小話

◎リボンクラッシャー


ハラが痛くてそれどころじゃねえって、手の平よりおおきなドラム缶を蹴っ飛ばしてやる。
寝違えちまったって、手頃なサイズの窓ガラスを叩き割ってもいきどおりは上手におさまりやしねえし。

そりゃ痛かったサ。あちこち腫れてしまう程度には。
ぎゃんぎゃん喚いて蒸留酒を煽るのサ。
のっかったチェリーはさっさとクチの中で溶かして、
ヘタをリボン結びにしてやろうぜ。
とんでもなくセクシーだろう?
だがわかってる。
オレの恋人はギャンブル、ただひとりなんだってことを。

わざとらしく鼻にかかった嬌声と破裂音。
誰より生まれてまもないネコはカラスに食われ、華奢な断末魔をこぼす。

ヤツラはみんな電気ブランに溺れて、いつだってゲロにまみれたまま昼間を耐えようとした。
ネオンのない街は思うより息がしづらい。
全身を焼く太陽とか、希望にまだあふれたままの笑顔とか、クォーツ式の腕時計とか。

ストライドばらまいてヤツラの度胸をためしてみる。
ビビって帰っちまったぶんはオレがしゃあなく穴埋め。
やっすい革のブーツに泥はね。
伸び悩んだ爪を噛み切って、
ヘルメットなしでバイクのエンジンをふかしてやろうぜ。

事故ったはずみで優待離脱。PEZを入れ替え醜態自虐。
ヤツラの腹の立つ口角にせいぜいツバを吐きかけたいのなら、
雨雲が一回転したタイミングでみずたまりに膝をついてサ。

土星の輪を掴んでみせろよ。
ルージュに落ちたボールのわがままだ、
諦めて5秒以内にコイントスを強請(ねだ)りな。
再生だぜA面を。捨てちまえよイノチも。
ステージに立たせてくれ。
スタートラインに触れさせてくれ。
残飯は持ち帰るのが吉だ。
コンクリートの崩れた跡には、きちんと割り箸をたてろ。

だからオレは、簡単に機能を切り売りするぜ。
考えてもみろよ。とどのつまり口さえありゃあ勝負はできる。
ナァ、どうしようもなくロックだろ?
だがわかってる。
オレの恋人はこの街、ただひとつなんだってことを。

惚れんじゃねえよ。
オレは片手より多くのダレかを愛せるほど、
器用なオトコじゃねえんだ。



























世の中なんでも、要らねえお世話サ。
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