女体化稀咲の仕合わせな一生 【完】
出産予定日にはまだ日はあるがそこまで人手不足ではないと言われ、少し長めの産休に入った。が、なんと言うか手持ち無沙汰で暇である。身体に負担になる事は出来ないし、かと言ってやる事はそうそうに尽きてしまったし。そんな時、私のパソコンの中に仕事のデータが入りっぱなしになっているのに気づきUSBを渡しがてら顔を出しに行くかと会社へと向かった。
「悪いな稀咲。」
「いや、確認し忘れた私も悪かった。」
「大分デカくなったな。ここまで大変だったろ。」
「身体も鈍っていたし良い運動になったさ。」
九井にUSBを渡し鶴蝶を交え軽く世間話をする。会社の方も問題ないようで何よりだ。仕事の負担が一気に増えたと顔を覆った九井には笑ってしまった。他の奴もやれば出来るのにやらない奴ばっかりだからな。よく鶴蝶と私と九井で無茶した連中のために走り回ったものだと懐かしい気持ちになっていると、部屋の扉が開く音と共に3人分の足音が入ってきた。
「お、稀咲じゃん。」
「お前らか。」
姿を見せたのは灰谷兄弟と三途だった。いつも通りのニヒルな笑みで私を呼ぶ灰谷兄とは逆に残りの2人は一気に顔をしかめ始める。失礼な奴らだな、ほんと。
「はぁ〜、ドブくせぇと思ったらお前か。何しに来たんだよ。」
「げぇ見なくて済むと思ってたのになんでいんだよ。帰れ帰れ、もうお前のデスクはねぇよ。」
「ようイカレピンクにバブちゃん竜胆。相変わらず薬がなくてもラリってるなんて脳内お花畑が進むな。私がいなくて困るのはお前らノータリンの方だぞ?」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出す2人を鼻で笑ってやった。またやってると言う風に九井にため息をつかれたが噛み付くこいつらが悪い。誰のおかげで馬鹿やっても捕まらないと思ってるんだ。おい灰谷兄、笑ってるけどお前もこの2人とどっこいどっこいだから?なんならやる事のえげつなさはお前の方が厄介だからな?面倒なことになるから絶対言わないけれど。元神童を侮るなよ。
なおも騒ぐ2人をいなし、もう用は済んだので帰えると伝えようとしたその時、
パァン。
何かが破裂する音が体内で響き下半身が濡れる感覚がした。思わず両手で腹を覆う。予定日より大分はやいけどマジか、こっちが先に来たか。
「…。」
「おい何か言えよ。」
「…は、」
「は?」
「どうした、稀咲。」
「は、
破水した…。」
シン、と静まり返った室内につんざくような悲鳴が木霊した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!どーすんだどーすんだこれ!?」
「ちょ、落ち着け、」
「きゅ、きゅーきゅーしゃ!九井、救急車!!稀咲が死ぬ!!」
「いや救急車じゃなくて、」
「分かってるよ!!」
「稀咲、死ぬな。イザナに子供を抱かせてやってくれっ!!」
「ダメだ。誰も聞いてくれない。」
この世の終わりとでも言うかのように叫び出すバカ共に何とか指示を出そうとするも私以上にテンパっているため誰にも声が届かない。頼む落ち着いてくれと願うもその間にも流れ続けている羊水に私も焦ってくる。くそが、お前らいつもは人の命なんて構わないくせに、なんでこんな時だけ!!
「お前ら落ち着け〜。」
パンパンと2回手を叩いた灰谷兄に目が集まると、そのまま間髪入れずに奴は口を開く。
「九井は救急車じゃなくてコイツの行きつけの産婦人科に電話しろ。んでそのまま斑目にも電話して半間の仕事代わらせろ。竜胆、タオル結構多めに持ってこい。三途は車回せ。普段いがみ合ってる俺らよりかは鶴蝶のが精神的にいいだろうから、鶴蝶は半間が来るまで稀咲の付き添い頼んだ。」
テキパキと指示を飛ばしていく灰谷兄に我に返った皆が動き出す。ソファに自分の上着を広げ私を上に座らせると、尻ポケットからスマホを取り出し何処かへと連絡を入れ始めた。大方修二のところだろう。アイツは私の仕事を少し引き継いだので今日は柴大寿の元へ向かっているはずだ。なら直ぐにでも来れそうだなと少しホッとした。すると灰谷兄は私の頭を軽く撫でてきて、驚き目を見開く。別に茶化すようではない眼差しに癪だが灰谷兄がいてよかったと息をついた。
「昔の髪型ずっと出来損ないのみたらし団子みたいだなとか思っててごめんな。すごく助かった。ありがとう。」
「母子共に東京湾に沈めっぞ。」
頭を割られるかと思った。
難産と言うこともなく何の問題もなく産まれた我が子、真央と私が退院してからはや数日。人員不足ではないが兎に角忙しい仕事故にそうそうに復帰した私は、手間のかかる案件をやっと終え帰路についた。
会社から交差点を挟んだ真向いのタワマンが居住区なので遅くなってもこういう時に便利だ。やはり持つべきものは金だな。
信号が赤になり横断歩道の少し手前で立ち止まった。カバンからスマホを取り出し先程修二から来たメッセージを開く。今日はイザナ達と飲みに行くらしく、帰りは何時になるか分からないと書かれていた。いつもは優先して真央の面倒を見てくれているので、たまの息抜きくらいゆっくりして欲しい。それに今日は父がいる。私も修二も手があかない日はお義母さんか私の父に真央の世話を頼んでいるので、問題ないと返信した。まぁどうせ真央を猫可愛がりしている奴らのことだ、そうそうに修二に帰宅を促すだろうとスマホを仕舞い青になった信号を見て横断歩道を渡る。
パアァァァー…
大音量のクラクションに目を向けると眩い光が視界を塞ぐ。それが猛スピードで突っ込んでくるトラックだと分かる前に身体に衝撃が走った。
グラグラと揺れる視界。四肢から力が抜ける感覚。言い様のない激痛。真っ赤なストラップ。
何が起こったのだろうか。
分からないけどすごくいたい。
さむい。こわいこわい。あのときとにている。あの、エマのときの。ならわたしはしぬ?まって、だって、まだあのこは、いたい。ちいさくてアイツもひと、やだ。りじゃむりだから、いたい。かえりたい。
あ、
むこうにいかなきゃ。
「悪いな稀咲。」
「いや、確認し忘れた私も悪かった。」
「大分デカくなったな。ここまで大変だったろ。」
「身体も鈍っていたし良い運動になったさ。」
九井にUSBを渡し鶴蝶を交え軽く世間話をする。会社の方も問題ないようで何よりだ。仕事の負担が一気に増えたと顔を覆った九井には笑ってしまった。他の奴もやれば出来るのにやらない奴ばっかりだからな。よく鶴蝶と私と九井で無茶した連中のために走り回ったものだと懐かしい気持ちになっていると、部屋の扉が開く音と共に3人分の足音が入ってきた。
「お、稀咲じゃん。」
「お前らか。」
姿を見せたのは灰谷兄弟と三途だった。いつも通りのニヒルな笑みで私を呼ぶ灰谷兄とは逆に残りの2人は一気に顔をしかめ始める。失礼な奴らだな、ほんと。
「はぁ〜、ドブくせぇと思ったらお前か。何しに来たんだよ。」
「げぇ見なくて済むと思ってたのになんでいんだよ。帰れ帰れ、もうお前のデスクはねぇよ。」
「ようイカレピンクにバブちゃん竜胆。相変わらず薬がなくてもラリってるなんて脳内お花畑が進むな。私がいなくて困るのはお前らノータリンの方だぞ?」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出す2人を鼻で笑ってやった。またやってると言う風に九井にため息をつかれたが噛み付くこいつらが悪い。誰のおかげで馬鹿やっても捕まらないと思ってるんだ。おい灰谷兄、笑ってるけどお前もこの2人とどっこいどっこいだから?なんならやる事のえげつなさはお前の方が厄介だからな?面倒なことになるから絶対言わないけれど。元神童を侮るなよ。
なおも騒ぐ2人をいなし、もう用は済んだので帰えると伝えようとしたその時、
パァン。
何かが破裂する音が体内で響き下半身が濡れる感覚がした。思わず両手で腹を覆う。予定日より大分はやいけどマジか、こっちが先に来たか。
「…。」
「おい何か言えよ。」
「…は、」
「は?」
「どうした、稀咲。」
「は、
破水した…。」
シン、と静まり返った室内につんざくような悲鳴が木霊した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!どーすんだどーすんだこれ!?」
「ちょ、落ち着け、」
「きゅ、きゅーきゅーしゃ!九井、救急車!!稀咲が死ぬ!!」
「いや救急車じゃなくて、」
「分かってるよ!!」
「稀咲、死ぬな。イザナに子供を抱かせてやってくれっ!!」
「ダメだ。誰も聞いてくれない。」
この世の終わりとでも言うかのように叫び出すバカ共に何とか指示を出そうとするも私以上にテンパっているため誰にも声が届かない。頼む落ち着いてくれと願うもその間にも流れ続けている羊水に私も焦ってくる。くそが、お前らいつもは人の命なんて構わないくせに、なんでこんな時だけ!!
「お前ら落ち着け〜。」
パンパンと2回手を叩いた灰谷兄に目が集まると、そのまま間髪入れずに奴は口を開く。
「九井は救急車じゃなくてコイツの行きつけの産婦人科に電話しろ。んでそのまま斑目にも電話して半間の仕事代わらせろ。竜胆、タオル結構多めに持ってこい。三途は車回せ。普段いがみ合ってる俺らよりかは鶴蝶のが精神的にいいだろうから、鶴蝶は半間が来るまで稀咲の付き添い頼んだ。」
テキパキと指示を飛ばしていく灰谷兄に我に返った皆が動き出す。ソファに自分の上着を広げ私を上に座らせると、尻ポケットからスマホを取り出し何処かへと連絡を入れ始めた。大方修二のところだろう。アイツは私の仕事を少し引き継いだので今日は柴大寿の元へ向かっているはずだ。なら直ぐにでも来れそうだなと少しホッとした。すると灰谷兄は私の頭を軽く撫でてきて、驚き目を見開く。別に茶化すようではない眼差しに癪だが灰谷兄がいてよかったと息をついた。
「昔の髪型ずっと出来損ないのみたらし団子みたいだなとか思っててごめんな。すごく助かった。ありがとう。」
「母子共に東京湾に沈めっぞ。」
頭を割られるかと思った。
難産と言うこともなく何の問題もなく産まれた我が子、真央と私が退院してからはや数日。人員不足ではないが兎に角忙しい仕事故にそうそうに復帰した私は、手間のかかる案件をやっと終え帰路についた。
会社から交差点を挟んだ真向いのタワマンが居住区なので遅くなってもこういう時に便利だ。やはり持つべきものは金だな。
信号が赤になり横断歩道の少し手前で立ち止まった。カバンからスマホを取り出し先程修二から来たメッセージを開く。今日はイザナ達と飲みに行くらしく、帰りは何時になるか分からないと書かれていた。いつもは優先して真央の面倒を見てくれているので、たまの息抜きくらいゆっくりして欲しい。それに今日は父がいる。私も修二も手があかない日はお義母さんか私の父に真央の世話を頼んでいるので、問題ないと返信した。まぁどうせ真央を猫可愛がりしている奴らのことだ、そうそうに修二に帰宅を促すだろうとスマホを仕舞い青になった信号を見て横断歩道を渡る。
パアァァァー…
大音量のクラクションに目を向けると眩い光が視界を塞ぐ。それが猛スピードで突っ込んでくるトラックだと分かる前に身体に衝撃が走った。
グラグラと揺れる視界。四肢から力が抜ける感覚。言い様のない激痛。真っ赤なストラップ。
何が起こったのだろうか。
分からないけどすごくいたい。
さむい。こわいこわい。あのときとにている。あの、エマのときの。ならわたしはしぬ?まって、だって、まだあのこは、いたい。ちいさくてアイツもひと、やだ。りじゃむりだから、いたい。かえりたい。
あ、
むこうにいかなきゃ。