番外編

カリカリとペンが紙の上を澱みなく走る。
最後の1問を解き終え、場地は達成感と共に斜め前で暇そうに携帯を弄っていた半間に問題用紙を渡した。気だるそうに上から下へと目を動かしざっと確認し終わると半間はふーっと息を吐き出した。

「全問不正解。」
「はぁ?!いや、ちゃんと見ろよ!!」
「見たわ。なんでxとyだけの問題でzが出てくんだよ。」
「xとyが続けばzだろーがよ!!」
「お前普段学校で何習ってんの?」

結んでいた髪を掻きむしり瓶底メガネを勢いよく外した場地に、かれこれこのやり取りを10回近く繰り返されている半間はげんなりと肩を落とす。半間は何度言っても理解しない場地にもう大分前から嫌気がさしていた。
そもいつもなら千冬か稀咲が場地の勉強の面倒を見ているのだが、2人とも外せない用事があるらしく丁度暇をしていた半間に稀咲から頼むと連絡がきたのだ。半間もそんな面倒な事やりたくないと最初は拒否したも、あまりに鬼気迫る2人に気圧され思わず頷いてしまった。千冬の用事が終わるまでの少しの時間だけと言う約束に、まぁ元同じチームのよしみでほんの少しだけならいいかと半間は30分オーバーで場地の家へとバイクを走らせた。

が、こんなに大変だとは思わなかった。
何故xとyを求める式の答えにzが出てくるのか、何故アルファベットの順で考えたのか。これは数学だ。
あまりの事に頭痛がして半間は眉間を押さえた。ほんと、何故頷いてしまったのか。過去に戻れるなら殴ってでもその時の自分を止めたい。それほどまでに場地は大馬鹿だった。

「ちっくしょ〜…。どこ間違ってんだよ…。」
「もうなんでもいいわ、だりぃから。」
「なんでもよくねぇよ。教えろよ、半間クン。」
「気持ち悪ぃな。」

結構前から呼び捨てのくせに。
はーっとため息をついて半間は頭をかいた。これは貸しだなと後から2人、特に稀咲には何を請求しようか考えながら人差し指で問題用紙の文字を指さす。地頭は悪くないのだから要はどこに躓いているかだ。稀咲はそれを今日見つける予定だったと言っていた。ならもう少しで理解出来るだろうと、そのもう少しのための長期戦を覚悟して半間は口を開いた。

途中またぶっ飛んだ事を言い始めたも何とか残すはあと2問だけとなった。チラリと時計を見るともう少しで千冬が来ると言っていた時間になる。やっと解放されると伸びをした半間に場地はそー言えば、と顔を上げずに言い始めた。

「タバコ吸わなくなったよな。」
「あ?あー…。」
「ケンコー思考ってやつ?クダリリュウとかアクダマキンとかよく聞くし。」
「違ぇし。…稀咲がよくむせんだよ。」
「稀咲?なんで稀咲がむせたら吸わなくなんだよ。」

場地の何ともなしに言った言葉に半間ははたと目を瞬かせた。
確かにタバコを吸うのは半間本人の意思であり稀咲は関係ない。別にやめろと言われた訳でもない。ただ稀咲がむせる事が多いから、最初は気を遣って離れて吸っていたのが次第に面倒になっていつの間にか稀咲といる時はタバコに手が伸びなくなったのだ。けれど別にその他では吸っていたはずと半間は自身の行動を振り返りあ、と声を上げた。

「なんだよ。」
「いや。あー、そうだよな。そうなるか。」
「何言ってんだ?」

問題用紙から顔を上げて怪訝そうに見てくる場地に、しかし半間は片手で口元を覆い口籠る。

稀咲と大半一緒にいるのだからそりゃ禁煙も成功するわなと、それほどまでに長く一緒にいる事に気づき1人で軽く照れている半間に、場地は変な奴だなと再度首を傾げた。
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