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女体化稀咲の仕合わせな一生 【完】

稀咲が死んだからと言って全てを投げ出す事も出来ず、傷も塞がらない内に半間は一人で真央を育てていくことになった。育児はまだいい。真央は比較的大人しく手のかかる子供ではないから。問題は稀咲が死んだと聞いて擦り寄ってくる人間の方だった。最初は軽くいなしていた半間も、やれ母親がいないのは可哀想だとかやれ私なら、娘なら傍にいてやれるだとか日夜言われ続ければ精神的に参ってしまう。しかも稀咲がいない分、仕事内容も増えるわけでいくら半間の母や稀咲の父親がバックアップしてくれると言ってもそうそうに限界を迎えてしまった。
もういっそ真央を連れて稀咲の元へ行こうか、そんなことを考え始めた頃イザナが真央を連れて会社に来るように言った。大方先日殴った奴の話だろう。いよいよクビかと自嘲しながら向かった会議室には幹部が勢揃いしており、何故か部屋の一角はキッズスペースのように作り替えられていた。

困惑する半間に真ん中に座ったイザナが声をかける。その言葉をはっと鼻で笑いとばす。しかしイザナの瞳は真剣で消して巫山戯ているわけでも茶化しているわけでもなかった。その目に生前の稀咲の言葉を思い出す。あの時は信じられなかったが、確かにイザナは大きく変わった。周りの連中もそうだ。ガキの面倒など死んでも御免だと言うような奴らばかりだったのに随分と丸くなったなと半間は他人事のように思った。

す、と息を吸って立ち上がる。傷はまだ深く、ジクジクと痛み血が流れている。しかしそれは周りも同じこと。けれど生きていかなければならない。大切な人が残した大事な宝を守らなくてはならない。
周りを見渡し、最後に腕の中の我が子を見た。半間と同じ色の瞳を細め、真央は稀咲とよく似た笑顔を浮かべている。それに微笑み返し、半間はその日初めてイザナに頭を下げた。



かくして、梵天幹部総出の育児が始まった。
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