小話

◎メイベル、シュゼット
◎メイベル視点


「…っ…ヘクチュン!」

季節は秋と冬の境目。
根を詰めたテストも終わって、気が抜けたのか最近どうも調子が悪い。

「風邪か?」

隣を歩くシュゼットが心配そうに声をかけてきた。
今日は珍しくシュゼットが早く帰れる事になって、木枯らし吹く中2人で肩を並べて帰宅中。

小さく繋いだ手があったかい。

「わがんないげど…ずび…頭がぼーっとする…」

「声ガラガラじゃねーか、どれ」

「…ひゃっ!」

突然シュゼットの顔が近づいたと思うと、額と額が優しくぶつかり、温かい吐息が唇にかかった。

「シュシュシュ…」

「んー…熱あるなこりゃ、家まで帰れるか?」

「だいじょーぶ!だいじょーぶらから…顔…」

「……あぁ」

そう言ってシュゼットはひょいと俺から顔を離した

(よけい熱上がっちゃうよ…)

心臓が激しく脈打って
頭が先程よりぼーっとしてきた
足元がやたらふらつく…

そして


「あ」


やばい


そこで俺の意識は突然途切れた。







「………………」

あれ?あれれ??
薄目を開けて周りを見回す

そこは冷たくて堅いコンクリートなんかじゃなくて
見慣れた温かいシーツの上だった。

(パジャマだ…)

薄い紫のパジャマ。
少しサイズが大きくて、裾が余っている。

どうやら熱で倒れたみたいだ。

(シュゼットが着替えさせてくれたんだよね…)

思うと急に恥ずかしくなってきて、頭に敷いていた枕を抱き締め、一人で悶える。

「お、目ぇ覚めたか」

物音に気づいたのか、部屋の外から部屋着に着替えたシュゼットがやって来た。
すると

「うわ」

いきなり頭を抱えられるような形で抱き締められる。肩口にシュゼットの息がかかりくすぐったい。

「シ…シュゼット!?」

「……よかったー…」

「え?」

「急に倒れたから…心臓止まるかと思った…」

シュゼットは俺が生きている事を改めて確かめるように、両手を掴んで自分の頬へ宛てがった。

「あったかい…」

「生きてるも…っ…ヘクシュン!」

「そういえば風邪ひいてたんだな」

「そうだよー…まだ頭ぽーっとするし…」

そう言うとシュゼットはしばらく考え込んで、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「…なぁ」

「へ?」

「移すと治るって聞いた事あるよな」

「………なっ」

シュゼットはそう言ってから、掴んでいた両手を無理矢理に引っ張って顔を近づけてきた。

表情は完全に、悦だ。

「ちょ!わ、まままま…」

「薬だと思えよ」

「そんな無茶な…ふ……は…」

(うわ…あつ…)

触れ合った唇から熱が移っていく、頭が、くらくらする。意識が朦朧としてきてやたらキスが長く感じられた。
そして

「ぷは…はぁ…は…はあ…」

俺は執拗なキスから解放され、ぜえぜえと必死に新鮮な空気を肺に吸い込んだ

「熱…逆に上がっちゃったかもな」

そんな事を耳元で熱っぽく囁かれれば思考なんかみんなドロドロに溶けてしまって、ぐったりしたまま俺は徐々にフェードアウトしていく意地悪な顔のシュゼットを見つめながら、疲れてそのまま眠りに落ちた。



・次の日



外から小さく小鳥のさえずりが聞こえる。
ああ、今日は日曜日か。

「……ふぁ」

目が覚めると、沢山汗をかいたからか、昨日より体も軽くて意識もはっきりしていた。

とりあえずお風呂に入りたい。

(…ん?そういえばシュゼットは…)

ベッドの上から辺りを見回したけど姿は見当たらない。今日は仕事無い筈なのに…。

(仕方ないか、お風呂入ってこよ…)

ベッドの上からおりようと、床を覗いた時だった。

「?!シュゼット!」

そこには昨日の俺みたいに、顔を赤くして辛そうに息をするシュゼットが倒れていた。

(もしかして昨日のキ……キス…で!?)

「あわわわわ!シュゼット!シュゼット大丈夫!?」

息をするのも辛そうだ。
とりあえず荒い呼吸を繰り返すシュゼットをなんとかベッドの上まであげて、氷嚢やスポーツドリンク等を一通り用意した。

(…早く治りますように)

そう思いながら俺は、シュゼットの手をそっと握った。
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