女体化稀咲の仕合わせな一生 【完】

青々とした草原の中を1人、女が座り込んでいる。そこにどこからともなく現れた男が近ずき、同じように隣へ座った。

「来るのが早くないか。」
「孫どころか曾孫の顔まで見ただぜ?大往生だろ。お前こそなんか言うことあんじゃねぇの?」
「言うも何も…、感謝も謝罪もせんからな。親が子を育てるのは当たり前だし、あの事故は不可抗力だ。」
「へーへー。」
「まぁ面倒事が嫌いなお前にしてはよくやったな。そこは褒めてやろう。」
「ばはっ、ならご褒美くれよ。今から2人目作ろうぜ♡」
「何でそうなる。…そう言えば真央の旦那はどんな奴だ?」
「あ?ドラケンんとこの息子。」
「エマの子供は娘だったろ。」
「あの後にもう1人産まれたんだよ。馴れ初めとかは知らねぇけど、結婚の挨拶に来た時は面白かったぜ〜?三途が暴れ回って『ぜってぇやらねぇ、欲しいなら俺を殺してみろよ』って。そしたら旦那側にマイキーがいて、んでイザナもついた。」
「それは…、勝てないな……。」
「本人より周りが盛り上がって死ぬほどだるかったけどま、最後は旦那の方が漢気見せて全員納得。知ってっか?アイツの結婚式でまたモッチーが女装したんだぜ。」
「またか。と言うかお前は良かったのか?」
「オレはよっぽどじゃなきゃ何も言うつもりはなかったしな。オレ達の子供だぜ?アイツが選んだ奴を疑う理由がねぇよ。」
「確かにな。…でも、そうか。幸せになったか。」
「イザナも鶴蝶も他の奴らもな。」

女は自分の肩にもたれかかっている男の頭を撫でる。

「…私の分までよく頑張ったな。」

本当によく頑張ったと思う。この男が自分を強く想っているのを知っているので女は置いていってしまった事が少し不安だった。しかし男は立派に自分たちの子を育て上げた。決して自暴自棄になることなく、前を向いてしっかりと生きてくれた。

しばしの沈黙の後、ポツリと男が口を開く。

「………お前を守ってやることは出来なかったけど、なぁ、オレにしといて良かっただろ。」

その言葉に女は一瞬面食らう。しかし直ぐにその気難しい顔を綻ばせた。そして泣きたくなるくらい優しい顔で、

「…あぁ、お前を、お前達を愛せて幸せだ。」




ふわりと巻き上がる暖かな風が2人を包み込み、そして光の中に溶けていった。
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