番外編

ピピピと断続的に鳴る電子音にもぞもぞと動き出す。スマホを操作しアラームを止めた半間は、欠伸を噛み殺しながら隣ですやすやと眠る真央を見た。穏やかな寝顔に起きる気配はない。それにふっ、と笑みを零しながら半間はまだ気だるい身体を無理矢理起こした。


洗面所で顔と歯を磨き終わりさっぱりとした半間は、寝室に戻り真央を抱き抱えるとリビングにあるベビーベッドへと寝かせた。口を柔く動かす真央はやはり起きない。それにどんな夢を見てるのだろうかと思いながら、半間は頬をひと撫でし、キッチンへと向かった。
電気ケトルのスイッチを入れ沸騰するのを待つ。その間に哺乳瓶にミルクの粉を入れ火を通したフライパンに卵を2つと、賞味期限の近いウィンナーを一緒に入れた。ジュージューと芳ばしい音をたてるそれに蓋をし半間はコーヒーメーカーの前に移動する。
黒を基調としたデザインのそれは稀咲の愛用品だった。本当なら豆を挽いて、とかしたいらしいが如何せん飲む頻度が多いためこれにしたのだと住む時に言っていた。それも今では半間の愛用品になっている。
ペーパーフィルターを装着し隣に置きっぱなしになっていた袋を持つと思った以上に軽く半間はあー、と頭を掻いた。そう言えば昨日からもう大分少なかったんだった。中を確認するもやはり1杯には量が足りず、半間はストックしていた袋を出すために上の棚に手を伸ばす。慣れたもんだ。料理も、コーヒーも、場所を知らなかった。それが今では自分の取りやすい位置にある。半間に使い易いように物が置かれている。なんだかそれが、酷くやるせない。

「ふぇっ、うぅぅんっ。」

ふと、耳に届いた愚図る声に半間はベビーベッドへと向かった。真央の顔にシワが寄っていた。目が覚めたのだろう。段々と大きくなる泣き声にそっと腕を差し入れ真央を抱き抱える。自身の身体を揺らしながら真央の小さい身体を優しく撫でる。高い体温にこちらが心地好くなりながら次第に落ち着いていく我が子にホッと息を着く。前は稀咲が抱っこしない限り泣き止まなかったが、今は半間の腕の中で楽しげにパチパチと小さな手を鳴らしている。

身体を揺らすのを止め真央の顔をじっと見詰めた。真央もじっと半間を見た。

「お前も、俺も、アイツがいなくても大丈夫になっちまったなぁ…。」

電気ケトルからカチッと音がした。湯が沸いたのだ。
すっかり泣き止んだ真央を再度ベビーベッドに寝かせ半間はキッチンへ向かう。いつものようにコーヒーを用意し、出来上がった皿を持ってテーブルについた。
テレビをつけ、代わり映えのない内容を眺める。
陽の光が当たる暖かい部屋で、半間は今日も欠けた日常を送る。
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