女体化稀咲の仕合わせな一生 【完】

ふと、意識が浮上する。重たい瞼を持ち上げゆっくりと開いた私の目に強い光が反射した。眩しい。でも身体に力が入らない。
あ、父がいる。焦ったような嬉しそうな声が聞こえる。そしてバタバタと何人かの駆けてくる音が近づいてきた。扉から入ってきた白衣とナース服の人達にここが病院だと気づいた。
私は約1ヶ月、ずっと生死の境をさ迷っていたらしい。




身体も順調に回復していき、今日やっと面会が解禁になった。だからと言って安静にしていなければならない私は暇なわけで、窓の外をボーッと眺めているとノック音が聞こえた。随分と控えめだな、誰だろうか。どうぞ、と声を出す。

「……。」

静かに開いた扉の向こうに立っていたのは半間だった。しかし記憶の中にある半間より随分とやつれている。クマも酷い。髪もセットされていない。病人である私より顔が青白いなと思った瞬間、駆け寄ってきた半間の両目から大粒の涙が零れ始めた。

「っもうダメかと、死んじまうかと思ったっっ!!」

また守れなかったと謝りながら私に縋り付き、足にかけたブランケットの色が徐々に濃くなっていく。こいつでも泣くことがあるのかとほんの少し驚きつつも慰めるように頭を撫でた。

「…暗闇の中、お前の声だけ無視出来なかった。」

私の言葉に鼻をすすりながら上がった顔は笑えるくらい酷くて、情けなくて、とてつもなく愛おしかった。ボロボロと涙の止まらない半間の胸ぐらを引っ張り、その白くカサついた唇に私の唇を重ねる。触れる程度のものだったが、半間の涙はピタリと止まった。

そもキスされた時に驚きと恥ずかしさだけで嫌悪感がなかった時点でお察しなのに、全くピエロらしい空回り具合だと自分の馬鹿らしさに笑えた。

確かに私はヒナが好きだった。でもそれは憧れであって愛ではなかったんだ。

驚いて固まってしまった半間の頬を両手で包み心からの笑みを浮かべる。

「私はお前を愛してるみたいだ。」
「っだりぃ、待たせすぎなんだよっ…。」

また泣きそうになりながら半間が私を抱き締める。あぁ愛おしい。溢れ出る想いを込めて今度はしっかりとその背に手を回した。


ありがとう半間、ヒナへの想いが死ぬまで待っていてくれて。
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