小話

◎灰鷹さん宅海坂君、ケレン
◎海坂君視点



遠いようで妙に近いような、つゆりの香りをまぶたにのせて、白くてやわらかでいて甘くとろけそうなキミの毛先を、ボクの細くておおきな手が遠慮がちにつまむ。

のら猫のすわりかたにいちいち文句をつけるキミ。丁字路の鉢植えをひとりで跨ごうと助走をつけながら、湿った追い風を引き連れまわって。道に迷うのは常套(じょうとう)。

水のおおいみかんの音、みたこともない色でわめく荼毘(だび)と松風(しょうふう)。30度に満たない下り坂や、傾いだ表札に蔓(つる)とすみれ。炎天下によく似た金魚のおひれ、こけら落とし、惨敗、勝訴、短いろうそくにあれやこれや。

手をつなぐより先に肩を抱こう。歩幅を無理やり合わせてカーブミラーをくぐろう。太陽が昇った頃合いでキミをエスコートしてサ、あのヒトにバレたってそれはそれで笑い話なワケで。

夜闇に合わせて街灯をよけよう。月を背にしてゴミ溜めにつどおう。キミを探しに汗を流しているあのヒトと鉢合わせたって、それはそれで感動的なワンシーンになりそうなワケで。

閉鎖的なヒミツの小部屋でサ、ちいさな子供みたいに「すき」の応酬(おうしゅう)をしようよ。それ自体には意味をもたせないままで、ただただ無粋に唇をあわせながら。

舐めれば溶けてしまいそうなその白い髪の毛に、ボクの血のように赤い爪を這わせて、繊細に梳き続けるのサ。ビー玉みたいにきらきら落ちる涙を舌で掬って、永遠に閉じ込めてしまうのサ。

挙動不審な身長差に苦楽ばかりの将来を垣間見たなら、カンロと一緒にぜんぶ飲み込んでしまおう。あのヒトにもちょっとだけわけてあげたいね!くやしそうな顔、頭のすみっこにおいやって。指を絡ませたいよ。宵が醒める前に、キミはあと何回、ボクに愛されてくれるの?


























短い夜が、そろそろ終わるみたいだ
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