ぐそこにあった水道へと運んだ。蛇口を捻り水を流すフロイドにジャミルは顔を歪める。口の中は気持ち悪いが、今ここのものを口に入れるのははばかれた。
「これは大丈夫。確認したし。」
「…飲んだのか。」
「飲んでないけど分かんの。ウツボ舐めんなよ。」
そう言うフロイドにジャミルは若干呆れながら、それでも信用したのか自身の両手で水を受けると溜まったそれを口に含んだ。2、3度口をゆすぎ落ち着いたのか顔はまだ青いもジャミルは支えなくとも立てていた。
「先輩…。」
「大丈夫だ…。まだ気持ち悪いが、ぅっ。」
「休むにしてもここじゃ無理だし、どっかない?」
「3階は多分何処も休むところはないです。」
保健室は1階だが、成る可く2階は通りたくない。しかしジャミルを見るとこのまま探索を続けられそうもなく、どうするかと2人は頭を悩ませる。音楽室の毛布やタオルを集めて床にひくくらいしかないか。フロイドはそう考え音楽室に戻ろうとしたも、その前にジャミルがか細く口を開いた。
「いや…、2階に向かおう…。」
「あのさぁ、そんな状態であそこ抜けれんの?足引っ張るって分かんねぇかなぁ。」
「俺達の目標は放送室だろう。俺なら問題ない。」
「そんなフラフラでよく言えんね。意地張んのは別の時にしてくんね?迷惑だから。」
「意地じゃない。俺自身が問題ないって言ったら問題ないんだよ。」
「あーもー!2人共喧嘩しない!!」
監督生はそう言うとまた睨み合い始めた2人の間にはいり、そのまま互いの身体を押し成る可く近寄らないよう離した。お互い言い方は悪いが言い分は正しい。ジャミルは本調子とは言えないし、かと言って3階の前館に移動した放送室へは向かわなければならない。こんなことならあの時理科室じゃなくて放送室から先に見とくんだった…。何度目か分からないため息をひとつ吐いた監督生はその瞬間、あ、と声を上げた。
「どうしたの小エビちゃん。」
「階段あります、ここ。2階じゃなくて保健室前に直通のですけど、ここの廊下の奥にあります。下の見取り図は省略形だから忘れてた…。」
「なんでそんなのあんの。」
「ここ、元々あった学校をリフォームして建てられたんですよ。だから隠し部屋みたいなのとかたまにあって、階段もそんな感じだったと思います。」
「ならそっから1階に戻れば別館通らずに2階の前館に行けんじゃん。」
「はい。」
頷く監督生にフロイドとジャミルから苛立ちが飛んでいく。思い出せて良かった…。ほっと胸を撫で下ろす監督生にジャミルが口を開いた。
「直ぐ見つかるか?」
「はい。右側にあります。あの、第3実験室に行く時の階段と同じような感じです。」
「あはっ、めっちゃラッキーじゃん。なら早く行こ。」
「まて、鍵がかかってるんじゃなかったか?」
ジャミルの言葉にあ、と思い出した監督生とフロイドはすぐさま扉に手をかける。しかし先程のようにビクともしないことはなく、ガラガラと音を立てて扉は動いた。
「開いた…。」
「放送通りにしたからか?まぁ、何にせよ先に進もう。」
「今回はオレか先行くわ。」
そう言ってジャミルを押しのけフロイドは扉から少し頭を出す。まだ若干顔色が悪いジャミルを気遣ってか、はたまたいつもの気分かは分からないがジャミルと監督生は特に何も言わずフロイドに任せた。
フロイドは注意深く左右を確認するも廊下は相変わらず真っ暗で先は見えない。しかし今のところ自分達以外の気配はなかった。ジャミルと監督生に大丈夫だと伝え、3人はまた薄気味悪い廊下を歩き出した。
「ここか…。」
暫く歩いて辿り着いた階段は確かにあの階段と同じように左右を壁に囲まれ一層暗かった。あまりの異様さに降りることに少し躊躇する。見つめるフロイドと監督生も重苦しい空気に顔を顰めた。
「…行くしかないですよね。」
「だね〜。」
スマホのライトをつけながら進むフロイド。それに続くように監督生も一段、足を下ろした。
と、
「っえ、」
ずるり、と監督生の足から力が抜ける。重力に逆らえず、そのまま支えを失った身体は前へと傾いていった。
「監督生!」
「小エビちゃん?!」
ジャミルとフロイドが手を伸ばすも間に合わず、監督生は階段を転げ落ちていく。
ドンッ、と一際大きな衝撃と共に身体の動きが止まった。鈍い痛みに意識が朦朧とする中、2人が慌てて自分に近寄ってくるのを最後に、監督生の意識は闇に沈んでいった。