小話

◎過去屍



おめかししましょ。身分違いの恋に恋しながら。あなたを汚さないように、せいいっぱい可愛いげをだして。月が空にあるうちにわたしは、クツの穴を縫うの。
耐えきってみせましょ。あなたが許してくださるなら。わたしはあなたの腕に抱かれて、世間から後ろ指をさされるけれど…

でもだって、あなたが痛いじゃない。誰だってあなたよりわたしを責めるはずなのに、あなたはわたしを庇うんだし。
でもだって、わたしも痛いじゃない。あなたはわたしの盾なの?みんなの目はあなたばかりを見て、あなたばかりを痛めつけるんでしょう。

嫌よそんなの。陽のひかりなんて要らない。ぬかるむ土蔵(つちくら)で怯えて暮らしたい。あなたさえいればいい、あなたさえ側にいてくれれば、それで。

竹林の並び立つ峠の先で、手を繋いで歌をうたいましょう。明るくはないけれどシアワセな歌を。やわらかくはないけれど暖かい声で。
海原のひしめき合う淀みの底で、抱き合って踊りましょう。かんぺきではないけれど可愛らしいタンゴで。拍手はないけれど途切れない言葉の応酬(おうしゅう)で。

花はもうこの土地には咲かないわ。育てるひともない。わかっていたけれどそれはとても悲しいことだから。ちいさくそっと慰めあいましょうよ、泣きたいときには泣きたいままに。抱きしめてあげたいわ、わたしもあなたを守りたいのに。

だからわたしはこの結末を選んだ。酩酊(めいてい)に限りない意識の奥でサ、立ち上がり歩く義務を放棄したの。あなたを守るために。あなたを誰より愛するために。











あなたはわたしに愛され守られる義務がある

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