俺の俺による推しのための人生 東卍夢
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まるで鈍器で殴られた様な衝撃だった。
本屋で買った帰り道と部屋でページをめくる前の高揚は失せ、心臓がバクバクと音をたて身体の末端から熱が抜けていくような感覚だった。
熱くなった目頭を擦る。
ふーっと吐いた息が震えた。
「………マジかぁ〜……………。」
今日、俺の推しが死んだ。
俺、瀬尾律佳は『東京卍リベンジャーズ』が大好きである。
映画になるなら押さえとこ〜、なんて軽いノリで読み始めたら見事にハマった。ストーリーも然る事ながらキャラクター1人1人も魅力的でその中でも扇 葵世という女の子が今世最推しと言っても良いほど大好きだった。
扇葵世ことキヨちゃんは主人公・花垣武道の親戚として登場する。幼い頃に両親が他界しそのまま親戚中をたらい回しにされたり施設に入れられたりして最終的に花垣家に辿り着き居候しているという設定だった。ふざけんな、俺が養いたい。
そんな幼少期だったせいか、あまり家には帰らず何時もフラフラと何処かへ遊び歩いているらしく、タケミチも苦い顔をしていた。小悪魔である。弄ばれたい。
俺の中では主人公だが、まぁそんな感じでキヨちゃんはいないことが当たり前のキャラクターなのでモブキャラ扱いだった。だからこそほんの少しでも、例えシルエットだけでも登場した時は涙が出るほど興奮した。中でも少ない登場数の内、灰谷兄弟と関わりがあると匂わせがあったコマは俺が制作したキヨちゃん祭壇に奉った。何せ公式の供給が少ないので俺はキヨちゃんに飢えている。キヨマサよりも少ないプロフィール量なので誕生日も祝えない。でも160cmの物はなんでも愛おしく思えるようになったので部下の失敗を笑って許せるようになった。キヨちゃんは心の健康にも良い。しかし同じ東リべ好きの友人にはどこが良いのかと再三言われた。理屈じゃなくて本能と言っておいた。引かれた。
けれど神 とは残酷なもので、最終回を目前に俺の推しは死んだ。
『私、本当はずっと愛したかった。誰かのための私になりたかった。』
そう言って庇ったタケミチの腕の中で息絶えたキヨちゃんは笑顔だった。泣いた。その後一コマだけ描かれた墓の前に紫蘭と竜胆があってまた泣いた。泣きすぎて犬を飼ってると思われた。ごめん下の階の人。
推しは生きる糧とはよく言ったもので俺は日に日に体調が悪くなり、グッズにもなってないキヨちゃんへのお金はどうすれば貢げるのかと嘆きながらぽっくりと逝ってしまった。
そして俺は転生した。
大好きなあの子のいる『東京卍リベンジャーズ』の世界に。
俺が2度目の生を受けてから早十数年の月日がたった。
産まれた時から自我があるのでさぞ気味悪い子供だっただろうが今世の両親は天然なのか、<ただ発育のいい子供>として俺を認識していた。有難いがどう考えたって初めて喋った言葉が『勝訴』な子供のそれを発育のせいにするのは無理がある。有難いが。
そんな俺は今花垣宅にて宙を舞うチャリやバットや何やらかんやらをボーッと眺めている。
ギャーギャーと騒ぐマイキーのこういう姿を見ると中学生なんだなぁと思うが、黒川イザナとやり合っている時は異次元過ぎて人間かどうかすら疑った。幼馴染とは言えあんなバイオレンスな家族喧嘩にはもう関わりたくない。まぁ結局仲直りできなくて黒川イザナは原作通りマイキーと敵対しているが。佐野真一郎を助けたんだから上手くいくかと思ったが、羽宮一虎はやっぱりマイキーを恨んでるし大まかな流れは変わらないのだと改変を続けてわかった。まぁどんな手を使ってもキヨちゃんは是が非でも五体満足で幸せにするけどね。そして今度こそ貢ぐ。あと写真とかも欲しい。祭壇に奉りたい。
ついにブチ切れたタケミチの逆襲から目を離しあーあ、と溜息をつく。
キヨちゃんの事を考えたら尚更会いたくなってきた。未だに会えてないので生で見たい気持ちと会えない分どんどんキヨちゃんが自分の中で神格化されている事実がせめぎ合っている。会いたい、でも会えない。会ったら息が止まり動悸が早まりキヨちゃんの周りの空気を鼻で吸って口で吸う自信がある。
てか、ここにキヨちゃんが住んでるんだよな…。生活してるんだよな…。
改めてキヨちゃんがここで暮らしてると思うと、もうこの家がとてつもなく神聖な物に思えてきた。1日5回祈りをこの家の方角に捧げよう。そうしよう。
そうと決まれば聖地からはやく出て行こうとタケミチの頭に乗った汚物に爆笑する2人に口を開き、
門のところにいる人物を見て俺の思考は固まった。
「あれ、タケミチ友達連れてきてたんだ。」
夜を溶かし込んだような黒髪と涼やかで優しげな瞳。ダウナーとアンニュイを混ぜたような雰囲気にも関わらず浮かべる笑顔の柔らかさに俺の目からは自然と涙が溢れ出ていた。
「尊いが生きてる……。」
「え?」
「瀬尾、どうした。」
キヨちゃんと目が合う。
あ、かぁいい。おめめかぁいい。あ、あ、小首傾げないで、首筋やばい。白い。細い。かぁいい。推しが心配した顔で俺を見てる。かぁいい。顔面が優勝してる。てか声もかぁいいとか何事?
ハラハラと涙を流す俺に心配して声をかけてくれたドラケンも怪訝な顔をするマイキーも目に入らず、ただただキヨちゃんを見つめる。やばい、推しって本当に存在するだ。
いや、感動している場合ではない。ごしごしと袖で目元を擦り鼻をすする。涙で震えているがちゃんと伝えなきゃ。詰まる喉をこじ開け声を出す。
「産まれてきてくれてありがとう。俺が他人の5億倍稼いで養うから俺の人生使って幸せになって…。」
「瀬尾????」
「わぁ、タケミチの友達凄い芳ばしいね。」
その後の記憶はないが、どうやら俺は推しの過剰摂取で意識を飛ばしたらしい。強制的に花垣家から連れ出された後の集会でそう聞かされた俺は最後のタケミチの姉ちゃんも心配してたの言葉に推しが俺を認知したと気づき、吐いた。
六本木の高層マンション。そのベランダで葵世は息抜きにと街を見下ろした。キラキラと光るネオンの明かりは家庭の電気と違い誰でも照らす。それが好きだと話したのはここの主人の兄弟にだっただろうか、今ではもう覚えていない。
スーっとガラス戸の滑る音に後ろから2人の気配が近ずいてきた。そのまま葵世の両隣に陣取った兄弟、灰谷蘭と灰谷竜胆は同じように外を眺める。
「そう言えば今日、初対面なのにすごいこと言う子にあった。」
「へー、どんな。」
「なんか『産まれてきてくれてありがとう』って言われた。」
「ははっなんだそれ、キモくね?」
蘭の嘲りに竜胆も顔を顰める。
しかし葵世はどこか遠い目をしながらほぅっと息を吐いた。
「…でも産まれを肯定されたの初めてだったなぁ。」
何ともなしに呟かれた言葉だったが蘭からも竜胆からもすっと表情を奪った。
足が地に着かずフラフラとする葵世は言動も曖昧なことが多い。そんな彼女が明確に誰かを気にしている。きっと明日には忘れているのだろうが自分達でさえ向けられていない興味を一瞬でも向けられたそいつが気に食わない。
俺達の方が葵世愛している。
運命をねじ曲げるほどに。永く、深く。
竜胆はちらりと蘭を見る。普段と変わらない兄の姿にそれでも双子だからこそ分かる内なる感情に俺も同じだと瞳を閉じた。
冷たい夜風に吹かれながら2人と1人は夢を見る。遠くない未来、今度は必ず幸せになれると信じて。
本屋で買った帰り道と部屋でページをめくる前の高揚は失せ、心臓がバクバクと音をたて身体の末端から熱が抜けていくような感覚だった。
熱くなった目頭を擦る。
ふーっと吐いた息が震えた。
「………マジかぁ〜……………。」
今日、俺の推しが死んだ。
俺、瀬尾律佳は『東京卍リベンジャーズ』が大好きである。
映画になるなら押さえとこ〜、なんて軽いノリで読み始めたら見事にハマった。ストーリーも然る事ながらキャラクター1人1人も魅力的でその中でも扇 葵世という女の子が今世最推しと言っても良いほど大好きだった。
扇葵世ことキヨちゃんは主人公・花垣武道の親戚として登場する。幼い頃に両親が他界しそのまま親戚中をたらい回しにされたり施設に入れられたりして最終的に花垣家に辿り着き居候しているという設定だった。ふざけんな、俺が養いたい。
そんな幼少期だったせいか、あまり家には帰らず何時もフラフラと何処かへ遊び歩いているらしく、タケミチも苦い顔をしていた。小悪魔である。弄ばれたい。
俺の中では主人公だが、まぁそんな感じでキヨちゃんはいないことが当たり前のキャラクターなのでモブキャラ扱いだった。だからこそほんの少しでも、例えシルエットだけでも登場した時は涙が出るほど興奮した。中でも少ない登場数の内、灰谷兄弟と関わりがあると匂わせがあったコマは俺が制作したキヨちゃん祭壇に奉った。何せ公式の供給が少ないので俺はキヨちゃんに飢えている。キヨマサよりも少ないプロフィール量なので誕生日も祝えない。でも160cmの物はなんでも愛おしく思えるようになったので部下の失敗を笑って許せるようになった。キヨちゃんは心の健康にも良い。しかし同じ東リべ好きの友人にはどこが良いのかと再三言われた。理屈じゃなくて本能と言っておいた。引かれた。
けれど
『私、本当はずっと愛したかった。誰かのための私になりたかった。』
そう言って庇ったタケミチの腕の中で息絶えたキヨちゃんは笑顔だった。泣いた。その後一コマだけ描かれた墓の前に紫蘭と竜胆があってまた泣いた。泣きすぎて犬を飼ってると思われた。ごめん下の階の人。
推しは生きる糧とはよく言ったもので俺は日に日に体調が悪くなり、グッズにもなってないキヨちゃんへのお金はどうすれば貢げるのかと嘆きながらぽっくりと逝ってしまった。
そして俺は転生した。
大好きなあの子のいる『東京卍リベンジャーズ』の世界に。
俺が2度目の生を受けてから早十数年の月日がたった。
産まれた時から自我があるのでさぞ気味悪い子供だっただろうが今世の両親は天然なのか、<ただ発育のいい子供>として俺を認識していた。有難いがどう考えたって初めて喋った言葉が『勝訴』な子供のそれを発育のせいにするのは無理がある。有難いが。
そんな俺は今花垣宅にて宙を舞うチャリやバットや何やらかんやらをボーッと眺めている。
ギャーギャーと騒ぐマイキーのこういう姿を見ると中学生なんだなぁと思うが、黒川イザナとやり合っている時は異次元過ぎて人間かどうかすら疑った。幼馴染とは言えあんなバイオレンスな家族喧嘩にはもう関わりたくない。まぁ結局仲直りできなくて黒川イザナは原作通りマイキーと敵対しているが。佐野真一郎を助けたんだから上手くいくかと思ったが、羽宮一虎はやっぱりマイキーを恨んでるし大まかな流れは変わらないのだと改変を続けてわかった。まぁどんな手を使ってもキヨちゃんは是が非でも五体満足で幸せにするけどね。そして今度こそ貢ぐ。あと写真とかも欲しい。祭壇に奉りたい。
ついにブチ切れたタケミチの逆襲から目を離しあーあ、と溜息をつく。
キヨちゃんの事を考えたら尚更会いたくなってきた。未だに会えてないので生で見たい気持ちと会えない分どんどんキヨちゃんが自分の中で神格化されている事実がせめぎ合っている。会いたい、でも会えない。会ったら息が止まり動悸が早まりキヨちゃんの周りの空気を鼻で吸って口で吸う自信がある。
てか、ここにキヨちゃんが住んでるんだよな…。生活してるんだよな…。
改めてキヨちゃんがここで暮らしてると思うと、もうこの家がとてつもなく神聖な物に思えてきた。1日5回祈りをこの家の方角に捧げよう。そうしよう。
そうと決まれば聖地からはやく出て行こうとタケミチの頭に乗った汚物に爆笑する2人に口を開き、
門のところにいる人物を見て俺の思考は固まった。
「あれ、タケミチ友達連れてきてたんだ。」
夜を溶かし込んだような黒髪と涼やかで優しげな瞳。ダウナーとアンニュイを混ぜたような雰囲気にも関わらず浮かべる笑顔の柔らかさに俺の目からは自然と涙が溢れ出ていた。
「尊いが生きてる……。」
「え?」
「瀬尾、どうした。」
キヨちゃんと目が合う。
あ、かぁいい。おめめかぁいい。あ、あ、小首傾げないで、首筋やばい。白い。細い。かぁいい。推しが心配した顔で俺を見てる。かぁいい。顔面が優勝してる。てか声もかぁいいとか何事?
ハラハラと涙を流す俺に心配して声をかけてくれたドラケンも怪訝な顔をするマイキーも目に入らず、ただただキヨちゃんを見つめる。やばい、推しって本当に存在するだ。
いや、感動している場合ではない。ごしごしと袖で目元を擦り鼻をすする。涙で震えているがちゃんと伝えなきゃ。詰まる喉をこじ開け声を出す。
「産まれてきてくれてありがとう。俺が他人の5億倍稼いで養うから俺の人生使って幸せになって…。」
「瀬尾????」
「わぁ、タケミチの友達凄い芳ばしいね。」
その後の記憶はないが、どうやら俺は推しの過剰摂取で意識を飛ばしたらしい。強制的に花垣家から連れ出された後の集会でそう聞かされた俺は最後のタケミチの姉ちゃんも心配してたの言葉に推しが俺を認知したと気づき、吐いた。
六本木の高層マンション。そのベランダで葵世は息抜きにと街を見下ろした。キラキラと光るネオンの明かりは家庭の電気と違い誰でも照らす。それが好きだと話したのはここの主人の兄弟にだっただろうか、今ではもう覚えていない。
スーっとガラス戸の滑る音に後ろから2人の気配が近ずいてきた。そのまま葵世の両隣に陣取った兄弟、灰谷蘭と灰谷竜胆は同じように外を眺める。
「そう言えば今日、初対面なのにすごいこと言う子にあった。」
「へー、どんな。」
「なんか『産まれてきてくれてありがとう』って言われた。」
「ははっなんだそれ、キモくね?」
蘭の嘲りに竜胆も顔を顰める。
しかし葵世はどこか遠い目をしながらほぅっと息を吐いた。
「…でも産まれを肯定されたの初めてだったなぁ。」
何ともなしに呟かれた言葉だったが蘭からも竜胆からもすっと表情を奪った。
足が地に着かずフラフラとする葵世は言動も曖昧なことが多い。そんな彼女が明確に誰かを気にしている。きっと明日には忘れているのだろうが自分達でさえ向けられていない興味を一瞬でも向けられたそいつが気に食わない。
俺達の方が葵世愛している。
運命をねじ曲げるほどに。永く、深く。
竜胆はちらりと蘭を見る。普段と変わらない兄の姿にそれでも双子だからこそ分かる内なる感情に俺も同じだと瞳を閉じた。
冷たい夜風に吹かれながら2人と1人は夢を見る。遠くない未来、今度は必ず幸せになれると信じて。
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