女体化稀咲の仕合わせな一生 【完】

「結婚式のことで揉めてんだって?」

何枚かの布を合わせながら吟味していた三ツ谷隆がそーいや、と話しかけてきた。
つわりも大分落ち着き、意外にも協力的な梵天の連中のおかげもあって結婚の準備は着々と進んでいる。そのひとつでもあるウェディングドレスとタキシードはデザイナーとして活動している三ツ谷隆に頼む事にした私達は、今日も打ち合わせのため奴のアトリエへと足を運んでいた。

「あ?揉めてねぇよ。イザナが1人でなんか言ってるだけだわ。」
「イザナ?」
「あぁ。エマの結婚式でエスコート役としてマイキーがバージンロードを一緒に歩いたろ?それが羨ましかったらしくてな。」

私の父は未だ健在だしイザナとて無理は承知で言ったみたいだったが、半分本気なのが怖いところだ。仕方ないので本当にイザナの言う通り女の子だった我が子への名付け親になる事を承諾することで落ち着いた。修二は物凄く嫌そうだったが。

因みに修理の終えた修二のバイクを取りに行った時にエマにも同じ話をしたのだが、一緒に聞いていたドラケンがマイキーみたいだと言っていた。分かる、本当に血の繋がりがないのか不思議なくらい横暴さが似ている。
そう事のあらましを伝えると三ツ谷隆は苦笑いを浮かべ、それに肩を竦め出された水に口をつける。ま、慣れれば可愛いもんなんだよな、お互い。




あれよあれよと時間は流れ、式の当日。相変わらず毛根が死滅する気配のない父は、あとは若いお二人でとか何とか言いながら控え室を去っていった。2人きりになり修二と顔を見合わせる。オーダーメイドのシックなタキシードに身を包んだそいつは今まで見てきた中で一番格好良かった。

「…綺麗だなぁ。」
「お前もよく似合ってる。…なぁ、今日はいつもより可愛くないといけないんだが、私可愛い?」

いつぞやの言葉を少し茶化して言う。修二は楽しそうに目を細めるとその琥珀色の瞳をトロリと溶かした。

「ばはっ♡世界で一番、誰よりも可愛いよ。」

クスクスと笑う私の手を取りそっと口付けを落とす修二に胸がはち切れそうになった。



梵天の連中の多少の脚色どころか捏造の域の馴れ初めの劇にキレそうになったりヒナからのスピーチで思わず涙ぐんでしまったり父への手紙で初めて父の涙を見たりと、順調に式は進行していき残すは最後のイベントだけとなった。
雲ひとつない快晴の下、野太い野次が聞こえその方向に舌打ちをする。いい加減衣装を脱げ。そもなんで私の役が望月なんだよ。せめて女装しても違和感ない奴にしてくれよ。髭生えてねぇよ。腹立つことに面白かったけどな!
とりあえずあのバカ共には仕事を倍にすることを誓いブーケを抱え直す。エマからヒナに、ヒナから私に渡ったブーケは今度は誰の手に収まるのだろうか。柚葉か千咒あたりに行って欲しいが、まぁ誰でもいいかとふわりと投げた。風もなくゆるやかな放物線を描きブーケは飛んでいく。そして吸い込まれるようにポスリと正面から少し右側にいたイザナの手に収まった。
あ、と思ったのもつかの間すぐさまマイキーと梵天の奴らが走り寄りバカ騒ぎを始めた。騒がしくなる周りに修二と2人顔を見合わせる。そしてどちらともなしに噴き出した。

揉みくちゃにされ皆が野次飛ばして笑う中、イザナは薄ら涙を滲ませながら幸せそうに笑っていた。
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