小話

◎メイベルとシュゼット
◎メイベル視点
◎2人の薬のその後


シュゼットが風邪をひいた。


というより
風邪がうつった。


今日は日曜日。
勿論シュゼットは先生だから、明日の講義に出る為に今日は絶対安静。俺も流されたとはいえ、申し訳ない気持ちで一杯だった。

「…ごめんなさい」

さっきよりは少し楽そうな、それでも普段より赤味を帯びたシュゼットの寝顔を見て、聞こえないようにポソリと呟く。

「…………」

よかった
聞こえてないみたいだ。

そしてそっと額に乗せたタオルがぬるくなっていないか確かめる。

(あ、ぬるい)

触れたタオルは、シュゼットの熱を吸って生暖かくなっていた。俺はタオルを冷えた水に浸す為に、シュゼットに顔を近づけた。

すると必然的にシュゼットのドアップが目と鼻の先に来るわけで。

(…なんか可愛い)

普段の意地悪な表情はなりを潜め、今の彼はどことなく小さな子供のような雰囲気を纏わせている。

「…………………」

(風邪…移せば治るのかな)

これじゃ無限ループだとわかっていても、この体勢から元の体勢に戻す事がなんとなくためらわれた。

(…寝てるし、少しくらい)

そして俺は、ほんの少しの出来心で、ちゅ、とシュゼットにキスをしてしまった。

しかし

「!?」

気づくとシュゼットは目を開け嬉しそうに笑っていて、俺は近距離で頭を押さえつけられてしまった。

「なぁ、今何した?」

ああ、いつものシュゼットだ。

「何した?」

「な、何もしてない…」

「ふうん…ッゴホゴホ!」

「シュゼット大丈夫!?」

俺を解放して、苦しそうに咳き込むシュゼットにまんまと騙された俺は、再度彼に近づく。
と、突然シュゼットが起き上がったと思うや否や、あっという間に抱き締められてしまった。

「だ…だました…?」

「騙してない」

「ちかい…よ…」

「今更」

ニッコリ笑って顔を近づけてくる。
俺は覚悟を決めて目を瞑ったけれど…

(…………?)

一向にあの感触がしてこない。
恐る恐る目を開けてみると、案の定シュゼットはニコニコと笑ったままこっちを見ているだけだった。

「…シュゼット?」

「何」

「え…あの…その…」

「薬がな」

「え?」

「昨日メイベルにあげた薬が、欲しいんだけどな」

「……う…うん」

「苦しくて自分で摂取できないわけ」

せ…摂取なんて先生みたいな事言っちゃって!…あ、先生か。

つまりシュゼットは
『お前からキスしろ』と、言いたいらしい。
気づいた途端恥ずかしくて顔が真っ赤になった。

「んー?あれ?メイベルまた風邪ぶり返したか?」

「ち…違っ…」

「じゃあ何で顔赤いわけ?俺薬が欲しいって言っただけなんだけど」

「~~~~っ!」

もう勢いしかない!
これ以上意地悪されたらなんて考えると、尚更顔が赤くなってきて、俺は覚悟を決め涙目で思いっきりシュゼットに唇を押しつけた。

「~~~~ふ…!」

一度したらすぐに戻ろうとしたのに!シュゼットに顔を固定されてそのまま数分間、散々弄ばれてしまった。

「っは…も…!やめ…」

「風邪治りたくない…」

そしてぎゅーっと抱き締められる。
ぎゅっとされると体の力が抜けてくるから嫌だ、離れたくなくなる。

「シュゼット熱い…」

「熱あるもん」

「知ってる…」

「なあ…」

「…ふ?」

一際強く抱き締められて
シュゼットは呟いた。


「このまま二人で死ねたらいいのに」


昨日と同じで、なんだか頭の中が霞んで何も考えられなかった。
ただ


「そうだね」



笑って答えた気持ちに
何一つ嘘はなかった。










それはきっと
死ぬまで手放せない
『きみ』と『ぼく』の毒薬 。
8/67ページ