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女体化稀咲の仕合わせな一生 【完】

表示された最近見慣れてしまった名前からのメールにはぁ、とため息をつく。やはり場地圭介とエマは殺されていたか。しかも私は止めようとして失敗し、殺されているらしい。ほぼ予想通りかと自分の頭の良さを呪った。元々花垣の話す未来のマイキーには違和感があった。いくら無敵とは言え毎回巨悪になるのはおかしくないか、と。未来の私が洗脳したのかとも考えたがそれにしては不自然な点が多すぎる。ならば元から素質があったのか、それなら何故今はその凶暴性が鳴りを潜めているのか、調べているうちにエマと仲良くなり気づいた。
そうか、エマと場地圭介がストッパーかと。
分かれば簡単だ。黒川イザナはそのストッパーを壊しマイキーの拠り所となろうとしている。あくまで憶測だったが、合っていたなら仕方ない。死ぬ日までは分からなかったと書かれたメールに問題ないと一文で返す。どうせ私が死ぬのは今日だろうからな、と目の前のコンテナに座る天竺の幹部達を見上げた。

「佐野エマを殺してこい、稀咲。」

真ん中に立つ黒川イザナが恐ろしい事をなんともないように言う。それに眉を寄せ辺りを見回すも四方に天竺の野郎共がおり逃げらそうにない。しかも半間は武藤泰宏に呼び出されてしまいここにはいない。絶体絶命だな、と舌打ちを響かせた。

「佐野エマはお前の妹と記憶しているが。」

妹、妹ねぇと呟く黒川イザナの顔は暗い。それに佐野家は本当に闇が深いなと身震いする。

「それでも、だ。マイキーの戦意を削ぐ必要がある。やれ。」
「人を殺せばもうそれは喧嘩じゃない。犯罪だ。」
「ぬりぃこと言うなよ。これは戦争だ。お前も疑われたままは嫌だろ?喧嘩に勝てる、仲間にもなれる、一石二鳥じゃねぇか!」

戦意を削ぐなど方便を使ってまでマイキーを人形にしたいのかと思わず頭を抱える。なんで不良って奴はこう大馬鹿者しかいないのか。殴られすぎて脳みそイカれてんじゃないか?

「…マイキーに何を思うかは知らないが、今のお前は癇癪を起こした駄々っ子みたいだな。」
「…あ?」

周りの空気が凍る。傍観していた幹部連中もほんの少し腰を浮かせた。

「だから、自分の思い通りにいかないからと、ただただ周りを疎むだけの愚か者だと言ったんだ。」

そう言ってせせら笑ってやる。
怒りで立ち上がる望月莞爾や怒声を上げる斑目獅音、目が笑わなくなった灰谷蘭とは反対に黒川イザナの後ろに佇む鶴蝶だけが能面のような顔で拳を握っているだけだった。まぁ奴だけが殺しを反対していたしな。しかしこの状況で私を庇うなんて馬鹿な事はしないだろう。期待もしていない。

「仲間になれる?結構だ。過去に縋るしか出来ない奴に微塵も魅力は感じない。"王国"なんて一体どの口が言ってるんだか!」

怒鳴る野郎共に負けないよう声を張り上げた。どうかしている。絶体絶命をさらに崖っぷちにするだけだというのに、どうしても言ってやらねば気が済まなかった。瞳孔が開いた黒川イザナが静かに手を動かす。勢いよく振り下ろされた右手の合図で囲っていた幹部ではない野郎共が向かってきた。逃げることもせず目を閉じる。恐怖はない。
あの夏に聞いたコール音が近づいてきた。

「ゲーーーット!!!」

どこからともなく現れたバイクが野郎共を割き私の元へ猛スピードで走って来る。そのままバイクに乗っている半間は私を抱き上げ、さらにスピードを上げた。

「お前また怪我したのか?!」
「バカ!!引っ張るな!」

血が着いている半間の顔に驚くも焦った声に慌てて身体の動きを止める。そしてビュンビュン風を切り進むバイクの上で身を捩りながらどうにか位置を安定させた。身体を抱き締めていた半間の片手はハンドルに戻り、私の両手をこいつの首に回す。跨った足の間に身体を入れ横抱きのような姿勢をとった。投げ出された足が心もとないが贅沢は言ってられない。追っ手は見えないもいないとは限らないので注意深く周りを観察していると、後方から追い上げてきたバイクが並列する。

「よー、稀咲!」
「間に合ったか!」

髪を縛り所々怪我をしているが存外元気そうな場地圭介の姿にホッとする。よかった、死んでない。そのまま横浜を抜けしばらくまたバイクを走らせたあと、ここまで来れば安心だとバイクを止めてもらう。バイクから降ろしてもらいお互いの顔を見合わせた。

「お前から連絡来たときは何かと思ったがまさかムーチョとやり合うなんてなぁ。」
「半間はきっと私のせいでまた本気を出せないと思ったからな。」
「だりぃ。せい、とかじゃねぇし。」

口を尖らせる半間の口元には血がこびりついているあ。分かってはいたが痛々しいその姿に胸が苦しくなったが悠長にしている時間はない。

「きっともう他の奴が向かっている。エマが危ない。急ぐぞ。」

2人が頷き直ぐにバイクが走り出す。法定速度を無視して辿り着いた場所にはやはり邪魔しに来た天竺の奴ら数人が待ち構えていたが、場地圭介と半間に任せ目を皿にしてエマの姿を探す。事前に送ったメールにはここらへにいると返ってきたが見当たらない。はやくはやくと焦りばかり募る中、はっと見慣れた金髪を見つけた。何故か花垣といるが、よかった無事だ。しかし油断は出来ないと名前を呼ぼうと腹に力を入れたところで、その後ろから猛スピードで迫っているバイクが見えた。
疲労が溜まり重い足を無理矢理前に出す。ほぼ過呼吸にも近い息でそれでも必死にエマに手を伸ばした。させるものか。もう、マイキーにも誰にも、私にだってあいつの未来を潰させるものか。

「エマ!!!!!」
「え?」

地を力強く蹴り上げエマを抱き締める。振りかぶられたバッドが私の頭にぶち当たり鈍い音が響き渡った。衝撃で2人分の身体が吹き飛び地面に跳ねる。ひび割れたメガネが赤く染まり始めた。痛い、重い熱い痛い、痛い痛い痛い痛い。呼吸の仕方が分からない。澱んでいく意識に抗えない。まだダメだ、エマが無事か確認できていない。まだ、まだ、まだ……。

「…稀咲?」

半間の声を最後に私は意識を失った。
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