女体化稀咲の仕合わせな一生 【完】

その後もなんやかんやとありながら順調に育っていき、遂にあと数ヶ月で小学校に行く歳になった。その頃には真央も、死んでしまった母の友達であるヒナやエマ達から普通の感性を教わり、自分がいる環境は特殊なんだと自覚していた。だから今もたかだかランドセル1個の話がどこまでも飛躍し続けるのを父の膝の上で慣れたように聞いていた。

「だーかーら!防犯ブザーなんか役に立つわけねぇだろ!銃なら安心だろぉが!!」
「アホか!銃なんて重いもん真央が持てるわけねぇだろ!防犯ブザーならちょっと改良したら相手の鼓膜破るくらいのが出来んだよ!」
「春ちゃんも竜胆もぶっそー。真央は俺のお下がり使うもんなー?」
「警棒なんてそれこそ使えるわけねぇだろ。でもどうするよ、イザナ。」
「まぁGPSだけじゃ不安だしな…。くそ、もっと攻撃力のあるランドセルってねぇのかよ。」

攻撃力のあるランドセルってなんだろう。真央は稀咲に似て頭の出来が良かったが、それでも分からなかった。半間はそんな周りを愉快そうに見ていた。

「ならいっそ銃火器積んだランドセル作るか。教科書とかは置き勉でいいだろ。」
「そんな危ないランドセルいらないよ。友達出来なくなるじゃん。」

すると今まで騒がしかった三途がカッと目を見開き真央の肩を掴む。痛くはないが圧が強い。

「友達なら俺らだけでいいだろ?…まさかオトコ作る気か。許さねぇぞ。何処の馬の骨かも分かんねぇ奴に大事な大事な姫をくれてやるかぁ!」

マイキーの命令とは言え、偽りの王の元で働くのは三途にとって地獄だった。弱みを握る稀咲が死んでも今更辞められるはずもなく、なんなら稀咲が死んだことで事情を考慮してフォローしてくれる者がいなくなり、尚更精神面への負担が大きくかかった。そんな時だ。真央のあの小さな手が三途の指先を包んだのは。まだろくに力も入らないくせに必死に掌で掴んでくる真央の瞳は穢れも何もない美しいものだった。浄化されるようだった。許された気がした。まぁ徹夜という事もあり正常な判断が出来なかっただけかもしれないが、それでもあの日から三途にとって真央は救いの女神に等しい生き物なのだ。
だからこそ万全を期して守りを固めたいと言うのに…。三途はギリギリと歯を噛み鳴らした。

「なんでそうなるの!それにオトコなんて…。」

真央は少し言い淀むとチラリと蘭の方を見た。そしてサッと顔を背けると両手を上げ赤く色付く頬に添えた。
全員の目が驚愕に変わる。外れそうなほど口を開いたイザナの隣から駆け出した鶴蝶が固まる三途を押しのけ、真央の身体を揺すった。

「竜胆なら百歩譲ったとしても蘭だぞ?!」
「目くそ鼻くそだけどな。」
「んだと銭ゲバ野郎が。」
「男の趣味の悪さは母親似か。」
「どう言う意味だよ。」

舌を出した九井に竜胆が睨みをきかせ、その隣では望月の言葉に半間の額に青筋が浮かんだ。イザナはイザナで放心状態から抜け出せず、三途に至ってはあまりのショックに気絶していた。仕事を終え斑目が到着するまでカオスと化したこの場には蘭のおかしそうな笑い声だけが響いていた。
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