番外編

とある公園。相棒である松野千冬を呼び出した花垣武道は石段に座り頭を抱えていた。

「やばい。マジでやばい。」
「そんな焦ることか?」
「ヒナは怒ったらほんとに怖いんだよ!!」

隣でぐわっと噛みつかんばかりに叫んだ武道に千冬は顔を顰める。そも武道が緊急事態だと死にそうな声で電話してきたから千冬も慌ててバイクを走らせたというのに、蓋を開けてみれば彼女であるヒナを怒らせてそのご機嫌取りをしたいと言う。心配して損したし心底どうでもいい。

「知らね〜。別れるなりボコられるなり好きにしろよ。」
「別れねぇよ!なぁ千冬ぅ〜。助けてくれよぉ〜。」

穴という穴から液体を垂らした武道にうげっと顔を歪めた千冬はどうしたものかと考える。確かに最近はとてつもなく忙しかった。それに今の武道は26歳の武道ではない。もしこのままヒナと別れでもしたら、それこそここまで頑張ってきた未来の武道が可哀想だ。千冬は暫し眉を寄せてから仕方ないと言うふうにため息をついた。

「ったく。仕方ねぇな相棒。」
「ち、千冬〜!!」

感極まったように抱きつこうとする武道の頭を片手で抑える。いくら相棒でも鼻水はいただけない。



プレゼントはもう決まっているらしいが、ラッピングはまだだそうで千冬が言う水玉の箱を買うために寄った店先で、武道は見覚えのある姿を見かけた。

「あ。」
「あ?」

"罪"と物騒な文字が描かれた手に可愛らしいピアスを持っていたのは、武道達とはそこそこ縁のある半間だった。

「何やってんだこんなとこで。」
「お前らこそ。」

お互いがお互いの存在を訝しげに見つめる。それもそのはず、ここは女子向けの雑貨屋で男子、ましてや武道達不良が来るような場所ではない。それなのになんでここにと武道は考えてあ、と閃いた。自由奔放な半間のことだ、きっとあの気難しい稀咲を怒らせてしまったのだろう。現に似合いもしないこんな店にいるのが証拠だ。武道は一気に半間に親近感を覚えニヤニヤと擦り寄った。

「半間も稀咲を怒らせたのかよ?」
「ちげぇよ。お前と一緒にすんな。」
「なら自分用?」
「だりぃ〜。んなわけねぇだろ、稀咲んだわ。お前本当殺すぞ。」

遂に拳を握りしめ始めた半間に武道は顔を青ざめさせた。調子に乗って自滅した相棒にはぁ、とため息をついた千冬ははて、と首を傾げた。

「稀咲の誕生日まだだろ。」

誕生日どころか何か行事があった覚えもない。なら何故ここにいるのか。たまたま通りかかったとは思えない。千冬と同じように武道も半間を不可思議に思っていると、そんな2人をファンシーな台から目を離した半間は気だるそうに見下ろした。

「あ?だからなんだよ。いいなーって思ったモン贈んのに理由とかなくね?」

そうしてまたピアスと書かれたコーナーに目を向けた半間に千冬と武道はむず痒くなる。サラリと言ってのけたその姿に茶化すことも出来ない。思わず口篭る武道達を置いて話は済んだとばかりに自身のつけているそれとどことなく似ているピアスを持って半間は会計に向かった。
その姿を見ながら武道は、そう言えば手術のためにあの自慢の髪を切った稀咲の耳にはピアスの跡があったことを思い出し、稀咲もそうだがこのカップルは本当にお互いのことを好き過ぎるなと自分を棚に上げて思った。
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