女体化稀咲の仕合わせな一生 【完】
路地を駆使したり半間の行動を先読みしたりして逃げ回っていたが、頭に身体が徐々に追いつかなくなり始め次第に走るスピードは遅くなっていく。先を見通していてもそこに辿り着くだけの足を持っていないので、あと少しで人の往来が激しい道に出れたというころで1歩が私の3歩ほどある半間に捕まった。
ダンと音がしてコンクリートの壁と半間の両手の間に挟まれる。いつぞやの壁ドンと似ている状況だが見下ろしてくる目線といい醸し出す威圧感といい、事情を知らない人が見たら正しくカツアゲ現場だろう。迷路のようなこんな場所に好き好んで入る奴はいないだろうが、通報されないことを祈るしかない。
「で?オレを無視してた言い訳はなんかあんのか?てかあれ花垣だろ。どういう事だよ。なんかあったのか。」
対面ではなく横向きで壁に限界まで身体を寄せる私に半間もずいっと顔を寄せてくる。右側だけコンクリートのせいで冷たくなっているが、絶対顔を見たくない。それでも鼻腔をくすぐるタバコの匂いに何故か酷く安心した。
「…黙秘権を主張する。」
「稀咲なんで頭良いくせに時々バカなんだよ。この状況で無理だろ、それ。」
てかいい加減こっち見ろよと半間の声と共に横を向いていた身体が痛くないも少々強引に半間の方へ向かされる。あっと思った時にはもう遅く私の前に半間の姿が広がった。呆れたような、怒ったような琥珀色の瞳と交差する。いたたまれず顔を下げた私の目に半間の唇が映りこんだ。
…そう言えば、こいつの、見た目は薄いのに結構柔らかかったな。かさついてもなかったし。それに、やっぱり大きかったな。私の唇、本気出せば覆えそうだった。
そんなことを考えながら思わず凝視していると、目の前の口元が緩く開く。
「稀咲見すぎ。ムッツリ?」
「っ?!や、喧しい!!!」
はっと我に返り叫ぶも自分がどれだけ恥ずかしい事をしていたか自覚し顔どころか身体中が発熱したかのように熱くなる。堪らず両手で顔を覆った。見なくても分かる。絶対ニヤニヤしてる。
「っそもそも、お前、私のこと好きなのか。」
「あ?今更だろ。オレは女のワガママに付き合わねぇしナマ言うの許さねぇよ。」
「おい、それは私がワガママで生意気ってことか?」
さも自分は付き合ってやってる風に喋る半間にイラッとする。私の話を聞ずに振り回すのはお前の方だろうがと噛み付いてやりたいも、話が脱線しそうなのでやめておく。今この場で重要なのは直ぐにでもこの腕の中から脱出することだ。
モゾモゾと居心地悪く身体を動かし思考をまとめる。とりあえず告白されたってことでいいんだよな…。半間の事は好ましく思っているが、そういう意味で好きかと言われればよく分からない。ヒナのこと諦めきれてないし。
何と断ろうかと言葉を頭の中でリストアップしていく。普通に言っても聞かないだろうし、かと言って傷つけたくはない。どうしたものかと考えながら口を開いた。
「私は、まだ、その…、ヒナへの想いを諦められないし、そもお前のことをそういう意味で見たことないから…。あ、花垣の事は気にしなくていい。別に何かあったわけじゃない。…だから、すまない。その気持ちに応えられない。」
「…ふーん。ま、今はそれでいいわ。だりぃけど待ってやるよ。」
「…ちょっと待て。応えられないと言っただろう。」
「あ?無理矢理じゃねぇだけ有難く思えよ。それとも花垣の事も含めてじっくり問い詰めてやろうか?」
"罰"と彫られた手が太腿を撫でながらスカートの裾を上げる。その背骨が浮く感覚にあがりそうになる悲鳴をなんとか押し殺し一気に払い除けた。
「っ!ふ、ふ、ふしだら!!!」
「いや、そこはせめて"エッチ"だろ。なんだよ"ふしだら"って。」
やっぱ稀咲おもしれぇ〜、とゲラゲラ笑う半間に先程の威圧感はもう感じない。しかしまだ腰の辺りがゾワゾワとしている私は顔を上げて思いっきり睨みつけたが、半間は気にすることなくいつものようにこちらを見下げる。くっそ、余裕そうな顔しやがって。
「まぁこれかは遠慮なくいかせてもらうとして。」
「遠慮はいつもないだろ。」
「今回のことはマジで傷ついたから駅前の新作飲み行こーぜ。稀咲の奢りな♡」
「無視するな、おい!」
私を抱きかかえて歩き始める半間に無駄だと分かっていても抵抗する。やっぱり私よりお前の方がワガママだろうが!
何とか腕から抜け出そうとするも半間の腕はびくともしない。本当にこのまま行くのかと軽く絶望しながら力を抜いた。
ゆらゆらと揺れる視界の中、とりあえず半間との仲が続くことへの安堵と同じように振られたから分かる半間の辛さへの罪悪感、そして花垣の妄想話がぐるぐると巡る。はぁ、と本日何度目かのため息は、しかし今日一番重かった。
余談だが新作は美味しかったし、何故か半間が支払いを済ませていた。
「稀咲、俺のこと騙しただろ!」
「正確には"試した"、な。」
顔を少し赤らめて怒気を顕にする花垣を鼻で笑いながら先程の事を思い出す。
教師のテストをすると言う言葉にクラスに悲鳴が上がる。飛び交う嘆きにチラリと見た花垣は呆気にとられた顔をしていた。
そも始めから最近の花垣には違和感があった。
ふとした瞬間、花垣の雰囲気は卓越したものになる。有事の声のトーンや口調、気の回し方や目線。どれも微々たるものだが、昨日は普通で今日は違うなんて事ざらにあった。まぁずっと粗探しのために花垣を観察していた私だから分かる事なのだが。
ポカンと口を開けて惚けている花垣に、"教師から聞かされていない、生徒が誰も知らない抜き打ちテスト"中、ずっと必死に笑いを我慢した。今日の結果で私が自分を信じると思っていたのに、蓋を開ければもう未来から来た証拠は明確で、今日はただ事実の裏付けをしただけなんだから、花垣の緊張と落胆を思うとどれだけ愉快だったか。
お前の間抜け面は最高に見物だったと伝えると、花垣は尚更顔を真っ赤にした。
「何がテストの問題だよ!テスト自体で証明になったじゃん!必死に思い出したのに!」
「やはりその反応だと職員室に忍び込んだわけではなさそうだな。せいぜい人のプリントを写すくらいしか出来ないお前にそんな事無理だろうとは思ったが、やはり決め手にかけたからな。私は今までの確率から予想していたが本当にあるのかまでは分からなかったからかまをかけたが、おかげで対策はバッチリだった。」
「俺をお前の予想の裏付けに使うな!」
遂に怒鳴り始めた花垣に大声を上げて笑った。いやはや、本当にいい気味だ!
しばらく止まらなかった笑いも徐々に落ち着き、また昼休みということもありこのまま昨日の話の続きをしようと私と花垣は教室を後にした。
屋上は流石に寒いので学習室を開けてもらい2人で一番端の席に座る。この時間にここを使用する人は少ないので絶好の場所だ。普段通り席に座る私とは反対にキョロキョロと周りを見渡す花垣に呆れた。勉強しろよ、だから歳下の私に教わる羽目になるんだぞ。
「それでお前が未来から来たのは分かったが、目的はなんだ。」
「いや、だから稀咲を止めに来たんだって。」
「具体的にどうやって。仮にお前のヒナを殺す話を信じたとして、止めるのは私ではないだろう。」
椅子の真横から足を出し膝を組む。左側にある机に肘をつき顎に手を当て、同じようにこちらを向く花垣を見つめた。
未来から来たのを認めれば、自ずと話した内容も事実という事になるわけで。嘘をつけるほど器用な男でもないから、本当に未来で私は道を踏み外したのだろう。大好きなヒナを殺して、ゾンビみたいな半間も死んで、なにを思って生きてたのかと考え昨日の夜は少し荒れた。未来の自分がまるで未知の生き物のようでちょっとだけ生きるのが怖くもなった。しかしそんな様子はおくびにも出さず、花垣の言葉を待つ。
「えっと、半間に言うとか、してもらえないですよね…?」
「あの男がそんな話信じると思うか?第一、半間のために復讐する話とか私が癪だ。」
「なら稀咲が絶対復讐しないって誓ってくれたり。」
「それこそ"未来は分からない"だな。」
私の計算できる範囲から出た未来の話だ。絶対ないとは言いきれない。私はリップを塗ったあの日から自分の可能性を謙遜しないと決めたのだ。
知恵を絞るように眉を寄せている花垣にはぁ、とため息をひとつつく。
「未来で誰がどんな理由で殺したかは聞いてないんだよな。」
「あ、うん。東卍の隊員としか聞いてない。」
「…半間には本人でない私からしても思い当たる節は結構ある。……花垣、お前東卍に入れ。」
驚いたように立ち上がる花垣にオーバーリアクションだなとジト目を向けた。慌てて座るのを確認し、しっかりと花垣の目を見る。
「いいか、一番重要な情報がない今は自分の足で調べるしかない。私は女だ、東卍には入れない。だから花垣、是が非でもそのマイキーとやらに認めてもらえ。そして東卍で怪しい動きをする奴が見つかり次第、私と叩くぞ。」
「…信じるぞ、稀咲。」
揺らいでいた瞳の中に一本芯が通ったのが分かった。それにふっと笑いをこぼし私と花垣は固く手を握った。まさか恋敵と愛した者の未来を守るために協力しようとは、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだと手を離した。
「とりあえず連絡が取れないのは不便だ。ケータイを出せ。」
「えっと、確かポケットにって、げ!!」
「?どうした。」
尻のポケットからケータイを取り出し開き見た花垣はみるみる顔を青ざめさせていく。まさかもう何かあったのかと腰を浮かせた私しに花垣は慌ただしく席を立つと、
「悪い、ヒナとお昼一緒に食べる約束してたんだった!」
そう言って脱兎のごとく走り出した奴の背に拳を握りしめる。
協力関係白紙に戻してやろうか、馬鹿野郎が。
ダンと音がしてコンクリートの壁と半間の両手の間に挟まれる。いつぞやの壁ドンと似ている状況だが見下ろしてくる目線といい醸し出す威圧感といい、事情を知らない人が見たら正しくカツアゲ現場だろう。迷路のようなこんな場所に好き好んで入る奴はいないだろうが、通報されないことを祈るしかない。
「で?オレを無視してた言い訳はなんかあんのか?てかあれ花垣だろ。どういう事だよ。なんかあったのか。」
対面ではなく横向きで壁に限界まで身体を寄せる私に半間もずいっと顔を寄せてくる。右側だけコンクリートのせいで冷たくなっているが、絶対顔を見たくない。それでも鼻腔をくすぐるタバコの匂いに何故か酷く安心した。
「…黙秘権を主張する。」
「稀咲なんで頭良いくせに時々バカなんだよ。この状況で無理だろ、それ。」
てかいい加減こっち見ろよと半間の声と共に横を向いていた身体が痛くないも少々強引に半間の方へ向かされる。あっと思った時にはもう遅く私の前に半間の姿が広がった。呆れたような、怒ったような琥珀色の瞳と交差する。いたたまれず顔を下げた私の目に半間の唇が映りこんだ。
…そう言えば、こいつの、見た目は薄いのに結構柔らかかったな。かさついてもなかったし。それに、やっぱり大きかったな。私の唇、本気出せば覆えそうだった。
そんなことを考えながら思わず凝視していると、目の前の口元が緩く開く。
「稀咲見すぎ。ムッツリ?」
「っ?!や、喧しい!!!」
はっと我に返り叫ぶも自分がどれだけ恥ずかしい事をしていたか自覚し顔どころか身体中が発熱したかのように熱くなる。堪らず両手で顔を覆った。見なくても分かる。絶対ニヤニヤしてる。
「っそもそも、お前、私のこと好きなのか。」
「あ?今更だろ。オレは女のワガママに付き合わねぇしナマ言うの許さねぇよ。」
「おい、それは私がワガママで生意気ってことか?」
さも自分は付き合ってやってる風に喋る半間にイラッとする。私の話を聞ずに振り回すのはお前の方だろうがと噛み付いてやりたいも、話が脱線しそうなのでやめておく。今この場で重要なのは直ぐにでもこの腕の中から脱出することだ。
モゾモゾと居心地悪く身体を動かし思考をまとめる。とりあえず告白されたってことでいいんだよな…。半間の事は好ましく思っているが、そういう意味で好きかと言われればよく分からない。ヒナのこと諦めきれてないし。
何と断ろうかと言葉を頭の中でリストアップしていく。普通に言っても聞かないだろうし、かと言って傷つけたくはない。どうしたものかと考えながら口を開いた。
「私は、まだ、その…、ヒナへの想いを諦められないし、そもお前のことをそういう意味で見たことないから…。あ、花垣の事は気にしなくていい。別に何かあったわけじゃない。…だから、すまない。その気持ちに応えられない。」
「…ふーん。ま、今はそれでいいわ。だりぃけど待ってやるよ。」
「…ちょっと待て。応えられないと言っただろう。」
「あ?無理矢理じゃねぇだけ有難く思えよ。それとも花垣の事も含めてじっくり問い詰めてやろうか?」
"罰"と彫られた手が太腿を撫でながらスカートの裾を上げる。その背骨が浮く感覚にあがりそうになる悲鳴をなんとか押し殺し一気に払い除けた。
「っ!ふ、ふ、ふしだら!!!」
「いや、そこはせめて"エッチ"だろ。なんだよ"ふしだら"って。」
やっぱ稀咲おもしれぇ〜、とゲラゲラ笑う半間に先程の威圧感はもう感じない。しかしまだ腰の辺りがゾワゾワとしている私は顔を上げて思いっきり睨みつけたが、半間は気にすることなくいつものようにこちらを見下げる。くっそ、余裕そうな顔しやがって。
「まぁこれかは遠慮なくいかせてもらうとして。」
「遠慮はいつもないだろ。」
「今回のことはマジで傷ついたから駅前の新作飲み行こーぜ。稀咲の奢りな♡」
「無視するな、おい!」
私を抱きかかえて歩き始める半間に無駄だと分かっていても抵抗する。やっぱり私よりお前の方がワガママだろうが!
何とか腕から抜け出そうとするも半間の腕はびくともしない。本当にこのまま行くのかと軽く絶望しながら力を抜いた。
ゆらゆらと揺れる視界の中、とりあえず半間との仲が続くことへの安堵と同じように振られたから分かる半間の辛さへの罪悪感、そして花垣の妄想話がぐるぐると巡る。はぁ、と本日何度目かのため息は、しかし今日一番重かった。
余談だが新作は美味しかったし、何故か半間が支払いを済ませていた。
「稀咲、俺のこと騙しただろ!」
「正確には"試した"、な。」
顔を少し赤らめて怒気を顕にする花垣を鼻で笑いながら先程の事を思い出す。
教師のテストをすると言う言葉にクラスに悲鳴が上がる。飛び交う嘆きにチラリと見た花垣は呆気にとられた顔をしていた。
そも始めから最近の花垣には違和感があった。
ふとした瞬間、花垣の雰囲気は卓越したものになる。有事の声のトーンや口調、気の回し方や目線。どれも微々たるものだが、昨日は普通で今日は違うなんて事ざらにあった。まぁずっと粗探しのために花垣を観察していた私だから分かる事なのだが。
ポカンと口を開けて惚けている花垣に、"教師から聞かされていない、生徒が誰も知らない抜き打ちテスト"中、ずっと必死に笑いを我慢した。今日の結果で私が自分を信じると思っていたのに、蓋を開ければもう未来から来た証拠は明確で、今日はただ事実の裏付けをしただけなんだから、花垣の緊張と落胆を思うとどれだけ愉快だったか。
お前の間抜け面は最高に見物だったと伝えると、花垣は尚更顔を真っ赤にした。
「何がテストの問題だよ!テスト自体で証明になったじゃん!必死に思い出したのに!」
「やはりその反応だと職員室に忍び込んだわけではなさそうだな。せいぜい人のプリントを写すくらいしか出来ないお前にそんな事無理だろうとは思ったが、やはり決め手にかけたからな。私は今までの確率から予想していたが本当にあるのかまでは分からなかったからかまをかけたが、おかげで対策はバッチリだった。」
「俺をお前の予想の裏付けに使うな!」
遂に怒鳴り始めた花垣に大声を上げて笑った。いやはや、本当にいい気味だ!
しばらく止まらなかった笑いも徐々に落ち着き、また昼休みということもありこのまま昨日の話の続きをしようと私と花垣は教室を後にした。
屋上は流石に寒いので学習室を開けてもらい2人で一番端の席に座る。この時間にここを使用する人は少ないので絶好の場所だ。普段通り席に座る私とは反対にキョロキョロと周りを見渡す花垣に呆れた。勉強しろよ、だから歳下の私に教わる羽目になるんだぞ。
「それでお前が未来から来たのは分かったが、目的はなんだ。」
「いや、だから稀咲を止めに来たんだって。」
「具体的にどうやって。仮にお前のヒナを殺す話を信じたとして、止めるのは私ではないだろう。」
椅子の真横から足を出し膝を組む。左側にある机に肘をつき顎に手を当て、同じようにこちらを向く花垣を見つめた。
未来から来たのを認めれば、自ずと話した内容も事実という事になるわけで。嘘をつけるほど器用な男でもないから、本当に未来で私は道を踏み外したのだろう。大好きなヒナを殺して、ゾンビみたいな半間も死んで、なにを思って生きてたのかと考え昨日の夜は少し荒れた。未来の自分がまるで未知の生き物のようでちょっとだけ生きるのが怖くもなった。しかしそんな様子はおくびにも出さず、花垣の言葉を待つ。
「えっと、半間に言うとか、してもらえないですよね…?」
「あの男がそんな話信じると思うか?第一、半間のために復讐する話とか私が癪だ。」
「なら稀咲が絶対復讐しないって誓ってくれたり。」
「それこそ"未来は分からない"だな。」
私の計算できる範囲から出た未来の話だ。絶対ないとは言いきれない。私はリップを塗ったあの日から自分の可能性を謙遜しないと決めたのだ。
知恵を絞るように眉を寄せている花垣にはぁ、とため息をひとつつく。
「未来で誰がどんな理由で殺したかは聞いてないんだよな。」
「あ、うん。東卍の隊員としか聞いてない。」
「…半間には本人でない私からしても思い当たる節は結構ある。……花垣、お前東卍に入れ。」
驚いたように立ち上がる花垣にオーバーリアクションだなとジト目を向けた。慌てて座るのを確認し、しっかりと花垣の目を見る。
「いいか、一番重要な情報がない今は自分の足で調べるしかない。私は女だ、東卍には入れない。だから花垣、是が非でもそのマイキーとやらに認めてもらえ。そして東卍で怪しい動きをする奴が見つかり次第、私と叩くぞ。」
「…信じるぞ、稀咲。」
揺らいでいた瞳の中に一本芯が通ったのが分かった。それにふっと笑いをこぼし私と花垣は固く手を握った。まさか恋敵と愛した者の未来を守るために協力しようとは、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだと手を離した。
「とりあえず連絡が取れないのは不便だ。ケータイを出せ。」
「えっと、確かポケットにって、げ!!」
「?どうした。」
尻のポケットからケータイを取り出し開き見た花垣はみるみる顔を青ざめさせていく。まさかもう何かあったのかと腰を浮かせた私しに花垣は慌ただしく席を立つと、
「悪い、ヒナとお昼一緒に食べる約束してたんだった!」
そう言って脱兎のごとく走り出した奴の背に拳を握りしめる。
協力関係白紙に戻してやろうか、馬鹿野郎が。